浩平犯科帳 第一部 第三話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第三話「夕日の記憶 後編」

前回のあらすじ
川名神社の巫女、みさきの警護を依頼された仁義屋。浩平と詩子は川名神社に向かった・・・・・。

浩平「神社に着いたはいいが、どうやって警護すればいいんだ?」
詩子「あきれたわねーっ、あんたそれでも仁義屋?」
浩平「しゃあねーだろ」
浩平はこのような仕事は嫌いだった。小細工がきらいな浩平は、下手人の捕り物等の戦闘的なことを得意とする。
詩子「とりあえず、わたしは中に入って、警護対象を見てることにするわ」
浩平「俺は?」
詩子「その辺の草むらで、怪しい奴が来ないかどうか見張っていて」
浩平「おい!なんで外なんだ!」
詩子「じゃあねーっ」
詩子は、浩平を嘲笑うかのように跳躍し、音もなく屋根に取りついた。そして、そのまま姿を消した。
浩平「どうすりゃいいんだろ・・・・・・・」
浩平は、しばらくその場に立ち尽くしていたが、この場にいても怪しいだけなので、詩子の言う通り草むらに隠れることにした。
ガサガサ
浩平「うーんっ・・・なんか格好悪い・・・・・」
お七「そうね」
草むらにはお七がいた。
浩平「うわぁっ!お前はっ!なんでこんなとこにいるんだ!?」
お七「別にいいじゃない」
浩平「よくないっ!どういうことか、説明しろ!」
お七「大きい声ださないでよ。仕方ないわね教えてあげるわ」
浩平「一体なぜだ?」
お七「事情があるのよ」
浩平「で?」
お七「それだけよ」
浩平「ふざけるなっ!」
お七「ふざけてないわよ。だれにだって秘密はあるわよ。あんただって、岡っ引きのくせに闇の仕事してるじゃない」
浩平「でも仕事の邪魔だ!」
お七「邪魔はしないわ。わたしにも事情があるんだから。別に、あんたがいることをもらしてもいいのよ」
浩平「くっ・・・わかったよ、でも邪魔をすんなよ」
お七「ありがとう!」
浩平はついに折れた。そしてお七に仕事内容を説明し、二人は草むらに隠れて見張りをすることにした。
浩平「しかし、事情ってなんなんだ?」
お七「秘密」
浩平「教えろ」
お七「あんたが闇の仕事をしているわけを教えてくれたら、教えてあげる」
浩平「秘密だ」
お七「じゃあ、わたしも秘密」
それからしばらく二人は黙っていた。だが、沈黙に耐え切れず、浩平が切り出す。
浩平「なあ、どこの組に属してるんだ?」
お七「どこの者でもないわ。ただの流れ者よ」
浩平「なのに、ここにいるのか?」
お七「だから事情があるのよ」
浩平「どうしてここに俺達が来ることがわかったんだ?」
お七「あんたの後をつけた」
浩平「どうして?」
お七「あんたと一緒にいれば、目的を果たせそうだから」
浩平「よくわからん」
お七「ねえ、今度はこっちから質問するわよ」
浩平「なんだ?」
お七「お瑞って娘とは、本当になんでもないの?」
浩平「はあっ?当たり前だろ」
お七「瓦屋さんから聞いたわよ。恋仲だって」
浩平「住井め・・・・」
お七「まあ、あんたのその様子を見てると、まんざらでもないようね」
浩平「ちがうわっ!」
一方、屋根裏に潜んだ詩子は、みさきを観察していた。
詩子「あの娘には、怪しいところはないわね・・・やっぱり父親の方か・・・・・・」
そう呟くと、詩子は音をたてずに移動する。詩子は忍びの訓練を受けているのだ。そして、みさきの父親、美濃吉がいると思われる部屋の上まで来て、屋根裏の床に耳をつけた。
