浩平犯科帳 第一部 第七話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第七話「立ちはだかる者」

「椎名ーっ!」
「繭ーっ!」
半田屋を出て数十分。浩平とお七は神奈川の町を、繭を探し回っていた。しかし、繭は見つからない。
「折原・・・どうするの?こんなに探してもいないなんて・・・・・・・」
「くそ〜、こんな時に茜がいれば!」
「ここにいます」
「どわあっ!」
「きゃあっ!」
突然の茜の声に、二人は振り向いた。そこには確かに茜がいた。
「あ、茜・・・どうしてここに?」
「まさか瞬間移動!?」
「違います」
驚きで興奮する二人に茜はあっさり答える。
「浩平が旅先で困っている予知をしたのでここまで来ました..何か重要なことに感じられたので・・・」
「わざわざ神奈川まで!?」
浩平は驚いた。まさか自分が困っているだけでここまで追ってくるとは思えない。
「婦亜瑠後か?・・・」
「・・・」
茜は答えない。
「そんなことはどうでもいいわ!繭はどこなの?」
お七が茜に詰め寄る。
「ここから、北の方にある商家です」
「よし、行くぞ!」
三人は北の方角へ走り出した。そして、しばらく走り続けると町の外れで、確かに大きな商家が見えてきた。三人は門の前で立ち止まった。
「茜、ここに椎名はいるんだな?」
「はい。でも、正確にどこにいるのかはわかりません。ただ、暗いところです」
茜は自分が見た映像を話した。
「折原、どうやって入るの?」
「ぶちやぶる!」
浩平はそう言うや否や、助走をつけて蹴りを門に入れた。
バゴ〜〜〜ン!
門は轟音をたてて開いた。それを見てお七はため息をつく。
「はあ・・・あんたこれじゃあ、敵に存在がわかるじゃないの・・・・・・」
「そんなこと言ってられるか!突っ込むぞ!あっ、茜はここにいてくれ」
「そのつもりです」
茜はあまり戦闘には参加しない。浩平とお七は屋敷の中に入った。しかし、中は静まり返っている。
「おかしいわね・・・こんな広い屋敷に人一人いないなんて・・・・・・」
お七は首をかしげた。人がいないだけでなく。庭等は全く手入れがされておらず、荒れほうだいである。
「なあ、ここは何をやってる商売なんだ?」
「そんなこと知らないわよ」
二人はこの屋敷のことを知るよしもないが、この商家は数年前に没落し、今は誰も住んでおらず近所の者も近づこうとしなかった。
「くそ!こう広くちゃ、どこにいるのかわかんねえぜ!」
「しっ!何かきこえるわ・・・泣き声のような・・・・・・」
耳の良いお七がかすかに聞こえる声に気付いた。その声は庭の奥の蔵から聞こえる。
「向こうよ!」
「よし!」
二人は蔵の前立つ。
「行くわよ・・・」
「ああ」
二人は顔を見合わせ、助走をつけ同時に蔵の門を蹴やぶった。
ド〜〜〜ン!
正門と同じ様に、轟音をたてて門は開いた。だが、先ほどとは違うことがある。
「な、何だお前らは!?」
中にはうす汚れた着物を着た男達がいた。人数は三人。
「椎名はどこだ!」
浩平は一人に向かって聞いた。
「しいな?ああ、さらってきたガキか。ガキならそこで気絶してるぜ。うるさかったからな」
「てめえ!椎名をどうするつもりだ!」
浩平は今にも飛びかかろうとしている。
「人質さ、椎名屋の娘ときたら身代金もはずむからな」
男の一人は淡々とした声で言った。だが、その言葉を止めた者がいた。
「おい、しゃべりすぎだ・・・」
「す、すんません。親分」
蔵の奥の方から、静かな声が聞こえてきた。暗くて確認できなかったのだ。
「今の声・・・!?」
お七は声を聞いて、驚きの表情が出た。
「てめえら、さっさとお客さんを相手してやりな」
声の男は命令を下す。その命令とともに、男達はそれぞれの刀を抜いた。
「折原やるわよ・・・」
お七は言いながら、柄を握り膝を曲げ姿勢を低くした。居合いだ。
「うおー!」
男の一人がお七に切り掛かって来る。だが、お七は微動だにすらしていない。
ザシュッ!
「ぐあっ!」
一瞬、閃光が蔵の中にきらめいたかと思うと、男はわき腹から血を吹き出しながら崩れ落ちた。お七はいつの間にか、刀身を抜いていた。素早く刀を抜き、胴抜きをしたのだ。一方、浩平は残った二人を相手していた。
「ガキが!死にやがれ!」
浩平を左右に囲んだ内の、右の男が仕掛けてきた。男は刀を振りおろす。
キンッ!
浩平は振りおろされた刀の横腹を、十手で打つ。そして、刀が流れる形になり、体の開いた相手の腹に膝蹴りを入れた。
「ぐっ!」
男はたまらず倒れた。しかし、もう一人の男が切り掛かってきた。
「この野郎!」
男は突きを入れてくる。
ガキッ!
浩平はそれを十手の柄で挟む。一瞬、膠着状態になるが浩平の力が勝り、相手の刀を弾き飛ばした。
「もらった!」
バシッ!
浩平は十手で相手を打ちつけた。男はあえなく気絶した。だが、
「くっ・・・こんなガキに・・・・・」
先ほど浩平が膝蹴りで倒した男が、よろけながらも立ち上がり刀を握っていた。
「死ねー!」
完全に背中を見せていた浩平に切り掛かった。
バシュッ!
「ぐああぁぁぁ・・・・・」
