A棟巡回員の怠惰なる日常・1 投稿者: 犬二号
初めまして。犬二号という者です。
初投稿なので、よろしくお願いします。
所有ソフトは「月改」のみなので、そういうSSばかりになります。
ああ、「おね」か「鈴うた」が買いたい。

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A棟巡回員の怠惰なる日常・1

今日もまは当たり前のように朝が来た。
毎日遅くまで仕事しているのにも関わらず、ちゃんと朝八時までには目が覚める
から不思議だ。
とりあえず他の仲間を起こすと、俺たちは取り留めのない事を喋りながら、
俺たちの持ち場・・・A棟に向かった。

A棟に所属する人数は、他棟に比べるとかなりすくない。この、一応は宗教団体を
装っている超能力研究機関「ファーゴ」では、超能力(ここでの呼称にならえば
「不可視の力」)の精神レベルにおける受容のしやすさで信者が格付けされている。
そのままでは全然見込みのないクラスC、磨けば光るクラスB、そしてかなり
期待大のクラスA。他にもあるらしいが、知らんでもいい事は知らん方が身のため
なので詳しい事は知らん。もちろん、クラスAがA棟所属である。クラスAには、
よっぽどのひどい目にあった奴でなければ入れないらしい。死の淵をさまよったり
目の前で親兄弟が死んだりといった感じの奴らだ。ひどい目にあった分精神強度が
高いらしいが、詳しい事は知らん。現在クラスAは、もう数年いるという古株と、
この前入った新入りの二人だけである。ちなみに、信者は全員女である。なぜかは
知っているけど、教えない。
「新入りのA−12だっけか?なかなか可愛い子ちゃんじゃないか?」
「うん、まあ、そうだが、元からいたA−9もな、うん」
「何言ってるんですか、あんたたちは。万年助平親父ですか」
A棟に着くと、俺たちはそれぞれの持ち場に向かった。
「じゃ、また後でな」
「では」
さて、仕事だ。

俺がA棟巡回員になってから、もう数年が経つ。不景気の折に職探しに明け暮れて
いた頃、大学のサークルの先輩に紹介されて、単なる研究所のバイトかと思って、
入ってみたら大間違いで、外出禁止、電話も禁止、何でも禁止の宗教団体。「話が
違う」と抗議してみたが聞いてもらえない。どころか、銃の訓練はさせられるわ、
他棟で事故発生の度に出動させられるわ、超能力(本当にあったのだ!ファーゴの
異常とも言える警戒体制はこのせいだったのだ。信じなくてもいいけど)の受容に
失敗した信者(「ロスト体」と呼ばれている)に手首をへし折られるわ、箸が当分
持てなくなるわでとんでもないハードワークだ。しかし、数年したら、もうかなり
慣れてしまったから恐ろしい。

(ん?)
向こうから、何やら綺麗なものがやってきた。
上手に染め上げられた長い金髪、落ち着いた上品さをさりげなく演出なんかしたり
している紫色のケープ。A−9、鹿沼葉子・・・だったと思う。
「おい」
「・・・はい?」
A−9が止まった。
「とりあえず確認だ。手の甲を出せ」
「・・・わかりました」
A−9が、言われた通りに手の甲を差し出す。なぜかこの女、素直ではあるが、
どこかで人を拒んでいる。外とあまり関係を持ちたくないらしい。
「お前、新入りとはどうだ?」
「どうといわれましても、何がですか?」
「いや、仲良くできそうか?」
「さあ。わかりかねます」
「わかりかねるって、お前、自分の気持ちはどうかって訊いてるんだ。お前自身、
彼女をどう思うかって」
「何とも。ただ、未だファーゴの教えに懐疑的なのは戴けませんが」
「まあ、新入りだから仕方ない。そのうち慣れるだろうさ。でもお前、同じ棟の
奴とは仲良くした方がいいぞ」
「なぜです?」
「なぜって・・・」
いかん。どうしてもこの女と話すと、後が続かなくなる。
「友達はいないよりはいた方がいい。その方が、人生が豊かになる」
「必要ありません。私はファーゴのやり方で人生を豊かにするつもりですが、その
他の事にはあまり興味はありませんので」
「・・・」
この小娘。俺は知ってるんだ、最近新入りからもらった携帯ゲーム機で遊ぶように
なった癖にとか続けてみたくなったが、止めた。大人気ない。
「よろしいですか?」
「ん、ああ、確認した。行ってよし」
「・・・失礼します」
A−9は、すっと俺から離れるようにして向こうに行ってしまった。
「うーん・・・」
A棟にはあまり人がいない。それも、大部分が男だ。A棟では女は貴重な話し相手
なのだが、その相手が彼女のようなタイプだと、どうにも会話に困る。折角の美人
なのに、そこが少し不満だ。何か悔しいので、彼女の部屋に通じている通気口から
部屋を覗き見とかしてみたりする。
(しっかし、いい体してるんだよな、あいつ。ぬっふっふ)
この前、着替えシーンを丸々しっかとこの目で見た。役得である。
(うーん、いいなあ。ああいうのが、ベッドの上で乱れたりすると、おっと)
よせよせ。彼女は元クラスC信者だそうじゃないか。
(その手の行為が、彼女にとっちゃ地番の苦痛なんだろうな)
よし、止めた。