美濃吉「みさきは大丈夫だろうか・・・」
みさきの母「大丈夫ですよ。仁義屋にまで頼んだんですから・・・・・・」
美濃吉「しかし・・・・・」
みさきの母「でも他に手はないじゃないですか・・・・・・」
美濃吉「そうだな・・・」
それっきり二人の会話は途切れた。詩子は、再びみさきの頭上に戻った。
詩子(なにか隠しているわね・・・)
忍びである詩子の血が騒いだ。詩子は秘密を暴くのが好きなのだ。
詩子(それにしても、この神社は調べてみる価値がありそうね・・・・・)
そのころ浩平とお七は・・・・・
お七「来ないわね・・・・・」
浩平「来ないな・・・・・・・」
退屈していた・・・・。
お七「そう言えば、明日ここで祭りがあるんでしょ?」
浩平「ああ」
お七「どんなことやるの?」
浩平「露店とか見せ物とか、まあ普通だな」
お七「あんたもいくの?」
浩平「ああ、お瑞とだけどな」
お七「へえーっ、やっぱり怪しいなぁ」
浩平「だからちがうって!あいつはたんに保護者気取りなだけだ」
お七「ふーん」
お七は愉快そうに言った。その時、浩平はあることに気付いた。
浩平「やべぇっ!お瑞が起こしに来ること忘れてたっ!」
お瑞は毎朝、浩平を起こしに来る。だが、浩平の裏の顔を知らないお瑞は怪しむに違いない、と浩平は焦ったのだ。
お七「やっぱり、恋人じゃない」
浩平「ちがうって!・・・そうだお七、俺ちょっと家に戻るから、見張りよろしく!」
そう言って浩平は走り出す。
お七「あっ!ちょっとまちなさいよ!」
お七も浩平を怒鳴った。しかし浩平はすでに、鳥居の前までいっていた。その時、予期せぬことが起こった。
ドンッ!
浩平「ぐぁっ!」
男「ぬおっ!」
浩平は男とぶつかった。
浩平「いってーなぁっ!」
男「うっ・・・ま、まずい」
男は浩平を見ると逃げ出した。それを見て浩平は、あることに思い出した。
浩平「あっ!?あの男!」
男は神社をうろついていた奴だった。浩平はまさかいるとは思っていなかった。それは男も同じであった。
浩平「まちやがれっ!」
浩平は男を追った。が、男はかなり速い。
浩平「くっ!・・・なんて速いんだ・・・まるで忍びだな・・・・・・」
その時、後ろからお七が追いついた。
お七「多分そうね、でも、これぐらいならなんとかなるわっ!」
そう言うと、お七は長刀を引き抜く。そして、しばらく走ると・・・・・・・。
お七「はっ!」
お七は短く叱咤し跳躍した。そして男に鋭い突きを入れた。
シャッ!
しかし、その斬撃は僅かに外れ、肩をかすめただけであった。
お七「くっ!・・・」
お七は着地をすると足を止めた。だが浩平は追い続ける。男は浩平達がただ者じゃないことを感じ取ったようで、路地を通ったりして複雑な道を使った。しかし、先ほどの斬撃により負傷して、傷口から流れる血により、その足取りを掴むのは簡単だった。
浩平「よし、この先は袋小路だっ!」
浩平の方が土地勘があるようで、男はどんどん追い込まれ、ついに壁に行き当たった。
浩平「ここまでだっ!おとなしく神妙にしやがれっ!」
男「そうはいかぬ・・・任務を果たさなければいけないのでな・・・・・・」
男は静かにそう言うと、懐からくないを引き抜いた。
浩平「やはり忍びか」
浩平も十手を構え、相手の隙を窺う。相手も同様にくないを構え、間合いを取る。
男「たあっ!」
先に仕掛けたのは男だった。素早く間合いを詰め、浩平の喉元めがけ、くないを突き立てた。
ガキッ!