うめき声をあげたのは浩平ではなかった。横合いからお七が斬ったのだ。
「すまねぇ、お七」
「まだ気をゆるめるのは早いわよ・・・」
お七の顔は緊張していた。奥にいた男は先ほどは感じられなかった、鋭い殺気を出していた。
「なかなかやるなぁ・・・ふっふっふっ、久しぶりに本気になれそうだ・・・・・」
長身の男は奥からゆっくりと歩いてきた。僅かだが月の光に照らされ顔が見えた。
「やっぱり・・・!節太、わたしよ!お七よ!」
お七は男の顔を見て、叫んだ。
「おしち?・・・・・知らないな、そんな女。でも何で俺の名を知ってるんだ?」
男はお七のことは知らないようだ。しかし、お七が自分の名前を知っているので、少し驚いたようだ。
「せ、節太!?わたしのこと覚えてないの!?」
男とは逆にお七は驚愕した。
「お七、どういうことだ?」
浩平が聞いた時、男は握っていた大刀を構え言った。
「何だか知らないが、お前らには死んでもらう!」
男は大刀を構え突っ込んできた。お七はそれを見て浩平を突き飛ばした。
「折原は繭を!こいつはわたしが相手をする!」
お七は長刀を構える。浩平はそのお七の顔を見てその決意を止められないと感じ、その言葉に従うことにした。
「わかった!死ぬなよ!」
浩平は多少の迷いを感じながらも、繭に走り寄った。一方、お七と節太の戦いは始まっていた。
「ぬん!」
ガキンッ!
「この!」
節太が大刀を横に払う。それをお七は全力で受け止めた。しかし、男と女の力の差は大きい。
バキッ!
「きゃあ!」
お七は力負けし吹き飛ばされた。そこを節太は大刀を振りおろしてくる。お七はそれを転がりなんとかかわす。
ブンッ!
だが節太はさらに斬撃を繰り出す。お七はかろうじてだが、それらをかわす。
「節太!思い出して!」
お七はかわしながらも必死に、呼びかける。
「黙れぇ!おのれ!ちょこまかと!」
節太は自分でもわからないがいらついていた。心なしかその剣の振りにも迷いが生じている。
「うおおおおおおーーーーーー!」
いらつきを抑え切れなくなった節太は、上段に大刀を振りかざした。そのため、体に隙が生じた。お七はそれを見逃さなかった。
ブンッ!
大刀を振りおろす節太であったが、それより一瞬早くお七が飛び込んだ。
ドグッ!
「ぐおっ!・・・」
節太がうめき、後ろに下がった。お七は飛び込んで柄を返し、逆刃で節太の腹を払ったのだ。
「節太!お願い、思い出して!」
お七はさらに呼びかける。
「ぐっ・・・何だ、頭が割れそうに痛い!・・・」
節太は頭痛に頭を抑えた。その時、辺りに声が響いた。
「節太よ・・・この場はひくのだ・・・・・・お前の役目はまだある・・・・・」
「この声は!?」
浩平は弾かれたように叫んだ。忘れもしない、川名神社で聞いた婦亜瑠後を名乗った声だ。
「主よ・・・わかりました。ここはひきます!」
節太は頭を抑えながらも立ち上がり、その場を逃げようとした。
「逃がさないわ!」
ビュウウウウウウウーーーーーーー!
お七が節太を抑えようとしたが、突然突風が起こり節太以外の者は、動きを止められた。
「くっ!?な、何だ!?」
浩平は繭を抱きかかえながら叫ぶ。突風が止んだ頃には節太の姿はなかった。
「ちっ、逃がしたか・・・」
「節太・・・・・・・」
二人はそれぞれの思いにふけった。
「そうだ!?茜は!?」
浩平が茜のことを思い出して声をあげ、蔵の外に出た。ちょうどそこには茜が来ていた。
「茜!あいつは!?」
「逃がしました・・・・・・」
茜は肩を抑えている。その指のすき間からは血がこぼれている。
「やられたのか!?」
浩平は慌てて茜に近づき、心配そうに傷を見た。
「かすっただけです」
「何言ってんだ!早く手当てをしないと・・・」
「浩平・・・」
その時、蔵からお七が繭を抱いて出てきた。
「折原、あんたがこの子抱いてよ。重いから」
お七はいつもの口調だが、その表情は浮かなかった。先ほどの節太が関係しているのだろう。
「わかった。そうだ茜、悪いが賊の記憶を見てくれないか。何か婦亜瑠後のことを知ってるかもしれない」
「山葉堂の団子が条件です」
「・・・わかったよ」
ちなみに茜の好物は、両国の山葉堂のみたらし団子である。話は戻るが、浩平達は再び蔵に入り、茜が気絶している男達の額に手をかざしていた。そして、しばらく目をつぶっていたが、目を開くと言った。
「だめです。この人達はただの強盗です。あの男についても、悪行に誘われただけです」
茜の能力で記憶を読んだのだ。
「そうか・・・」
浩平は落胆した。
「記憶は消しますか?」
「いや、いい。どうせ俺達のことなんてわからないだろ」
「ねえ、前から思ってたんだけど、わたしの記憶は消さないの?」
お七が割って入った。この質問には茜が答えた。
「あなたはわたし達の力になるような気がしたので・・・漠然な予知ですけど・・・・・・」
「適当ね、わたしのことがよくわかってないのに・・・」
「まあ、現に俺達は一緒に戦ってんだ。これでいいだろ」
浩平がまとめた。
「よっしゃ、帰るとするか!」
こうして浩平は繭を救出することができた・・・・・・。

