浩平犯科帳 第一部 第一話 投稿者:偽善者Z

浩平犯科帳 第一部 第一話「仁義屋浩平現る!」

ガラッ!
雨戸が開かれ、眩しい朝の日差しが長屋の中に差し込む。
お瑞「ほらぁっ、おきなさいよーっ!」
浩平「ぐーっ・・・」
お瑞「はやくおきないと、おつとめにおくれるよーっ」
ガバァッ!
浩平「うーん・・・、ぐわっ!なんで長森が着物きてんだ!?それにここは?」
お瑞「浩平、今は時代劇なんだよ」
浩平「あっ、そうだった・・・」
お瑞「ねぇ、これ似合ってるかな?」
浩平「うんうん、いかにも町娘って感じがしていいぞっ・・・って、現実に戻らないで話にはいろう。えーと・・・・・」
お瑞「はい、着物」
浩平「よし」
浩平は寝間着を脱ぎ捨て、お瑞から受け取った、少々地味な青い着物に着替える。
お瑞「年頃の娘の前で裸にならないでよ!」
浩平「いつものことだろ!」
お瑞「少しは気をつかってよ!」
浩平「別にいいじゃねえか・・・さて、めしをくうか」
浩平がちゃぶ台の前にあぐらをかき、お瑞がご飯を茶碗によそう。
お瑞「はい」
浩平「すまねぇ」
そういって浩平は一気に茶碗をかきこむ。その間、お瑞がお茶を注いだ。浩平は時折、卓におかれた漬け物も口にいれる。
お瑞「はい、お茶」
浩平「おお、ズズッ・・・かぁーっ!うまい!」
まるで、夫婦のような二人であるが実はそうではない。男の方はこの長屋に住んでいて、名は折原浩平(変わっていない・・・)。年は今年で十七になる。そして、女の方は、名は長森瑞佳。この近所の米屋の「長森屋」の一人娘で、お瑞と呼ばれている。年は浩平と同じく今年で十七。二人は幼なじみの仲で、こうして、毎朝お瑞が浩平を起こしに来る。二人の間では恋人でもなんでもない、となっているのだが、町の中では恋仲だともっぱらの評判である。
浩平「さーて、仕事にいくか!」
食事を終え、浩平は勢いよく立ち上がり、神棚の前に立ち、手を合わせておがむ。そして、少しして神棚に置いてある房付きの十手を取った。そしてそれを腰にさして、戸を開け外に出た。
浩平「おっ、今日もお江戸は日本晴れだねぇ!」
浩平達が住んでいるのは江戸の両国で、浩平はその両国を管轄にする奉行所に勤める岡っ引きである。
お瑞「それじゃあ、お昼にそっちに行くね」
浩平「おう、待ってるぞ」
二人は長屋を出てしばらく歩き、店の手伝いをしているお瑞は、長森屋と奉行所の分かれ道で別れた。お瑞と別れた浩平は、しばらく一人で歩いたあと奉行所に着くと中にはいった。
浩平「うーっす」
南「あっ、おはようございます。旦那」
中に入った浩平を、部下の下っ引きである南が出迎えた。南は浩平よりも階級が下なのだが,浩平と年が同じである。
浩平「なんか、事件ははいってるか?」
南「例の強盗がでました」
浩平「またか・・・」
例の強盗とは、最近両国では、夜になると同一犯と見られる無差別強盗が起きている。盗みだけならましなのだが、その強盗は盗みと同時に殺しもしているのだ。そのため、目撃者が出ず奉行所も情報が少なくて困っていたのだ。
浩平「江戸も平和じゃねえな」
南「仕方ないですよ。浦賀に黒船が来てから世の中大騒ぎですから」
嘉永七年、この年日米和親条約が結ばれた。去年浦賀に、ペリー率いる4隻の黒船が来航して開国を迫った。これにより、幕府は三百年の長きに渡る鎖国は解かれたのだ。そして現在は元治元年、物価の上昇にともない世の中は荒れていた。
浩平「まあ、俺達だって頑張ってんだ。なんとかなるさ」
南「旦那・・・」
浩平「まあ、そういうわけで、江戸の平和を守るために見回りにいってこい!」
南「へいっ!」
本当は、岡っ引きである浩平も見回りをしなくてはならいのだが、浩平はめんどくさいと言って部下にやらせていた。浩平は十手を取ると手ぬぐいで拭き始める。これが浩平の日課となっている。
フキフキ・・・
浩平は丹念に十手を磨く。十手は年季の入ったもので、かなり細かい傷があちこちにある。しかし、なかなかの業物であることと浩平の日課により、その輝きは失われていない。
