A棟巡回員の怠惰なる日常・3 投稿者: 犬二号
あらすじ
腐れ大学生の犬二号(仮名)は、軽い鬱状態でだらしなく、自分が躁状態の時に
取ってしまった25コマの授業を受けながら、「ああ、小説が書きたい・・・」と
うなりながらコンピューター室にサボりに入った。
「大体、何で25コマ全部取ってしまったんだろう・・・」
そして、自分がテスト前である事を意図的に忘れようと、今日もまただらしなく
荒れながらキーを叩いた。小説を書くのはいいが、鬱なのでなかなか進まない。
パソコンの使用許可時間は二時間もあるのに、あっという間に使い果たす。
「よし、時間ぎりぎりに間に合った。投稿だっ!」
そして、次の日に自分の小説の誤植とかを見つけてまた落ち込んでみたりする。

少年「このあらすじはフィクションです」
巡回員「おい作者、真のあらすじを書けって、おーい?」
犬「・・・犬、買いてえ。そしてそいつに犬一号って名前をつけるんだ・・・」
少年「あ、だらしなく荒れてる」
巡回員「しょうがねえなあ。こいつの好物は何だ?与えれば元気になるかも」
犬「好物は、優しくて愚痴を聞いてくれる可愛い女の子です(キッパリ)」
巡回員「わかった。小説を完結したら死んでいいからな(さらりと)」
少年「僕、やっぱり人類って嫌いだな。こんな奴が人類だと思うと(とどめ)」

***

真のあらすじ

この小説は「月改」の二次創作物です。
七日目を大体の舞台として、A棟巡回員を主人公に話を進めていきます。
少し裏設定とかを付加したりしていますが、本編からはあまり脇に逸れないように
気をつけます。

***

A棟巡回員の怠惰なる日常・3

あの悪魔のガキのせいでサボりそこなった俺は、仕方がないので真面目に巡回の
仕事をする事にした。
A棟の空き部屋を点検したり、反逆者用の牢や処刑場を調べてみたり(それに
しても、そんなものが平然と設置されているこのファーゴという宗教団体って、
どこかものすごく歪んでると思う)、許可なき者立入禁止の地下回廊の入口を
点検したりしてみる。
「今日も特に異常なし・・・と」
最近、またこの仕事がルーチンワーク化してきて、やる気が出ない。毎日起きて、
信者のIDを確認(手の甲に焼き印があるのだ。比較的扱いのよいクラスAにも、
そういう非人道性は歴然としてある)、つまらねえ巡回の後、やっと昼飯・・・

ぐぎゅるるるるる

昼飯の事を考えたら、腹の虫が鳴ってしまった。
(・・・腹減った・・・)
そういえば、そろそろ昼飯の時間だ。
(・・・飯、食うか)

俺は別の部屋で仕事の終わった仲間たちに声をかけ、一緒にエレベーター(BC棟
では「精練の間」として使われている区画が、ここでは空いてしまったので、A棟
教団員専用のエレベーターが代わりに設置された。各修行部屋の中の機械管制室に
つながっている)に乗って教団員専用大食堂室に向かった。

