落ちたくまさんクッキー  投稿者:壱弥栖


「くまさんだって、だっさ」
 広瀬が七瀬のクッキーを一瞥して言った。
 ぐっ……
 知らず知らずのうちにオレは拳に力を込めていた。
「あ、あはは、やっぱりくまさんはださかったよね」
 愛想笑いを浮かべる七瀬。
 なんであいつは我慢出来るんだ。
 二人のやり取りで張り詰めた空気の教室内。
 その中で広瀬はクッキーを一つ摘み、ゆっくりと口に持っていく。
 そして僅かにかじると。
「まっず、返すわ」
 そう言ってくまさんクッキーを床に投げ捨て、手の袋を七瀬に放った。
「あ……」
 受け取れず、床に散らばるくまさんクッキー。
 オレの理性がもったのはここまでだった。
 我慢の限界に達した七瀬が何か言おうとしている。
 その矢先に、ブチきれたオレが叫んでいた。
「いいかげんにしやがれぇぇぇ〜〜〜!!!」
 きょとんとした顔の七瀬と部外者は引っ込んでろといった顔の広瀬。
「何よ、折原は関係ないでしょう」
 そういう広瀬にオレはゆっくりと顔を向けた。

 びくっ

 広瀬の体が僅かに震える。
 ふん、いくら後悔しようがもう遅い。
「このオレに関係ないとは、よく言えたもんだな……」
 そう言いながらオレはゆっくりと近づくと、散らばったクッキーを拾い集めた。
(ひ、広瀬さん早く逃げて…)
 長森が小声で広瀬に話しかけている。
 だが、オレはさっと立ちあがると視線で広瀬を射すくめた。
 ふしゅー
 吐く息がそんな音を立て、オレの体からは今にもどす黒いオーラが溢れてきそうだ。
「ひっ……」
「さて、この世界くまさん愛好会 第50代会長折原浩平の前で……
 くまさんクッキーを侮辱するとはな……その罪、万死に値するぞ」
 ばき、ぽき、と拳を鳴らしながらオレはにやりと笑った。
「ちょ、ちょっと、女の子を殴る気?」
「悪に男女の区別はない」
「う……」
 たじろぐ広瀬。
 助けを求めて長森にすがりついた。
「ちょっとあんた幼なじみなんでしょ、なんとかしてよ」
「ごめん広瀬さん……一旦ああなった浩平は止まった試しがないんだよ……」
 絶望に染まる広瀬。
 オレは最後に聞いてやる。
「さて、なにか言い残す事でもあるか?」
「あんた……今まで何人こんなくだらない理由で葬ったのよ」
「ふっ、お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」
「あ……あ……」
「それじゃあ広瀬、お別れだ」
「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!」






『……県中崎町のこの高校でで女子高生の謎の失踪事件は起きました』
『学校の話によるとその日はテスト最終日できちんと彼女は出席をしており』
『行方が分からなくなったのはその日の放課後からのようです』
『彼女の安否が心配なのでしょう』
『クラスメートも一様に口を閉ざし、校内には暗い雰囲気が漂っています』
『警察ではなんらかの事件に巻込まれたと見て捜査を進めています』
『以上、現場からのレポートでした』








「ちょっと! あたしのシナリオに行くはずじゃなかったの!?」