浩平「よし、こんなもんだな」
浩平は十手を磨き上げると再び腰に差した。そして、座布団を丸めると、それを枕に眠りに入る。
浩平「ぐー・・・」
浩平が眠りに入って、小一時間したころ、けたたましい声が浩平のいる自身番屋に聞こえてきた。
住井「旦那!旦那!旦那はいるかいーっ!」
浩平「なんでぇっ!住井!さわがしいぞ!」
住井「おっと!すまねぇ」
この男は浩平の友人の瓦版やで、名は住井八五郎。二人は互いの立場により情報を交換していた。
住井「ところで、旦那。また例の強盗が出たってねぇ」
浩平「あいかわらず耳がはやいな」
住井「なんか情報はあるかい?」
浩平「いいや、まったく。そっちは」
住井「こっちもだよ。ったく、これじゃあ飯の種になりゃしねぇ」
浩平「ほかにも、ネタにすることがあるだろ」
住井「そうだなぁ・・・・・・、北町奉行所の不良役人浩平と、両国一の美人、米屋の看板娘、お瑞さんの恋愛模様なんてなんてどうだ?」
浩平「殴るぞ!」
住井「怒るなって、おっ、うわさをすればなんとやら・・・」
浩平が握り拳を構えていると、外からこっちに向かって足音がきこえてきた。
お瑞「こんにちはー、あれ、住井さん」
お瑞が戸を開け顔を出した。その手には包みがおさまっている。
住井「お瑞さん、いつもきれいだねー。旦那にはもったいないぜ」
浩平「くだらねーこといってないでさっさと帰れ!」
住井「へいへい、それじゃあお瑞さんまた」
住井はそう言い残し、番屋をでていった。
浩平「やっといきやがったか・・・、ところでお瑞、昼にはまだはやいんじゃないか」
お瑞「うん、今日は午前は、はやめにあがれたから、それでね、今日は苅田神社にいこうよ」
浩平「うーん・・・、でもち場を離れるわけには・・・・・」
浩平が言いかけようとしたとき、番屋の戸が開いた。
髭「邪魔するよー。おっ、お瑞ちゃん。今日ははやいじゃねえか」
浩平「髭さん、おはようございます」
お瑞「おはようございます」
浩平が髭さんと呼んだこの男は、浩平の上司の同心で、みなには、その特徴的な髭から「髭さん」と呼ばれている。髭は町内の見回りをした後、ここで一服するのをひそかな楽しみにしている。
浩平「そうだ、髭さん。すまないんですけど、ちょっと出たいんですけど」
髭「全然かまわねえよ。俺はここで一服してるぜ」
浩平「すいません。なるべくはやく戻りますんで」
髭「ゆっくりしてきな、真っ昼間から事件があっちゃあ、たまんないぜ」
髭の言葉に見送られるようにして、二人は外にでた。
お瑞「髭さんっていい人だよね」
浩平「俺の上司だからな」
お瑞「関係ないよそんなの」
二人はそんなことを言い合いながら、表通りを歩く。ちなみに、二人が向かっている苅田神社は、両国のはずれに近い位置である。
浩平「おい、お瑞」
お瑞「なに?」
浩平「近道するか」
浩平は狭い路地を指さしながら言った。
お瑞「やだよ、この道通ったら着物が汚れるもん」
浩平「大丈夫だよ、今日はこの間みたいに走んねーから」
お瑞「ほんとに?前みたいに山葉堂の団子が食べたいとかいわないでよ」
山葉堂とは両国で評判の団子屋で、あまりに評判のため、昼過ぎにはほとんどの品が売り切れてしまうのだ。
そのため、浩平は先日急に、そこの団子が食べたいと言いだし、お瑞を連れて近道をしようとこの路地を通ったのだ。苅田神社には堀を越えるために橋を渡らなくてはならないのだが、そこまで行くには大通りまで行かなくてはいけないので、時間がかかる。しかし、この路地を使うと通りまで最短の距離でいける。山葉堂も大通りにあるので楽に行ける。
お瑞「わかったよ。でも、ほんとに走らないでよ」
浩平「おう、まかしとけ」
そう言って浩平は先頭になり路地を歩く、お瑞は着物を壁に擦らないように気を付けながら、慎重に歩く。しかし、浩平が突き当たりの角を曲がろうとしたとき・・・・・・・・。
ドンッ!
