午後の授業が始まり、先生が授業を始める。
普段なら聞く気も起きない授業だが、今日は違う。
僕は頭を冷やすために真面目に授業を聞いていた。
と、後ろの席の男子生徒に背中を突つかれる。
「…?」
僕は訝しく思いながら振り返ると一枚の紙を渡された。
広げて見てみる。
『七瀬留美の汗、臭い付きの本校指定の制服あり。価格は競りにて』
それにはそう書かれていた。
そしてその隅には主催者・住井護、制服提供・折原浩平と書かれている。
既に七瀬さんの事で頭がのぼせていた僕は、それを冷やす間もなくその話に乗る事にした。
…ナイスだ、2人とも。
僕は心の友を得た気分だった。
僕はその紙の裏に書かれた暗号を書き写す。
やがて、折原の方へと一枚の紙が到着し、住井の席に金額を示す暗号が掲げられた。
『5万2000円』
それはそう示していた。そしてそれを合図に次々と値段が釣り上がっていった。
『6万』
『6万5000円』
『7万』
『7万5000円』
『8万』
次々に値が上がっていき、それとともに教室の温度も上がっているような気がした。
七瀬さんもまさか自分の制服が競りにかけられているとは思いも寄らないに違いない。
さて、僕もそろそろ書くとしよう。
ここらで一気に大台に乗せて皆の競る気をそぐのだ。
僕は10万と書いた紙に署名をする。
と、
はああぁぁぁっ。
という溜め息が教室内を包んだ。
どうしたんだ?
僕はそう思い住井の席の表示を見る。
『10万』
そこにはそう書かれていた。
ふと、南森がにっと笑っているのが目に入る。
くっ。奴の仕業か。
男子達の中にはがっくりと肩を落とす者が多数いた。
さすがに今の10万円台突入で、脱落者が一気にでたようだ。
僕は紙に書いた10万の文字を16万に書き換えて住井の方へと回す。
やがて値が20万を越えると、ふたりの一騎打ちとなった。
そう。あの、僕の邪魔をしてばかりいる要注意人物・南森だ。
クラス内が、いまや授業そっちのけで、僕たちの争いを固唾を飲んで見守っていた。
そんな中、ふと僕は思った。
なんでこんな事しているんだろう?
七瀬さんの制服を手に入れたところで彼女が手に入る訳じゃない。
制服だけ手に入れたって虚しいだけだ。
そもそも、それで喜ぶような奴は変態だ…。
僕は南森の方を見てみる。
すると、奴は血走った目で何か計算しつつ新たに値を書き込んでいた。
更に何かぶつぶつ呟いている。
…あぶない奴だ。
変態というものはああいうのを言うのだろう。
これは、負ける訳にはいかないな。
この僕がパンピーに競り負けたとあってはプライドが許さない。
それに七瀬さんの制服をいかがわしい事に使うであろう南森の手になど、渡す訳にはいかない。
そして、競り落としたら七瀬さんに事情を言って返して謝ろう。
僕は決意を新たに値段を書き込む。
住井の席に掲げられた現在の値段は49万5000円。
一発で決着をつけよう。
『100万 中崎勉』
僕はそう書くと紙を回した。
僕の小遣いは月たったの5万だ。
だが、3食とティータイムにお金を使う事は皆無だし、欲しいと思う物は大抵買ってもらえるのでそのほとんどは蓄えに回している。
そしてその額は数百万はある。
その内の一部がなくなったところで困りはしないだろう。
どおぉぉぉっ!と教室内が湧いた。
そして南森ががっくりと肩を落としうなだれる。
ふふん。
弁をふるう教師や女生徒たちは、一体何事かと辺りを見回すが、何が起きているか分かるはずもない。
やがて折原から売却決定の通知が送られてくる。
奴はヒーローだ…。
かっこいいぜ…。
そんな呟きがあちこちで漏れてくる。
そう、僕はいつだってヒーローだった。
でも、今は皆に慕われるヒーローでいたいとは思わない。
それよりもただ1人のためのヒーローでいたい。
そう、七瀬さんだけの。
そして僕は南森という悪の変態から七瀬さんの制服を守るという使命を成し遂げたのだ。
授業が終わると同時に折原は七瀬さんの制服を持って立ち上がる。
「ねぇ、なにやってたの、授業中」
その腕を七瀬さんが掴んでいた。
鋭いな、七瀬さん。ってあれだけ異様な空気を漂わせて気付かない奴はいないか。
住井が僕の席にやって来た。
「流石だな、中崎。で、受け取りはいつにする?」
「ああ、今から貰えると嬉しいな」
七瀬さんによって折原から制服が奪還されそうな気配がするからな。
別にそれでも構わないが、どうせなら僕の手で彼女に返したい。
僕の耳のイヤホンからは七瀬さんと折原のやりとりが絶えず聞こえてくる。
「オレはつくづくおまえと友達であることを感謝するぞ」
「どういう意味よ、それ」
「浩平ーっ、どうしたの?」
長森さんが折原の席までやってくる。
「あ、それ七瀬さんの制服だよね?ちゃんと貸してもらえたんだ。わたしが預かっておくよ」
……?
