ある悪魔の呟き・5 投稿者: 犬二号
まえがき
そろそろ後半へ突入です。

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あらすじ

   君は、<ヒト>という事をどう思う?

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ある悪魔の呟き・5

君は、幻想という事をどう思う?
ヒトの営為を語る上で、幻想の占める割合の大きさには驚かされる
「あんた、ファーゴ側の人間のくせに、法と宗教ナメた発言はどうかと思うわよ」
ああ、僕の言いたい事、分かる?
「何度、あんたからその手の謎かけ出されたと思ってんのよ」
あはは、そうだったね
「・・・」
その女はこう言った
「経済、法、哲学、政治、歴史、言語、社会、それら総体としての文明」
「どれもこれも、ヒトの祖先がアフリカの密林にいた頃には必要なかった幻想」
「どうよ、こんなもんで。大学の講義とかつて読んだ本の受け売りだけどね」
「ファーゴの奴等も、<仕事なら監禁強姦殺人も辞さず>って幻想信じてるのよ」
耳には痛いが、考えさせられる言葉だ
「ヒトは、皆が皆騙されてるから、何でも出来るのかも知れないわね」
なるほど
金なんて、僕にとっては単なる紙切れだし
そもそも僕らには何らかの法を課す者など存在しなかった
そんな事を改めて考える必要もない、外から新たな幻想を注入しなくてもよい
ある意味「健全」だったのだ、僕らは
が、ヒトを見ていると、「健全」である事が「病的」であるより勝るとは限らない
「幻想」に騙されてなければ、ファーゴのように強力な組織も存在しえなかった
ファーゴとは、創設者=「声の主」の狂った幻想の産物なのだから

超「宗教(これだって幻想だ)」である禅行者の中には、幻想の効かない者もいる
(寡聞にして、僕はそれについてほとんど何も知らない)
しかし、彼らが「悟った」まま社会で生きていられるという訳では、どうやらない
悟りと幻想の両方を足掛けで生きていかねばならないようだ
そこに僕は、絶望的な矛盾を感じる
未だ、僕の見方が甘いのだろうか
プロにはそれくらい簡単な事なのだろうか
彼らのようなヒトを、僕は不幸にして見た事がない
ファーゴには存在しないからだ
(悟りに近づいてはいても、社会での汎用性は失いつつある、そんな信者もいる)

「この本を読んでごらん。一通り、漢字は読めるだろう?」
反乱分子の一人が、僕に本をくれた
本の著者は、僕でも知っている今は亡き有名な反乱分子のリーダーだ
題名には、「ファーゴ各棟局長委員会への報告書・没案集」とあった
「<かくあるべし>と人は言うけど、それがいかに根拠のないものか分かるかい」
「でも、それを信じてる奴の方が、往々にして何も信じてない奴より強い」
「君の言う所の、<病人、健常者を倒す>論だよ」
たまに彼女は、他人が聞いたら目を剥くような事をさらりと言ってのける
「こんなの、差別用語でも何でもないだろう?心配は要らない」
「ま、強くたって病人だ、そのまま狂信を続ければ、いつか生命の泉は涸れる」
君はファーゴの狂信者である事を、いつ頃からやめたんだい?
「こら、混ぜっ返すない」
「私は、世間に溢れてる<女はかくあるべし>の幻想に耐えられなかったんだ」
「でも、ファーゴの幻想は、外のそれよりはるかに私に合わなかった」
そりゃ、そうだろう
こっちの方が、女性への差別は圧倒的に激しいはずだ
「普通の人間も、そういつだって外の幻想に囚われてる訳じゃない」
「たまには遊びたいし、仕事サボりたいし、お祭り騒ぎだってしたい」
「そうしないと、魂が腐るから」
だったら、最初から生物として真っ当に生きればいい
変な幻想に囚われて生きるか、生物として真っ当に生きるか、選べばいいものを
「ヒトは欲張りな生き物でね」
「病的で過剰な文明力と、健全な生命の息吹の躍動を両立させたんだ」
「どちらも失うのが怖いんだ。ズルいようだけど、そうなんだよ」
「だから当然、<自然へ帰れ>だなんて戯言には耳を貸すはずもない」
・・・なるほど

彼女のくれた本を、貪るように読んだ
(その大型辞書二冊分の分厚さと、そのくせに目次がない事には閉口したが)
彼女の言った内容を、納得出来るような例を挙げて説明していた
今までの僕の疑問にも、納得の行くように答えてくれた

しかし、何か引っかかる
何かが足りない
まだ途中だからなのかも知れないが、僕の喉に何か刺さったような疼きがある
頁を不可視の力で脳に焼き付けて、パラパラめくっていても間に合わない
(何て分厚さなんだ!ヒトを語るには、やはりこれだけの分量が必要なのか?)
胸のつかえが、苦しい

今までの中に、何かキーワードがあったはずだ
何だ
思い出せ

・・・

   生命の・・・息吹・・・?

(続く)

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あとがき

犬「やっと、ここまで書けたか・・・」
少年「君が前々から使いたかったアイテム、<聖書>を出したね」
犬「ああ、あの聖書の由来はな、(以下、別の二次創作小説計画に抵触するので
  削除)」
少年「ああ、あの(同上)」
犬「それと、今回は鹿沼葉子ファンに悪い事をしたかな?」
少年「何が?」
犬「いや・・・いい。あと、禅宗の方々には悪いと思ってる。事実にそぐわない
  事を書いているかも知れない。そうなら、僕の勉強不足でした」
少年「ところで、<彼>、誰?僕の仲間なんだろう?」
犬「ああ。でも、分からない?」
少年「さあ・・・?」
犬「読者の皆様方には、最終章まで分からないようにしてるけどね。君は分かる
  はずだ。仲間だろ?」
少年「・・・最終章まで待つよ。で、全何章なんだい?」
犬「7章。だから、そろそろ待っていてくれ」
少年「OK」

***

では、この辺で。