闘えっ!!七瀬改第一話その3 投稿者: いいんちょ
『第一話 怪人異次元イブクロンあらわる その3』


「エネルギーを供給すれば目が見えるように改造したんだよっ」
みさきの脳裏に残る言葉。
長森瑞佳によって改造されたみさきは、そのエネルギー供給のため食堂を占拠し、ひたすら食事を摂っていた。
そうする事によって、見えなくなった目に再び光が取り戻せる事を信じて。
「目が見えるようになったら、最初に見るのは浩平君の顔がいいな…」
しかし、そのために学食を利用している生徒たちは困っていた。
それを見て、なにもしない奴は漢(おとこ)じゃないっ!

「川名みさきっ!!これ以上食堂を占拠するのはこの七瀬改が許さないわよっ!!」
七瀬改の声がさして広くはない食堂に朗々と響き渡る。
生徒たちのざわめきは一瞬にして消え、その視線が一斉に声の主の方を向いた。
いきなり注がれる数十の視線に戸惑いながら七瀬改は食堂の入り口に立つ。
「さあっ!早く食堂をみんなに開放しなさいっ!!」
「…嫌だよって言っておくよ」
みさきはそう言うと再びどんぶりの中の牛丼に視線を戻す。
「ぐっ」
七瀬改は小さくうめいて食堂の中へと踏み入る。
「なあ、深山先輩。さっき言ってたみさき先輩の攻撃ってなんなんだ?」
「目から怪光線出すのよ」
「げっ…」
浩平は慌てて七瀬改に呼びかける。
「お〜〜い。な〜〜〜な〜〜〜せ〜〜〜〜」
「なによっ!」
「やっぱり七瀬か」
「ぐぁ…」
「深山先輩が言うにはだな………」
しかし七瀬改は浩平の言葉に耳を傾けずにずんずんと進む。
(折原のバカッ!いきなりばれちゃうなんて…)
そして恥ずかしさを紛らわすために、少し乱暴にみさきの肩に手をかけ、振り向かせた。
「ちょっと、無視してんじゃないわよっ」
みさきのかけていたサングラスがずり落ちる。
刹那、みさきの何も映さない双眸から眩い光が迸った。
「って、ぎゃ〜〜〜〜〜」
七瀬改は辛うじてその攻撃を躱した。
「ああっエネルギー使っちゃったよ。また食べなきゃいけないよ〜〜」
そう言ってみさきはまた食べ始める。
「こ、こんな話聞いてないわよっ!」
「だから人の話を聞けって」
だが、そんな浩平の突っ込みはやはり七瀬改の耳には届いていない。
「これぐらいでっ」
七瀬改が再び近付いてきたためみさきは席を立つ。
「負ける訳にはいかないのよっ!」
そう言って七瀬改は軽く身を沈め、バネをため込んだ。
「乙女のこのあたしがあぁぁっっっ!!!!」
七瀬改は叫ぶと同時に74式戦車の装甲をも貫く拳をみさきに叩き込む。
しかしその拳は空を切った。
「甘いよっ」
みさきは身体をひねって半身になり、そのまま反撃の姿勢を作る。
「山葉堂の激甘ワッフルよりも甘いよっ」
それは凄く甘そうだ…。というか、まだ発売されていないぞっという突っ込みは却下だっ。
「くっ!」
七瀬改は拳をひいて素早く間合いを取る。
その挙動にはみさきが反撃を加える隙はない。
「やるね」
「まあ、ね」
そのまま対峙する2人。
その2人に、「おぉ〜〜〜」と見物人たちのどよめきが起こる。
と、その中から茜が歩み出て2人の間に立って手を交叉させるように振った。
「この勝負、ドロー」
「ってなんでよっ」
「まだ勝負はついてないよ」
七瀬改とみさきの突っ込みが茜に向けられた。
「…みんなに迷惑です」
確かに、事態を解決するために向かった七瀬改がみさきと闘って食堂の備品を壊していては、何の意味も無い。
「と言うか、なんで茜がここにいる?」
浩平の突っ込みに茜は応える。
「…山葉堂のワッフル」
「え…?」
「…山葉堂のワッフルという言葉が聞こえたから」
「………」
甘いものにかける執念はきっと世界一だろう。
「じゃあ、皆の迷惑にならない勝負をすればいいのよっ!!」
七瀬改が話を本題へと戻す。
「たくさん食べる勝負なら受けてもいいよ」
みさきの言葉に、彼女の事をよく知らない七瀬改は『勝った!』とばかりに引き受ける。
(だって、さっきあれだけ食べてたのに更に食べれる訳ないじゃないっ!)
さらに七瀬改は条件を出す。
「その代わり、なにを食べるかはあたしが決めるわよ」
「いいよ」
「おいっ!七瀬っ!!先輩相手にその勝負は無謀というものだぞ」
浩平の言葉に茜が不思議そうな表情を見せる。
「七瀬さん…?どこにいるんですか」
「…へ?」
浩平は間の抜けた声を発する。
「何言ってるんだ、茜。こいつがその七…」
「ちょ〜っと折原くん来てくれるぅ?」
その声が終わるのを待たずに浩平は食堂の外、人ごみのさらに向こうへと押し出される。
「どうした、七瀬…?」
「いい?あたしの正体は秘密にしておいて」
「正体も何も、見りゃ一発だろ」
「ひ・み・つ・にしておいてね☆」
そう言って七瀬改は浩平の首を締め上げにかかる。
「…はい」
その言葉を聞くと、満足したように再びみさきと対峙する七瀬改。
「…何だったんですか、浩平」
「参った。告白され――」
「そのネタは前にも使ったわあっっ〜〜〜!!!」
七瀬改の放った上履きが浩平の頭を直撃した。
すごく痛い。
めちゃくちゃ痛い。
というか頭からどくどく血が出ている…。
「という訳でっ!勝負はキムチラーメンの大食いよっ!!」
どういう訳だか分からないが七瀬改の言葉にみさきも頷いた。

