みさきリフレイン(2)  投稿者:いばいば


        <2>
 
 
  ――――――――――。
 
  それはいつもと変りない朝だった。
  けたたましい電子音に安眠を妨害されての、あまり気分の良くない寝起き。
 
  腕を伸ばして、音の発生源を軽く叩く。
  命中!感触ですぐにわかった。騒音の主――目覚し時計はようやく黙りこむ。
 
  もう起きる時間なんだ……早く、用意しないと…。
  まだ寝惚けた頭が、ぼんやりと回り始める。
  ゆっくりと上体を起こしながら、パジャマのボタンに指をかけようとした、瞬間。
 
  用意?
  一体何の?

  全てを、思い出してしまう。

 
  ……今日は、休みなんだ。
  今日だけじゃなくて、明日も明後日も、ずっとずっと。
  私は卒業して、屋上も、学食も、みんなもう思い出の中のこと。
  おかしくて、寂しくて、やりきれなくて……、
 
  これ以上考えてしまうのが嫌で、またお布団に潜り込んでしまう。
  まだ半分寝てるような状態だったせいか、すぐに思考が途切れがちになってくる。
  心地よい夢うつつ気分、その中でふと生まれたある疑問。
 
  なんで目覚しが鳴ってたのかな…?
 
  いつもの癖で時計のある枕元に手を伸ばしてから、
  もうセットする必要もないって、痛いほど実感して……。
 
  再び押し寄せてきた眠気は、私にそれ以上の思考を許さなかった。
 
 
     ………。
     …………。
     ……………。


「――みさき、みさき」
  ゆさゆさと揺すられる。
  何も考えずに済む至福の時は、ほとんど続かなかった。
 
「な〜に〜」
「な〜に〜、じゃなくて早く起きなさい」
  呆れたようなちょっと怒ったようなお母さんの声、どうも雲行きが怪しかった。
  お布団に包って防御態勢を整える。

「まったくこの子は……」
  少しの間黙っていたか思うと、
「朝ご飯抜いて『飢え死にしそうだったよ〜』なんていうのは、みさきでしょう」
  ふにゃ〜、とした声で私の真似をする。

「私そんな情けない声出さないよ……ご飯?」
  まだ頭がボーッとして、状況は掴めなかったけれど
  ご飯抜きというのは只事じゃない、もそもそとお布団から這い出る。

「うぅ〜、今日ぐらいゆっくり寝かせてよ〜」
「珍しいわね、いつもなら這ってでも学校に行きたがるのに」

  ……何、言ってるんだろう?
「もう、学校休みだよ」
「何寝惚けてるの、今日はまだ水曜日でしょう。いくら勘違いでも気が早すぎるわよ」
「すい…ようび?」
  当たり前の言葉が、聞き慣れない外国語のように響いた。
  間を置いてから、やっと理解する。
「違うよ今日は木曜……そんなことじゃなくて、もう学校、関係無い…から」
「受験しないからまだ毎日学校に行けるって喜んでたの、みさきじゃないの」
「それは嬉しいに決まってるけど…卒業したら、もう行けないよ……」
  どうも話が噛み合わない。
 
「ほんとに寝惚けちゃって、卒業式なんてまだ2週間も先じゃないの」
「えっ!?」
  到底信じられない言葉が飛び出した。
「お母さん、今日何日っ?」
「えーと、17日だったかしらね」
  私の勢いに気圧されたように即答する。
  だけどその答は……。
 
  起きて以来ずっと感じてた食い違いが、ようやくはっきりとした形を成す。
 
「17日…17日って、2月の?」
「そんなの決まってるでしょう」
「嘘――」
  何がどうなってるのか、わからなかった。
「こんなことで嘘ついてもしょうがないでしょ、早く顔洗ってきなさい」
  背中がポンっと、軽く後押しされる。
 
「…うん」
 
  部屋を出ててしまうと、突然知らない場所に放り込まれたみたいな気がして、壁をなぞって慎重に歩く。
  でもここは、やっぱりよく知ってる我が家で……。
「あんまり寝てばかりいるから、2週間分も夢見るのよ」
  背中に呆れたような声が降ってきた。
 
