闘えっ!!七瀬改第4話その3 投稿者: いいんちょ
注意
<ATTENTION>
今回話が長いです。
ディスプレイを長時間見るのは目に負担がかかるので注意しましょう。
って、そこまで長くはないか…。

『闘えっ!!七瀬改 第4話 女の闘いっ!!!その3』

「…さて、折原たちも行っちゃったし、あたしはあたしの成すべき事を…」
そう言いながら七瀬は立ち上がり…。
「って、もう広瀬さんたちいないじゃない…」
うなだれる七瀬。
教室の隅では、『瑞佳ちゃんとその下僕たち』があやしい相談をしている。
仲間に入りたいとは思わなかった…。
「はあっ。帰ろう…」

じぃーーっ
学校の帰り道、折原浩平は里村茜を見つめていた。
その目は期待に輝いている。
茜はその視線に居心地を悪そうにして手もとの缶に視線を落とす。
「いいか、茜。それは今そこの自販機から購入したものだ。
何を疑っているのか知らないが、公共の場で一般大衆向けに売っている…」
「疑ってないです。ただ、私だけ悪いと思っただけです」
その横では澪がほえ〜っという顔で茜を見ている。
「…ありがとうございます」
「お、おうっ」
動揺した様子で浩平は茜の言葉にこたえる。
「…いただきます」
「あ、ああ」
茜は缶に口をつけると、こくこくと飲み始めた
くいっくいっ。
澪が浩平の袖を引っ張った。
「ん?なんだ澪」
『欲しいの』
スケッチブックにそんな事を書いて見せた。
茜はこくこくと飲み続ける。
「澪、やめといた方がいいぞ」
浩平は茜がまだ飲み続けるのを見てぼそりと言った。
と、茜が缶から口を離し言う。
「…おいしい」
「ば、馬鹿なっ!!」
澪は疑問符を浮かべて2人を見ている。
「本当に飲んだのか、茜」
「はい…?」
「実は飲んだふりだけで、胸元に忍ばせているビニールの袋かなにかにこっそりうつしただけとか」
それではまるで忍者だ。
一瞬、なぜか茜は動揺した様子を見せたが、すぐに無表情になり言ってくる。
「そんな器用なことできません」
「それとも中身をこっそりすりかえたとか」
「…なんのために?」
「じゃあ、本当に飲んだのか…?そんな馬鹿な…」
これ以上ない驚愕の表情で浩平が呟く。
「こんな破壊的な味の飲み物を全部飲み干すとは…。
どう考えてもこれは致死量だぞ…」
「………」
じいっ……と茜が浩平の方を見ている。
というか睨んでいる。
危険な空気を察知して澪はおろおろしている。
茜が口を開いた。
「そんな、危険な飲み物を勧めたの…?」
空気が、これ以上ないほど冷え切って引き絞った弦のように張り詰める。
凍結した空間。
「…いや……実は身体にはいいらしいんだ」
慌てて浩平は取り繕おうと試みる。
「…致死量ってなに?」
無駄だった…。
「う〜ん、何だろうな…。オレはそんな難しい日本語は分からないや…」
懲りずに更にとぼける浩平。
「……」
「…あかね」
「……」
浩平に加えられ続ける無言の圧力。
「もしかして…怒ってる…?」
「…怒ってます」
「そ、そうだよな」
「はい」
「すまん、悪気はなかったんだっ」
「……」
「ただ、その、なんというか好奇心で」
「……」
「オレが悪かったっ、すまん、茜」
「……」
「ごめん…ほんとに…」
「…山葉堂のワッフル」
「…ワッフル…?」
「…それで許してあげます」
「今から、行くのか…?」
山葉堂へ行くには少し戻らなくてはならない。
「…はい」
くいくい。
澪が浩平の制服を引っ張る。
『欲しいの』
「…ま、今度は危険じゃないからいいか」
「……」

