「浩平・・・・」
むっ・・・誰だ？吾が輩の眠りを妨げるのは・・・・・・。
「浩平、起きてください」
しつこいので、仕方なく吾が輩は寝床から顔を出す。
「起きましたね」
目の前では、女がかごの中をのぞいていた。たしか、この女が昨日から吾が輩の主人になったはずだ。
「わたしは学校があるから、良い子にしててくださいね」
主人はそう言って吾が輩の背中をなで、部屋を出ていった。うーむ、ハムスターの吾が輩が言うのもなんだが、我が主人はなかなかの美形だと思う。いい人間に飼われたものだ。
さて、眠りから覚めた吾が輩は、食物の摂取に入ることにした。我々ハムスターは常に食事を取らなければいけないのだ。周りを見渡すと、ヒマワリの種等が置かれた箱がある。どうやら、そこが食事場所らしい。吾が輩は、ヒマワリの種を一つ掴むと、口の中に入れる。そして続けて２個目、３個目と口に詰め込んだ。吾が輩達の口の中には頬袋があり、その中に食物を貯めれるのだ。頬袋一杯に詰め込んだ所で、吾が輩は種をほおばった。
カリカリカリ・・・・・
うーむ、やはりヒマワリの種は吾が輩の主食である。吾が輩はそこらで市販されている、ハムスター用の基本食は嫌いなのである。そうして、食事を終えた吾が輩は運動をすることにした。運動不足になると、健康にも悪いし、外見も損なう。吾が輩はかご設置された、車輪に乗り走り出した。
カラカラカラカラ・・・・・・
吾が輩はこうして、食後を過ごした。そして、また眠気が襲ってきた。吾が輩はそれに対抗せず、寝床に戻り眠りに落ちた・・・・・・・。

「こいつまだ寝ているのか」
「こういう所は、こっちの浩平とそっくりです」
何やら人な話し声が聞こえる。しかし、まだ吾が輩は頭の半分以上が眠っている。
「茜、大学は楽しいか？」
「それなりに・・・でも浩平がいないから、寂しいです」
うーむ、どこかで聞いた男の声だ・・・。
「悪い、卒業するだけでも大変で・・・・・・」
「わかってます」
吾が輩は男の声が気になり顔を出した。
「おっ、出てきたぞ」
この男は昨日もここにいた。一体我が主人とは、どういう関係なのだろう？
「へへっ、なんかかわいいな」
「そうですね」
「ところで茜、いつあいつらは来るんだ？」
「もうそろそろです」
ピンポ〜ン！
主人がそう言った時、玄関のチャイムが鳴った。客が来たようだ。
「は〜い、茜、元気にしてた？」
入ってきたのは、見慣れない女が二人だった。
「詩子、俺へのあいさつはなしか？」
「ごめん、ごめん！どう、茜とは上手くやってる？」
「当たり前だろ、ところで澪お前も元気にしてたか？」
客のもう一人は何もしゃべらず、持っているスケッチブックに、何やら字を書いて男に見せた。しかし、悲しいかな・・・吾が輩には字は読めない。
「ねえねえ！お酒の用意もできてるんでしょ？」
「ケーキもできてます」
「さすが茜！早速乾杯しましょうよ！」
この客人はやたら元気でうるさい。寝起きの吾が輩には迷惑である。
「それじゃあ、茜の一人暮らしと、わたしの短大合格と、澪ちゃんの演劇部の受賞を祝って乾杯っ！」
「待てっ！俺が抜けてるぞっ！？」
「仕方ないわねぇ、おまけに折原の卒業を祝って乾杯っ！」
「かんぱーいっ！」
一同は缶ビールを合わせる。そして、彼らは話に花を咲かせた。
「あら？茜、あんたハムスター飼ったの？」
宴が始まり数時間たった頃、少し呂律の回らなくなった客人が、吾が輩に気付いた。
「へえー・・・かわいいわね。名前は？」
「浩平です」
「えっ？・・・キャハハハハ！似合わなーいっ！」
客人は突然、笑い始めた。何がおかしいのだろうか？と、向こうから小さい方の客人が、フラフラとこっちに歩いてきた。
ジー・・・・・・・・・
客人は何をするでもなく、吾が輩を見てくる。
「澪、ちょっかいだすなよ」
男が客人を注意する。話は変わるが、人間達は自ら酒をの飲むが、我々にしてみれば愚かなことに他ならない。酒に酔えば、身体的能力の他に、嗅覚等の我々にとって重要な物が麻痺するのだ。自ら危険に身をさらしているような物である。
そして、宴も終わりに近づいた頃・・・・・・。
「あっ！？やばい、もうこんな時間！終電に間に合わないわ！」
客人が声を上げる。かなり焦っている様子である。
「それじゃ茜！また今度飲もうね！」
「はい」
「澪も気を付けて帰れよーっ」
バタン！
ドアの閉まる音が響く。やれやれ・・・やっと吾が輩は眠りにつくことができる。だが、まだ男は残っていた。
「なんで浩平がいるんですか？」
「いやー、駅まで走るのめんどくさいし、こっからの方がバイト先に近いからな。・・・それに茜と一緒に居たいし・・・・・・」
「浩平・・・もう、しょうがないですね・・・・・・」
二人の間に沈黙が流れる。全く相手をしてもらえない吾が輩は、さっさと寝ることにした。・・・これでは昨日と同じ展開ではないか・・・・・・・。

つづく・・・・・・。

ハムスターはいいぞっ！