闘えっ!!七瀬改Vデー編 投稿者: いいんちょ
闘えっ!!七瀬改Vデー編
『ヴァレンタイン大作戦』

「椎名、知ってるか?今度の日曜はバレンタインだぞ」
「みゅっ?ばれんたいん?」
「そうだ、バレンタインだ」
ある日の放課後、教室に残っていた浩平は繭にバレンタインと言う物を教えていた。
「…てりやき……」
「バレンタインにてりやきはないぞ」
「みゅ〜…」
残念そうな繭。
「よし、今日は特別にバレンタインについて教えてやろう」
「みゅ?」
「戦後間もないころ、日本は食糧難だったんだ。
皆、何とか生きようと必死だった。でも子供にお腹一杯ご飯を食べさせる事もできなかったんだ」
「そんな時代に生まれなくて良かったよ〜」
「のわっ!」
「みゅっ」
いつの間にか、みさきが一緒に話を聞いていた。
しかもその隣には澪までいる。
「お腹一杯食べられないなんて不幸だよ」
「何で先輩がいるんだ…?」
「澪ちゃんがね、今度の舞台の詳細を浩平君に教えたいって言うから教室を教えてあげたんだよ」
『そうなの』
「………」
「どうしたの、浩平君。つづきは?」
そのみさきの声に応えて話を続ける折原。
「あ、ああ。どこまで話したっけ?」
「お腹一杯ご飯が食べれないってところだよ」
「そうか。そんな日本の子供たちを哀れんだ進駐軍のヴァレンタイン少佐が、だな。
子供は国の宝だ。たとえもともと敵国であった国の子供たちであっても、ひもじい思いをさせるのは忍びない。
せめて、自分だけでも日本の子供たちに何かしてあげられないだろうか。
と考えて、基地の近くに住んでいた小学生309名にチョコレートを配ったんだ。
それが52年前の2月14日なんだ。
それ以来毎年2月14日に『ぎぶみーちょこれーと』と叫ぶと何処からともなく…」
と、熱心に語る折原をじーーっと瑞佳と茜が見ていた。
その横では七瀬が溜め息を吐いている。
「何処からともなく……」
折原はその言葉を繰り返す。
「浩平、嘘教えちゃ駄目だよ」
「……続きは?」
優しい瑞佳の注意と厳しい茜の言葉。
「あーー……」
あてもなく視線をさまよわせる浩平。
「…チョコレート、欲しいの?」
七瀬が聞いた。
「まあな…」

繭は家に帰ると洗濯物を取り込んでいる女性に話しかける。
「お……おかぁ…さん…」
繭の継母、華穂さんは振り返った。
「あら、どうしたの繭」
「進駐軍ってなに?」

次の日―
カシャァッ!
カーテンの引かれる音と共に朝の光が部屋を満たす。
「ほらっ、起きなさいよーーっ」
「うーん…。長森、実はおまえはだよもん星人でオレを改造しようとしてるんだーーっ!」
「馬鹿なこと言ってないで、起きてよーっ!」
「どうせならカッコ良く改造してくれよ」
はぁっとため息を吐く瑞佳。
「そんなに改造して欲しいなら、今度改造したげるよ」
………。
「…すまん。オレが悪かった」
そう言ってもぞもぞと布団から起き出す浩平。
瑞佳はそんな浩平をもじもじしながら見ている。
「ん…?どうした長森」
「えっとね、えっとね…」
それだけ言って更に赤くなる瑞佳。
耳まで真っ赤になったその様子は、まるで苺のようだ。
「って、時間っ!」
「あっ!」
既に洒落にならない時間である。
今日も今日とてマラソンをする2人だった。
(チョコ渡し損ねちゃった…。学校じゃ人目があるから、帰りに渡そうかな)
走りながら瑞佳は考える。
(…でも、浩平もてるから誰かがチョコあげるかもしれない…)
考えながら走っているせいで浩平より遅れ始めているが瑞佳は気にしない。
優しい浩平はきっと自分を待ってくれると信じていた。
(そうだよ。浩平を起こさなければ良かったよ。浩平が学校に来なければ私以外チョコは渡せないもん)
そこまで考えた時、瑞佳の灰色の脳細胞が回転を始めた。
懐から携帯電話を取り出す。
「住井君、聞こえる?」
『どうしました、プロフェッサー』
「ちょっとお願いがあるんだけど…」

「長森、遅いぞっ」
「ま、待ってよー」
瑞佳とそんなやり取りをしていた浩平が昇降口に入る。

ばさあっっ!!