公園のベンチに座ってワッフルを頬張る3人。
『おししいの』
澪が一口食べて、感想をスケッチブックに書く。
「いいから、食べてから書け…」
浩平がそんな事を言う。
「…浩平」
「ん…?どうした、茜」
「七瀬さんのことです…」
「七瀬が、どうかしたか?」
「はい…」
茜はそう言ったきり黙り込む。
その横で、澪が一心にワッフルをかじっている。
「七瀬は元気だと思うぞ」
「…はい」
「じゃあ、どうしたんだ?」
「…はい……」
茜は少し言い澱んでから言う。
「…七瀬さん、なんか変なことに巻き込まれてませんか?」
「う〜ん…」
浩平は嫌がらせのことを茜に言っていいものか悩む。
「この前、浩平がさらわれていたのも関係があるんじゃないですか?」
「それはないと思うぞ」
「浩平に、何かあったら、私は七瀬さんを…」
「茜、ちょっと落ち着け。顔が恐いぞ」
浩平に言われて、茜は無表情になる。
それは一瞬のことで、まるで、感情を制御する術を知っているかのようだった。
茜は続けて言う。
「…それに。七瀬さん、なんかおかしいです」
「いや、あいつはおかしいのが普通だ」
それは浩平だ…。
「…七瀬さん、なんか最近少し男っぽくなったような気がすることがたまにあります…」
「あれが七瀬の地だぞ。普段猫を被ってるだけだ」
「…そうなの?」
くいっくいっ。
茜がそう問い返したとき、浩平の制服の袖を澪が引っ張った。
『おいしかったの』
「そうか、よかったな」
『ごちそうさまなの』
「ああ、別にこれくらいいつでもおごってやるよ…」
その浩平の言葉に澪が、わ〜いっ!と手をあげる。
傍で微笑む茜。
そんな、幸せなひとときを3人は過ごした。

テスト最終日――
七瀬留美はいつものように椅子を引き、そこを注意深く観察した。
「今日は何もないわね…」
そこには座布団も画びょうもトリモチもなかった。
「…?」
しかし不意に七瀬は奇妙な違和感を覚え、座るのを止める。
「…なんか、椅子の板が少し浮いてるような気がするわね」
「おっす、七瀬」
元気な挨拶と共に浩平が教室に入ってきた。
「七瀬、今日はどうだ?」
「あ、うん。特に何もなさそう。ただ、ちょっと違和感が」
「違和感…?」
「うん。ちょっと椅子の板が…」
七瀬がそこまで言った時、先生が姿を現す。
「お、テストが始まるな。七瀬、話しは後だ。
取り敢えず座ろう」
「うん…」
浩平と七瀬はさっと自分の席に座る。
カチッ。
「なんか音しなかった…?」
「気のせいだろ」
「そうね…」
浩平が席に座ると、斜め後ろから住井が声をかけてくる。
「おっす、折原」
「おうっ、住井」
と、浩平は前々から気にかかっていたことを口にする。
「ところで住井、なんか日に日にオレの机傾いていってないか?」
「そうか?」
「シャーペンを置くとすごい勢いで転がってくんだが?」
「気のせいだろ?」
「消しゴム置いても滑って落ちるんだが?」
「目の錯覚じゃないか?」
「…今、髭が教卓に置いた出席簿も滑って落ちたぞ?」
「じゃあ、きっと教室自体が日に日に傾いてんじゃないか?」
「ああ、そうか」
妙に納得した顔を浮かべる浩平の横で、住井は舌打ちをした。
(もう、限界だな…)

「んあ〜、そこまで」
テストの終了を告げる声。
「解答用紙を集める前にそのままで聞いてくれ。
既に知っていてる生徒もいるかも知れんが、この前別校舎の地下で原因不明の爆発事故があった。
そのせいで本校舎も一部亀裂が走り傾きかけていて、危険であるそうだ。
そこで明日からしばらくの間、本校舎の一部を除き修復工事のため教室が使えなくなる。
さいわい、近くの高校のご厚意でその教室の一部が貸してもらえることになったので、しばらくはそちらで授業を行う。
詳しくは今から配るプリントを見てくれ」
そう言って髭がプリントを配っている間、どこからともなく寝息が聞こえていた。
プリントを配り終わった髭が言う。
「んあ〜、では解答用紙を後ろから集めろ〜」
「ん…?終わったか…」
回収されていく解答用紙を見ながら浩平は、教室に満ちていく開放感を肌で感じる。
「ふぃ〜、やっと終わったぁっ!」
五日間に渡る長きテストの全日程が、今ここにチャイムとともに終了を告げたのである。
回収されていくテストを尻目に立ち上がり、欠伸とともに伸びをする浩平。
「ぬおおぉーっ、この開放感。俺たちは自由を手に入れた!」
隣で住井が立ち上がり、雄叫びをあげていた。
「やったな、折原っ!」
「おうっ」
ホームランを打った選手を迎えるときのように、2人は腕をガシガシとぶつけ合った。
が、呼吸が合わずボコボコと顔面を殴り合ってしまう形になる。
「折原、いいパンチだったぜっ」
それでも強引に友情劇にもってゆく住井はいい奴である。
「よ〜し、七瀬。帰ろうぜっ」
「あ、うん。今日は甘いものが食べたいかな」
浩平の言葉にいつものように律義に七瀬はそう返す。
「っていつからそんな仲になったのよっ!」
そう言って立ち上がったときだった。
ちゅご〜〜〜〜〜〜んっっっ!!!!!!
ものすごい音とともに、七瀬の席が火柱を上げたのは…。