浩平はそれを十手で挟み込む。そして、手首を捻り相手のバランスを崩した。男は前のめりになったが、くないを離し、浩平から離れた。
浩平「へっ!もらったぜ!」
浩平は挟んだくないを振り落とし、男に十手を手に突っ込む。連続で突きを打ち込み、相手を壁際に追い込む。そして、相手の足が止まると、その鳩尾に強烈な突きを入れた。相手は腹を押さえ崩れ落ちた。
男「グッ・・・」
浩平「やっと、おとなしくなったか」
浩平は男を見下ろすように立つ。
浩平「さて、お前が何者か話してもらおうか。まず、お前の名は?」
男「・・・」
浩平「・・・じゃあ、お前の目的は?」
男「・・・」
男は沈黙を守る。その態度から、男がやはり忍びであることがわかる。
浩平「やっぱり喋る気はないか・・・しょうがないな・・・・・・・」
浩平がそう言うと、男は口を開いた。
男「拷問でもかけるつもりだろうが無駄だ。まだ兄者がいるからな・・・」
男はそう言うと目をつぶり、自らの舌を噛んだ。口元から血が流れ、男は壁に背中をつけ動かなくなる。自害したのだ。
浩平「おいっ!?お前!・・・・・・・死にやがった・・・・・・」
浩平は悔しそうな顔を見せた。浩平は敵であろうと、人が死ぬのは嫌だった。そのため、闇の仕事でも十手を用いているのだ。
浩平「兄者がいるとか言っていたな・・・まだ敵がいるということか・・・・・・」
浩平は男に手を合わせ、冥福を祈った。そして、後ろを向き歩き出した・・・・・・。
路地を出るとお七と出会った。
お七「あっ、折原!賊は?」
浩平「死んだ・・・」
お七「そう、それであいつは何者だったの?」
浩平「お前なっ!人が死んだんだぞっ!」
お七「なに怒ってるのよ。悪人が死んだんだから、いいことじゃない」
浩平「お前・・・」
お七「で、あいつは?」
浩平「・・・わからん、でもまだ敵はいる」
お七「そう、じゃあわたしは神社に戻るわよ」
浩平「・・・ああ」
浩平の表情は浮かなかった・・・・・。



浩平は自分の長屋に戻った。そして、明かりをつけると紙と筆と硯を取り出した。
サラサラ・・・
浩平はお瑞への手紙を書いた。
浩平「・・・こんなもんかな」
浩平の書いた文はこんな感じである。
『自身番屋に泊まっているから今日は一人でいけ。今日は昼も公用でいないからこなくていいぞ。あと、祭りは夕方、神社でまってる』
浩平は書き終えると筆と硯をしまい、手紙を卓の上に置いた。そして、長屋を出て神社に向かった。

翌朝・・・

浩平とお七は、草むらで茣蓙を敷き寝ていた。あれから徹夜で張り込みを続けたが、誰も現れなかった。詩子も姿を現さず、二人は疲れていた。そして、二人が寝ているとき、境内ではみさきが掃除をしていた。
みさき「うーんっ!やっぱり春の風は気持ちいいな」
みさきは胸一杯に春の風を吸い込む。その時、草むらから声が聞こえてきた。
浩平「うーっ・・・体がいてぇーっ・・・あれ?なんで外で寝てんだ?」
お七「うるさいわねーっ・・・って、なんで隣で折原が寝てんのよ!?」
浩平「お、お七!お前俺をこんなところに連れ出して、何をする気だ!?」
お七「するかっ!・・・あっ!わたし達、張り込みをしてたのよ!」
浩平「そうだったな」
そんな二人の掛け合いに、みさきが声をかける。
みさき「その声、浩平ちゃんね」
浩平「あっ、みさきさんじゃないか」
お七「この人を守るのね・・・」
お七が浩平に耳打ちをする。
みさき「あれ?こっちの人は?」
お七「あっ、初めましてお七と言います」
みさき「お七さんかぁ、だめだよ浩平ちゃん浮気したら、お瑞ちゃんが怒るよ」
