乙女の決断 投稿者: いいんちょ
「なぁ、七瀬……。抱いていいか」
突然折原がそう言った。
抱いていいか?
確かにあたしにはそう聞こえた。
それって…。
「えっ…ま、待って…」
折原はあたしの戸惑いを尻目にあたしの背中に手を廻そうとする。
あたしは思わず叫んでいた。
「こ、こんなところじゃヤダっ…」
「誰もこないって」
「そーいう問題じゃなくてっ…場所の問題っ…」
折原はあたしを乙女にしてくれた。
その折原があたしを今度は女にしようとしている。
つまり、折原があたしの事を異性として求めてくれている。
その事は嬉しいけどこんな場所でなんて嫌だった。
「えっ…?」
折原は意外そうな顔だ。
「じゃ、どこだったらいいんだ?」
「…そ、そんなこと聞かないでよ…」
デリカシーってものが感じられない。
そんなところも好きなんだけど…。
「じゃあ、ここで」
「ま、待って!」
本当にここでしそうな折原にあたしは慌てた。
えっと…あたしの家じゃまずいし、どこにしよう?
初めての場所がラブホテルなんてのはいかにもって感じがして絶対ヤダ。
でも、教室も絶対イヤ。
安心できて、人がこなくて、ロマンチックな場所…。
クリスマスの夜、折原と踊った公園が一瞬頭をよぎった。
でもこの時間に人がいないなんて訳はない。
それにまだ寒いし。
そうだっ。
「やっぱり最初はっ…男の子の部屋がいいかなっ…」
ぎこちないと自覚しつつも笑顔であたしは言った。
言ってしまって顔が急に火照りだしたのが自分でも分かる。
恥ずかしい…。
「俺の部屋…?」
「う、うんっ…」
な、なんかいけなかったかな?
折原があたしの方を怪訝な顔で見つめている。
「………」
なんとなく気まずいような沈黙が流れる。
ど、どうしようっ。
「わかった。じゃあオレの部屋だ。いいな?」
よかった。別になんかあたしがおかしな事を言った訳じゃなかったみたいだ。
折原の言葉に無言で頷くあたし。
こうしてふたりで折原の家へと向かう事になった。

でも…。
折原に抱かれて女になったあたしは乙女と言えるのかな?
どうなんだろう。
少なくとも汚れを知らない乙女、なんて訳にはいかないと思う。
それにあたしはもちろん初めての事だ。
恐いという気持ちがない訳じゃない。
むしろその気持ちはとても強かった。
折原の家へと向かう道すがら、なんとなく無口になるふたり。
学校から離れ、折原の家へと近付くにつれ、あたしの不安は大きくなっていった。
はっきり言ってすごく恐い。
いつもは優しい折原の顔さえ恐くて真っ直ぐ見る事ができなかった。
なんとか切り抜けようとあたしは声をあげた。
「あっ」
「どーした」
「ゲーセン」
「はじめて見たのか?」
「うぅん…なんか新しいの入ってるかなぁって…」
「おまえ、あからさまに本題から逃げようとしてるだろ…」
「だ、だってゲーセンよ、ゲーセン!ゲームがいっぱい置いてあるのよっ!」
あたしは不安な気持ちで動転していたのか思わず意味不明な事を口走る。
それに対して折原は落ち着いてこたえる。
「ほぅ、それは興味深い場所だな。明日にでも存分、時間を費やすとしよう」
「今日限りのがあるかもっ!」
「安心しろ。ない」
「うぅ…」
もしかして折原ははじめてじゃないのかな?
そんな疑問を抱きつつ、無駄とは分かりながらさらに緊急回避、乙女の抵抗を試みる。
「あっ、カラオケ」
「それがどうした」
「なんか、新曲入ってるかもっ」
「よし、明日行こうな」
「うぅっ…」

「あっ、魚屋!」
「それがどうした」
「なんか、いい魚が入ってるかも」
「よし、明日一緒にさばこうな」
「うぅっ…」

「あっ、佐藤さんの家だっ!」
「それがどうした」
「小学校の頃の友達の家かもっ…」
「よし、明日訪ねてみような」
「うぅっ…」

とうとう折原の家に着いてしまった…。
「…えっと、家の方は…?」
「安心しろ。夜にならないと帰ってこない」
「う〜…」

「どうした。入ってこいよ」
折原が部屋の中から手招きをする。
「散らかってるけど、我慢してくれよな」
チャーンス!
話題をそらす最後の機会かもしれない。
「ほんっっとに散らかってるわね…。帰るわ」
「こ、こらっ!ちょっと待てっ!今来たばっかりだろっ!!」
やっぱり止められた…。
「じょ、冗談よ…」
「ほんとに出て行こうとしたじゃないか」
いつになく追及が厳しい。
「冗談だってば…」
「………」
「………」
三度、気まずい沈黙が部屋の空気を覆う。
「…さてっ」
「なにっ!?」
思わず過敏に反応してしまうあたし。
「いや、お茶でも持ってこようかなって…」
「そ、そう…」