ナレーション『爆発……生命の危機を感じると男のロマンを感じる間もなく体内の漢回路が働き、七瀬留美は改造人間七瀬改へと変身するのだっ』

ずずずず………。
なにか、低い音が校舎に響く。
誰かの筆入れが床を滑って教室の隅で止まる。
机のうちの、幾つかがずれる音をたてた。
爆炎の中にたたずむ人影。
「…指向性の対戦車地雷ですね」
浩平と一緒に帰ろうと誘いに、そばまで来ていた茜が呟く。
なぜそんな事が分かるのか、浩平には不思議でしょうがなかったが。
「なに?すごい音…」
「なんか、爆発したよ?」
クラスメートのざわめきが聞こえる。
「あ、爆発したの七瀬さんの席だよ」
「大丈夫っ!?」
何人かがそこに駆け寄った。
「え…?」
そこにいたのは七瀬改だった…。
「七瀬、さん…?」
「ひんっ…」
七瀬は半べそだ。
地雷食らって平然としてる方が恐いが。
「大丈夫…?」
「はぐぅっ…」
七瀬はどうやら自分が変身したことに気付いてないようだった。
「七瀬さん、だよねぇ?」
「ぐすっ…うん……」
返事をしてから七瀬は、自分に向けられる視線がどこか変であることに気付いた。
「七瀬さんが、七瀬改だったんだ…」
「!?」
驚愕。
必死に隠していた(はずの)事をさらりと言われて七瀬は一瞬、思考が止まった。
「言われてみれば、似てたもんなぁ…」
誰かの声が聞こえる。
「七瀬、まずいぞ。状況は最悪だ」
浩平の言葉に、七瀬は我に返り、更に自分がみんなの前で変身してしまっていたことに気付いた。
ざわめきが広がる。
夢の再現――
それは、七瀬にとって最もあって欲しくない状況だった。
唯一の救いは、変態中年、怪人カプチーノ髭男爵がいないことぐらいだ…。
そんな七瀬に追い討ちをかけるようにかけられる声。
「ふふん。さすがにそれぐらいじゃくたばらないみたいね」
そう言ってたたずむのは…。
「広瀬…」
おでこに奇妙な突起を付けた、広瀬真希とその取り巻きたちだった。
七瀬改の肩が怒りに震える。
激しい怒気に空気が弾ける。
七瀬改の全身が金色に輝き始めていた。
「これは…?」
住井の呟きに瑞佳が答える。
「スーパーモードだよっ」
「スーパーモード…?」
「七瀬さんの漢回路が一定レベル以上に成長したんだよ」
広瀬が七瀬改に向かって一歩を踏み出した。
七瀬改が広瀬に叫ぶ。
「いくら嫌がらせだってねえっ」
七瀬改は完全に金色の光に包まれている。
「やって良いことと悪いことがあるわよおおぉぉっっ!!!!」
叫ぶと同時に七瀬改は広瀬との間合いを詰める。
唸りを上げて繰り出される拳。
だが、広瀬はそれをさらりと躱した。
「猪突猛進…。その程度なの?」
そう言うと同時、すれ違い様に手刀が七瀬改の延髄に炸裂する。
「くっ!」
うめく七瀬改。一瞬にして輝きが消える。
「へえ?丈夫なのね。いたぶり甲斐がありそ」
ぬらりとした目で七瀬改を見る広瀬。
七瀬改が再び広瀬へと詰め寄る。
「何度やっても同じ事よ…」
だが、七瀬改は広瀬の攻撃作動範囲、結界の手前で横へ飛んだ。
「!?」
そのまま左右に動きながら広瀬との距離を零にする。
「エンジェリック・フィンガーッ!!」
ピンクに光り輝く右手が、広瀬を捕らえんと迫った。
「とったっ!!」
「甘いっ!!」
広瀬の首につかみ掛かる寸前、七瀬改は右の手首を広瀬に掴まれた。
「くっ、まだ左手があるわっ!」
左の手も輝きを発し、広瀬の肩を掴もうとする。
だが、それも止められた。
「ふふん。もう終わりかしら?」
「くっ…」
掴まれた両手を軸に、七瀬改は両足を浮かせる。
そしてそのまま広瀬へと蹴りを放つ。
だが、広瀬は寸前で七瀬改を離し、後ろへと下がって間合いを取った。
(今までの怪人とは、パワーがダンチだわ…)
頬を嫌な汗が伝わる。
(それに、スピード、テクニック…。どれをとっても敵わない気がする…)
実際にはみさき先輩も強かったが、ほとんど格闘戦をしていない七瀬改が知る由もない。
(このままじゃ勝てない…)
だが、なにも方策が思い付かない。
「それでも、負ける訳にはいかないのよっ」
七瀬改は再び広瀬へと迫る。