浩平「ちがうって!」
お七「全然そんな関係じゃないですよ。わたしはこの男と最近知り合ったばかりです」
みさき「ふーん、ところで、こんなところでなにをやってるの?」
浩平「うっ・・・」
浩平は答えに困った。だが、代わりにお七が答えた。
お七「えっと、わたしの勤めてる居酒屋のおつかいの帰りです」
みさき「浩平ちゃんも?それに、なんで草むらにいるの?」
お七「えっ、えーと・・・」
浩平「いや、お七がさぁ、どうしても神社の階段を百往復したいから、俺に見届けろって」
お七「だれがするかっ!」
みさき「ふふ、二人ともおもしろいね」
浩平「そう言えばみさきさん、今日の祭りどうするんだ?」
浩平はみさきの警護のために、居場所を確認しようとした。
みさき「それがね、なにか手伝いをしようと思ったんだけど、お父さんが今日は一日中家にいろって言うんだよ」
浩平「ふーん、それは残念だな」
お七「でもなんとか、外に出してもらえるように、説得してみるよ」
浩平「あんまり無理すんなよ」
その時、廊下から美濃吉の声が聞こえてきた。
美濃吉「みさきーっ!外に出るなと言っただろーっ!」
みさき「もーっ、うるさいんだから。それじゃあ浩平ちゃん祭りでね!」
そう言って、みさきは家に戻った。それから二人はそこに立ち尽くしていたが、突然詩子が現れた。
詩子「浩平ーっ、元気にしてるー?」
浩平「うわっ!?いきなり出てんな!」
お七「だ、だれ?」
詩子「わたし?わたしは柚木詩子。よろしくねっ!」
お七「わたしはお七、あなたも仁義屋ね」
詩子「なんだ、わたしたちのこと知ってるんだ。ふーん、たしかにあなたも堅気じゃない雰囲気があるわね」
お七「そう?」
詩子「うん」
浩平「ところで詩子、なんの用だ?」
詩子「そうだった。伝えることがあるんだった。でもその前に、そっちはなんかあった?」
浩平「ああ、忍びが一人現れた。でも、自害しやがった・・・それに、まだ敵がいるようなことを言ってやがった」
詩子「仕事はまだ続くようね。で、連絡だけどあなた達の警護はいったん休憩、夕方祭りがはじまってからね」
浩平「どういうことだ?まだ夕方には時間があるぞ」
詩子「昼間は大丈夫よ」
浩平「なぜ、言い切れる?」
詩子「秘密!それじゃあ、夕方にね!あっ、祭りは動きがあるまで見物してていいわよ」
詩子は再び姿を消した。
浩平「いっちまった・・・」
お七「それじゃあ、わたしは居酒屋に戻るわ」
浩平「俺も番屋にいくか・・・」
こうして二人は別れた・・・・・・・。



夕方、番屋でゆっくり睡眠を取った浩平は神社に来ていた。そして、鳥居の前でお瑞を待っていた。
浩平「おせーな、お瑞の奴。こうなったら晩飯おごらせてやる・・・・・」
浩平がお瑞を待っている間にも、祭りは始まっていて、子ども連れの親子や、友達同士で来る者、恋人と来る者もいた。浩平はそれらを眺めながら、お瑞をひたすら待っていると、向こうから歓声が聞こえてきた。
声1「お七さん!一人ですか?」
声2「一緒に見物しませんか!」
声3「いや、ぜひとも俺と!」
そんな男どもの声に混じってお七の声も聞こえる。
お七「あっ、ごめんなさい。今日は見物に来たんじゃないの」
声1「そんなこと言わずに!」
声2「楽しみましょうよ!」
お七「ごめんなさい!用があるから!」
そう言って、お七は取り巻きから逃れた。
浩平「あいつの本性をみせればいいのに」
浩平がそんなことを呟くと、後ろから突然声がかかった。
お瑞「浩平っ!」
浩平「おわぁっ!?」