浩平「ぐぁっ!」
女「きゃっ!」
浩平は向こうから走ってきた女と、正面衝突した。女はぶつかったために尻餅をついた。
浩平「おい、大丈夫か?」
女「いたた・・・ちょっと!どこ見て歩いてるのよ!」
女は滅多にいないほどの、かなりの美人であった。年は浩平と同じぐらいのようだ。しかし、その容姿に似合わない険幕で浩平にくってかかった。
浩平「おいおい、俺のせいにすんなよ」
女「なにいってんのよ!ねえ、そこの人見てたでしょ?」
お瑞「えっ?あ、あの、えっと・・・ごめんなさいよく見えなかったから・・・」
女「はあ・・・、着物が汚れちゃった。ちょっと、こういうときは手を貸すものよ」
浩平「しょうがねーな」
浩平が手をさしのべ、女を立たせる。女は黄色い着物を着ていて、その着物に付いた埃を払った。
浩平「いっておくが、そっちがこんな狭いところで走るから悪いんだぞ」
女「なによー、わたしが悪いっていうの・・・・って、急がなきゃ!」
そう言って女は慌ただしく走りだした。
女「そっちがわるいんだからねー!」
浩平「まだいってるよ・・・」
お瑞「浩平、怪我はない?」
浩平「おお、ピンピンしてらぁ。それにしても、かわいい顔してすげー勢いだったな」
お瑞「そうだね」
そして、二人も歩き始める。
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二人が番屋を出て、一時間ほどして二人は苅田神社に着いた。
浩平「ふう、やっと着いたか」
お瑞「でもちょうどいい頃合いだよ」
浩平「そうだな、はやく飯にしようぜ」
二人は敷地内に入ると、境内の裏手に回った。そこには大きな御神木が立っている。二人はその根本に座る。そして、お瑞が包みを開くと、笹に包まれた握り飯があった。
お瑞「はい、浩平」
浩平「いただくぜ」
浩平は握り飯を取り、さっそく食べ始める。お瑞もその浩平の様子を、嬉しそうに見ている。
浩平「なに見てんだよ」
お瑞「ううん、なんでもない」
そういって、お瑞も食べ始める。
浩平「ガキの頃からここに来てるけど、全然かわんないな」
お瑞「そういえば、そうだね」
浩平「ずっとかわんねーのかな」
お瑞「うーん、どうだろ」
浩平「俺達もかわってないな・・・・・」
お瑞「そうだね・・・・・」
一瞬、二人の間に沈黙が流れる。しかし浩平がその沈黙を打ち消すように喋り出す。
浩平「でもまあ、お前が嫁にいったら来なくなるだろ」
お瑞「わたしがお嫁にいくまえに、浩平がちゃんとお嫁をもらってよね」
浩平「いらねーよ、そんなもん」
お瑞「浩平には絶対必要だよ。でないと朝おきないし、食事もつくらないもん」
浩平「なんとかなるだろ」
お瑞「ならないよ。はあ・・・・・まだまだ、わたしが面倒をみなきゃならないのかな・・・」
そんなことを言い合いながら浩平は昼食を終えた。しかし、まだお瑞は半分ほどしか食べていない。
浩平「あいかわらず遅いな」
お瑞「浩平がはやいんだよ」
浩平「そんなことじゃ、日が暮れちまうぞ」
お瑞「暮れないよ」
浩平が話しかけるたびに、お瑞の食事の速度が遅くなるが、浩平は気付かない。そして、やっと食べる終えると、浩平は立ち上がった。
浩平「よっしゃ、帰るか」
お瑞「あっ、待ってよ浩平!」
二人は再び町に戻った・・・。
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浩平は神社から番屋に帰ってくると、再び眠りに入った。浩平が言うには緊急時に備えて、寝られる時に寝る、ということらしい。そして、浩平が目覚めるとすでに、夕日が沈もうとしていた。机では南が何かを書いている。
南「あっ、おきましたか」
浩平「うーっ・・・あれ?髭さんは?」
南「二丁目の番屋にいきました」
浩平「そうかい、今日はなんかあったか?」
南「いいえ、なんにも」
浩平「そうか、さて、ちょっくらかわやにいってくる」
浩平はそう言って座敷を出て外に出る。かわやは外にあるのだ。
シュッ!
