ボクのエイエンのコト。 投稿者: 紅涙 妖魔
「好きです。付き合ってください」
こんなコトを言われたのは始めてでした。
彼女は小説にあるような恥ずかしそう態度ではなく、むしろ誇らしげで、目の前の僕の方がうろたえてカッコ悪かったと覚えています。
僕は彼女のことを少しだけ知っていました。
彼女はよく笑う娘でした。
そしてとても笑顔の似合う娘でした。
決して美人ではありませんでしたが人気のある女の子でした。
ただ、その頃の僕はフラれたばかりの情けない男でした。
そんな僕にドラマのような出来事が起こる現実。
「…僕なんかで良かったら」
3流小説でも言わないよう台詞を僕は緊張で裏返った声で答えたのです。
「やったー」
彼女の笑顔。
初めて間近で見た笑顔。
やっぱり笑顔はよく似合ってました。

そんな付き合い始めて1週間ほど経った日。
彼女とのデートの帰り。
初めてのキス。
初めて見た赤くなった彼女。
僕にはそのことの方が嬉しかった。
そんな彼女の口からでた言葉は、

「ねえ、『エイエン』の半分ってどれくらいだと思う」
「『エイエン』って永久とかの『永遠』?」
「そう」
「さあ、どれくらいだろ? 永遠の半分か」
「あのね」
「うん」
「『ず〜っと永遠に好きでいて』っていうのは無茶だと思うから、『永遠の半分だけ好きでいて』」
「なんだよ、それ」
「その変わり、私は『永遠』に好きでいてあげる」

彼女が世を去ったのは数週間後でした。
不慮の交通事故。
おりしも僕と彼女は試験期間中ということもあり、逢瀬のない状況でした。
当時、僕と彼女の関係は彼女の家族は誰も知りませんでした。
僕が彼女の死を知ったのは彼女が世を去って2週間が過ぎてからでした。

笑顔。
告白。
デート。
キス。
謎かけ。
誓い。
事故。
死。
葬式。
遺骨。

泣きました。
自分じゃないことで始めて声を上げて泣きました。
いや、きっとそれは、
自分のこと。
彼女を失ったこと。
楽しかった日々が戻らないこと。
彼女の存在を失ったこと。
誓いの破れてしまったこと。
彼女に逢えないこと。
誓いなんて意味のなかったこと。

「その変わり、私は『永遠』に好きでいてあげる」

永遠なんてないってこと。
永遠なんて存在しないこと。

「『永遠の半分だけ好きでいて』」

ないものに半分なんてない。
ゼロに何をかけてもゼロだ。


本気で死を考えました。
ロープを買い、手首を切り、車の流れに飛び込む。
どれも難しいことじゃありません。
試しに手首を切ってお湯を張った浴槽に浸けてみようと思いました。
右手のカッターナイフが左手首を滑る。
赤。
点から線、そして面になる赤。
鮮やかな赤。
紅。
それと同時に走る、
痛み。
浴槽に手を浸けるとさーっと赤が薄く広がりました。
昔、美術の授業でやった墨流しみたいに。
しばらくやってると頭がぼぅっとして、浮遊感が全身を包んで。
気持ちよくなって。
もうすぐ、彼女に逢えると思うと
気持ちよくなって。

「その変わり、私は『永遠』に好きでいてあげる」

うん。
僕も永遠に好きでいる。
永遠にキミを好きでいる。

「『永遠の半分だけ好きでいて』」

永遠の半分なんて分からないよ。
1も1/2も変わらないよ。

「永遠の半分だけ」

混濁した意識の中で僕はずっとそんなことを考えてました。

翌朝。
僕は目を覚ましました。
そこは天国でも永遠の世界でもなく、ただの風呂場。
冷えてしまった水から上げた手首の傷は閉じていました。
生きてる。
彼女のいない世界。
ここは彼女のいる世界ではない。
寂しさと情けなさと肌寒さで、僕の視界は滲んで何も見えなくなっていました。

「『永遠の半分だけ好きでいて』」

僕は今生きてます。
あの頃と違って、笑ったり、叫んだり、怒ったり、いろいろ馬鹿なこともしてます。

「『永遠の半分だけ好きでいて』」

彼女の謎かけめいた言葉の意味はまだ分かってません。
僕は生きてます。
あれから色んなことがあったけど、まだここに生きてます。
現実のつらさ。
現実の厳しさ。
現実の寂しさ。
肌に感じる様々な出来事。
きっとあの時彼女のいる場所に行ってしまえば、僕も永遠に慣れたと思うし、彼女を永遠に好きでいられたと思う。
でも、それは、

「『永遠の半分だけ好きでいて』」

彼女の望みではないし。
それに僕も、
現実の楽しさ。
現実の喜び。
現実にいる友達。
を知ってしまったから。
だから。
僕は生きてます。

ただ、いつも、
「『永遠の半分だけ好きでいて』」
って意味を考えながら。

--------------------------------------------------------------------
始めまして、紅涙 妖魔(こうるいようま)と申します。
稚拙な文章で大変申し訳ないです。
しかも書いている途中で急な用が入ったもので中途半端なまとまりになりました。
えっと、読んでいただけたら分かるかもしれませんが、一応ノンフィクションです。
僕の永遠のコト。
数年前のことを思い出して書いてます。
みなさんが書かれている『ONE』のSSを読んでいる内にどうしても書きたくなってしまって。
もし、こんな中途半端なものにでも感想をいただけるのなら、ぜひ感想をお願いします。
希望の方がいれば続き(というか今回語れなかったこと)を書きたいと思います。