お瑞「おまたせっ!」
浩平「いきなりでてくんな!・・・あっ、その浴衣・・・・・」
お瑞「どう?似合ってるかな?」
お瑞は青い浴衣を着ていた.。
お瑞「浩平?」
浩平「あ、ああ・・・まあ七十点てとこか」
お瑞「はうーっ・・・それじゃあ似合ってんのかどうか、よくわかんないよーっ」
浩平「そんなことよりっ!なんでおくれたんだ!?」
お瑞「あっ、ごめんね!仕事が長引いちゃって」
浩平「しかたねーなぁ、今回だけ許してやる」
お瑞「ありがと」
浩平「ほれ、さっさといくぞ!」
お瑞「あっ!まってよー!」
二人は鳥居をくぐり、境内にはいった。その時浩平は一つ思った。
浩平(俺、昨日からおどろかされてばっかりだな・・・・・・・)



二人が祭り見物をして、一時間ほど過ぎた頃、日は沈みかけていた。
お瑞「浩平、みてみて!このかんざし!」
浩平「あ?どれ?」
お瑞「これだよ、きれいな細工だと思わない?」
お瑞は簪を手にして言った。簪は小さめだが、凝った飾り細工がなされている。露店で売っているものだけに、それほど値段も高くない。
お瑞「うーん、買っちゃおうかなーっ」
浩平「欲しいのか?」
お瑞「うん」
浩平「よしっ!俺が買ってやろう」
お瑞「えっ!?いいよ、自分で買うよ!」
浩平「気にすんな、おっちゃんこれもらうよ」
店のおばちゃん「まいどありーっ!」
浩平は代金を払い、お瑞とその場を離れた。
お瑞「浩平、本当にもらっていいの?」
浩平「あたりめーだろ、俺がそんなものもっててどうする」
お瑞「ありがとう、浩平」
お瑞は満面の笑顔を見せた。その笑顔を見て浩平も嬉しく思った。だが、そんな思いもすぐに打ち消した。
浩平(なに考えてんだ俺・・・)
それから、歩き疲れた二人は境内の階段に座った。
お瑞「いっぱい人が来てるね」
浩平「祭りだからな」
お瑞「そう言えば、みさきさんどこにいるのかな?」
浩平「あっ」
浩平はお瑞の言葉で任務を思い出した。
浩平(詩子からは連絡もないし、騒ぎもないから大丈夫だろ。でも一応あっといた方がいいかな・・・)
浩平はみさきのことが心配になった。
浩平「みさきさんのところにでもいくか」
お瑞「そうだね」
浩平は社から右側にあるみさきの家に向かった。
浩平「すいませーんっ、みさきさんはいますかーっ?」
呼んでみるが返事はなかった。浩平は嫌な予感がした。
浩平「お瑞!ちょっとここでまってろ!」
お瑞「あっ!勝手にはいっちゃだめだよ!」
お瑞が止めるが、浩平は構わず中に入った。中な入ると居間の方から変な匂いがした。
浩平「なんだ?この匂い・・・」
居間に駆けつけた浩平が見たものは、倒れているみさきの両親であった。
浩平「おいっ!?どうしたんだ!?」
美濃吉「うっ・・・ぞ、賊が・・・みさきを助けてくれ・・・く、蔵に・・・・・」
美濃吉はそう言うと、意識を失った。
浩平「おいっ!・・・気絶しただけか、この匂いは薬のせいか」
浩平はみさきの両親に、命の別状がないことを確かめると、お瑞のもとへと戻った。
浩平「お瑞っ!近くに見回りの奴がいるから呼んできてくれ!人が倒れてるんだ!」
お瑞「えっ!?わかった!よんでくる!」
お瑞が駆け出すのを見届けてから、浩平は裏の蔵に向かった。
そのころ、蔵の中では・・・・・・・・。
みさき(ここはどこだろう?・・・わたし、急に眠くなってそれからなにも覚えてない・・・)
みさきは暗闇の中で目を覚ました。しかし、自分の状況がよく掴めない。
みさき(この湿っぽい感じ蔵の中かな・・・でもなんでこんなところに?)
