里村茜抹殺指令 投稿者: 壱弥栖
  突然だがここは洞窟を改造して造られた謎の秘密基地である。
「お呼びでしょうか! 総帥!」
  一人の男が敬礼しつつ目の前の人物に話しかけた。
  その言葉にモニターを見入っていた男が振り返る。
「お前を呼んだのは他でもない! まずはこれを見るのである!」
  総帥と呼ばれた男はばさばさと幾つかの雑誌を投げ出した。
「こ、これはっ!」
『女子高生から奥様まで! 今、“主”が大人気!』
『小学生アンケート、今君の一番欲しいものは?“主ぬい”堂々一位!』
『“主”が不況日本を救う! その恐るべき経済効果!』
  さまざまな見出しが躍る。
「これはどういうことであるか!? 我ら世界うさちゃん愛好家連盟の送り出した
  録音機能付き超高性能らぶり〜うさちゃんはどうしたのであるか!?」
「面目ありません! 私の力不足です!」
「広報のお前はな何をしていたのであるかっ!」
「いえっ、この件は私も独自に調査いたしましたっ! これがその資料ですっ!」
  慌てて広報が手元のファイルを差し出した。
「ほう、なかなか手が早いではないか。どれどれ……むむっむむむっ」
「調査の結果十中八九、その里村茜と言う少女が主ブームの大元だと思われます!」
「でかしたのである! 事は我々の命運が懸かっているのである!
  早速我が連盟最強の三幹部を送るのであ〜る!」
「ははっ!」
  ここに人知れず茜に危機が訪れようとしていた。


  その頃の里村茜はというと……
「みなさんにもこの可愛さをもっと教えてあげないといけません」
  それが狙われる原因とも知らず、あちこちで主を広めていた。


  放課後。
  椎名繭は帰宅途中であった。
「みゅ〜」
  学校で茜に貰った主バッチを付けてご機嫌のようだ。
  このバッチは茜の“主”普及アイテムなのであろう。
「君、ちょっといいかね」
「みゅ?」
  一人の中年男性が繭に話しかけた。
  ごく普通の何処にでもいそうな風体の男だ。
「あ〜、はじめまして、私はバニ山バニ夫と申します。どうぞよろしく」
  そう言うとバニ山はにこやかに名刺を差し出した。


  ――世界うさちゃん以下略の秘密基地――
「ところで総帥! 三幹部とは一体どういった方々なのですか!?
  私は名前以外はまったく知らないのですが!」
「よろしい、我輩が直々に教えてやろう。まずはバニ山バニ夫である。
  彼奴は若者ウケを狙いバニ山バニ夫の名前で立候補、
  見事に落選した所を我輩がスカウトしたのである。
  元政治家だけにその話術はなかなかのものであるぞ」
「なるほど! ここのメンバーに元政治家がいたとは驚きました!」
「うわははははは、そうであろうそうであろう。
  彼奴にかかれば誰であろうと懐柔されること違いなし! うわははははははははっ!」


「そのバッチから察するに、里村茜の関係者だね。
  悪いことは言わない、今すぐうさちゃんに替えたまえ」
「みゅ? みゅ?」
「まあ、そう言わずに。いいかね例え主がそういう効果を持っているとしてもだ……」
「みゅー…みゅ!」
「うーん、確かに今の日本経済にとっても正しい選択かも知れないがね……」
「みゅ、みゅ〜」
「そうか、ならこちらの誠意を見せよう」
  バニ山が懐から札束を出した。
  難航した説得に業を煮やしたのか、はたまた繭から暗に要求してきたのか……
  それは繭の言葉を理解できない者には永遠の謎だ。
「どうかね、これで手を打たないか?」
  とにかくバニ山は繭の手に札束を渡そうした。
  とんとん
  と、後ろから何者かに肩を叩かれ邪魔される。
「ああ、今取り込み中なんで後に……って警察?」
  振り返ったバニ山の前には恐い顔をした警察官が立っていた。
「あんただな。真っ昼間から小さな女の子に援助交際迫っているという破廉恥な親父は」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 私はこの子にその……」
(くっ、組織の活動を口にするわけには……)
  バニ山が一寸躊躇する。
「そう、世間話をしていただけで……」
「嘘をつけっ! その手に持っている札束は何だ!
  まったく、通行人から通報を受けて来てみれば……たっぷり搾ってやるからな!」
「違いますって。ほら、あの子に聞いて……あれ?」
  バニ山の背後にはすでに繭の姿はない。
「お前が誘っていた子ならさっさと逃がしてあげたよ。
  ぐだぐだ言ってないでとっとと来い!」
「違うっ、違うんだぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!」
  連行されるバニ山。
  その背中には組織の為に全てを尽くした、そんな達成感が……あろうはずもなかった。
「違うってのにぃぃぃ〜〜〜〜〜〜!」


  なんとか第一の脅威は去って行った。
  だが茜を狙う者はまだ二人残っている。
  はたして彼女の運命や如何に!?
  事態はいやがおうにも盛り上がっていく。
  だが当の本人はまだ狙われている事すら知らないのであった。