浩平が外に出るのを見計らったように、何処から小柄が飛んできて、近くにあった戸板に刺さった。
浩平「集合か・・・」
浩平はそれを見て真剣な顔つきになっていた。そして、浩平は南に急用があるから、と告げ走りだした。表通りを行かずに、路地裏を縫うようにして進む。そして、浩平がたどり着いた先は、忘れられたようにたたずむ、古びたあばら屋であった。そこには看板がたてられていて、消えかかった字であるが、『仁義屋』と読める。浩平が中に入ると、そこは闇に包まれていた。
浩平「浩平ただいま着きました」
すると、奥の方でロウソクがともされる。
声「やあ、まってたよ」
明かりが不十分で顔はよく見えないが、声の感じから若い男だとわかる。
浩平「仕事ですか?」
声「うん、依頼は賊の成敗。茜の方から連絡があってね、賊の行動も予知できた」
浩平「賊は?」
声「君も知ってると思うけど、相手は最近出没している強盗犯。出現場所の予測は、両国橋。時刻は四つ」
浩平「わかりました」
すると、ロウソクの火は消されあたりは再び闇に包まれた。浩平は外に出る。
茜「浩平・・・」
あばら家の前には女が立っていた。髪の長い女でおさげにしている。年は浩平と違わない。
浩平「茜か」
この女の名は、里村茜。浩平のもう一つの仕事の同僚だ。
茜「浩平、気をつけてください」
浩平「どうした?急に」
茜「不思議な予知をしました」
浩平「今日の仕事か?」
茜「仕事にも関わっているのですが、もっと運命的なものです」
浩平「なんだそりゃ」
茜「すいません、わたしの予知は漠然としているので・・・」
ここで説明しよう。先ほどから浩平達はよくわからない会話をしているが、浩平は岡っ引きをしている。しかし、もうひとつの顔があった。それが、仁義屋である。仁義屋とは用心棒、人捜し等、言ってみれば何でも屋である。ただしその仕事は、全て表沙汰にできない闇の仕事である。役人が闇の仕事をするのは前代未聞だが、浩平にとってはこっちの方が本業である。ちなみにお瑞はこのことを知らない。そして茜もここに勤めていて、役割は情報収集。しかし、普通の方法ではない。茜の持つ特殊能力を使ってである。予知能力もその一つである。
浩平「まあよくわからんが、気をつけるよ。ところで、茜」
茜「なんですか」
浩平「今度、一緒に飲みにいこうぜ」
茜「嫌です」
浩平「・・・」
あっさりふられる浩平であった。
・
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そして時刻は四つ前。浩平は両国橋の近く身を潜めていた。ここなら誰かが橋に来てもすぐにわかる。
浩平「そろそろだな・・・」
その時、浩平は橋の手前に誰かがいるのに気付いた。月が隠れているため、よくは見えないが、身なりから女のようである。浩平は女の側に寄ってみた。
浩平「どうしたんだい?こんな夜更けに」
そう言った瞬間、女の手に握られていた長刀が抜かれた。黒塗りの鞘だったため、わからなかったのだ。
女「あんたが賊ね!」
浩平「へっ?ちがうぞ、おれは・・・」
女「問答無用!覚悟ーっ!」
女はそう言うや否や、浩平に切り掛かってきた。意表を突かれた浩平は、十手を抜きなんとかその刀身を受け止める
ガキッ!
