浩平犯科帳 第一部 第六話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第六話 「繭の手伝い日記 後編」

作者の無能のために、四部構成となった神奈川編。いったいどんな事件が起こるのか?

次の日の朝。
「あ〜眠て〜」
浩平はふらつく足取りで一階に降りてきた。
「あっ、浩平おはよう。えへへ、繭が来てるよ」
「みゅ〜!」
お瑞の後ろから、繭が顔を出した。その衣装は町娘そのものである。
「椎名、今日から五日間がんばれよ」
「みゅ〜!」
浩平が繭に声援を送り、繭もそれに答えた。
「それじゃあ、お瑞ちゃんは食事を運んで。浩平ちゃんは昨日のように注文。繭ちゃんはお瑞ちゃんの手伝いをしてね」
女将がそれぞれの仕事を指示する。
「よっしゃ、ちょっくら行ってくるわ」
浩平は注文票を持って外に出た。
「それじゃあ繭。一緒に働こうか!」
「みゅー!」
お瑞と繭は張り切るが、繭の仕事ぶりはまさしく凄惨を極めた。
「繭、大丈夫?」
「みゅ、みゅ〜・・・」
お瑞の手伝いで膳を運ぶ繭だったが、その重さ(と言ってもたった三つだが・・・)に足元がふらついていた。そして、難関である階段がたちはだかった。
「重かったら下ろしてもいいんだよ」
「だいじょうぶ・・・」
繭はお瑞に言われても膳を下ろそうとせず、そのまま階段を昇ろうとした。しかし、お約束とも言える展開が待っていた。
ガシャァ!ガラガラガラ!
繭はバランスを崩しよろけて、膳をぶちまけた。それを見て繭は泣きだした。
「うっ・・・ひっぐ・・・う、うえ〜〜〜〜ん!」
「ああ・・・ほら繭、泣かないで。繭はがんばったんだから、だれも怒らないよ」
泣きだした繭をお瑞が慰める。その間に何事かと泊まり客が顔を出す。
「申し訳ありません。何でもありませんので・・・」
騒ぎを聞いた女将が詫びをする。それでその場の収集はついた。その後の繭の失敗ぶりはすごかった。布団をたたむのにも、布団の重さでよろめき、障子に突っ込み障子を突き破る。店の前に水をまくにも、ヤクザ者に水をひっかけ、怒ったヤクザを止めようと浩平が代わりにからまれる等、迷惑のかけっぱなしであった。
そしてその夜。
「ああ〜すんげ〜疲れた〜」
「わたしも〜」
浩平とお瑞は繭に振り回されクタクタだった。
「なあ・・・これが後四日も続くのか・・・・・・・」
「浩平・・・やっぱりきついね・・・・・・」
「お前が甘やかすから椎名がつけあがるんだ」
「そんなことないもんっ」
「やめよう・・・疲れるだけだ・・・・・・・」
「そうだね・・・」
「お瑞、とりあえずあまり椎名を甘やかすなよ」
「うん、わかった」
こうして二人は眠りについた・・・・・。

繭が働くようになって数日が過ぎ、ついに最後の日となった。最初は失敗ばかりの繭だったが、周りの指示により今ではそれなりに仕事もこなしていた。そして、いつものように、繭が店の前で水まきをしていると、繭の義母がやって来た。
「繭、がんばっているわね」
「みゅー!」
繭は嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、繭の義母は弾かれたように動きを止めた。
(繭が初めてわたしの前で笑った・・・!)
喜びに打ち震える繭の義母に、ちょうど宿から顔を出したお瑞が声をかけた。
「繭のお母さんじゃないですか。いったいどうしたんですか?」
「あっ、今日はお二人に話があって・・・」
「それじゃあ中に入って下さい。浩平もいるんで・・・繭、水まきが終わったら休んでいいわよ」
「みゅ〜」
座敷の奥で浩平とお瑞、そして繭の義母が座っている。お瑞はお茶を入れ差し出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます・・・実は話というのは、繭のことなんです」
義母はそう切り出した。
「ここで繭が働くようになって、繭は今までになく楽しそうに過ごしています。これもお二人のおかげです」
「そんなことないですよ。すべてお嬢さんが、がんばったからですよ」
お瑞が謙遜する。
「いいえ、お二人のおかげです。・・・そこで厚かましいお願いなんですが・・・・・・」
「何ですか?」
沈黙する繭の義母をお瑞が急かした。
「繭と・・・繭と友達になってもらえないでしょうか!?この神奈川で!」
「えっ!?」
お瑞は驚いた。まさか、そんなことを言い出すとは思ってもいなかった。
「で、でも私達は・・・」
「わかっています!お二人の生活はわたしが見ます!どうか繭の力になってください!」
繭の義母は深々と頭を下げる。お瑞は返答に困っていた。しかし、そこで今まで黙っていた浩平が口を開いた。
「あなたの気持ちはわかる・・・でも、それは椎名にとって決していいことじゃない・・・・・・」
「なぜです!?」
「俺も両親を亡くした身だから、あいつの気持ちがわかるんだ・・・俺も昔、泣いてばかりだった。でも、強くなれた。それは周りに温かい人達がいたからだ・・・」
浩平はいったん言葉を止め、お瑞をチラリと見た。それから言葉を続ける。
「たしかに人は一人じゃ生きていけない。でも、人にたよってばかりでも生きていけないんだ。いつかは自分で立ちあがらなけれないけない・・・。椎名にはまだ支えが必要でしょう。でもそれは俺達じゃない・・・あなただ」
浩平は静かに、しかしはっきりとした声で言った。
「でも、あの子は・・・」
「でももこうもねえっ!あんた母親になる気はねえのかっ!」
いまだ決めかねる繭の義母に、浩平は檄を飛ばした。その言葉に繭の義母はついに決心した。
「折原さん・・・そうですね、わたしは繭の母親なんですよね!」
力強く意気込む繭の義母だったが、ちょうどその時、水まきを終えた繭が座敷にやって来た。
「みゅ〜!」
繭は義母にではなく、お瑞に駆け寄った。それを見て義母の顔は暗くなった。
「繭・・・折原さん、わたしはこれで・・・・・・!」
「あっ、ちょ、ちょっと・・・」
繭の義母は、後ろを振り向かずに半田屋を飛び出した。浩平とお瑞は何も言えなかった・・・・・・。