「あ〜かコ〜ナ〜。改造人間、七瀬改選手〜〜〜」
歓声と拍手が沸き起こる。
なぜか深山は司会をしていた。
「あ〜おコ〜ナ〜。怪人、異次元イブクロン選手〜〜〜」
「うぅっ。雪ちゃんひどいよ〜〜〜」
しかしみさきの非難も深山にはどこ吹く風である。
「チケットあるよ〜〜」
食堂の外では住井が、食堂内にいつの間にか設置された見物席の指定席券を売り歩いている。
いつの間にかどこからともなく現れたイベンター住井護の手によってこの対決は他学年を巻き込んだ昼休みの一大イベントにまでなっていた。
もちろんどっちが勝つのか、と言う賭けも行っている。
裏では数十万を超すお金が動いているであろう事は想像に難くない。
深山は、演劇よりもこっちの方が似合っているのではないかとも思えるノリのよさで司会を務めている。
「なお、審判はこの人っ、折原浩平君に務めてもらいます」
「え…?オレ?」
困惑する浩平を放っておいて深山はさらに続ける。
「さあ、今両者の方へラーメンが運ばれてきます。
この勝負、昼休みの残り時間を考慮して制限時間を10分とします」
その深山の言葉に応えるようにラーメンをお盆に載せて、小さな人影が姿をあらわす。
審判席に座る浩平の後ろを通過し…。
…がしゃん!
やけに景気のいい音がして、直後、なぜか浩平は背中が熱いと思った。
とても熱い。
むちゃくちゃ熱い。
「…って…うわぁっ!」
飛びあがるように席を立って、振り返る。
「……!」
小柄な女の子がびっくりした表情で浩平を見ていた。
が、すぐにその顔が笑みに変わる。
知っている顔だ。
上月澪。
先日もこうやって浩平にうどんをぶっ掛けた…。
「って、それどころじゃない」
まだ背中が熱い。
むちゃくちゃ熱い。
というか、さっきより熱い。
浩平はまたか、と上着を脱ぎ始める。
「大変だよっ!浩平っ!」
それまで住井の用意したVIP席でこっそり(?)見ていた瑞佳が駆け寄ろうとする。
しかし、浩平の脱いだ上着を澪が掴んでいたのに気付いて躊躇う。
「また洗濯してくれるのか?」
「………」うん、うん。
「そうか、悪いな」
『ごめんなさいなの』
「大丈夫だって」
がしっ!
そう言った浩平に澪が抱き着く。衆目の前で…。
「おぉ〜〜〜」
なぜか湧く観衆。
なんとなく出るタイミングを失った瑞佳はただ地団太踏むだけだった。
「浩平はわたしのものだもんっ。それなのにぃ〜〜」
「上月さん、いいかしら?」
深山の声に澪が抱きつくのをやめる。
「かわりのラーメン持ってきてくれる?」
『はいなの』

