【74】 みさきリフレイン(10)
 投稿者: いばいば <b9707665@mn.waseda.ac.jp> ( 謎 ) 2000/3/30(木)00:01
*この上に(7)〜(9)が投稿してありますので、そっちを先にご覧下さいm(_ _)m



<結び> ―― また巡り来る季節に ――



――多分ここまでが階段。
歩みを止め、見当をつけて腕を伸ばすと、指先に冷たい金属が触れた。
懐かしい、ひんやりとしたドアノブの感触。

階段、あと何段かあったかもしれない。
取っ手の位置、もうちょっと下だったかもしれない。
そんな不安とは裏腹に、一年ぶりに訪れた屋上への道は私の中に変わらず刻まれたままだった。

この場所で浩平君を送り出したあの日から、ちょうど一年が経った。

ついさっきまで行われていた卒業式は、私にとっては一番大切なものが欠けていても、
他の誰も気に留めることなく、当たり前みたいに過ぎていった。

そう、私は浩平君の帰りを待ちつづけてる。

再会の約束だけを頼りにして、じゃない。
約束を交わさなかった“前”の時も、“その前”の時も…それに最初の時にだって、
浩平君はきっと私の側に帰ってきてくれた、また会えた、そう信じてる。

だからといって私の体験が無意味だったとは思わない。
大切な人を思い出して見送ることが出来た、それだけでも私には十分だったし、
何よりも…純粋に楽しかったからだと思う。

あの不思議な日々を思い返す度に、思い浮かぶひとつの場面がある。
それはまだ浩平君と出会ったばかりの頃の、学食での何気ないやりとり――

「分かった、もうやけだ。オレが取りに行くから、好きなだけ食べてくれ」
開き直ったように、浩平君。
最初こそ他のみんなと同じくびっくりしてたのに、こんな反応初めてだった。

「ありがとう、浩平君」
「…でも、程々にしたほうがいいような気もする…」
「えっとね……。じゃあ、カツカレー3人前お願いするね」

人よりちょっぴり多めに食べなきゃ満足出来ない私に、
そうして手渡してくれた、大好物のカツカレーのお替わり。

私が通り過ぎたのは、きっとそんなところだったんだと思う――



取っ手をひねると、体全体を使って扉を押し開ける。

鉄の重たい感触、軋み。
頬におちる暖かな春の日差し。
隙間から流れ込む、屋上の匂いをのせた風。

みんなあの頃と、何ひとつ変わってないように思えた。
また時間が戻った、そう錯覚してしまうぐらいに。

……でも違うんだよね、浩平君。

昨日と同じような今日、今日と同じような明日。
例え変わりない日常のふりをしていても、

今日開ける扉は、今日の扉なのだ。

昨日と同じような、いつもと変りないような、
それでいてその向こう側の分からない、今日の扉。
新しい始まりに続く、新しい扉。

開けてみよう、きっと思いもしなかったこと、待ってるから。

お出かけの前の夜には、飽きずに天気予報に耳を傾ける。
ドキドキしながら眠りについて、起きたら真っ先に外に向かうんだ。
玄関から一歩踏み出してみれば、心まで暖まるような陽気。

肌に宿る温度が嬉しくて、両手を広げてくるくると回る。
優しい空気に包まれた春の道に思いを馳せる。

たったそれだけが幸せに変わる。

だから毎日を胸高鳴らせながら生きてく。
だからいつだって、まだ知らない明日を想う。

昨日も、その前も、帰ってきてくれなかった浩平君。

でも今日はわからない。
もし今日がダメでも、明日はもっとわからない。
明日もダメでも、あさってはもっともっとわからないよね。


前へ進んでいけば、きっと新しいことがある。


例えばそれは、ほんの偶然の出会い。
次の日には競争の約束、また次の日は廊下で正面衝突、
学食でお昼、クリスマスパーティー、お正月には年賀状……。

沢山の思い出を重ねて……いつからかな? 浩平君が毎日の一部になってたのは。
それだって始まりはほんの小さなきっかけ、

冬の日の放課後、扉の先から届いた何気ない声。


「明日はいい天気だな」


……?

