まえがき そろそろ後半へ突入です。 *** あらすじ 君は、<ヒト>という事をどう思う? *** ある悪魔の呟き・5 君は、幻想という事をどう思う? ヒトの営為を語る上で、幻想の占める割合の大きさには驚かされる 「あんた、ファーゴ側の人間のくせに、法と宗教ナメた発言はどうかと思うわよ」 ああ、僕の言いたい事、分かる? 「何度、あんたからその手の謎かけ出されたと思ってんのよ」 あはは、そうだったね 「・・・」 その女はこう言った 「経済、法、哲学、政治、歴史、言語、社会、それら総体としての文明」 「どれもこれも、ヒトの祖先がアフリカの密林にいた頃には必要なかった幻想」 「どうよ、こんなもんで。大学の講義とかつて読んだ本の受け売りだけどね」 「ファーゴの奴等も、<仕事なら監禁強姦殺人も辞さず>って幻想信じてるのよ」 耳には痛いが、考えさせられる言葉だ 「ヒトは、皆が皆騙されてるから、何でも出来るのかも知れないわね」 なるほど 金なんて、僕にとっては単なる紙切れだし そもそも僕らには何らかの法を課す者など存在しなかった そんな事を改めて考える必要もない、外から新たな幻想を注入しなくてもよい ある意味「健全」だったのだ、僕らは が、ヒトを見ていると、「健全」である事が「病的」であるより勝るとは限らない 「幻想」に騙されてなければ、ファーゴのように強力な組織も存在しえなかった ファーゴとは、創設者=「声の主」の狂った幻想の産物なのだから 超「宗教(これだって幻想だ)」である禅行者の中には、幻想の効かない者もいる (寡聞にして、僕はそれについてほとんど何も知らない) しかし、彼らが「悟った」まま社会で生きていられるという訳では、どうやらない 悟りと幻想の両方を足掛けで生きていかねばならないようだ そこに僕は、絶望的な矛盾を感じる 未だ、僕の見方が甘いのだろうか プロにはそれくらい簡単な事なのだろうか 彼らのようなヒトを、僕は不幸にして見た事がない ファーゴには存在しないからだ (悟りに近づいてはいても、社会での汎用性は失いつつある、そんな信者もいる) 「この本を読んでごらん。一通り、漢字は読めるだろう?」 反乱分子の一人が、僕に本をくれた 本の著者は、僕でも知っている今は亡き有名な反乱分子のリーダーだ 題名には、「ファーゴ各棟局長委員会への報告書・没案集」とあった 「<かくあるべし>と人は言うけど、それがいかに根拠のないものか分かるかい」 「でも、それを信じてる奴の方が、往々にして何も信じてない奴より強い」 「君の言う所の、<病人、健常者を倒す>論だよ」 たまに彼女は、他人が聞いたら目を剥くような事をさらりと言ってのける 「こんなの、差別用語でも何でもないだろう?心配は要らない」 「ま、強くたって病人だ、そのまま狂信を続ければ、いつか生命の泉は涸れる」 君はファーゴの狂信者である事を、いつ頃からやめたんだい? 「こら、混ぜっ返すない」 「私は、世間に溢れてる<女はかくあるべし>の幻想に耐えられなかったんだ」 「でも、ファーゴの幻想は、外のそれよりはるかに私に合わなかった」 そりゃ、そうだろう こっちの方が、女性への差別は圧倒的に激しいはずだ 「普通の人間も、そういつだって外の幻想に囚われてる訳じゃない」 「たまには遊びたいし、仕事サボりたいし、お祭り騒ぎだってしたい」 「そうしないと、魂が腐るから」 だったら、最初から生物として真っ当に生きればいい 変な幻想に囚われて生きるか、生物として真っ当に生きるか、選べばいいものを 「ヒトは欲張りな生き物でね」 「病的で過剰な文明力と、健全な生命の息吹の躍動を両立させたんだ」 「どちらも失うのが怖いんだ。ズルいようだけど、そうなんだよ」 「だから当然、<自然へ帰れ>だなんて戯言には耳を貸すはずもない」 ・・・なるほど 彼女のくれた本を、貪るように読んだ (その大型辞書二冊分の分厚さと、そのくせに目次がない事には閉口したが) 彼女の言った内容を、納得出来るような例を挙げて説明していた 今までの僕の疑問にも、納得の行くように答えてくれた しかし、何か引っかかる 何かが足りない まだ途中だからなのかも知れないが、僕の喉に何か刺さったような疼きがある 頁を不可視の力で脳に焼き付けて、パラパラめくっていても間に合わない (何て分厚さなんだ!ヒトを語るには、やはりこれだけの分量が必要なのか?) 胸のつかえが、苦しい 今までの中に、何かキーワードがあったはずだ 何だ 思い出せ ・・・ 生命の・・・息吹・・・? (続く) *** あとがき 犬「やっと、ここまで書けたか・・・」 少年「君が前々から使いたかったアイテム、<聖書>を出したね」 犬「ああ、あの聖書の由来はな、(以下、別の二次創作小説計画に抵触するので 削除)」 少年「ああ、あの(同上)」 犬「それと、今回は鹿沼葉子ファンに悪い事をしたかな?」 少年「何が?」 犬「いや・・・いい。あと、禅宗の方々には悪いと思ってる。事実にそぐわない 事を書いているかも知れない。そうなら、僕の勉強不足でした」 少年「ところで、<彼>、誰?僕の仲間なんだろう?」 犬「ああ。でも、分からない?」 少年「さあ・・・?」 犬「読者の皆様方には、最終章まで分からないようにしてるけどね。君は分かる はずだ。仲間だろ?」 少年「・・・最終章まで待つよ。で、全何章なんだい?」 犬「7章。だから、そろそろ待っていてくれ」 少年「OK」 *** では、この辺で。