金属と金属がぶつかり合う音が響く。
女「なにっ!?」
女は自分の斬撃を止められたのが、予想外だったらしい。
浩平「いきなり、なにしやがる!」
浩平は相手の刀身を弾き間合いをとる。だが、女は間合いを詰めてきて、連続で鋭い斬撃を入れてくる。しかし、浩平はそれを全て十手で受け流す。浩平はこの斬撃から、女がただ者じゃないことを感じていた。しかし、女も自分の攻撃を受け流す浩平が、相当の腕前であることを感じているだろう。
女「クッ!やるわね」
そう言うと、女は自分から身をひいた。そして、刀身を鞘に戻し、膝を曲げ姿勢を低くする。
浩平「居合いか・・・」
浩平はそれを見て、すぐに気付いた。居合いとは、刀を鞘に入れ、本来は、立ち膝の状態から刀を抜き、斬る技である。刀を抜くときの鞘走りと、低い姿勢からの攻撃のため、素早い斬撃と強力な威力が生まれる。
浩平は自分が後にひけないことを感じた。踏み込めば斬られる。しかし、逃げようにも、すでに相手の間合いに入ってしまっている。絶体絶命かとおもわれたが・・・。
浩平「この勝負、俺の勝ちだっ!」
そう言うと、浩平は十手を相手に投げつける。それを、女は反射的に刀を抜いて打ち払った。居合いには、弱点がある。一撃必殺の技ではあるが、その攻撃の後は、体が大きく開いてしまい、隙ができる。まさに、両刃の剣である。
女「しまったっ!」
浩平「もらった!」
慌てて構え直すがもう遅い。浩平は女に体当たりをかけ、かけた瞬間に肘鉄をくらわせた。
女「きゃっ!」
女は壁に派手にぶつかる。その拍子に刀が手を離れた。
女「クッ・・・強盗ごときに・・・」
浩平「だから、ちがうって」
女「えっ?本当に?」
浩平「十手を持った強盗がいるか?」
女「それもそうね・・・、ちょっと、女の子がたおれてんだから、手ぐらい貸しなさいよ」
浩平「そういえば、昼間おんなじこといわれたような・・・・・・」
その時、隠れていた月が顔を出し二人を照らした。
浩平+女「ああ〜〜〜〜っ!?」
浩平「お前は昼間の!」
女「なんでこんなとこにいるのよ!」
浩平「そっちこそ!」
二人はお互いの顔を見ると驚愕した。
女「はあ・・・・世の中せまいわねえ・・・」
浩平「どういう意味だ。ところで、なんでこんなとこにいるんだ?」
女「まあ、ちょっとね・・・。あんたは?」
浩平「仕事だ」
女「仕事って?あっ、十手をもってるってことは、岡っ引きね」
浩平「そうだといえば、そうだが、今はちがう」
女「どういうこと?」
だがその時。
強盗「そこまでだ、お二人さん。続きはあの世でやってもらおうか」
暗がりから、覆面をした男が現れる。手にはわき差しが握られている。
浩平「おっ、お客がきたか」
女「そのようね」
浩平「目的は同じようだな」
女は地面に転がっている刀を拾い構える。浩平も十手を構えようとするが・・・・・。
浩平「あれ?十手がないぞ?」
女「なにやってんのよ!」
浩平「まあ、いいや。こんな奴、素手で十分だ」
強盗「なめやがって〜!ぶっ殺してやる!」
強盗はわき差しを構え、切り掛かってくる。しかし、浩平は避けようとしない。強盗がわき差しを振りおろす、浩平はそれを紙一重でかわすと、相手の手首を掴みひねる。勢いのついていた強盗は、一回転した。
浩平「とりゃっ!」
強盗「ぐあっ!」
浩平は転倒した強盗の顔面に一撃を加える。強盗は気絶した。
浩平「一丁あがりっ!」
女「たいしたもんね」
浩平「さてと」
女「縄なんか出してどうすんの?」
浩平「しばるんだよ」
浩平は気絶している強盗の首を掴み、橋の柱まで引きずった。そして、強盗を柱にくくりつける。
女「しょっぴかないの?」
浩平「それは俺の仕事じゃない」