突然かけられた声。
思い出の中の響きと重なる、確かな暖かみを持った声。
一年ぶりに聞く、大好きな人の、声。

「……そっ…か……今日は……夕焼け…なんだ」

私もこみあげてくる涙に邪魔されながら、記憶の底に沈んでた言葉を掬い上げる。

「夕焼け……うぐっ……き…れい……?」


昨日がダメでも今日はわからない。

前へ進んでけば、きっと何か新しいこと。


ほら

例えば



こんな風に、ね。














―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これでお終いです。
話数に関しては当初の予定通りだったんですけど、かかった期間については……もう長編は書くまい(_ _;;
読んで下さった方、こんな無駄に長い駄文に最後までお付き合い下さいましてありがとうございました。

裏設定としては、みさき先輩を彼女のえいえんの世界(繰り返す)に導いたのは、浩平です。
まだ外の世界を恐れている様子に、みさき先輩の強さを信じた上で、
どうなるか半ば覚悟しつつ、きっかけとなる盟約=再会の約束を与えた……ということにしといて下さい
ただ浩平にわからなかったのは、みさきが戻った先では、
まだえいえんの世界の影響力が増大してなかったせいで、浩平のことを思い出してしまうことと、
それによってみさきが浩平を助けようとしてしまうこと。
作中で全てを語る、とか格好良いんでしょうけど……まぁこれ以上言い訳は止め(^^;)

あ、それと……こんなみさき先輩一人称SSの冒頭で、いきなり(男)じゃ、
余計ひかせてしまう気がしたので(謎)にしときましたけど、誤解のしようもなく男です(^^;)

以前短編投稿した際に感想沢山いただいてしまい、嬉しくなって書き始めたSSですが、
今回も色々と感想いただき、大感激でした。特にいつもご丁寧に感想下さった、
WTTSさん、矢田 洋さん、変身動物ポン太さん、感謝の言葉もありませんm(_ _)m

また、このSSを書く契機となった本等を色々と紹介してくれた大学の友人のN山君、
(特に主人公みさきさんは、タイトルをパロディにする為の語呂と字面だけで決めました。
ただそのせいで予想より遥かに長く書かなきゃいけない羽目になるとは(-_-;)
ずっと応援・感想下さってた、Sin.enさん(個人サークル「のうす・ぽーる」発足おめでとうございます)
のお二方には、この場を借りて重ねてお礼申し上げます、ありがとうございました。

こんなんですが、形に出来、発表・完結できたのは偏に皆様のお陰です、本当にありがとうございました。
二次創作は今後も懲りずに細々と書いてくつもりなので、また何処かでお目にかかれれば幸いです。

それと、ほんとに僅かながら、最近の感想等。
最近は感想が盛んで、ロムしててもなんか嬉しいです。書き込みも増えて好循環ってイメージで(^^)

・丸作さん
>SWEET LIFE VOL.04
あははは、むっちゃ笑わせてもらいました(^^)
繭は子供らしい攻撃で微笑ましいのに、みんな対抗しようとするし…。
白い噴水……長森さん御茶目過ぎです。

それから、文章中にも「長森は…」とかきちんと描写されてるので、
台詞の前のキャラ名は無くても、十分わかり易いんじゃないか、って印象受けました。

・みのりふさん
>男の戦い
女の子の前では男の友情など脆いものですね(-_-;)
やっぱ女性は強し、ってことで良い雰囲気で一件落着ですねー。
また目離したら喧嘩してそうだけど(^^;)

・YOSHI牛さん
><ONEポップは笑えない>
おおっ、そこで出てくるのがMOON.キャラなのですねー。
今後浩平・澪コンビとどう絡んでくるのか、気になります。
連載頑張って下さいませー。

・らすのうさん
>『rainy curse』
うあ、切ないです。
頑張れー、としか言えないですねえ。

・Matsurugiさん
>感想+おまけ小劇場『ななせなパラレル特別篇』
あ、なんかタイトルに親近感(爆)
設定の雰囲気とか好みですし、期待してます(^^)
うーむ、最後のキャラは茜かな??

*私のSS、最初は「七瀬ふたたび」って題にして、七瀬主人公にしようとしてたり(^^;)

・WTTSさん
>感想のみ!!(爆)
あはは、発売当初凄かったですからねえ>言われよう
しかし、会話形式最初で最後ですかぁ、勿体無い…。

・変身動物ポン太さん
>SS作家応援替え歌2
私は「書きたい人が次の番だ」って部分とか好きです。
勇気づけられますね(^^)

SSの感想はやっぱ楽しいですねー
いや、最近“本日の説明会に参加された御感想・御要望等”ばっかだったので、(^^;)
ここは今後も楽しみに拝見させていただきます、頑張って下さい〜
では(^^)/