A棟巡回員の怠惰なる日常・8  投稿者:犬二号


偽のあらすじ
舞台は、月が赤く輝く西暦2059年。(株)FARGO重工軌道事業部防衛2課
=私設自衛舞台「MOON.」防空部、通称「月光紅蓮隊」は、本社の命令により
同社または取引先の護衛、または敵勢力の迎撃を行う最新鋭戦闘機部隊である。
各戦闘機には機銃に爆弾、そしてFARGOの誇る精神感応照準システムNAPS
( No blind spot Allrange Psychokinesis System =無死角全方位念力機構)が
装備されており、その圧倒的な火力で敵勢力に壊滅的な打撃を与える。
「斗竜」戦闘機パイロット天沢郁未、「熾電」戦闘機パイロット名倉由依、「鳳牙」
戦闘機パイロット巳間晴香、そして最々新鋭の「鏖武」戦闘機パイロット鹿沼葉子。
彼女たち四人が、今日も月光にその身を紅蓮に染め、空を飛ぶ!

少年「…ライ○ングの『蒼穹紅○隊』だろ」
犬「うわ、いきなりバレたっ!」
巡回員「前回に引き続いて、またシューティングネタかい」
犬「ああ、このシューティングはな、発売直後から○ヴァン○リオンネタの集中砲火を
    浴びたけど、本当に面白いんだぞ、結構。ま、僕は同社の『ガ○ッガ』と『バト
    ラ○ダー』の方が好きだけどね」
巡回員「このシューティングマニアが…」
犬「デモに出てくる赤い月にインスパイアされてしまってね。声の主つながりでこの
    ネタを使ってみようと思ったんだが」
少年「そんな事考えてる暇があったら、早く<怠惰>書きなよ」
巡回員「そうそう」
犬「うぬー…」

***

真のあらすじ

超能力研究機関にして偽装宗教団体「ファーゴ」。
しかしそこは、殺人・強姦・監禁が当たり前のように行われている魔の空間。
汚れ仕事に手を染めている者共と、そうでない主人公達の、食堂での口論。
今まで、未来は見えなくとも、それなりに怠惰な日常を過ごしてきた主人公の胸に、
何か暗い影が去来する。
『…結局、皆が皆、馬鹿なんだな、きっと』

***

A棟巡回員の怠惰なる日常・8

A棟で待っていた仲間に、今日の夕飯のオムレツを具にしたサンドイッチを渡すと、
俺は自分の仕事である巡回を始めた。昼寝していた分を取り返す意味もあったが、
なぜか今夜はちゃんと仕事をしないと気が済まなかった。
(あの野郎…)
高槻の糞ったれの忌々しい面が総理に浮かぶ。あいつは、今からまたクラスB信者を
密室で手込めにしようとしているんだろう。それが、あいつの仕事なのだ。
『お前らが女を手込めに出来ないのは、腰抜けだからさ』
あいつはそう言い放った。
自分の事をよく考えてみる。俺は、あの精練と称する輪姦行為は大嫌いだ。あんな
ものに参加するくらいなら、死んだ方がまし…
と、いう訳でもない。
俺は、今の自由も娯楽もない生活もまた大嫌いだ。しかし、死ぬのはもっと、ずっと、
そして決定的に大嫌いだ。だから、命を懸けて何かをするという事が出来ない。
「これをしなければ、お前の身の安全は保証しない」と言われれば、大抵の事はして
しまいそうな気がする。
(…それはそれで腰抜けのような気もするな)

廊下をぐるぐる回りながら、そんな事をボーッと考えていると、曲がり角で何かに
ぶち当たった。
「わっ!」
「な、何だ…あ、お前」
ぶつかってきたのは、例の悪魔のガキだった。
「あれ、お前、どうしてこんな所に…って、何だその変な塊は」
人の姿をした、全ての超能力の源たる化け物の、その両腕の中に、ふわふわした変な
毛玉がすっぽりと包まれていた。一瞬、ボロボロになって使い物にならなくなった
雑巾が数枚重なっているように見えたが、どうもそうではないらしい。
「ああ、これ?ぬいぐるみさ。郁未にプレゼント。最近、彼女、大分気が滅入って
  いるみたいだからさ」
似合わない事この上ない台詞に、俺は目を剥いた。
「…ぬいぐるみぃ?」
よく見ると、二本の白い耳がにょきっと生えている。確かに、ウサギのぬいぐるみだ。
…しかし、ぬいぐるみと呼ぶにはちょっと酷い代物だ。腹から綿がはみ出してて、
まるで割腹した落武者という感じだ。しかも、全体的に薄汚れてて、明らかに相当
昔からゴミ処理室に眠っていたものを掘り出してきたといった感じだ。
「郁未、少しは喜んでくれるかなあ」
ガキは、馬鹿のように満面の笑みを浮かべている。
(…こんなぬいぐるみの残骸なんか、どこの女の子が欲しがるもんかよ…)
多分、「んなモン誰が要るかボケーッ!」と大喧嘩になる事が予想されるが…
まあ、いいや。こいつの人生だ。俺の知った事じゃない。
「じゃ、あばよ。グッドラック」
「じゃあね。ふふふ、喜ぶぞ、きっと」
ガキは一匹の浮かれポンチと化して、向こうに消えていった。

