浩平犯科帳 第一部 第八話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第八話「過去を求めて・・・」

浩平が神奈川から両国に帰ってきて、数日がたっていた。
「お七さーん!こっちにも銚子ちょうだーい!」
「はーい!ただいまぁー!」
ここはお七の働く中原亭。時刻は酉の刻で、ちょうど居酒屋としての顔を見せていた。お七は客の注文で忙しかった。お七のいない間、中原亭の客は激減した。それだけお七目当ての客がいるのだろう。そして、閉店間際になり、店からは客はいなくなっていた。
「お七ちゃん、悪いが暖簾を閉まってきてくれ」
「わかりました〜」
お七は店主に言われ店の前に出た。お七が暖簾を外した時、後ろに気配を感じお七はばっと振り返った。
「あら、気配は消したつもりなのに。さすがねぇお七」
振り向くと女が立っていた。年はお七と同じであろうか。その言葉はどこか皮肉めいている。
「お竜姐!?ど、どうしてここに!?」
お竜姐と呼ばれた女は、お七を小馬鹿にしたように笑いながら近づいてきた。
「ずいぶんなごあいさつねぇ〜。せっかく人がわざわざ会いに来てあげたのにぃ」
「・・・用件は何?」
お七の顔は険しい。警戒しているのだ。
「そんな怖い顔しないでよぉー。せっかくの美人が台無しよ。あっ、そう言えばお七。何かこの両国でも人気なんだって?いいわよねぇ〜人気者はどこに行ったてちやほやされてぇ」
お竜の声音は優しいが、人を本能的に警戒させる物があった。人の神経を逆なでするとも言ってもいい。
「でも、みんなだまされてるのよね〜本当は猫かぶってるくせに」
「なっ!・・・」
今まで黙って聞いていたお七だが、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減に!・・・・」
「よお、お七!」
だがその言葉は横合いから邪魔された。この声は浩平だ。
「何やってんだ?店の前で。あれ?こっちの人はだれだ?」
「あら?お七の知り合い?さては手玉に取ったのね」
お竜の声はあくまで挑発的だ。その声に浩平も本能的に警戒した。
「おい。だれだか知らないが、あんまり調子に乗らない方がいいぜ・・・」
「あーら、こわーい!それじゃあ、わたしはおいとまするわ。お七また今度ね〜」
「まちなさいよ!」
お七はお竜の背中に向かって怒鳴るが、お竜は振り向きもせず歩いていった。
「お七。あの女だれだ?」
「昔の知り合いよ・・・・・・・」
お七の顔はなぜか険しかった。だが、すっといつもの表情に戻ると、いつものように浩平に言ってきた。
「あんたこんなところに何しに来たのよ?」
「酒飲みに来た」
「残念ね。ちょうど閉店なの」
「かたいこと言うなよー。一杯でいいからさ〜」
「だ〜め!」
その時、店主が店から顔を出した。
「お七ちゃん。何してるんだい?おっ、浩平の旦那じゃないか!久しぶりだねぇ!」
「おやじさん。一杯飲ましてくれないか?」
「すまないねぇ。もう酒ないんだ・・・」
「え〜〜〜〜〜!」
そんな浩平にお七が追い打ちをかける。
「ほらほら!酒もないんだから早く帰ってよ!」
「わかったよ」
こうして浩平は、一滴の酒も飲めずに長屋に帰った。二人の会話はいつも通りだったが、内心は先ほどの女ことを考えてたのだろう・・・・・・。

翌日の昼。
「旦那。休暇はどうでした?」
「ああ?」
ここは浩平の通う自身番屋。そこで南が浩平に質問していた。
「いいなぁ、お瑞さんと二人で旅行なんてうらやましいですよ」
「どこがいいんだ。ただ働きさせられただけだ」
「でもお瑞さんと一つ屋根の下で過ごしたなんて、夢のようですよ」
「どこが・・・・・・」
浩平にとってお瑞が人気があるのは信じられなかった。よくお瑞と一緒にいるので、このようにうらやましがられるのはしょっちゅうだ。
(お瑞もこんなに人気があるんなら、俺の相手をしてないでさっさと嫁にいけばいいのに・・・・・)
これがいつも浩平の思っていることである。しかし、浩平もお瑞も今のままでいようとしているのは事実である。
「浩平〜!いる〜?」
お瑞がいつものように昼食をもってやってきた。
「でかい声ださなくても聞こえてるよ」
浩平は番屋の戸を開けてお瑞を迎えた。後ろでは南がなぜか着物の乱れを直し、正座をし始めた。
「浩平。お昼もってきたよ」
「ああ、今日はどこで食べる?」
「いや〜いいなぁ旦那」
南が浩平達の会話に割って入った。
「あっ、南さん。こんにちは」
「こんにちは!」
南はなぜかあいさつ一つに気合を入れている。それを見て浩平は気付いた。
(ははあ・・・こいつお瑞に気があるな)
浩平は南に意地悪をしてやることにした。お瑞にさっさと嫁にいけとか思いながらも、浩平はそれに背くことをしようとている。
「お瑞。今日は俺の家でふ・た・りで食べないか?」
「えっ!?」
浩平はふたりの所を強調した。それを聞いた南の顔は途端に歪んだ。
「うん。いいよ」
「ええっ!?」
お瑞が笑顔であっさり承諾した。それを見て南の顔はさらに歪んだ。
「それじゃあ南。後はよろしく!」
「お邪魔しました〜」
「ああ〜〜〜お瑞さーん!」
去っていく二人を見て南は嫉妬にもだえていた。

