A棟巡回員の怠惰なる日常・5 投稿者: 犬二号
偽のあらすじ
これは、「夕焼十一月」の二次創作短編小説うごふっ!?
巡回員「嘘つけっ!アレはまだ本社自身、題名とコンセプトだけ発表してるような
    段階に過ぎないだろうが!何でお前がそのSSを書けるんだよ!」
犬「ぐわあああ・・・」
少年「うわあ、痛そう」
巡回員「自業自得だ。ちゃんとやれ」
犬「わ、わかったよ、やってみたかっただけだってば」
***
真のあらすじ

これは、「月」の二次創作短編小説です。

超能力研究機関にして宗教団体「ファーゴ」。
それは、殺人、強姦、監禁がまかり通る、恐るべき犯罪空間でもあった。
主人公は、その中でも比較的安全なA棟で巡回員をやっている青年。
他のミンメス、エルポド、安息室(という名の修行及び実験室)を担当する研究員
たちと違い、A棟の安全さゆえに実質上何もやる事のない彼は、日常を何となく、
だらしなく過ごしている。
今日も本来の業務である巡回・警備もサボって、成り行きのままに、今日たまたま
空いている安息室で昼寝しているような有り様。
今回は、彼のそんな心境に、もう少し深くメスを入れてみる。
***
A棟巡回員の怠惰なる日常・5

あの頃、俺は花の大学生だった。
週に17の授業を取ったり、他の大学の女の子たちと合コンしたり、仲間と一緒に
ラーメンのおごりを賭けて麻雀したりする、そんなどこにでもいる文科系の学生の
一人だった。レポートやシケプリ(試験対策プリント)作成に勤しむ、ごく普通の
学生生活を送り、やがて卒業論文との格闘の末、めでたく四年間のカリキュラムを
終えた。
あの頃の事を思い出すと、ぬるま湯の中のような気だるさが体いっぱいに広がる。
あの頃の甘美な体験も、勉強やバイトやサークル活動などで忙しかった思い出も、
思い出すのが不愉快な色んな出来事も、みんな風邪で寝込んだ病人の肌の敏感さや
肉の鈍痛のような、あまりはっきりとしない、何となくむず痒いような皮膚感覚を
伴って脳裏に蘇ってくる。
大学を卒業した辺りから、その感覚が少しずつ変わってくる。ニュースで不景気が
どうの、失業率がこうのと騒いでいるご時勢に、大学を出たばかりのヒヨッ子が
そう簡単に就職先を見つける事が出来ようはずもなく、しばらくはコンビニで
バイトしながら求人雑誌を読み漁る日々が続いた。
そんなある日、大学の先輩から手紙が届いた。比較的高給料のバイトが、今空いて
いるという。人里離れた研究所の警備がその仕事で、日当一万円、寮に住み込みで
食堂まであるという。他にいい勤め先がなかった俺は、考えに考えた結果、そこに
就職する事を決意したのだった。

極めて愚かな選択をしたと言わざるを得ない。当時の俺の辞書の中には、詐欺とか
悪徳商法とかの言葉の載っているページが、ぬるま湯で貼り付いて捲れなくなって
いたのだろう。
手紙をくれたその先輩は、超能力宗教団体「ファーゴ」の一教団員という、究極に
いかがわしい肩書きと共に現れ、俺を仰天させた。
人里離れた研究所。確かにその通り。信者を使った人体実験と、その一環としての
洗脳が行われる、そこは間違いなく、どこかのSF小説に出てきそうな、悪い意味
での「研究所」そのものだった。
日当一万円で、寮に住み込み、食堂つき。確かに間違ってはいない。その日当が、
ことごとく入会費(いつの間にか入会している事にさせられていた)の分割払いに
消え事実上三十年間只働き、しかもファーゴの所持施設からは一切外出禁止、一日
二食という無茶苦茶な条件がおまけつきである。
契約書を盾に取られ、俺は嫌々ながらA棟とかいう信者住居及び修行区の巡回を
せざるを得なくなった。逃げようにも、その変な宗教団体の施設は馬鹿でかい上に
入り組んでいて、その途中には常軌を逸した事に拳銃持ちの巡回員たちがうろうろ
している(信じがたいだろうが、事実だ)。穏便に逃亡計画を遂行しようとしても
途中で「お前、A棟だろう。何で持ち場を離れてるんだ?」と尋問される事は見え
見えだし、強引に逃げようとしたらバレて牢へ打ち込まれるか、問答無用で銃撃戦
である。あまり平和ではないBC棟の、いわばプロである巡回員たちに素人の俺が
太刀打ち出来る訳がない。第一、多勢に無勢である。
どう考えても、逃げられそうにないようだ。