  夢?
  あの寂しさや喪失感が、全部?
  遠い場所への引越しを明日に控えた子供みたいに怯えて、
  大切な場所も、友達も、みんな無くして…。
  夢なんかのはず、なかった。
 
  蛇口から流れ出る水は冷たく、すぐに手の感覚がなくなってしまう。
  それを掌で掬い、思い切って顔を浸す。
 
  ……ひょっとしたらからかわれてたのかもしれない、一瞬そんな考えが浮かぶ。
  けど、お母さんが私にあんな嘘をついてるなんて、絶対に思えなかった。 
 
  今日が昨日あった卒業式の2週間も前、そんなこと納得出来るはずない。
  ……でも今の私には、それを間違ってると言い切ることが出来なかった。
  もう一つの不可解な事実が、自分自身の記憶さえ信じられないものにしていたから。
 
  今までのことを冷静に思い返して突き当たった、理屈に合わない“ずれ”
 
  “昨日会った浩平君”は、私のよく知ってる浩平君だった。
  つまり、
 
  今朝起きる迄の記憶からは、浩平君に関するものが完全に抜け落ちていた。
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
タイトルからバレバレっぽいですけど、俗にいう「時間物」とか「やりなおし系」のお話です。
個人的にそういうの好きなんです……けど、
主に私の文章力の問題と強引な展開のせいで、かなり分かり辛いと思います(汗)
 
+この辺から下書きも切れ切れな上、そろそろ学校のレポートも書かなきゃいけないので、
(短い上)何時になるかわからないんですけど、気長にお待ち下さると嬉しいです。
 
WTTSさん、こんなSSにご丁寧にメールで感想下さりありがとうございました、嬉しすぎです。
なんかとんでもなく自己満足なことしてる気がしてきて、
読んで下さってる方一人も居なそうとか、もう投稿しない方が良いんじゃ、って感じだったもので特に。
 
それと僅かながら感想などを。
 
・壱弥栖さん
>感想〜浩平とNTとザッキーと〜
感想ありがとうございます、感激です〜
浩平なんて酷いことを……でもみさき先輩、密かにZ見てたんですね(笑)
ザッキーは99じゃ消えちゃったみたいでちょい残念っす。
 
・Matsurugiさん
>真夏のONE Phase#8
最後の方、ハラハラしながら読んでました。
亮吾と澪、お互いの距離が少しずつ近づいてく様子がなんとも心暖まりました。
台詞もひとつひとつキマってて格好良いっす。
 
・シンさん
>GOGO繭ちゃん
油断してるといずれ想像以上の成長を遂げ、浩平の制御さえも超えることになり
↓の澪のようになるんじゃ、とか思ったの私だけでしょうか(笑)

>魔の帰還
EDの澪笑顔CG想像すると、滅茶恐いです。裏で密かにそんなことが起こってたとは。

・北一色さん
>髭先生の華麗な生活
いつもはその恩恵に授かってるのに、まさかこんな落とし穴があったとは。
流石、生徒の半分がペンギンとすりかわっててもだろう、だけのことは。
 
・PELSONAさん
>前を向いて歩こう
ふと、完全無視されるのと、滅茶苦茶嫌がられるのどっちが良いんだろう、とか。
……まぁこの場合、なんか茜も(苛めるの)楽しんでるみたいですし、南君が幸せならそれはそれで。
 
・いちのせみやこさん
>ダーツ
何でフレン○パークなのかと思ってたらこのオチですか、爆笑。
確かに瑞佳の気持ちもわからないではないですけど。
 
・から丸&からすさん
>未来
重いですね。続き楽しみなんですけど、これってもしかして………。
違うのかもしれないですけど、もしそうだとしたら、なんかごめんなさい(汗)
…………しかし、私のSSが一層ヘボく見えることになりそうな(爆)
 
・犬2号さん
>月とネコキャット団・2
別に猫嫌いじゃないのに、清練の場面ではあまりに真に迫る描写で寒気しました。
しかもその後抜け毛が口の中に残って……ああああ、想像するだけで嫌だぁぁぁっっ(爆)