A棟巡回員の怠惰なる日常・4 投稿者: 犬二号
シリアスなあらすじ

偽装宗教団体にして超能力研究機関ファーゴ。
そこは、洗脳、強姦、殺人がまかり通る恐るべき世界だった。
そんな中でも比較的平和なA棟で、このSSの主人公、A棟巡回員は何を思い、
どんな日々を過ごしているのか?

新人SS投稿者の初投稿「月」二次創作小説、第4話。

***

A棟巡回員の怠惰なる日常・4

昼飯も食った所で、俺たちはA棟に戻った。
「うーす」
「ただいまー」
「おかえりー」
「ほら、昼飯のおにぎり。一人一個な」
「へーい」
留守番してくれていた仲間たちと、そんな軽口を叩きながら、俺たちはそれぞれの
持ち場に戻った。俺も・・・また退屈な、巡回の繰り返しだ。
「ふわあ・・・」
別に眠い訳でもないのに、巡回前になるとどうしてもあくびがでる。死ぬ程退屈で
ならない。
例の「悪魔」のガキは、「呆れ返るくらいの退屈が欲しい」とかこぼしている
らしいが、それがそんなにいいものじゃないって事については、そんなによく
わかってないみたいだ。
まあ、ある時期からずっと一人っきりでこのファーゴという戦場の空気を吸って
生きてきたというから、それから一度も「心から」リラックスした事などないの
かも知れんが。
(あ、そう言えば)
俺は安息室に向かうと、扉を開けてみた。

奴はまだ、すやすやと安らかな寝息を立ててベッドの上に寝転がってやがった。
このガキ。
「おい、ガキ!昼だぞ。約束の時間だ。起きやがれ、ホラ」
俺はガキの体を揺さぶった。あまり手荒にならないように(寝起きが悪いと念力で
何かされかねんからな)、しかしちゃんと起きるように大きくゆさゆさと揺する。
やがて、ガキの方も意識がこっちの方に戻ってきたようだ。
「・・・ん?郁未?」
「違う、俺だ俺。昼には起こすって言ったろう」
「・・・あ、そうだった」
ガキが、眠たそうにふらふらと身を起こす。
「・・・何か、いつもと逆だなあ」
「いつもと逆?・・・ああ、A−12の事か。いつもおまえ、あいつを起こして
やっているのか?」
「うん、郁未は朝は弱いみたいだからね」
「ん?何だ、お前、あいつと夜っぴいてエロい事でもしてるのか?同居人の特権
とか言って」
「そんな事はない。そういう事で寝不足なんじゃない。単にここに慣れてないから
気疲れしてるだけだと思う」
俺のからかいに対して、ガキはどうでもよさげに返事を返した。よっぽど眠いの
だろう。
「それにしても、本当、そういう話が好きだねえ」
「放っとけ。単に女日照りなだけだ」
ガキは、一際大きなあくびをすると、ベッドから立ち上がった。
「ああそうだ、お前にプレゼントだ。ほら、お前の好物」
俺は、取っておいた総合栄養剤チューブ(チョコ味)をガキに差し出した。しかし、
「・・・ああ、僕、今、三日分持ってるから」
ガキは、済まなそうな顔でそう言った。
「何?そうなのか?・・・ちぇ、折角持ってきてやったのに」
「・・・でも、ありがとう。もらっておくよ」
「そういう事なら俺がもらっといて・・・え?」
いつの間にか、チューブがガキの手の内におさまっていた。
「じゃ、ありがとう、色々と」
そう言って、ガキはにこやかに安息室を去っていった。
「おーい、ちょっと・・・ちぇっ、結局何だかんだ言って取っていくんじゃねえか
・・・」
ま、いいか。とりあえず、やる事は一通りやったんだ。で・・・
今、安息室のベッドが空いている。
(・・・)

寝るか。
どうせ、巡回っていっても、俺にとってはルーチンワークに過ぎんのだ。サボって
いてもバレなきゃ大丈夫だ。
って言うか、A棟はここ数年間ずーっと異常なしなのだ。「今日も異常なし」とか
何とか答えておいても、何も問題ないし、誰も突っ込むまい。
それに、「退屈でならない時は、とりあえず寝ろ!」って格言が、ファーゴ教団員で
俺みたいな怠け者の間に伝わっている。中には、睡眠不足を解消するために、仮病
してまで寝潰れる奴もいる。
(A棟巡回員って、本当そういう意味じゃ恵まれてるよな。仕事中何やってても
ほとんどバレないし、極端な話何もしなくてもいいんだからな)
欠点は、肝心の仕事が退屈でならない事と、ファーゴに娯楽というものがほとんど
存在しない以上、サボっても何もしようがないって事だ。
BC棟の腐れ野郎共みたいな、男の一方的な性の享楽なんかこっちから願い下げ
だし、飯は美味いには美味いが美食は望むべくもない。コックに「たまには、何か
フランス料理とか出してみて」とか言ったら、包丁で三枚におろされるだろう。
としたら、人間の三大欲求の残りとしては、後は眠るより他は残ってない訳だ。

気がついたら、ベッドの上に横たわっていた。
「あーあ、A−9から携帯ゲームでも借りれたらなー・・・」
具体的にどう借りるのかも考えずに言うだけ言ってみながら、俺は目を閉じた。
ベッドが暖かくて気持ちいい。これが、「悪魔」のガキのじゃなくて、若い娘の、
そう、A−9とかA−12の温もりだったらなーとか、そんな事を思いつつ、俺は
自分が次第にまどろんでいくのを感じた。

(続く)

***

あとがき

犬「はい、こんにちは。犬二号です」
巡回員「今回、余裕で書けたようだな」
犬「少しずつ、キーボード捌きが早くなってきたみたい」
少年「よかったじゃないか。その意気で第5話も書き進めていけばいい」
犬「ところで、本当SSの更新が早いねー」
巡回員「あっと言う間に、お前の感想文が30話分昔の事になってしまってるぞ」
少年「三日間パソコンに触れなかっただけなのにねえ」
犬「まあ、いいや。それにしても、沢山の人に感想を頂いて、本当に嬉しいです」
少年「この前、他の作家さんからなかなか核心を突いた指摘を頂いたよ」
犬「SOMOさんのだな・・・ふっふっふ!」
少年「?どうしたの」
犬「実は俺には答がある!」
巡回員「何い!?」
犬「そうだ、今の内に告知しておこう」

***

今後の予定

「A棟巡回員の怠惰なる日常」シリーズが終わり次第、読切のSSを書こうと
思います。
具体的な内容についてはここでは割愛します。しかし、「誰かにファーゴについて
語らせる」というスタンスは同じです。
今回の主役は・・・何と、あの「声の主」です。乞うご期待!

ちなみに。
夏休みは実家に帰って休養を取ります。その間、投稿は控えるつもりです。万が一
投稿したとしても、夏休みの間はメールが多分使えないと思うので、メールでの
やりとりはご遠慮下さい。

***

犬「という訳で、多分あまり誰も書かなかっただろうと思う<声の主の視点>話を
  作っていく予定です!(かっこいい効果音が入る)」
巡回員「予定は未定、だな?」
犬「そう。予定は未定」
少年「大丈夫?本当に書けるのかい、そんな話、しかも読切で」
犬「問題なし!と、言いたい所なんだけど・・・うーん・・・テストがあるから
  なあ・・・」
巡回員「読者の皆さん、あまり期待しないでくれ、との事だ」

巡回員「それにしても、今回はあっさりとしたあらすじとあとがきだったな」
犬「騒ぎすぎたからね、前回まで。じゃ、この辺で」
少年「さようならー」