どういう事だ?
「イヤだ。オレが持っておく」
「なに言ってんのよ。瑞佳に渡してよ。あんたが持っていたらどうされるか、わかったもんじゃないわ」
「ほら、浩平っ」
「いや、管理ならオレに任してくれっ」
3人の話が読めない…。
と、住井が折原に話しかける。
「おい、成金。中崎様が早く制服を譲ってくれとのことだぞ」
「ぐあ…」
あちゃ〜。僕のとった行動が裏目に出るとは…。
「え…?」
「……ちょっと、折原くん、廊下までいこっかぁ」
「は、はは…」
そう言って折原は七瀬さんに、いつかのように廊下に連れ出された。
僕もその後について行き廊下を覗き込んだ。
「殺すわ…」
七瀬さんは廊下に出るなり開口一番そう言った。
拳を握り締め、肩を震わせている。本性全開だ…。
「待てっ、別に本気で売るつもりなんかなかったんだ…。おまえの人気を再確認してみただけだ…」
…そうか。折原は七瀬さんから一時的に預かっていた制服を無断でオークションにかけたというところか。
そりゃ、七瀬さんも怒るだろう…。
「浩平、目の色変わってたよ」
長森さんが折原に追い討ちをかけるように言った。
「そりゃ100万なんて言われたら…」
「やっぱ売る気だったのねっ!」
七瀬さんはそう言うなり、折原の顔面を殴った。
その後の事は僕にはとても語れない…。
憐れ、折原。君の勇気に乾杯だ。
そして僕は、自分の身にまでそのとばっちりが来なかった事を天に感謝した。
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いいんちょ「第1部、完だ」
七瀬改「なによ、それ」
いいんちょ「いや、そろそろ闘えっ!!の方を再開しようかな、と」
マッド瑞佳「茜ちゃん忍法帖は…?」
いいんちょ「いや、さすがにあれは…」
マッド瑞佳「でも、意外に好評だよ?」
いいんちょ「…いや、茜ファンにはぼこにされるかも」
七瀬改「なら、あんな話にしなければいいのに」
マッド瑞佳「本当はどういう話にする予定だったの?」
いいんちょ「もっとシリアスな雰囲気の、ダークでディープな…」
七瀬改「面影もなかったわね…」
いいんちょ「一応本来の予定に沿って第2話書いてみて、続けるかどうか決めるつもりだけどね」
マッド瑞佳「ふ〜ん」
いいんちょ「そう言えば広瀬の話が第1話完成したぞ」
マッド瑞佳「それも投稿するの?」
いいんちょ「う〜ん。これ以上続き物増やしたくないからな〜。どれか一つが終わってから」
七瀬改「へ〜、少しずつだけど進歩はしてるのね」
いいんちょ「まあな。おまえとは違うしな」
七瀬改「やっぱりあんた進歩してないわ…」
いいんちょ「なにぃ?ってちょっと待て。刃物はさすがに洒落にならんぞ。
キ○ガイに刃物と言ってだな…」
七瀬改「やかましいわっボケェ〜ッ!!」
ざしゅ、ズババッ!
マッド瑞佳「血だらけだよ?」
いいんちょ「た、助けてくれ…」
マッド瑞佳「いいよ」
いいんちょ「な、なんで木槌やのこぎりを取り出すんだ…?
って、ぎゃ〜〜〜〜っ」
………。
……。
…。
マッド瑞佳「ふうっ、完成。久し振りに改造したから気持ちいいよ」
ついに2度目の改造を施されたいいんちょ。
はたしてどんな機能が追加されたのか?
次回に続……かない(笑)
こんなんばっかりだ…。
おしまい