最後の夜・・・・・。浩平とお瑞は、明日の出発の準備をしていた。
「ねえ浩平。これでよかったのかな?」
お瑞が荷造りの手を止めて聞いた。
「何がだ?」
「繭のことだよ。結果的には、繭のお母さんを苦しめたんじゃないのかな・・・・・・」
「そんなのわかんねーよ。後は自分達で決めることだ」
「そうだけど、わたしここに残った方が、よかったような気がして・・・」
「ばか、そしたらお前の親はどうするんだよ?大体、それは椎名が自立することにはつながんねーよ」
浩平はそう言い切った。その言葉にお瑞も迷いが晴れた。
「そうだね!わたしにもやることがあるもんね!」
その時、浩平はボソッと呟いた。
「俺を起こすことがな・・・」
「何か言った?」
「い、いや!・・・さーて!寝るかぁ!」
浩平はわざとらしくかぶりを振り、布団にもぐろうとしたが、廊下から女将の呼ぶ声が聞こえた。
「お瑞ちゃーん、浩平ちゃーん!お客さんだよー!」
「はーい!今行きまーす!浩平行こうよ」
「ああ」
二人は一階に降りた。一階では繭の義母が立っていた。
「あの、折原さん!繭はこちらには・・・」
繭の義母は走ったのか、息があがっている。
「椎名?もう帰ったけど・・・・・・」
「繭がいないんです!」
「えっ!?」
浩平とお瑞は驚く。それから詳しい事情を聞いた。
「繭は日が沈む前には帰しましたけど・・・」
「家にはまだ帰ってないんです!」
それを聞いて浩平は繭を探しに行くことにした。
「お瑞!お七を呼んでこい!」
「う、うん」
お瑞がお七を呼びに行って数分後・・・。
「いったいなんなのよ〜」
お七は寝ていたのか、声が少し低い。
「椎名がいないんだ!一緒に探してくれ!」
「別にいいけど、ちょっとまってて!」
お七は再び部屋に戻った。その間に浩平はお瑞達に指示を出す。
「お瑞は繭のおふくろさんと、ここに居てくれ!」
「わたしも探すよ!」
「だめだ!最近は賊が出てるって話だからな」
最近、神奈川には盗賊団が出没している。賊は強盗や人さらいをしていた。
「折原おまたせ!」
そうしている内にお七が戻ってきた。その手には長刀が握られている。
「お七さん。それ・・・」
お瑞は目を刀に注目させている。
「護身のためよ」
お七はあっさり答えるが、一般に認められているのはわき差し等であって、これは間違いなく違法である。
「よし!行くぞ!」
浩平も十手を握り外に飛び出した。

つづく・・・・・・・・。

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ふう・・・まだおわんないッス。さて、次の話ですが、お七に関わる人物が出ます!詳しくは言えませんが、八話
以降にもつながります!では予告と一言。

繭の行方は一体!?そしてお七の前に現れる人物とは!?夜の神奈川を浩平が走る!
次回 浩平犯科帳 第七話「立ちはだかる者」ご期待下さい!

浩平「いい加減に終わらせろよ、この話」
うるせー・・・。