浩平の長屋。
浩平とお瑞は弁当を食べた後、一緒にお瑞がもってきたぼたもちを食べていた。
「お瑞。ぼたもちなんてどうしたんだ?」
「みさきさんからおすそわけしてもらったんだよ」
「ふ〜ん」
祭りの事件以来、みさきには婦亜瑠後は手を出さなくなった。仁義屋では一応の監視を入れてるのだが、全くそれらしき姿は見なかった。だが、あの事件については謎が多かった。まず婦亜瑠後の男が言っていた『記憶を見る』という言葉。そんなことができるのは茜のような能力者にしかできないだろう。婦亜瑠後には茜のような能力者がいるのだろう。そして、声の人物が発するあの力。つまり、婦亜瑠後はただの賊の集まりではないことを裏づける。そして、もう一つ謎がある。川名神社には武田の財宝の秘密があると言った。だが、武田は三百年も前に途絶えている。婦亜瑠後は三百年前から存在するのだろうか?また、先日の神奈川の事件でも婦亜瑠後は絡んでいた。一体、奴等の目的が何なのか浩平は見当もつかなかった。
(まあ、そのうちわかるだろう)
浩平は神奈川の一件について、仁義屋の頭に報告した時のことを思い出した。

「・・・そう。大変だったね」
声は報告を聞いてまずそう言った。部屋にはいつものようにロウソクがともっている。
「頭。奴等の目的は何なんでしょうか?金かと思えばあっさりあきらめる。全然わかりません」
「頭はやめてよ。君に敬語を使われるのもいやなんだから」
「はあ・・・」
浩平はあいまいに返事をした。相変わらず何を考えているのかわからない人物であった。
「で、話は戻るよ。奴等の目的は金じゃないよ。奴等の目的は別の所にある。金集めはその資金繰りにしか過ぎない」
「一体あなたと婦亜瑠後にはどんな関係があるんですか?」
浩平は最大の疑問をぶつけた。
「それはまだ言えない。でも必ず真実は見えるよ」
そう声が聞こえるとロウソクの火は消された。浩平は闇の中に取り残された・・・・・・。

「浩平」
「・・・」
「浩平!ったら!」
「・・・ん?何だ?」
浩平はお瑞の声で現実に戻った。
「もう、さっきから何だまってんだよ」
「わりい、ちょっと考えごとしてた」
浩平は素直に謝るが、お瑞はさらに言葉を続ける。
「どうせ今日もお酒を飲みにいこうと考えてたんでしょ。知ってるんだよ、昨日お酒飲みに行ったこと」
「何!?どうして知ってるんだ!?」
「はあ・・・やっぱり行ったんだね」
浩平はお瑞のいその言葉に疑問を感じた。酒を飲みに行くことはお瑞には言っていない。どうせ止められるに決まっているからだ。だが、お瑞は行ったことを知っているとか言いながら、やっぱりと言葉を使った。
「何だよやっぱりって?」
「かまかけしたんだよ。浩平は月の頭には必ず飲みに行くんだもん」
「ぐあっ・・・でも一滴も飲んでないぞ!売り切れてたからな」
浩平は自身ありげに言った。
「はあ・・・何でいばるんだよ」
こうして浩平の昼のひとときが過ぎていった・・・・・・・。