(…何だ、ありゃあ…)
いつも人間に対して冷笑的なあいつらしくない。あいつは男に対しても女に対しても、
馬鹿は馬鹿だといってのける残酷さと冷淡さを持ち合わせている奴だったが…
(…さては、恋か?)
あいつの同居人のクラスA信者、Aー12の顔を思い出す。一週間くらい一緒に
過ごして、情が移ったのか。
(あのガキ…)
あいつは、あいつなりに人生を楽しんでやがるようだ。
ファーゴを憎みきっていて、毎日をいらいらと過ごしていたあいつが、俺の知る限り
生まれて初めて人生を楽しんでやがる。

畜生。

さっき食堂で高槻に罵られたせいもあって、あいつの笑顔は俺の胸を著しく刺激した。
(あいつは幸せで、何で俺は幸せじゃないんだ?)
あいつにあって俺にないもの。
女?
それもある。
気力?
それもあるだろう。
前向きの姿勢…
そして、希望。
多分、それが一番大きい。
姿勢が前向きじゃないから無気力なのであって、
無気力だからこそ無力なのだ。
そして、無力だったからこそ…余計な事に対して知らんぷりを決め込んだのだ。
こうして、ずるずると虚無地獄にはまりこんでいく。

あいつは、その点において俺とは違っていた。
あいつは、多分まだファーゴに捕獲され利用され続けてきた恨みを忘れちゃいない。
今まで、あえてファーゴの言いなりになってきたのは、自分の使える兵隊を持つため
だろう。今までは相手が精神崩壊したり、移植の結果ロストしたり、成功しても既に
ファーゴによるマインドコントロールが効いていて兵隊として役に立たなかったりと
長い忍耐を強いられてきた。
しかし、今回は待ちに待ったチャンスだ。新入りのクラスA信者で、しかも同居人。
兵隊にするにはこれほどの条件はもう望めない。あいつがむきになるのも分かる。
うまくいけば、ファーゴを滅ぼすことが出来るかも知れない。
あいつは、だから今その希望に賭けているのだ。
恋じゃなかったようだが、それでもあいつはいきなり与えられた希望に胸を膨らませて
いる。
(…)
もしそうなら、俺は職務上あいつを止める立場にいる。
しかし、そんな気になれなかった。
俺も、いや、A棟の連中は皆、多分心のどこかでファーゴの壊滅を望んでいる。
自分達さえ傷付かなければ、ファーゴなんて滅んでしまった方が好都合なのだ。
せいぜい銃刀法違反を問われるくらいで、すぐにシャバに帰れるだろう。
あいつも、故郷へ逃げ帰るに違いない。
それとも、あの小娘と一緒に暮すつもりだろうか。

「…ケッ」
あのガキがうらやましい。
あいつは、俺みたいに怠惰な日常を送っちゃいない。
こんな腐った世界でも、あいつは希望を捨てずにちゃんと生きてるんだ。

腑甲斐ねえ。
今、俺は強くない。
あいつほど元気じゃない。
そして、あいつより確実に愚かだ。
しかも、もう周りに対して目をつぶっている訳にはいかなくなった。
だから、幸せじゃないんだ。

今から…出来る事をやるしかないか。
やれる事は少ないが、やらないよりはましだ。
随時、色々対策を考えていこう。
ここの呪縛から、一刻も早く離れるために。
俺が幸せになるために。
とにかく、今、やれる事からやっていこう。


俺は、再び巡回に戻った。

(続く)
***

あとがき

巡回員「この後、俺は巡回を終えて、そのまま寝た」
少年「あれ?今日はこれで終わり?」
巡回員「ああ。だが、話はこれで終りじゃないぞ。なあ、犬」
犬「うん。あと二話残ってる」
少年「あと、二話?」
犬「そう。翌日からの話と、最終話と」
少年「ふうん、もうそんな所まで来ていたんだ」

犬「…ところで、お前、あの後鹿沼葉子の部屋をのぞいたか?」
巡回員「そんな気分じゃなかったよ、荒れてたからな。あの血色のいい柔らかそうな
        素肌を見てしまったら、理性がもつかどうか分からなかった。そして、俺は
        高槻のボケと違って、絶対に強姦だけはしたくないんだ。あの時は誰も命を
        脅かしていなかったからな」
犬「ふーん、そう。ところでさ、お前、彼女の事、どう思う?」
巡回員「え?どうって…いや、いい体してるなって、それだけ」
少年「じゃあ、どうして郁未に変な事吹き込んだんだい?通気孔の事を教えたじゃ
      ないか」
巡回員「それは…」
犬「あんな事他人にバラさないで、一人で楽しんでいればよかったのに」
巡回員「その…」
犬「本当は、お前、彼女を心のアイドルと見ていて、ファンを増やしたかったんじゃ
    ないかと思うんだが」
巡回員「ぐぬっ!そ、そりゃ誤解だっ!俺はそんな中坊みたいな青臭い事は…」
犬「仲間としては、やっぱり昔から彼女を知っている奴よりか、新入りの方がいい。
    昔から彼女を知っている奴に教えたら、『何だお前、あいつのファンなのか』と
    突っ込まれる恐れがあるからな」
巡回員「ち、違うっ!そんな事はないっ!」
犬「娯楽がないから彼女の着替えシーンが唯一の楽しみだったが、それがお前の怠惰な
    日常、お前の人生と不可分になってしまった。彼女は、お前にとって、普通の意味
    とは多少ニュアンスは違うが、『必要な存在』だったんじゃないかという事を、
    昨日の夜思ったんだが」
巡回員、口をパクパクしている。何か言いたいらしいが、声になっていない。
少年「あーあ、駄目だよ犬、からかっちゃ。絶句してるじゃないか」
犬「どうも図星みたいだな、この表情は」
少年「犬ってば…」