「こんな理不尽な仕打ちを受け入れるつもりはないんだからっ!」
怒りに任せて、拳を突き出す。
空気を裂いて、それは広瀬へと迫った。
「パワーだけで、芸がないのね」
そう呟いて、広瀬はわずかに上体を反らした。
その脚の奇跡が半円を描き、反撃の姿勢を作る。
広瀬がどいた空間を通り七瀬改の拳が空を切った。
メゴッ…。
その先の壁が、拳圧でへこむ。
広瀬は動じることなく七瀬改の右腕を左の腕で押さえつつ、腕を交叉させるようにして腹部に拳を叩き込む。
「ぐ…はぁっ……」
身体を2つに折って七瀬改が頽れる。
その頭を掴んで広瀬は膝蹴りを食らわせた。
容赦のない攻撃。
その、ダイヤに匹敵するとさえ思える強度の額から鮮血が飛び散る。
「きゃーーっ!!」
女生徒の誰かが悲鳴を上げるが、広瀬は構わずそれを続けた。
「くっ」
「へぇ?」
七瀬改は幾度も繰り出される膝と、自らの額の間に手を滑り込ませ受け止めた。
そのまま七瀬改は頭を上げ広瀬の手を振りきる。
「うおおぉぉりゃぁぁっっ!!」
あまり乙女チックではない掛け声とともに、広瀬の膝を掴んだまま廻し蹴りを叩き込む。
広瀬は避けようにも動きを封じられていた。
「ぐっ」
広瀬の顔が苦痛に歪む。初めて攻撃がヒットしたのだ。
更に攻撃を加えようと七瀬改は拳を繰り出す。
「!?」
刹那、頭から爪先に駆け抜けるような悪寒を感じその場を退く。
カカカカッ。
一瞬前まで七瀬改のいた空間を、大量の画びょうが突き抜けた。
安堵する間を与えられずに七瀬改は跳躍する。
直後に広瀬の取り巻きの一人、神崎梨絵が手にした薙刀で床を切り裂いた。
空中に逃げる形となった七瀬改を、他の取り巻きたちが取り囲む。
姿勢制御もままならない状態で、全方向から繰り出される攻撃を避けられることなど七瀬改には無理である。
「ぐ…が…」
ぼろぼろになりながら床に落下する七瀬改。
そこに浴びせられる、嘲笑と、侮蔑の視線。
「そろそろ、お遊びはおわりね」
広瀬がそんな事を言ってくる。
その様子を、冷徹な目で見ていた住井が長森に話しかける。
「プロフェッサー」
「なに…?住井君」
「もう、この校舎は限界です。待避した方が…」
「う〜ん…。浩平がまだいるからもう少しいるよ」
うな垂れる様に膝をつく七瀬改に浩平が声をかける。
「七瀬っ、諦めるんじゃないっ!
いつものように踵落しで決めてみせろっ!!」
と、予想外の声が七瀬改の耳に届く。
「…七瀬さん、そんな闘い方じゃ相手を倒すことなどできません」
「茜…?」
傍にいる浩平も戸惑い気味だ。
(七瀬さんに何かあったら浩平が悲しむのかもしれない…。でも……)
複雑な思いを胸に茜は続ける。
「怒りに身を任せていては駄目です。
感情を制御し、明鏡止水、虚心担懐の心を持ってください…」
「めいきょうしすい…?きょしんたんかい…?」
七瀬には難しい言葉は分からなかった…。
「…心を無にし、一切のこだわりを棄て、あるがままを受け入れるのです」
「…心を無に…」
七瀬の頭に、剣道に燃えていた頃の記憶がよみがえる。
「…わかったわ。ありがとう里村さん」
広瀬が不敵に笑う。
「ふふ…。なにか入れ知恵されたぐらいで勝てるとでも思っているのかしら?」
しかし、広瀬の声には耳も貸さず、七瀬改は目を閉じ静かに気を練る。
その全身が再び輝き出した。
取り巻きたちが七瀬改に殺到する。
そのうちの一人が繰り出した拳を、まるで柳のような柔軟さで躱す七瀬改。
別の方向から繰り出される攻撃もさらりと躱す。
(わかる、わかるわ)
七瀬改は自然体で相手の攻撃を先読みし、川を流れる木の葉のように流れに逆らわず攻撃を躱す。
取り巻きの1人が、七瀬改に攻撃を躱された拍子に体勢を崩した。
(今よっ!)
七瀬改は思うより早く、手刀をその首筋に叩き込んだ。
思いのほかあっさりとそれは沈黙する。
「まず、ひとつっ!」
暇を与えず、別の1人が背後から七瀬改に襲いかかる。
すすっと身体をずらして躱す七瀬改。
攻撃を躱され通り過ぎた相手はそのまま反転し、再び七瀬改を襲おうとする。
まだ、離れているその相手に向かって七瀬改は拳を突き出した。
ゴウッ。
