甘い別れ 投稿者: いいんちょ
「ほんの少しでも時間があるのなら…」
「……」
「私の話につきあっていただけませんか…?」
周りの誰からも忘れられていたオレは、唯一オレのことを覚えていてくれている、一番大切な人と最後の時間を過ごそうとしていた。
「見ず知らずのオレでいいのか…?」
「…はい」
ただ、お互いを思いやる気持ちがままごとのような、他人のふりという状態を続けさせていた。
茜は、オレに涙を見せぬために…。
オレは、これ以上茜に悲しみを背負わせたくなくて…。
互いが互いを思いやる気持ちがとらせた行動。
他人から見れば、それは馬鹿げたことかもしれなかった。
でも、その行為は優しさに満ち溢れている。
「…いつ、居なくなるか分からないけど…」
「…はい」
そのまま別れていたなら、これ以上茜に悲しい思いをさせずに済んだだろう。
でも、茜は立ち去ろうとするオレに声をかけた。
「……」
「……」
「…それでも、いいのなら…」
「…はい」
「分かった」
そして、オレもそれに応えた。
オレは振り返り、茜の元へと歩み寄る。
「……」
茜が、そのオレにそっと傘をさしだして迎えてくれる。
「オレが持とうか…?」
「…はい」
ピンクの傘を受け取り、空き地の真ん中に立つ。
背中越しに、冷たく濡れた服越しに、お互いの存在を感じる。
空き地の真ん中で、
オレと茜が出会った場所で、
未だ雨の降り続ける悲しい場所で、
最後の瞬間まで…。
最後の、本当に最後の一瞬まで…。
オレと茜は一緒に居る道を選んだ…。
余計に悲しくなることを知りながら…。
茜に悲しみを背負わせることを知っていながら…。
オレは…やっぱり最低の男だ…。
それでも、茜と、この世でもっとも大切な人と少しでも長く一緒にいられるなら…。
「…ありがとうございます」
すぐ側で、茜の声。
「……」
「私のわがままにつきあっていただいて」
「…それで、何の話をしようか?」
「…クラスメートの話です」
「クラスメート?」
「…大嫌いなクラスメートです」
「そうか…」
「…はい。
わがままで…嘘つきで…自分勝手で…子供っぽくて…人の気持ちなんか何も考えなくて…」
「……」
「それなのに…どうして…好きになっちゃったんでしょうね」
「……」
「でも、もうその人は居ません」
「……」
「二度と、会えません」
「……」
「…分かっているのに…理解しているはずなのに。
もう、その人には会えないって分かっているはずなのに。
それでも…大好きで…。どうしようもなく好きで…。
それで、こんな所に立ってて…」
「……」
「…余計に悲しくなって…」
「……」
胸が締め付けられる。
オレは自分の不甲斐なさが腹立たしかった。
「渡したい物もあったんですけど…」
「渡したい物?」
「今日、そいつの誕生日なんです」
「そうか…」
そんなことすっかり忘れてたな…。
「ちゃんと、プレゼントも用意したんです」
「…それはそいつもきっと喜ぶな…」
「…はい」
頷いて、微かに声が落ちる。
「…でも、渡せなかった」
「気持ちだけでも嬉しいもんだ」
「…でも、せっかく買ったのにもったいないです…」
「確かにそうだな…」
「…だから…これは、あなたにあげます」
「…いいのか、オレで」
「…はい。話を聴いて貰ったお礼です」
「…そうか」
横から、そっと差し出された茜の手。
その上に乗った小さな箱。
かわいらしい包装紙に包まれて。
ピンク色のリボンを丁寧に結んで。
雨の滴を浴びて、ぐしゃぐしゃになってたけど…。
「そういうことなら、遠慮なく貰うよ」
「…はい」
ピンク色の箱を、傘を持っていない方の手で受け取る。
傘の端に溜まった水滴が降り続ける雨と共に流れ落ち、ぬかるんだ地面や土色に濁った水溜まりに吸い込まれる。
「…悪い。濡れなかったか?」
「大丈夫です…」
「…そうか…」
「…はい」
「…今、開けてもいいのか?」
「…はい」
オレは傘を肩にもたれさせ、両手でピンクのリボンをほどいた。
雨を吸い込んでふやけた包装紙を破らないように剥がして、中の箱を取り出す。
「できれば、食い物がいいな」
「…食べ物?」
「ああ、実はここ数日ろくに食ってないんだ。
だから、食べられる物だと嬉しいな」
「…私は、食べられないこともないです」
「そうか…?」
「…ちょっと甘いですけど」
「まあ、オレは比較的甘党な方だと思うけど」
がさごそと、白いボール紙の箱を開け、中身を取り出す。
「…確かに、これはちょっと甘いかも知れないな…」
「…はい」
「…これ…本当に食べなきゃ駄目か…?」
「…はい」
「相当無理をしないと駄目だな…」
「…おいしいです」
「どうしても食べなきゃ駄目か?」
「できれば、全部食べて下さい」
「…わかった」
「…はい」
そう言って、オレはその物体を頬張った。