***

感謝のコーナー

感想を下さった皆様に感謝のコーナーです。

○Percomboyさん 「悔恨への帰還3」
みさきイベント気味ですね。瑞佳の「まさかねえ…」のまさかが何なのか、気になる
所です。
感謝・ファーゴの精練の間よりはマシです(断言)なあ、高槻さん?
      高槻「何?俺の出番だと?」
      犬「特別出演だ」
      高槻「そりゃ、うちらの精練の間の方がキツいだろうぜ。実際に手込めに
            されて喜ぶ女なんているものか。猫好きの女なら、そっちのでもまあ
            我慢出来るだろうが、こっちのはどんな淫乱でも我慢できやしないさ。
            皆、顔を苦痛に歪ませてよ、そしてその顔を見ながら俺は…あれ?」
      高槻、永遠の世界イベントに入る。
      犬「お前、組織力はあっても、人望はなかったみたいだな。誰とも絆は残せない
          ままか。ま、そうだろうな。さて、もう用は済んだから、さっさと失せろ。
          永遠はそこにある。再見」
      高槻「ツァイチェンじゃなくて、何だこれは、うわあああ…」
      高槻、永遠の世界へと旅立つ。
      犬「…まあ、それはそれとして、<怠惰>7と、今回の8でターニングポイント
          という事になります。9で一気に収束、10でエンドと予定してます」
感想、ありがとうございます。

○風来のもももさん 「移り行く刻の中で」
おおっ!ONEの世界が分かりやすく伝わってくる!僕もこんな詩が書けたらなあ、と
かつて自分が書いたものを見ながら思います。
感想・ええ、もう、何というか、MOON.中毒ですから(苦笑)こういう事しか考え
      られないんです、はい。
感想、ありがとうございました。

○シンさん 「感想だけで睡魔戦(笑)」
だ、題名が(笑)何か、身につまされるものがありますね。
感謝・感想には感謝を書こうというのが最近のモットーですから、こうして感謝を
      書いている訳です。体力がなくなったらどうなるか、自分でも分かりません
      (無責任男)。
      ずっと書いてなかったのですが、これは7日目の話です。まだこの時点では
      巳間は妹に会ってないです。今荒れているのは、自分が由依にしてしまった
      仕打ちのせいです。
      巳間「ええい、うるさいうるさい、黙っててくれ。本当に済まない事をしたと
            思ってるんだから。何をどうすべきなのか、分からないんだ。これ以上
            俺を刺激すると、自分でも何しでかすか分からんから、静かにしてろ」
      …うわ、本当に荒れてる。
感想、ありがつございます。

○いばいばさん 「みさきリフレイン(3)」
あ!そうか、侵食率がまだ低くて、それでああなったんですか!なるほど。みさき
先輩の口からついて出てしまったいつもの挨拶が、逆に辛さを醸し出しています。
巡回員(侵食率…また『○イクラ』ネタか…)
感謝・確かにそろそろ怠惰な雰囲気ではなくなってきました。主人公に、自分の怠惰な
      生き様について自問自答させたかったからです。それと、郁未達の動きとの
      交差がこれから9で語られます。乞うご期待!
感想、ありがとうございます。

○矢田洋さん 「いやよ!」
浩平…このセクハラ野郎(笑)
感謝・ちょっと高槻の台詞はリアルに書きすぎたかなと反省してもいます。書いた後で
      「ちょっと痛えな、こりゃ」と思いました。あと、この前レイクラを1コインで
      クリア(ただし標準侵食率でのボス第一形態のみのクリア)したら、何か飽きて
      しまいました(酷い奴)。ストライカーズ1999でも探してプレイしようかな
      とか考えてます。
感想、ありがとうございます。

○変身動物ポン太さん 「感想SS”祝!感想SSついに20個目!」
毎回、原型をもうほとんど留めていないことわざに大笑いです。
感想・<呟き>は、もう書いた僕にすら分からないです。西田幾太郎の「善の研究」
      より分からないです。感想はもういいです。探さないでも結構です。 <ネコ>の
      方がお馬鹿でよっぽど分かりやすいですから。
感想、ありがとうございます。

***
犬「さて、今日はここまで!」
二人「さようならー!」