今日の昼飯は、野菜炒めと豚の生姜焼きだった。
「なあ、新入りの方はどうだ?ミンメスとかエルポドとかは」
「ん?ああ、ミンメスの方は順調だ。今の所、幼少期にはそれほど深刻なトラウマ
とかはないみたいだ。多分、ファーゴに入る直前に何かあったってパターンだな」
「エルポドの方は大変ですよ。とにかく、訳のわからないコンプレックスで一杯
なんですから、彼女の真相意識の中は。明らかに異常値です。このコンプレックス
全部が処理されるか、またそのまま放ったらかしか、それは我々にはいかんとも
しがたい」
「彼女の意思による所が大きいからな。まあ、とにかく、データの上では順調だ。
しかし、まだ当分移植は見合わせた方がよさそうだ」
少し、専門用語が出てきたので説明する。
ミンメス及びエルポドというのは、ABC棟共通の修行用の機械である。両方とも
精神に何らかの影響を与える謎マシンである(ナノマシンではない)。両機械の
原理は、不可視の力のメカニズムや悪魔固有の遺伝子群のコードと同じく最高機密
扱いにされていると聞いた事がある。
ミンメスの方は記憶を刺激、被験者がトラウマと感じる過去の出来事を抽出し、
被験者に見せ付ける事で精神強度を上げさせるシステム。一方エルポドの方は、
深層意識を刺激する事で、被験者がコンプレックスと感じる弱みを抽出し、それを
被験者に処理させる事で、そのコンプレックスによる無駄なエネルギーの消費を
断つというシステムであったと記憶している。被験者からの報告によれば、その
コンプレックスの塊は、嫌いな人の姿をとったり、またたまに自分の姿をとるとの
話である。面白そうな話だと思って、何となく覚えていた。
この二つの組み合わせで、被験者、すなわち信者たちの精神強度を移植可能な
レベルにまで持っていくのだ。やればやるほど精神強度は高く、ロスト率は低く
なる。しかし、だからといって調子に乗って毎日これを繰り返すと、大抵の信者は
へとへとになって、精神強度がガタ落ちになってしまう。ゆえに、周期的に休みを
入れて、安息室で休ませるのだ。安息室管理班はその間、安息室の機械管制室
(各修行部屋は信者たちの修行部屋と教団員の機械管制室に分けられていて、扉で
行き来が出来るが、入った信者の話は聞いた事がない)の中でデータ取りである。
「前からいるA−9の方は?」
「ああ、彼女はほら、上の方から直々に、移植レベルになっても精神強度を上げ
続けろって言われてるからな」
「ああ、例の、数値が移植レベルの二倍値の時に移植するって実験のための?」
「そうだと思う」
「もうそろそろ、その二倍値になりそうだ」
「じゃあ、例の悪魔のガキの仕事が増えるって訳だな」
「A−12と二股だな。この事を知ったら、怒るだろうな、A−12」
「同居人が浮気してるって?」
「そう。反論出来ないだろうが」
「ははは。そりゃいい」
俺たちは笑った。それにしても、下世話な話だなあ。
「ああ、ひょっとすると、よっぽど不可視の力が強い悪魔がいるのかも知れんな。
で、そいつに移植させるってのはどうだろう」
「ああ、ありうるな」
「で、アレの長さも同居人のガキの二倍だったりしてな」
「男だったら、太さが二倍、だろう?」
「いいや、硬さが二倍なんだろ」
「年季の入り方が二倍だったりしてな」
「移植の性質上、濃さか量が二倍なんだよ、きっと」
「おおっ!?何か的を得てるかも知れんな、それは」
俺たちはまた笑った。やっぱり、どうにも下世話だなあ。女とそういう事をしない
男だらけの職場だと、どうしてもこういうもんなんだろうか?
まあ、下世話な馬鹿話が好きなのは、俺も一緒なんだが。

そろそろ皆飯が食い終わったので、A棟で居残りしてくれている仲間たちのために
ラップでおにぎりを作ってやる。おかずの野菜炒めと豚の生姜焼きを具に入れる。
「あ、そうだ」
安息室で眠りこけてやがるであろうあの悪魔のガキのために、向こうのカゴの中に
入ってる総合栄養剤チューブ(チョコ味)を取ってやる。うん、俺、何ていい奴。
「ああ、俺、ドリンク剤一本」
「俺はビタミンな」
仲間が勝手な事を言う。
「自分で取れ、自分で!全く、横着な」
そうこぼしながらも、ちゃんとカゴの中からドリンク剤やビタミンを取っていると
(うーん、やっぱり、俺って何ていい奴)、誰かの手とぶつかった。
「・・・あ、失礼」
俺と同じ位の年の奴だ。青っぽい髪を後ろで束ねている。
「ああ、こちらこそ」
B棟ミンメスの奴だ。何か、例の高槻の奴もB棟ミンメスで、こいつはその相棒の
巳間って名前だったと思う。かつて、精練を拒否して高槻に苛め抜かれたって噂だ。
高槻の外道に「これ以上逆らうなら、お前の実家の安全は保証しない」と脅され、
今は嫌々やっているらしいが。まあ、高槻ならファーゴの学生機関やら市民団体
やらに働きかけて、本当に何かやりかねんからな。
何やら知らんが、一人で山程ビタミンと鎮痛剤と胃薬(後者二つを取るのは大抵
BC棟の奴らである)を取っている。寝てないのか、目が血走っている。大変だなあ。
ま、いいや。どうせ他人事だ。
「じゃ、そろそろ戻るか」
「ああ」
俺たちは食堂を出て、A棟に戻った。
(続く)

***

あとがき

この前は誤字脱字や重複や変換ミスがあって、大変ご迷惑をおかけしました。今回は
ないと思いますが、どうでしょう(確認してみたりする)。
A棟巡回員の視点からファーゴという世界を語らせてみようとしたのですが、
たった一日の事を書き記すだけでこんなに長くなるとは思っても見ませんでした。
それと、色々勝手な設定がありますが、エレベーターは地下十字路を使わせない
ための苦肉の策です。あとはまあ本当に勝手な設定です。

感想を下さった皆さん、本当にありがとうございました。

では、また。