女「岡っ引きなのに?」
茜「終わりましたか?」
いつの間にか茜がいる。
女「だれっ!?」
女は驚いて身構える。
浩平「大丈夫だ、そいつは仲間だ。茜ちょうどいいところに来た。やっちゃってくれ」
茜「はい」
茜は頷くと強盗に近づき、その額に触れ、目を閉じる。そして、指先がほのかに光る。すると、強盗は、うっ、とうめいた。
茜「終わりました」
浩平「おう、ご苦労さん」
茜「それでは、わたしは帰ります」
茜はその場を去る。
女「ちょ、ちょっと、一体なにをしたの?」
浩平「今ここであったことの記憶を消した。顔がばれるわけにはいかないからな」
女「記憶を消したって、あんた達一体何者!?」
浩平「仁義屋だ」
さらりと浩平は言った。だがそれに対して、女は驚愕する。
女「仁義屋って、あの仁義屋!?」
昔、戦国の世の頃。闇の世界で仁義屋と呼ばれ、恐れられた組織があった。仁義屋は戦国の世において、武将の警護、暗殺、その他、闇の仕事を一手に引き受けた。仁義屋は闇の世界を支配し、逆らう者は命がなかったという。しかし、世の中が安定し闇の者は抹殺された。だが、今でも仁義屋の名は闇の世界で恐れられ、どこかで息づいていると伝えられている・・・・・・。
浩平「俺達のことを知ってるってことは、やはりお前も闇の者だな」
女「あっ・・・」
浩平「お前こそ何者だ?」
女「仕方ないわね・・・わたしはお七。仕事はあんたと同じね」
浩平「なるほど、ここにいるのも仕事か。でも、どうしてここに下手人がでるとわかった?」
お七「偶然よ、でそうなところを張ってただけ。ところで、さっきの子はなんだったの?」
浩平「秘密だ」
お七「まあ、いいわ。聞きたいことはたくさんあるけど、そろそろずらかるわ」
そう言ってお七は背中を向けた。しかし、何かを思い出したかのように再び振り向く。
お七「あんたの名前聞いてなかったわ」
浩平「俺の名は折原浩平」
お七「じゃあ、またどこかでね。仁義屋さん」
浩平「おう、またな」
お七は夜の町に消えた。しかし、浩平はまたお七と会うような気がした。しかも、ごく近いうちに。
浩平「まさか、これが茜のいっていた運命ってやつか?」
浩平は昼間のお七の形相を思い出す。
浩平「まあ、どっちにしたっておもしろくなりそうだな・・・・さて、俺も帰るとするか!」
が・・・浩平はある事実に思い出す。
浩平「あっ!十手!!」
浩平が十手を見つけるのに、たっぷり二時間はかかった・・・・。
浩平「くそ〜〜〜!あの女ただじゃおかねーーー!」
夜のお江戸に浩平の叫びが響く・・・・・・・。


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うおーーーー!やっと一話ができたーーー!!あっ、偽善者Zです。つい興奮して・・・。まあ、そんなことはどうでもいいとして、どうでしたか?この「浩平犯科帳」は?いやー、書いてみたはいいけど長い長い、しかもまだ第一話!さらに第一部じゃないかーーー!!一体、全部で何話じゃあーーーーーー!!!いかん、いかん、暴走してしまった。内容の方は、自分にしてはこってます。いろいろ調べましたから。でも適当な所もいくつかあります。(例えば、苅田神社なんて実際はありません)しばらくはこのシリーズを続けようと思います。たまに別の話もつくるかもしれませんが、とりあえず期待してください。では予告と一言。

祭りに起こった惨劇!盲目の巫女に迫る魔の手!江戸の平和は浩平が守る!
次回「浩平犯科帳」『夕日の記憶 前編』ご期待ください!

みさき「食べるシーンある?」
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