みさきはとにかく、ここから出ようと体を動かそうとした。
みさき「あれ?うごけない」
みさきの体は縄で動けなくなっていた。
男「目覚めたかい?お嬢さん」
みさき「だれっ!?」
奥から男の声が聞こえてきた。みさきは警戒した。
男「怖がることはない。別に命を取るわけじゃない」
みさき「あなただれなのっ!?」
男「だれでもいいさ。ところで、ここにいてなにか思い出さないか?」
みさき「?」
男「子供の頃の記憶さ。八年前のな」
みさき「八年前・・・・・・」
みさきは男の言葉を聞いて思い出した。忘れもしない、あの全ての光を失った日・・・・・・・。



八年前の祭りに、時間はさかのぼる・・・。
みさき「えーっと、杯はどこかなぁ」
みさきは蔵の中で、祭りで使う杯を探していた。時はすでに日が沈みかけ、蔵の中にも日が差そうとしていた。
みさき「まったくぅ、おじいちゃんも人使いが荒いんだから!自分のことは自分でしろって言ってるじゃない!」
文句を言いながら、しばらく杯を探していたが奥の方でやっと見つけた。
みさき「はあ・・・やっと見つかった」
その時、ちょうど奥の壁に夕日が差した。
みさき「な、なにこれ!?」
壁に日が差すと、そこにはいつもの無機質な壁ではなく、まるで模様のようなものが浮かび上がっていた。
みさきの祖父「みさき!そこから離れるんじゃっ!」
いつの間にか、蔵の前には祖父が立っている。
みさき「おじいちゃん、これは?」
みさきの祖父「みさき!はやく!」
みさきは祖父に急かされ戻ることにした。だが、もう一度見ようと振り向いた瞬間・・・・・・・。
みさき「きゃああああああーーーーーーーー」
みさきの祖父「みさき!」
先ほどよりも夕日が差し込み、その光が壁に反射し、みさきの眼球を焼いた。みさきはショックで気絶した。



時は戻る・・・。みさきは気絶してからのことは覚えていない。そして、何も見ることはなかった。何故か、その日以来祖父の姿もみなくなったが、両親は祖父は体を壊して療養に行ったとしか言わず、それから少しして祖父が療養先で死んだと聞かされた。
みさき「八年前のことがなんなの?」
男「覚えているだろう。お前から光を奪ったあの壁の模様を・・・」
みさき「あなた、あの壁についてなにか知ってるの!?」
男「ふふふ、これから知るのさ・・・財宝のありかをな!そして、お前はそのありかを示す地図なのだ!」
みさき「えっ!?」
男「お前の記憶をいただくっ!」
だがその時、蔵の扉が開かれる。
浩平「そこまでだっ!みさきさんから離れやがれっ!」
みさき「浩平ちゃん!」
男「むっ!?貴様は!」
浩平は十手を構えみさきの所まで近づこうとした。
男「そうはさせんっ!」
みさき「きゃあっ!」
男はみさきを羽交い締めにし、喉元にくないを突きつけた
浩平「くっ・・・卑怯だぞ!」
男「なんとでも言うがいい。我らは八年もまったのだ!」
男はみさきを連れ蔵を出ようとした。が、しかし。
シュッ!