次の日の朝・・・・・・・。
「一週間、お世話になりました!」
お瑞が宿の者に礼をした。
「いやあ、世話になったのはこっちの方だよ。また神奈川に来てくれよ!」
お瑞の伯父が笑顔で言った。
「ぜひとも!」
お瑞も笑顔で返した。
「それじゃあ俺達はこれで行きます」
浩平が荷物を肩にかけながら言った。
「浩平ちゃんも元気でね!」
女将が浩平に声をかける。
「それじゃあお元気で!」
お瑞が手を振りながら二人は歩き出した。
「ねえ浩平。繭と繭のお母さん仲良くできるかな?」
「さあな・・・」
浩平が答えた時に、前の方で手を振る者がいた。繭と繭の義母だ。
「みゅ〜!」
「折原さん!」
「わざわざ見送りに来ていただかなくても・・・」
お瑞が二人に言った。
「お二人にお礼を言いたくて・・・ねえ繭?」
「みゅ〜!」
義母の言葉に繭は頷いた。その自然な態度に浩平は聞いた。
「どうかしたんですか?なんか仲がいいですけど・・・
「わたしは、繭の母親になれるような気になったんです」
「?」
浩平とお瑞はよく事情が掴めない。実は昨日、繭が救出され目覚めたのは椎名屋だった。そこで繭の義母は繭が目覚めるまでずっと起きていたのだ。そして、繭が目覚めると何も言わず抱きしめた。そこで最初は戸惑っていた繭だったが、一言。
「おかあさん・・・・・・」
と言ったのだ。繭は血はつながっていなくても、義母からの愛情を感じたのだろう。
「とにかく、お二人ともありがとうございました」
「みゅー!」
二人は深々と礼をした。
「そんな頭を上げてください・・・」
お瑞が取り持つ。そして、頭をあげた繭は言った。
「・・・またきてね」
「もちろん!」
「ああ!」
浩平とお瑞は笑顔で言った。そして、繭達と別れて街道が見えた。そこには先に出発したお七と茜がいた。
「折原ー!おそいわよー!」
「今行くー!」
浩平達はこうして両国へと帰った。しかし、両国では新たな事件が待っていた・・・・・・・。


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やっと終わりました!神奈川編!さて、次回からはお七の過去にせまります!多分、長くなると思います・・・・・。では予告と一言。

両国に戻った浩平を待つ事件とは!?お七に現れる過去の敵!両国の町を浩平が守る!

次回 浩平犯科帳 第八話「過去を求めて・・・」ご期待下さい!

お七「どうせなら全体の主役わたしにしなさいよ!」
う〜ん・・・ありかもしれない。
浩平「ちょっとまて!俺はどうなる!?」
却下。