ころころ…。

どこからか、カメレオンのおもちゃの音が聞こえた気がした。
一気にオレの存在が希薄になる。
「……」
背中越しに、茜の抱いた不安が伝わってくる。
「大丈夫だ。ちゃんと食べるって」
ぱくっ。 

えいえんはあるよ…
    ここにあるよ…

必ず、食べるから……
「……浩平…?」
背中から温もりが消えて…
「…嫌だよ…」
支えを失った傘が、風にあおられ舞い落ちて…
「…嫌だよっ……浩平…っ!」
ワッフルも、雨にさらされて…
「…どうして…」
浩平の姿は、消えていた…
「…どうして…私を置いていくんですか…」
「どうして…ひとりぼっちに…するんですか…」
…あの時と同じ…
…あの時と、あの遠い日の…
…同じ場所…
…どうすることもできずに…
…大切な人を失って…
…最後の温もりさえも、降りしきる冷たい雨に流されて…
…また同じ…
………
…でも…
…あの時と一緒でもないか…
…だって…
…あの時よりも…
…涙が…止まらないもの…

**************

いいんちょ「はい、オレが悪かったです」
七瀬改「なによ、急に」
いいんちょ「ONEの発売1周年記念で何か書こうと思ったんだけど暇がなかったんだ…」
七瀬改「で…?」
いいんちょ「HPに極秘裏に置いてあったSSくらいしか投稿できるものが…」
七瀬改「で…?」
いいんちょ「『茜ちゃん忍法帖』の第2話と第3話は内容がアレだし…。
『闘えっ!!七瀬改』は先が見えてないから予告が書けないし…」
七瀬改「で…?」
いいんちょ「ううっ。オレが悪かったよぉ〜」
マッド瑞佳「今日の一発目っ!S玉県にお住まいのねむり猫さんからのお葉書だよっ!」
いいんちょ「なんだ…?」
マッド瑞佳「お便りのコーナーを作ってみたんだもん」
いいんちょ「勝手に作るな、勝手にっ!!」
七瀬改「こいつは無視するとして、続きは?」
マッド瑞佳「うん。『闘えっ!!七瀬改のヒロインって誰ですか?』だって」
いいんちょ「それは核心だ。言えない…」
SE:どかっばきっどごぉっ!!!
いいんちょ「歯が折れてんすけど…」
七瀬改「はい、答えて答えて」
いいんちょ「まあ、各話で改造されるキャラがヒロインかな」
七瀬改&マッド瑞佳『わたしじゃないの?』
いいんちょ「瑞佳は今の所ヒールだし…七瀬は主人公だ。
ヒロインはやっぱり守られるようなキャラか、助けられるキャラじゃなきゃな」
七瀬改「ヒロインって、女主人公って意味もあるけど…?」
いいんちょ「え…? じゃあ、なおさらお前はヒーローだろ?」
七瀬改「どういう意味よ…」
いいんちょ「いや、深い意味はないが…って、待て、話し合おう…ってぎゃーーーっ」
マッド瑞佳「ほんと、進歩ないよねぇ」
広瀬「こんなところでいいかしら、まね…じゃなかったねむり猫さん」
いいんちょ「なんで広瀬が…?」
マッド瑞佳「どうでもいいけど、あとがきの方が長くない…?」
いいんちょ「(ぐさっ)そ、そんなことはないぞっ」
七瀬改「だいたい、誰もあんたの事覚えてないわよね。ここのクッキーも消えてるし…」
いいんちょ「そ、そんなことはないぞっ」
マッド瑞佳「そろそろ終わりの時間だよっ!」
七瀬改「ほら、HPの宣伝するんでしょ?」
いいんちょ「はい、1月中に作る作るとか言ってたくせにやっと最近正式公開しました。
ご用とお急ぎでない方は一度覗いてやって下さい。
メインコンテンツは…一部では日記とか巫女さん襲撃記がウケてますが、
一応SSです。
掲示板とかカキコないし(T−T)」
七瀬改「泣くなっ!!!」
マッド瑞佳「時間だよっ」
七瀬改「え? じゃあ」
七瀬改&マッド瑞佳『またね〜☆』
いいんちょ「次はあるのか?」
七瀬改「(ギロ)なんか言った?」
いいんちょ「なんでもないです…」

http://tctcc.cc.toyota-ct.ac.jp/~d79802/