「いいじゃないか、別に」
そう言ったのは、当の先輩である。
「何がいいんですか、先輩っ!?」
先輩のあまりにもいい加減な返事に、俺はすんでの所で、トイレで用を足している
彼に、短小とか、仮性包茎とかの罵詈雑言を放ちそうになった。
「ここで仕事をちゃんとこなしてりゃ、とりあえず食いっぱぐれはない」
「それでも、軟禁でしょうが。軟禁。先輩、腹立たないんですか!?」
「ま、昔は、な。今はどうでもいい。腹とかチ○ポとか立てるだけ無駄だし、逆に
 危険だってわかっちまったからな」
「そりゃそうでしょうけど・・・ていうか、何か下品だな、先輩」
こんな詐欺のような所で三十年間飼い殺しにされるなんて真っ平御免だし、それに
出られたとしても、世間様が三十年間いかがわしい宗教団体で働いていた俺をどの
ように見るかは大体想像がつく。これじゃあまるで、刑務所で刑期を務める犯罪者
ではないか。
「まるで犯罪者、ねえ。まあ、俺たちA棟はまだしも、BC棟の奴等はほとんどが
 本物の犯罪者なんだが」
「?」
「あれ、お前、知らんのか。まあいい、後でその辺の事はゆっくり語ってやる」
先輩はどうやら終わったらしく、雫を切ると洗面所に向かった。
「それと、刑期を務めるというのは的確じゃない。処刑を待つ、が正しい」
「処刑?」
俺も用を足し終わって、ジッパーを閉めた。
「ここじゃ、教団員の命なんてほとんど只みたいなもんだ。いつ誰が死んだって、
何の不思議もない、そういう所だ。そんなんで、人並の生活だの、未来の希望だの
言ったって意味がねえ」
その口振りは、確かに死を待つだけの死刑囚のイメージに似ていた。
「そして、教団員で一番命が危ないのは、お前ら巡回員だ。気をつけな」
「気をつけな、じゃなくて!どうしてそんな事に俺を巻き込んだんですか!」
「まあ、そう怒るな。言う通りにしないと、BC棟に左遷って言われたんだ。人と
 してそれだけは死んでも嫌だと思ってな」
「自分の左遷のためなら、後輩を巻き込んでもいいってんですか!」
激昂した俺の目を、しかし先輩は負けずに睨み返した。
「俺は本物の犯罪者になんぞなりたくないんでな。今はまだ二人とも犯罪者じゃあ
ない。文句言うな。それとも、お前の先輩は犯罪者だと言われていた方がよかった
か?」
「・・・BC棟って、何なんですか?」
「だから、後で語ってやるって」
BC棟の惨状を知ったのは、それから数日後、やはりトイレでの事になる。
「ま、こうなったら一連托生ってね。今度から俺とお前は同じ職場で働く同僚だ。
 敬語は要らん、タメ口でいい」
「勝手な事言うなあ!」
「そう、そんな感じでな」
「・・・」