男「ぐあっ!」
どこからともなく飛んできた小柄が、男の腕に刺さった。男は動きを止める。浩平はその隙を見逃さなかった。
浩平「みさきさんを離せ!」
浩平は一気に間合いを詰める。
男「くそっ!」
男はみさきを突き飛ばすと、くないを構え迎え撃つ。
浩平「だあっ!」
男「ぐっ!」
浩平は十手を振りおろす、男はそれを受け止めるが、先ほど受けた傷の痛みに顔をしかめる。
浩平「昨日の奴の仲間だなっ!?」
男「いかにも、昨日は世話になったな!」
浩平「みさきさんをどうするつもりだ!?」
男「地図になってもらうのさ!」
浩平「なんだと?」
二人はつばぜり合いのまま、会話を続ける。
浩平「お前ら何者なんだ!?」
浩平はそう言うと、低い蹴りを相手の腹部に入れた。そして、相手が後ろに崩れた所を十手で打つ。
男「うっ・・・」
男はうめいて倒れた。
浩平「いったい、こいつらの狙いはなんなんだ?・・・」
詩子「それはわたしが説明するわ」
扉の前には詩子が立っていた。先ほどの小柄も彼女の物だ。
浩平「いったい、どういうことだ?」
みさきを抱き起こしながら聞いた。
詩子「これは八年前の事件とつながっているのよ。八年前の今日、その娘は光を失った。でも、それは事故じゃない。因縁よ」
みさき「因縁?」
詩子「ええ、この神社について調べさせてもらったわ、この神社の発祥は知ってる?」
みさき「いいえ」
詩子「この神社の元は武田軍の隠密よ」
みさき「えっ!?」
浩平「なんだと!?」
二人は驚きの声を上げた。まさか神社のルーツが忍びだとは思わないだろう。
詩子「あなたの先祖は武田軍が滅ぶとき特命をうけた。その任務は、財宝を武田の復興のために埋蔵すること。そして、その秘密を隠し続けること。この蔵にはその秘密が隠されていたのよ」
みさき「・・・もしかして、あの模様・・・・・・」
詩子「あなたが失明したのは、あのとき見た模様の反射のせいよ。模様は実は地図になっていた。でも、模様は普通じゃ見えない、日の光によって浮かぶようにできていたの」
浩平「でも、俺がここにはいったとき、日が差していたけどなにもなかったぞ?」
詩子「この模様は簡単には浮かばないわ。それに、壁全体に日が差すのは春の夕刻だけ、この蔵は祭りのときに開けられる。その間、壁は夕日を吸収する。それが続けられることによって、模様が浮かぶのよ。そして、その周期はちょうど八年」
浩平「なるほど、それでこいつらがうろついたわけだ。でも、なんでみさきさんを狙ったんだ?」
詩子「模様だけじゃあ地図にはならない。模様はひかり苔でできていて、壁は微妙にだけど湾曲している。それによって、模様は反射する。その反射が、人の網膜に焼き付けられることによって地図は完成する」
浩平「ふ、複雑だ・・・・?、まてよ・・・網膜に焼き付けるのはいいが、それをどうやって見るんだ?」
詩子「それなんだけど・・・文献には『その地図は婦亜瑠後に任す』としか書いてないのよ」
浩平「ふぁるご?・・・変な名前だなぁ。で、その婦亜瑠後ってなんだ?」
詩子「さあ、文献にはなにも書いてないから・・・・」
みさき「ねえ、この人はなんで、そのことを知ってるの?やっぱり、婦亜瑠後の人?」
その時、男が口を開いた。
男「くっ、くっ、くっ、財宝は武田の復興のものではない。全て我ら婦亜瑠後への貢ぎ物・・・・」
浩平「てめえっ!聞いていたのか!」
詩子「どうやって、地図を見るの?」
男「記憶を見るのさ」
浩平「どういうことだ?」
男「ふん、これ以上は言えん。覚えておけ、我らを敵に回すと命がないぞ・・・ぐっ!?」
男の頭が突然きしむと、何かで割られたように血が吹き出した。そして男は死んだ。
浩平「な、なにっ!?」
詩子「こ、これは!?」
みさき「なにがおきたの?」
浩平達は突然のことに驚愕する。そして、あたりに無機質な声が響いた。
声「手下が世話になった。財宝のありかを知りたいところだが、所詮は過去のガラクタだ。あきらめることにしよう。仁義屋の諸君、婦亜瑠後の恐ろしさを知るがいい・・・・・・」