その日の夜。
お七は今日も暖簾をしまいに外に出ていた。
「また会ったわね。お七」
昨日の女だ。
「待ち伏せしてたんでしょ」
お七は驚かない。いることを予想していたのだ。
「ここじゃあ何だから裏の空き地で話すことにしましょう。わたしは仕事が終わったら行くから」
「まあいいわ」
お竜は承諾した。
「早く来てよね」
そう言ってさっさと行ってしまう。お七も暖簾を持ち店の中に入った。
「ふ〜ん・・・何かありそうね」
「だろ?」
その様子を中原亭の屋根から見る者がいた。浩平と詩子だ。浩平は昨日の女がお七の隠していることに関係していると思い、こうしてお七に見つからないように話を聞いていたのだ。なぜ詩子がいるかと言うと、浩平が中原亭に方に行くのを見かけた詩子が、酒を飲むものだと思いついてきたのだ。ちなみに詩子は酒好きである。
「お酒は飲めなかったけど、おいしいつまみは見つけたわ」
「お前、嬉しそうだな・・・」
「何言ってるのよ・・・あっ、お七が出てきたわよ!」
詩子の言う通りお七が店から出てきた。そして裏の空き地へと向かった。
「追うぞ!」
浩平と詩子は屋根づたいにお七を追った。忍びの訓練を受けている詩子は物音をたてずに移動する。浩平はさすがにそこまでは上手く移動できない。
「ちょっと!足音がうるさいわよ!・・・」
「仕方ないだろ!・・・」
二人は小声でありながらも言い合う。そんなことをしているうちに空き地に着いた。
「来たわよ竜姐・・・」
お七が呼びかけた。
「やっと来たわね。さあ昨日の続きをしましょうか」
「何しに来たの?」
「いきなり本題?せっかちね〜。まあいいわ、こっちも時間がないしね」
お竜の声は少し真剣味を帯びた。
「はっきり言うわ。あなたが邪魔なの」
「どういうこと?わたしはもう広瀬組を抜けたのよ?」
「それなのよね〜問題は。あなた組では若い者に人気があったでしょ。そいつらがあんたを次の組長にしたがってたのは知ってるわよねぇ?」
「いまさら昔の話?」
「昔の話じゃすまされないのよね〜。あんたがいなくなったおかげでわたしが組長になったのはいいけど、あんたを慕ってわたしの言うことを聞かないやつがいて困るのよ。だからあんたの首でももってかなきゃならないの」
女の声の調子は再びあざけり口調に戻った。
「ふん、そんなの竜姐のやり方が悪いのよ。人のせいにしないで」
「あら言うわねぇ。しかし、こんな女のどこがいいのかしら?男を追って組を捨てるような奴が・・・」
それを聞いてお七の表情は怒りに歪んだ。
「ふふ・・・図星ってところね。しかしあんたもよくやるわね〜、自分を捨てた男を探し続けるなんて」
女の言葉についにお七はきれた。
「・・・節太はわたしを捨てていない!わたしを迎えにくるって約束したのよ!」
「ふふん、でも迎えにこなかった。だからあんたは探してるんじゃないの?」
「くっ!・・・」
お七は言い返せなかった。そして、屋根の上からそれを聞いていた浩平達は・・・。
「お七!・・・くそ!あの女ぶっとばしてやりてぇ!」
「黙って見てなさい!・・・」
情報収集を担当するだけあって、詩子は冷静だ。お七達の会話に戻る。
「そうだお七。あんたに言い忘れてたことがあったわ!」
「?」
女は芝居がかった声で言った。
「あんたの追い求める節太だけどねぇ〜。どこにいるか知ってるわよ」
「何ですって!?」
その言葉にお七は敏感に反応した。
「どこにいるの!?」
「ふふ、教えてあげてもいいけど節太は昔の節太じゃないわよ」
「そんなの知ってるわ!」
「あら?なんで知ってるの?あっ、そうか。ちょっと前に会ったのね。なんか節太が変な女に会ったとか言ってたから」
「さっさと言いなさいよ!」
「わかったわよ。節太は駿河のわたしの組で滞在してるわ」
「なっ!?あなたわたしをからかってたのね!」
お七はもう感情が抑え切れないでいる。
「だって、おもしろかったから」
「ただじゃおかないわ・・・・・・」
お七はゆっくりと女に近づいた。が、女は憶することもなく言った。
「あらあら・・・怒らないでよ。こんなところじゃ人目につくわよ。わたしと戦いたかったら、駿河の広瀬組まで来ることね。いつでもまってるから」
女はそう言い残すとその場を去った。お七は空き地に一人残された。お七は一つのことを考えていた。女のことではない。
「節太・・・駿河にいるのね!」
お七の表情は決意にあふれていた・・・・・・・。

つづく・・・・・・。

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ついにお七の目的と過去をばらす時が来た!いや〜いままで伏線はって秘密にしてたからなぁ、って言ってもまだ謎はたくさんあるけど・・・・・・。とりあえず今回でお七がヤクザ者だったことはわかるでしょ。次回はお七の詳しい過去がわかります。節太とかお竜姐の関係もね。う〜ん戦闘は入るかどうか微妙です。では予告と多言(今回は一言じゃないです)。

駿河で待つ戦い!お七の過去が明かされる!江戸ををお七が旅立つ!
次回 浩平犯科帳 第九話「追い続けた女」ご期待下さい!

浩平「予告に俺の名前がないぞ?」
今回はお七が主役だからな。
浩平「何!?だからって目立ちすぎだぞ!」
安心しろ。浩平にも過去の話があるから。
浩平「ほんとか?」
ああ、多分ものすごく長いぞ。
浩平「ふっふっふっ・・・さすが主人公だな」
でも長いとひんしゅくかうから人気ダウンだな・・・・・・。