NANASE−南の大決戦−  投稿者:壱弥栖


 −前回のお話−
 某年某日、突如現れた謎の巨大生物ARUZII。
 人類はアルジーによって滅亡の危機に瀕した。
 だが、折原長官の決死の作戦によりアルジーは殲滅。
 折原長官もそのおりに永遠の世界へ旅立ち、世界に平和は訪れたかに見えた。
 だが、対アルジーに用いられた最終兵器は嫌っていうくらいに健在であった……。



「奴は…まだ殲滅できないのかね?」
「残念ながら……アルジーを八つ裂きにした様な奴です。
 自由になった奴に我々が対抗する手段は…ありません」
「今度こそ人類は滅びるのか……奴の……NANASEの手によって」



    N A N A S E

      −南の大決戦−



 解き放たれた七瀬……いや、ナナセは本能に従うかのようにその攻撃の手をある場所へ向けた。
 ……そう、女子校、女子寮といった「乙女」の多く生息する場所だ。
 まるでそれらを消す事で、残った自分が「乙女」になれるとでも信じているかのようだった。
 毎夜、破壊された瓦礫の山でナナセの咆哮が響く。
 その声は、聞く者を恐怖におののかせた。



「しかし幸いといえば幸いではないでしょうか?
 ナナセはあれほどの力がありながら矛先を乙女の生息地にしか向けていません。
 ナナセが全ての施設を破壊するまで、かなりの時間を我々は得る事が出来ましたし」
 暗い空気に支配された対ナナセ対策本部で、若い仕官が発言した。
 だがその途端、別の若い男が立ちあがり勢い良くまくしたてた。
「何を馬鹿な事を! 貴様、施設の全滅が何を意味するか分かってないのか!?」
 なおも彼は続ける。
「乙女の花園の壊滅…それはいずれ乙女の絶滅を招く。
 清純なる乙女の消えた地上で、貴様は生きていけるのかっ!?」
「……!!」
 その発言に先ほどの若い仕官ははっとすると、顔を曇らせうつむいた。
「まぁ落ち着き給え、住井二尉。
 君の言ってることが正しいのは我々も分かる、だが現実問題として打つ手がないのだ」
「……このまま待つだけなんでしょうか」
「今の我々に出来る事はせいぜい祈る事……それくらいだよ」
 そのまま室内は重い沈黙に包まれる。
 何かしなければいけない状況で、何もする事が無い。
 そんな焦燥感の中、住井に出来る事は……やはり祈る事だけだった。



 とある町、商店街近くの公園。
 一人の女性がベンチに座っている。
 腰まであろうかという黄金色の髪のその女性は、ここ最近は一日中ここですごしていた。
「浩平…」
 彼女は、里村茜はぽつりと呟く。
 もう幾度この呟きを口にしたことか。
「浩平…、また…また私をひとりぼっちにするんですか?」
 再び、恋人の名を呟く茜。
 無力な彼女には、ただ浩平の無事を祈り、彼の帰りを信じて待つ事しか出来なかった。
 今日もまた、茜はこの公園で待っている。
 昔、彼が帰ってきたこの公園で。


 どくん


 どこかで、なにかが胎動した。
 茜は。
 小人でも双子でもなかったが。
 それは。
 彼女の祈りにこたえ。
 確かに動き出していた。



 燃え盛る建物。
 粉みじんとされたコンクリート。
 今夜もまた、乙女の花園が一つ壊滅していた。
 その惨状で今日もナナセが吼える。
「ッテギャアアアァァァァァァ!!」
 そこに。
 突如突風が起こった。
 ビュゥゥゥゥ〜〜〜〜〜!!!
 そして巻き起こる砂煙の向こうから、さっそうとそれは現れた。
「ゥゥ……誰っ!?」
「里村さんから悲しみを取り除くため……折原帰還の障害となっているナナセさん!
 君はこのミナミが倒させてもらう!!」
「あんたはっ!」
 突然の見知った顔の登場に驚きの声を上げるナナセ。
 ミナミはナナセに一撃を決めるべく、空高々と舞い上がった。
「男ミナミ、里村さんの為なら空だって飛んでみせる!!」
 理不尽な事を言いながら、理不尽に宙を舞うミナミはそのままナナセへ突進した。

 ドゲシッ!

「ぐはっ」
 そしてあえなく叩き落とされた。
「ふん、何しに来たのかしら」
「ま、まだまだ……男ミナミ、里村さんの為なら何度でも蘇る!!」
「しつこいわね、次は息の根を止めるわよ」
 しぶとく立ち上がるミナミに対しナナセは凶悪に目を光らせた。



 その頃、住井はナナセのいる現場に向かって車を走らせていた。
 ミナミが無謀な挑戦をしていると聞き、思わず飛び出したのだ。
 そこで彼が目にした物は……執念、そうヒトの執念だった。

 グシャ!

「うおおお! 男ミナミ、里村さんの為なら何度でも蘇る!!」

 ガスッ!

「くぅぅぅ、男ミナミ、里村さんの為なら(後略)」

 ドガガッ!

「うがぁ! 男ミナミ、里村さんの(後略)」

 ベキッボキッ!

「おりゃあ! 男ミナミ(後略)」

 ………………………………

 …………………

 …………

 ……

「はあ……はあ……」
 息を荒くするナナセ。
 そして、ずたぼろのミナミが再び立ち上がる。
「まだだ、まだ終わらんよ……」
「ミ、ミナミ……」
 住井は思わずその名を呼んだ。
「ああ、住井か」
「勝ち目などないだろう……なのになぜ、なぜお前は立ち向かう!?」
「知れた事だろ、全ては愛のため。例えそれが……」
 ミナミの目尻がキラリと光る。
「報われない物だとしても」
「ミナミ……お前って奴は」
 ミナミは行く、ナナセに向かって。
 住井はその後ろ姿を静かに見送った。
 そして。
 また執念に満ちた戦いが。
 繰り広げられる。



「なんてこった……」
 その戦いはあれから丸一年も続いていた。
 その間ミナミは休む事無く特攻を繰り返しては撃墜され続けた。
 そして、ついにこの日。
 全人類が見守る中。

「お、お、男ミナミ! 里村さんの為なら……何度だろうと蘇るぅぅぅ!!」
「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ……」

 あの「ナナセ」が。

「……こ、こんな奴にアタシが、このNANASEがぁぁーーっ!!」

 地に倒れた。

 ズズズーーーン……

「終わった……のか?」
 呆然と住井が呟く。
「ああ、これで俺も……」
 後を追うようにミナミも倒れる。
「ミナミっ!」
 駆け寄った住井はミナミにそっと声をかけた。
「男だったぜ、見事な最期だ……ミナミ」
 ナナセは倒された。
 その報せに辺りは活気に満ち始めていた。
 世界に、光が広がっていった。
 希望と言う名の光が。



 本日未明、ナナセ倒れる。
 ナナセと戦っていた男はそのまま力尽きた。
 ゴキブリでも象を倒す事の出来る証明のような戦いであった。
 なお、倒れはしたもののナナセは死亡せず。
 現段階で人類にはナナセを抹殺する事は不可能。
 数重のコンテナに厳重に封じ、日本海に沈める事となる。
 なお、ナナセ撃破直後。
 ARUZII殲滅作戦で死亡したと思われていた折原長官の生還も確認。
 以上をもって今回のNANASE危機に関する報告を終わる。





 ごぽ……………………
 ごぽごぽごぽ…………
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「…………ぅぅぅぅ……」