しばらくして七瀬改とみさきの前にどんぶりがどんっと置かれた。
「折原君」
「オッケ〜」
深山の呼びかけに浩平は2人のどんぶりにぼちゃっとキムチを入れた。
「もっと入れような〜〜〜」
ぼちゃべちゃ。
ぼちゃべちゃばちゃ。
どんぶりからこぼれそうなほどのキムチが加えられた。
「それではっ、グラットゥン(大食い)・ファイト〜、
レディ〜〜〜〜・ゴーッ!!」
「うおおぉぉぉっっ!!!」
深山の掛け声と共に七瀬改が雄叫びを上げラーメンの攻略にとりかかる。
凄まじい速さでどんぶりの中身が減っていく。
一方のみさきは最初少し手をつけただけで、ぜんぜん減っていなかった。
少し意外そうに深山がみさきに訊ねる。
「どうしたの、みさき。ぜんぜん減ってないわよ」
「うぅっ、雪ちゃん〜〜〜。これ、キムチのバランスがよくないよ〜。
キムチラーメンはね、麺が4に対して……」
やおらラーメンについての講釈を始めるみさき。
一方で七瀬改は一杯目を空にしていた。
澪が二杯目を持ってくる。
「…という訳だからね、このラーメンはキムチの入れすぎなんだよ〜〜」
「どうでもいいけどみさき、もう時間残ってないわよ」
「え…?」
と、七瀬改の叫び声がこだまする。
「っしゃあぁぁっっ〜〜二杯目終わりっ!!」
同時に終了を告げるブザーが鳴った。
浩平が一目瞭然な勝負の結果を宣言する。
「勝者、七瀬…」
七瀬改の眼光が浩平に向けられる。
「…改」
深山が七瀬改の腕を取り、持ち上げた。
「ウィナー!!」
大歓声が湧き起こる。
大方の予想を覆し、勝負は七瀬改の圧勝だった。