七瀬改の拳は、その腕を離れて相手の水月を直撃した。ロケットパンチだ。
たまらず床に沈む相手を見て七瀬改は言う。
「ふたつ…」
七瀬改の不敵ともとれる呟きに、広瀬が初めて少し焦りの色を見せる。
カタンっと音がして七瀬改の拳が再び腕とくっつく。
「くっ…。梨絵、早紀、あれいくわよっ!」
その声に応えるように2人は広瀬の元へと集まる。
七瀬改は半身になって身構えた。そのまま右の拳を腰だめにする。
早紀と呼ばれた少女が槍のようなものを構えて七瀬改目掛けて突進する。
「その程度でっ」
右足を後ろへずらし、わずかな動きでそれを避ける。
「乙女のこのあたしを倒せると思ってるのっ!?」
槍の柄を掴み引き寄せる。
すれ違う瞬間を狙って、左の廻し蹴りを見舞おうとした時、七瀬改は左半身に強烈なプレッシャーを感じた。
「隙ありっ!!」
繰り出される梨絵の薙刀の一撃が七瀬改の制服をかすめる。
「くっ!」
辛うじて七瀬改は攻撃を躱した。が、体勢を整える間もなく広瀬の拳が七瀬改に迫る。
がしぃっ!!
両手でそれを受け止め、その勢いに逆らわずにそのまま後ろへと飛び退った。
更に早紀と梨絵の繰り出す突きと斬撃をトンボを切って辛うじて躱し、体勢を整える。
「はあっはあっ」
七瀬改の息は荒い。
「へえ…?今のを避けるなんて流石ね。でも次はあるのかしら?」
すでに広瀬は再び不敵な表情へとなっていた。
七瀬改は再び構える。
「七瀬…」
浩平の声は心配そうだ。
「…七瀬さん」
直後、信じられないことが浩平の目の前で起こった。
茜が左のおさげの中に手を突っ込み、その中から何か棒状のものを取り出したのだ。
「これを使ってください」
そう言って茜はそれを七瀬改に向かって放る。
七瀬改がしっかりと掴んだもの、それは刀だった。
「…なんで、そんなもの持ってんだ…?」
浩平の呟きも、次の瞬間起こった雄叫びにかき消される。
「くらえっ!!ジェットストリーム・アタァ〜ック!!!」
早紀が再び七瀬改を狙って槍を突き出す。それは先程のものより洗練された動きだった。
それでも七瀬改はそれを躱す。そして、刀の柄で脇腹に一撃をお見舞いした。
一瞬のタイムラグを置いて梨絵の薙刀が低い位置から薙ぎ払うように七瀬改を襲う。
だが、まるで予め打ち合わせでもされていたかのように七瀬改はその動きを読み、わずかに鞘から出した刀身でそれを受け止める。
「はあっっ!!!」
息吹とともに繰り出される蹴り。
それが梨絵に吸い込まれるように炸裂した。
「まだよっ」
そう言って広瀬が早紀が倒れて開いた空間から拳を繰り出す。
七瀬改もそれに応じ抜き身となった刀を広瀬に横に切り払う。
刹那、広瀬の姿が七瀬改の視界から消えた。
「!?」
一瞬の七瀬改の意識の空白をついて広瀬が死角から拳を放つ。
「上っ!?」
七瀬改は抜き身の刀を空中の広瀬に目掛けて突き出す。
両者が交叉した。
広瀬の制服が裂ける。
「くっ」
七瀬改が膝をつき倒れ込んだ。
「ザコとは違うのよ、ザコとは」
広瀬が勝ち誇ったように言う。
七瀬は竹刀を握っていたことはあったが、真剣を使ったのは始めてである。
そして、両者の重さの差違が七瀬改に動作の遅れという決定的なミスを犯させたのだ。
そのわずかな一瞬の遅れは広瀬に勝機をもたらすのに充分であった。
「七瀬ぇっ!!」
浩平が叫んだ。
だが、立ち上がったのは七瀬改ではなかった。
次々と立ち上がる広瀬の取り巻きたち。
七瀬改はうめくばかりで立ち上がれない。
「くっ…」
「さて、そろそろとどめかしら?」
広瀬がそう言って腕を振る。
それを合図に、七瀬改へと広瀬の取り巻きたちが殺到する。
「ちっくしょうっ…」
悔し気にそう呟くが、立つ事さえできない七瀬改には地を舐めることしかできない…。
「七瀬…。……貴様っらぁ…」
浩平の肩が怒りに燃える。
「恥ずかしく、ないのか…?」
その浩平の怒気に気おされるように広瀬たちの動きが止まった。
「寄って集って七瀬をいじめやがって…」
「ばかっ、よせ折原っ」
住井の制止の声も聞こえることなく…。
「い…い……いいかげんにしやがれぇ〜〜〜〜っっっ!!!!!」
浩平は叫んでいた。
刹那――

ごごごおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜んんんんっっっ!!!!!

轟音とともに校舎が崩れ去ったのだった…。

夕暮れ時の病院――
検査を待つ行列の中で、南森は美人の看護婦を尻目に呟く。
「なあ、中崎」
「なんだい、南森」
「この前、住井に協力して七瀬さんを襲うはずだったよな」
「そうだね」
「どうもその辺りの記憶が曖昧で思い出せないんだが…」
「実は僕もだよ」
「それに今日もテストが終わった辺りからの記憶が曖昧なんだ…」
『う〜〜ん…』
唸る2人に、医者はこう言った。
「きっと、事故による一時的な記憶喪失でしょう」

その日、市内の病院は同じ高校の生徒でとても繁盛していた…。


つづけ…られると良いな☆

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詩子「これからのっ!」
佐織「あらすじ〜〜〜!!」
詩子「話が進むたびに深まる謎の人物」
佐織「その名も里村茜」
詩子「だが、そんな彼女には暗い過去があった」
佐織「隠れ里で暮らした日々と幼なじみとの辛い別れ」
詩子「クラスメートたちには内緒の裏の仕事の数々」
佐織「果たしてそんな彼女の正体はっ!?」
詩子「次回っ、闘えっ!!七瀬改」
佐織「番外編」
詩子&佐織『茜ちゃん忍法帖その1(仮題)』
詩子「ほんとにやるのかな…?」
佐織「作者気まぐれだからね…」
詩子「やらない可能性あるから手を打っとこうかな☆」
佐織「それが良いかもね…」