その浩平に投網がかぶせられた。
「どへーっ。なんで投網が…?」
「悪いな、折原。お前に恨みはないんだが…」
住井と南たちが姿をあらわす。
「命令だから仕方ない…」
住井たちは浩平を簀巻きにしてどこかへと連れ去った。

「おはよう、七瀬さん」
「おはよ、瑞佳」
七瀬はふと気付く。
「…そう言えば折原は?」
「え?あ、うん…。なんか今日は体調悪いから学校来ないって」
「なんだ。せっかくチョコレート恵んであげようと思ったのに」
(良かった。間一髪だよ)
「あの子もいないわね…」
「あの子…?ああ、繭。そう言えばいないね。
いつもならもう七瀬さんのおさげにぶら下がってる時間なのにね」
「…瑞佳、なんか言動が折原みたいよ」

「だれか、助けてくれ〜〜っ」
木枯らしが吹きすさぶ中、浩平は屋上から吊るされていた。
「お前がいなければ、俺達もチョコを貰える可能性が出てくるんだ。
悪く思うな、折原」
「思うわぁっ!!!」

休み時間――
「ありがと、住井君。これはお礼だよっ」
そう言って瑞佳は住井にチョコレートを渡す。
「ああっ。長森さんのチョコレート…」
住井は幸福絶頂だ。と、
バララララッ
どこかから銃声が聞こえてきた。
「なんだ?」
住井が窓を覗く。
「ぐはっ!」
途端に住井は倒れ伏した。
「どうしたの?」
「だ、だめだ長森さん…」
住井が必死に止めるより早く瑞佳は窓を覗いた。
「何もないよ?」
「え?そんなはずは…」
どこからか声が聞こえた。
「聞こえた?」
「うん」
みゅ〜〜〜。
声は確かにそう聞こえた。
バラララララッ。
次いで、銃声。
「こ、こっちに来るよっ」
「みゅ〜〜〜♪」
廊下の端に姿をあらわした繭は9mmパラペラム弾を撒き散らしながら突進してくる。
「繭っ、何してるんだよ〜〜」
「に、逃げましょう、プロフェッサー」
瑞佳は住井に連れられ取り敢えずその場を後にした。

「ふう〜。最近寒いからお手洗いが近くなちゃうわ」
柚木詩子はトイレのドアを閉めた。
「って、なんかおじいちゃんみたいね…」
そんな事を言いながらスカートのホックを外す。
「この冬の便座がまた冷たいのよね〜☆」
そして便器のふたを開けた。
「…詩子、浩平見ませんでしたか?」
「きゃあっ!!」
便器から顔を覗かせた茜に詩子は腰を抜かす。
「…詩子、浩平を…」
「ぐすっ」
詩子は半泣きだ。その表情を見て茜が言う。
「詩子、かわいいです」
「うぅっ。茜がびっくりさせるから、漏らしちゃったよ〜〜」

「助け呼んでも誰も気付かないだろな…」
簀巻きの浩平は、蓑虫の気分を満喫している。
「好きで満喫してる訳じゃないぞ」

カシャン。
住井は懐から出したCz75に弾丸を装填した。
壁越しに廊下を覗くようにして様子をうかがう。
「住井君、相手は繭なんだよ」
「でもプロフェッサー、やらなきゃやられます」
「だからって…」
瑞佳はまだ納得がいかない。
「みゅ?」
繭が何かに気を取られたのか、弾丸の雨が止む。
「今だっ!!」
住井が、南が、中崎が、南森が繭を取り押さえようと飛び掛かる。
「みゅっ」
しかし、住井の掛け声でそれに気付いた繭は脅えながら…。
バラララララッ。
H&K MP5が火を噴いた。