「うぅっ、わたしの負けだよ〜」
そう言ってみさきはうなだれた。
その前に立つ七瀬改。
「おとなしく食堂を明け渡すのね」
「うん。わかったよ」
そう言ってみさきは立ちあがる。
「…冗談だよ」
そう言ってみさきは油断していた七瀬改に怪光線を放った。
「ぐっ」
わずかに反応が遅れ、七瀬改がひざまずく。
「とどめだよ」
そう言うとサングラスの濃度が変化し、三度、みさきの双眸が光を放った。
迫り来る怪光線。
刹那、2人の間に人影が踊り込む。
怪光線がそれを貫いた。
「折原っ!?」
七瀬改が叫んで走り寄る。
「大丈夫っ、折原っ!」
「ばかっ、今は目の前の闘いに集中するんだ」
「…折原…。うん、わかったわ」
そう言って七瀬改はみさきに向き直る。
「よくもあたしを怒らせたわね〜〜」
七瀬改が一歩足を踏み出す。
その圧倒的な闘気にみさきはおもわず退く。
「あたしが本気で怒るとどれだけ恐いか教えてあげるわっ」
その七瀬改の形相にみさきは脅え、逃げようとする。
しかし、先回りするように動いた七瀬改がその行く手を阻み右手を前に掲げる。
「あたしのこの手がピンクに光るっ!あなたを倒せと輝き祈るっ!」
「なんか、祈るってのがあんまり強そうじゃないな…」
浩平の呟きに反論する。
「乙女に祈りはつきものよっ!」
七瀬改の右手は眩しいまでのピンク色に輝いている。
「乙女の夢をのせてっ!
ひっさぁ〜つ!エンジェリック・フィンガーッ!!!」
七瀬改の右手がみさきの身体をがしっと掴んだ。
みさきの体内の、瑞佳によって取り付けられた部品が、煙を噴いたり、小爆発を起こしている。
「セラフィック・ジャッジメ〜〜ン――」
「待ってっ!!」
今、まさにとどめを刺さんとしていた七瀬改の右腕を深山が掴んだ。
「もう、いいでしょ。みさきも反省してるし…」
「でも、川名先輩は折原をっ」
「いや、大丈夫だ七瀬」
浩平の声に七瀬改は振り向く。その目が笑っていない事に気付いた浩平は付け足す。
「…改」
「折原…」
「どうやら、さっきの一撃は既にエネルギー切れだったみたいだ。
ほら、シャツが少しこげてるだけで、身体には傷一つ無い」
そう言って浩平はシャツを少しまくって見せた。
「バ、バカッ」
慌てて七瀬改はそっぽを向く。
「う、う〜〜ん」
「あ、みさき、気が付いた?」
「あれっ、雪ちゃん。浩平君も…」
その時、
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん。
昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。
「大変っ!早く教室に戻らなきゃ」
次々に生徒たちが教室に戻っていく中、瑞佳はひとり佇んでいた。
「む〜〜〜。七瀬さんはやっぱり邪魔だもん。
浩平を私の方に振り向かせるにはやっぱり七瀬さんを何とかしなくちゃいけないよっ」


つづく…んだろうな

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佐織「これからのっ!!」
詩子「あらすじ〜〜〜〜〜〜!!!」
佐織「何とか川名先輩を倒し、元の姿に戻した七瀬さん。
再び訪れた平和な日々を浩平君とのラヴラヴな状態で過ごします」
詩子「しっかぁ〜〜しっ!!そうは問屋がおろさないっ!」
佐織「瑞佳の嫉妬の炎はまだまだおさまりません」
詩子「そんな長森さんが次に選んだ少女の名は――」
佐織「駄目だよ、詩子ちゃん。まだその名前言っちゃ」
詩子「あ、ゴメ〜ン☆」
佐織「少女を探る、妖しい影」
詩子「果たしてその少女は瑞佳の魔の手を逃れられるのかっ」
佐織「次回」
詩子「闘えっ!!七瀬改」
詩子&佐織『沈黙のバトルッ!(その1)』
詩子「タイトル見たら誰が出るかばればれだよね」
佐織「そお?」


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いいんちょ「感想下さった皆様、ありがとうございました。
正月に書き溜めちゃった分はこれでおしまいっす。
今日は用事があるので帰るし…」
七瀬改「カレカノ好きなの?」
いいんちょ「わりと」
マッド瑞佳「前もエヴoのパロやってたしね」
いいんちょ「うぅっ」
マッド瑞佳「G○ンも好きみたいだよ」
七瀬改「今回はあたしの出番あったわね。変な役回りだけど…」
マッド瑞佳「わたしより詩子さんと佐織の方が台詞多いよっ」
いいんちょ「すまん瑞佳っ。次はちゃんと台詞一杯用意するから」
マッド瑞佳「ほんとだよ」
いいんちょ「もちろんっ。オレは瑞佳が一番好きなんだから」
七瀬改「茜シナリオでもう既に10回ぐらい泣いてるくせに…」
いいんちょ「ぐあっ…」
七瀬改「しかも小説版では1巻の瑞佳のシナリオでは泣かなかったのに、
2巻の茜のシナリオでは1時間ぐらい泣きまくってたわよね…」
いいんちょ「げふぅっ!!!」(←大ダメージ)
マッド瑞佳「知らないもんっ(ポチッ)」
いいんちょ「ぎゃぁぁぁ〜〜〜」
マッド瑞佳「今度は電流が流れるように改造したんだよ」
七瀬改「はぁっ。こんなんでいいのかな…」

おしまい