「・・・」
ふと気がつくと、もう一人、綺麗だが何やら憔悴しきった顔の女がやってきた。
少し青みがかった長い黒髪、学校はどうしたんだお前と一度は突っ込んでみたい
赤い制服。A−12、天沢郁未・・・だったはずだ。うん。
「おい」
A−12がこっちをむく。こいつもなかなか美人なのだが、A−9とは雰囲気が
違う。A−9のような神聖なたたずまいはない代わりに、足掻く者の持つ悲壮感が
ある、というのは俺の勝手な思い込みだろうか。
「もうちょっとしゃきっとしろ、しゃきっと。折角の美人が台無しだぞ」
「・・・」
返事をしない。代わりに、彼女の目が「何だ、変な奴」と言っている。
変だ。
俺は女と話す時には、女をまず褒める所から始める。そうすれば大抵の女は心を
開くもんで、実際そうして俺はもててきたが、こいつらは違う。全然嬉しがって
くれない。なぜだ。変だ。
「・・・ようし、番号を確認した。行っていいぞ」
「・・・わかったわ」
A−12もまた向こうに去っていった。
しかし、誰だ、彼女が賑やかな女の子だなんて言い出したのは。全然賑やかじゃ
ないじゃないか。

「ふう・・・」
どうにもこうにも疲れてならん。やはり、一人でウロウロして、他人と出会っても
会話出来ないというのは辛い。こればかりは何年かかっても慣れうるものではない。
(ま、これで昼までは暇になったな)
とにかく、寝たい。この仕事は、暇なくせに妙に疲れるから困る。
俺は、向こうにある「安息室」と書かれている部屋に向かった。安息室は、本来
信者をベッドに寝かせ、その信者の精神強度を数値化して測定するための、まあ
実験室のようなものらしいが、どうせ今日は二人とも使わないはずだし、勝手に
寝ちゃっても誰も気づくまい。
俺は扉を空け、中に入った。
「・・・ん?」
「やあ」
しかし残念な事に、中には先客がいた。
「お、お前は・・・」
(続く)

***

あとがぎ
Q・さて、A棟巡回員は一体誰と出会ったのでしょうか?
 1・「悪魔」の少年
 2・A棟安息室管理人
 3・氷上シュン(大穴)

>北一色さんへ
「BLUELEAF4」の元ネタですが、ひょっとしてこれですか?

***

「お、お前は・・・誰だ!?」
ベッドに座っていたのは、全く知らない男だった。
そのシャツから覗いている傷は、その男が相当戦い慣れしているという事を無言で
示していた。
(自衛隊か?ヤクザ?それとも、最も考えたくないが・・・警察か!?)
気がつくと、相手は黒曜石のナイフを構えていた。
「な!?」
「昔、山で戦った時に作った黒曜石のナイフだ。普通のナイフより貫通力が強い」
(く、くそっ・・・何やら知らんが、A棟で巡回員らしい事をするのはもしかして
これが始めてなのか!?)
俺は謎の侵入者に向かって銃を構えたが、なぜか指がトリガーを引けない。
見ると、いつの間にかシリンダーに黒曜石のかけらが噛ませてある。
「ち、畜生!ジーザス!」
俺は銃で相手の鼻と上唇の間を殴りつけようとした。
その一秒後、何が起きたのか、俺は永遠に理解出来ない。
ひゅっと音がして、それで最後だった。額を、何か鋭いものが貫いたような感触が
あったが、それっきり何も感じなくなった。何も考えられなくなった。
ただ、最後に聞こえた声だけはよく覚えている。
「俺の名前だ。地獄に落ちても忘れるな」

***

と、いうことで、4・少年サンデーで連載されていた(と思う)「ジー○ス」だと
思うのですが、どうでしょうか?


とにかく、暇を見つけては投稿しますので(多分3〜5話完結)、よろしくお願い
します。