「…いませんでした」
「こっちにもいなかったよ?」
女子トイレで落ち合った二人はお互いの情報を交換し合う。
交換できる情報はなかったが…。
バラララララッ
「何の音?」
「これは…MP5の掃射音です」
だから、どうして分かるんだ、茜。
「廊下からです」
「騒ぎが起きてるって事は折原君いるかもね」
そう言って二人は廊下へと向かった。

「…なんか、すごい事になってるわね」
騒がしい廊下を覗きながら七瀬は言った。
廊下の端には住井たちが気絶している。
防弾チョッキのおかげで命に別状はないようだ。
時折、パラペラム弾が鼻先をかすめる。
と、階段の方から走ってくる女性があった。
川名みさきだ。
その背にはガスボンベのような大きな入れ物を背負っている。
「あれって…チョコかしら?」
みさきは七瀬達の教室までやってきた。
と、入り口にいる七瀬にみさきが気付く。
「えっと…。多分七瀬さんかな?」
「良く分かりますね、先輩」
「七瀬さん、七瀬改と同じ匂いがするからね」
びくぅっ!
「ねえ、浩平君いる?」
「お、お、折原なら今日は来てないみたいですよ…」
「そうなんだ。残念だよ」
みさきが心底残念そうにそう言った時だった。
バララララッ
掃射音が響き、それがみさきを襲った。
何発もの弾丸を受けたみさきは倒れ込む。
「先輩っ」
七瀬はそれを受け止めた。
「大丈夫ですか、先輩」
「うぅっ、痛いよーーっ」
そう言って銃弾が何発も当たった額を抑える。
痛いで済むのか?
「大丈夫だよ、七瀬さん」
そう言いながらもみさきはうずくまったままでしばらくは動けそうにない。
しかも、廊下の反対側の柱の影には機銃掃射によって瑞佳が取り残されている。

何者かの機銃掃射によってみんなに迷惑がかかっている。
これを何とかしなきゃ、乙女がすたるって物よね。

ナレーション『迷惑……社会生活を営む上で最低限のマナーを守れない奴を見ると体内の漢回路が働き、七瀬留美は七瀬改へと変身するのだっ!』

「ちょっと、そこのあなた。これ以上機銃掃射で人に迷惑をかける気ならこの改造人間七瀬改が許さないわよっ」
びしぃっと決めポーズで言う七瀬改。
「みゅ〜♪」
「って繭っ!!」
機銃掃射がやんだ先にいたのは椎名繭だった。
「みゅっ」
そう言って繭は七瀬改にチョコを差し出した。
「え…?」
「おかあさんが渡せって言ってたの」
「あ、ありがと」
七瀬改は毒気を抜かれてしまう。
ようやく難を逃れた瑞佳がやってくると繭は瑞佳にもチョコを渡した。
「ありがと、繭」
そう言って瑞佳は繭の頭をなでてやる。
「みゅ♪」
「って、なんであんな事してたのよ…」
「こうへいがばれんたいんは『進駐軍』だって言ってた…」
「あのアホ…」
「繭、浩平の言う事信じちゃ駄目だよ」
そんな長森にかけられる声。
「…長森さん」
「え…。あ、里村さん」
「浩平、知りませんか?」
「私も知りたいよ」
何とか回復したみさきが言った。
「こうへいにもチョコ渡せっておかあさんが言ってた…」
瑞佳が言う。
「そう言えばどこ行っちゃったんだろ?」

「鴨の巣へと帰りたる、二つ三つ、三つ四つ連なるもおかし…」
日が暮れ、鳥が群れをなして巣へと帰っていくのを、浩平はうろ覚えの教科書の一説を呟きながら見ていた。
「今日の夕焼けは10点だな…」


*************************

いいんちょ「という訳で七瀬改バレンタイン編お送りしました〜〜
ってなんかあまり七瀬改って感じしないな…」
澪『出番がほとんどないの』
いいんちょ「スマン、忘れてた」
茜「…かわいそうです」
いいんちょ「だって澪と繭を同時に使うなんてオレには難しすぎるんだよ…」
ぽかぽか
いいんちょ「悪かったって…。変わりに澪SS載せとくから」
茜「ところで今日は七瀬さんと長森さんは?」
いいんちょ「…そう言えば見ないな」
澪『きっと愛想尽かしたの』
いいんちょ「お前、見掛けによらず毒舌だな…」

おしまい