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マッド瑞佳「今回、話長いね」
七瀬改「ま、どうせこいつがペース配分間違えたんでしょ…」
いいんちょ「もぐもぐ…」
マッド瑞佳「でも、今までで第4話が一番長いよ」
七瀬改「ゲーム本編とある程度リンクさせたせいかしら…」
いいんちょ「もぐもぐもぐ……」
マッド瑞佳「わたしの出番少ないよ…」
七瀬改「戦闘シーンが長いからじゃない?ギャグ濃度薄いし…」
いいんちょ「もぐもぐもぐもぐ………」
七瀬改「…解説もしないでなんか食べてるし」
マッド瑞佳「なに食べてるの?」
七瀬改「聞いちゃだめよ、瑞佳。どうせまた変なもの食べさせられるわよ」
いいんちょ「…ひどい言いようだ」
??「普段の行いの賜物です」
いいんちょ「賜物って…。って言うか誰だ?」
茜「…私です」
いいんちょ「お…?」
マッド瑞佳「あ、里村さんだ」
七瀬改「…あとがきにあんまり人がいるっていうのもどうかと思うんだけど…」
いいんちょ「(無視)お〜まっとうな茜だぁ〜〜」
茜「嫌です」
いいんちょ「…まだ何も言ってないんだが」
茜「……」
いいんちょ「膝枕してくれ」
茜「嫌です」
いいんちょ「しくしく…」
七瀬改「やけにこだわるわね、膝枕に…」
いいんちょ「好きだからな」
マッド瑞佳「この前わたしがしてあげたよ」
いいんちょ「うん。あれは良かった。
しかし鳥の羽ばたきを聞いた途端、気付いたら永遠の世界にいたからな。
瑞佳の膝枕は危険だ」
マッド瑞佳「わたし悪くないもん」
七瀬改「…で、なんで里村さんがいるわけ?」
茜「今回、私が主役だと聞きました」
いいんちょ「へ…?」
マッド瑞佳「里村さんの話は次回の番外編だよ」
茜「そうなんですか…?」
いいんちょ「っていうか、誰に聞いたんだ、その話」
茜「詩子に聞きました」
七瀬改「…この前出番を延期にされたから、警戒されてるんじゃないの?
里村さんの話もいきなり土壇場で変更が出ないよう、釘をさすためにとか…」
マッド瑞佳「予告通りいけば詩子さんの出番も結構あるからね〜〜」
いいんちょ「ふっふっふっ」
茜「…恐いです」
いいんちょ「甘いな。書くのはオレだぞ」
茜&七瀬&瑞佳『???』
いいんちょ「予告通りとは限らないのだぁっ!!!」
マッド瑞佳「前科あるしね」
七瀬改「いばるなあぁぁっっっ!!!!!」
どげしぃっ!!
いいんちょ「ぐはっ!うぅ…。なんで毎回こんな目にあうんだ?」
七瀬改「自業自得でしょ」
茜「因果応報です」
いいんちょ「しくしく…」
七瀬改「はい、泣いてばっかりいないでとっとと解説するっ」
いいんちょ「…話が長いのはクライマックスが近いからだ、多分。
第4話全体が長いのも同じ理由。ゲーム本編とある程度リンクさせたせいもない訳じゃないな。
七瀬シナリオと茜シナリオを無理矢理入れたし…。
それから、瑞佳の出番が少ないのはその3ではいつものことだ。
戦闘シーンはこれでも短くまとめた方だぞ。
最初は戦闘シーンだけでいつもの話の1回分の長さの2倍近い長さがあって、2つに分けてその4までやろうかとも思ったぐらいだ。
無理矢理短くまとめたせいで不自然なとこがあるかもしれない…。
ギャグが少なくなったのはオレも同感だ。
うまくまとまってないなってちょっと不甲斐なくも思ったりはしてるぞ。
おわりっ」
七瀬改「…なんか、やっつけ仕事な解説ね」
マッド瑞佳「あれ?里村さんがいないよ」
七瀬改「もう帰ったんじゃない?」
いいんちょ「あ〜〜〜っ!!」
七瀬改「なによ」
いいんちょ「さっき食べてた鯛焼きが全部なくなってる」
マッド瑞佳「里村さんって甘いもの好きだよね〜〜」
七瀬改「太らないのかしら?」
いいんちょ「しくしく…」

おしまい