そう言って、声は聞こえなくなった。浩平達は突然のことに呆然としていた。
浩平「なぜ俺達のことを・・・」
みさき「なんだったの?今の?」
みさきがそう言った時。
茜「知らない方がいいです。
茜が音もなく現れ、みさきの額に手をかざした。
みさき「あっ・・・・」
みさきは意識を失った。
浩平「記憶を消したのか・・・・・」
詩子「茜ぇー、あんた気配出して現れなさいよぉー!びっくりするじゃない!」
茜「すいません、それより依頼主が話があるそうです」
浩平「そうか、じゃあいくか」
浩平はみさきを抱きかかえ、蔵の外に出た・・・・・。



浩平達は社の中に集まっていた。
みさきの母「ありがとうございました。これでもう、みさきに危険はなくなりました」
美濃吉「私達一族は、三百年にも渡って因縁に苦しみました。これで自由です」
浩平「それはわからないけど、まあしばらくは大丈夫だろ」
詩子「ところで、聞きたいことがあるんだけど、先代の神主はどうして死んだの?」
美濃吉「それは・・・・」
再び八年前・・・。
みさきの祖父「ああ・・・なんてことだ」
みさきが気絶したのを見て、愕然としみさきに駆け寄る。
男「ふふ・・・やっと財宝への地図ができたか」
みさきに駆け寄った祖父に、いつの間にか現れた男が声をかけた。
男「さあ、その娘を渡してもらおうか」
みさきの祖父「貴様らなんぞにみさきはやれんっ!」
男「ほう、逆らうつもりか?婦亜瑠後からの恩を仇で返すとはな」
みさきの祖父「なにが恩じゃっ!こんなものただの重荷なだけじゃっ!」
男「ならば命はないっ!」
男はそう言うと、くないで切りつけた。
みさきの祖父「ぐはっ!」
男はさらにくないを突き立てた。
みさきの祖父「うっ・・・み、みさき」
男は事切れたのを確認すると、気絶しているみさきに近づこうとした。しかし・・・。
髭「おーい、みさきちゃん!どこにいるんだー!」
向こうから髭の声が聞こえてきた。みさきの祖父が何かあった時のために、呼んだのだ。
男「くそっ!ここは、いったんひくか・・・」
男はそう言って姿を消した。そこに髭が顔を出した。
髭「あっ!?こ、これは!?」



一部始終を聞いた浩平達は外に出た。男の始末は美濃吉が処理することになった。
詩子「はあーっ、疲れたぁ」
浩平「なに、いってんだ。こっちは徹夜で張り込みだぜ」
詩子「わたしも徹夜で調べ物よ。それに比べて茜は楽よねーっ」
茜「わたしは仕事がないので・・・」
浩平「さーて、これからどうする。飲みにいくか?」
茜「嫌です」
詩子「わたしもいいわ、頭に報告しなきゃいけないし」
浩平「つれないなーっ」
その時、後ろからお瑞の声が聞こえてきた。
お瑞「浩平ーっ!」
詩子「ほら、恋人が来たわよ。じゃあ、わたしはいくね」
浩平「だれが恋人だっ!」
茜「わたしもいきます」
二人はそう言って、その場を去った。代わりにお瑞が駆けつけた。
お瑞「ひどいよーっ浩平、どこいってたんだよーっ」
浩平「わりぃ」
お瑞「でもこれでおあいこだよ。今日はわたしもおくれたもん」
浩平「まあ、そういうことになるな」
お瑞「ところで、これからどうするの?」
浩平「そうだなぁ、中原亭にでもいくか」
お瑞「いいけど、あんまり飲み過ぎちゃだめだよ」
浩平「わかってるって」
こうして浩平は日常に戻った・・・・・・・。


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偽善者Zです。今回はちょっとゴチャゴチャしています。これからの伏線を張ったのでちょっと詰め込み過ぎたって感じです。次はもうちょっとあっさりさせたいと思います。でも四話は少し遅れるかもしれません(別の作品を制作中のため)。とにかく、がんばるのでよろしくお願いします。では予告と一言。

旅の途中で出会った困り者!少女に起こる危険!江戸じゃなくても悪を滅ぼす浩平!
次回浩平犯科帳 第四話「旅は黄泉への道連れ」ご期待下さい!

繭「みゅーっ!」
なんていってるんだ?