・・・
「・・・!寝てんじゃない、馬鹿!巡回サボっていいご身分だな、お前!」
(・・・え?)
目の前に、先輩の姿が見える。
「わあ!」
「わあ、じゃない!お前、何寝てんだこの野郎!」
「な、何でここに・・・ミンメスはどうしたんです?」
「仕事ならほんの今さっき終わったよ。お前の姿が見えないから探してたんだ。
 夕飯だ。行くぞ」
「わかりました・・・ふわああ」
先輩は、なぜか変な顔で俺を見た。
「・・・疲れてるんだな。安心しろ、上の方には黙っといてやる」
「どうも・・・」
「さっきから敬語使ってるし。とにかく、目え覚ましとけ」
「え?使ってた?」
それで変な顔してたのか。
「気づけよ、自分で・・・しょーがねえ奴だな」
俺は先輩に起こされ、待っていた仲間たちと一緒に教団員専用エレベーターに
乗った。

ちなみに、エレベーター前で待っていた皆、特に勝手に部屋を寝床に使われた
安息室担当研究員たちに小言を言われ続けたのは、上の方には秘密である。
ていうか、誰も言うなよ。頼むから。
(続く)
***
後書き
夏休みに実家に帰って、かなり精神的に回復してまいりました、犬二号です。
とは言え、全快にはまだまだ程遠いので、当分は実家の金沢で過ごす予定です。
巡回員「あれ、じゃあ夏のオフ会は・・・」
犬「出席出来ない事を、この場を借りてお伝えします(ぺこり)」
少年「それに、この話を終わらせてからでないと、そういった会に出るのは気が
   引ける、とか思ってるね」
犬「ん・・・まあ、そうだ」
巡回員「全く、律義なんだか、頑固なんだか」
少年「頭がオカシイ、が正解だと思うな」
犬「こらこらこらっ!本人を前にしてっ!言いたい放題言いやがってっ!」

巡回員「それにしても今回は話が長かったな。いつもの五割増しはあるぞ。お前、
    こんなに長いの書けたんだな」
犬「お前の夢を適当に要約したら、あの長さになっただけだよ」
少年「まあ、元気になりつつある証拠だよ。よかったじゃない」
犬「まあな。今までの事を踏まえて、二学期はもうちょい上手くやっていきたい。
  途中でスタミナ切れになって、後で坂道を転がるボールのようにってのはもう
  嫌だからね。惰性で毎日生きていたくない」
巡回員「同感。それは職業柄強く思う」

犬「ところで、元気になったついでにカミングアウトしておきたい事があるんだ」
巡回員「何だ?お前が○リスファンだって事か?」
犬「それはもう言うたやんか。そやのうて、<月0>計画について」
少年「<月0>・・・まさか、あの?(ていうか、何でまた変な方言モード?)」
犬「そう。<月>の二次創作長編小説作成計画、<月0>だ。お前のガキの頃や、
  天沢のお袋さんや鹿沼のお袋さんがファーゴにいた頃の話を、オリジナルの
  主人公を登場させて語っていくってストーリーさ。こうすれば、未来の禍根は
  防げたんじゃないかっていう、イフ物だけどね」
巡回員「端からフィクションの話に、イフもくそもあるのか?」
犬「深く突っ込むんじゃない。それで、完成したら、コミケで大発表」
二人「おおっ!そこまで言い切るか!」
犬「でも、SSコーナーには投稿しませんけどね」
二人「・・・えー?(不満そう)」
犬「ショートストーリーコーナーに、ハイパーロングストーリーを細切れにして
  出せるかよ。百話も千話も続くような気がした。だからさ」
少年「・・・なるほどね。一応、考えてるんだ」
巡回員「・・・でもよ、犬、お前、本っ当にそれ、作れるんだろうな?」
犬「努力はしてみる。これは、大学生活のライフワークだからな」
少年「それはいいけど、その他にも、この<怠惰>計画、<ネコ>計画、そして
   以前ここで約束していた<声の主>計画。本当に大丈夫だね?」
犬「・・・た、多分(不安げ)」
巡回員「わかった。それと、何か連絡事項があるんじゃなかったのか?」
犬「ああ、そうだった」
***
連絡事項
1.夏のオフ会の件ですが、出席出来ない事が決まりましたので、ご了承下さい。
2.メールでの感想は、九月になったら大学のパソコンで全部読みますので、
  返事はそれまで待って頂けると幸いです。
***
犬「では、今日はこの辺で」
二人「さようならー」