ずずっ。
ず〜〜。
ずっ。
「なぁ…」
「なに…?」
「なにやってんだ、オレたち…?」
「お、お茶飲んでるんじゃないっ…」
どもりながらあたしは言った。
折原がお茶を入れに一階に行っている間に心を落ち着けたつもりだったけど、ぜんぜんダメみたい…。
「退屈じゃないか…?」
「え?うぅん、楽しいよ、あたしはっ…」
「そうか…?」
「うんっ…楽しいよっ…」
「そうか…」
ずずっ。
ず〜〜。
ずずず。
ずっ。
「ほんとにか?」
「えっ?なにがっ?」
「いや…べつのことしないか?」
「べっ、べつのことって…」
「うん…そうだなぁ…たとえばゲー…」
「わ、わかったわよ…」
折原はあたしが恐がっていることが分かっているみたいだ。
だから性急なことはしてこない。
今だってゲームでもして気を紛らわせてくれようとしたんだ。
そう。折原はいつもの優しい折原のままだったんだ…。
なんか、折原に申し訳ないと感じた。
あたしは、あたしにはもう折原という王子様がいるのに、誰からも憧れとなるような乙女でいる事しか考えていなかった。
つまりは自分の気持ちばかりを優先していた。
そんなあたしを折原は優しく見守っているのだ。
どうしてもその気持ちに応えたいと思った。
ここで逃げちゃいけない。
この人を好きだから…。
だからあたしはそう言って湯飲みを床に置いた。
でも…。
「でも…どうしたらいいかわからないのよ…は、初めてだからっ…」
「は…?」
なぜか折原は間の抜けた返事をしてきた。
あたしから切り出すとは思っていなかったのかもしれない。
でも折原はすぐにまじめな顔つきになりあたしに言葉をかける。
「七瀬…」
「は、はいっ」
「なに緊張してるんだ…」
「あ、そ、そうねっ…」
「隣いくぞ」
「…うん…」
折原はあたしの隣に座り直す。そしてあたしの顔をみつめてきた。
「は…ぅっ…」
あまりに胸が高鳴りすぎて息が詰まってしまう。
鼓動が折原にも聞こえているんじゃないかって思うとさらに緊張した。
「七瀬…」
「…う、うん」
折原の息が感じられる。折原のくちびるがあたしのそれに近付いてくる。
…あぁ、このままあたしは折原に抱かれるんだ…
ふたりのくちびるが重なろうとした瞬間だった。
…やっぱりまだダメっ
あたしは反射的に行動を起こしていた…。
「あっ、大相撲の時間!」
我ながらなんて間の抜けた行動だろうと思う。
そんな自分が少しイヤだ…。
テレビでは錦ノ海と浜の山の対戦が始まろうとしていた…。
これにはさすがの折原も怒るだろう。
「こらああぁぁぁぁっっっ!!!」
案の定、折原は怒った。
「あはっ…あははははっ…」
作り笑いを浮かべてごまかそうとするあたし。
「あははじゃな〜〜いっ!!
BGMを相撲中継なんかにするなぁっっ!!まわしの色なんか聞きながら、キスしたくないわっっ!!」
初めて乙女の抵抗が効いたみたいだった。
イヤなものが効いてるけど…。
折原があたしからリモコンを取り上げる。
「き、気になるじゃない…賜杯の行方…」
文句を言う折原にとりあえず適当にこたえておく。
「そんなに相撲が好きだったのか。それじゃあ誕生日は関取のブロマイドで決まりだな」
…誕生日プレゼントが関取のブロマイドなんて、そんな乙女いるわけないわっ。
あわてて取り繕うあたし。
「そ、そんなぁ…冗談だってば…」
「じゃあ、もうふざけるなよ」
「う、うん…」
はぁっ。なにしてんだろっ、あたし…。
「………」
ふと、折原を見ると、なにやら黙り込んでいる。あたしは心配になって声をかけた。
「…どうしたの?」
「…はぁ……やめとくか」
折原の口から漏れた言葉は思いもよらないものだった。
「…え?どうして?」
「あれだけ雰囲気壊しておいて、よく言うよな」
「あ…ごめん…」
「相撲でも見るか」
そう言って折原はテレビをつけようとする。
このまま、彼の優しさにすがってしまっていいのだろうか。
あたしは彼に与えられるばっかりで何もしてあげてない気がする。
バカ女の時だって、クリスマスの時だって。
折原はいつだってあたしの事を考えてくれていた。
それなのにっ。
「待って…」
あたしは思うより早く行動に出ていた。
あたしは折原の首の後ろに手を廻すと口を寄せた。
折原はそのまま待ってくれていた。
二度目のキス……。
あたしはただ、くちびるが触れるところまでいくだけで精一杯だった。
少し渇いた感じのするくちびる…。
と、折原が突然あたしの口の中に舌を滑り込ませてきた。
「!!」
あたしの動揺に関係なくそれはやがてあたしの舌に触れた。
…あんな事のあとなのに、折原はあたしを求めてくれているんだ。
なんとなく嬉しくなって恐る恐るあたしも舌を差し出した。
お互いを求めてふれあう舌と舌。通じ合う心と心。
たまに音が漏れて思わず舌を引っ込めると折原はあたしをさらに求めて深く舌を入れてきた。
そしてそれにあたしも応える。
そんな事をどれくらい続けていたのだろう…。
頭がぼーっとしてきて分からなかった…。
ただ、折原のにおいと温もりがあたしを満たしていた。
お互いを味わって、そのまま永遠とも思える長い時間が過ぎていった……。

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いいんちょ「…なんか書いてて恥ずかしくなってきた」
マッド瑞佳「ねえ、ここで終わりなの?ここからがいいところだよ」
いいんちょ「…いや、これ以上はまずかろうと。長いしね。一応は書いてはあるんだけどね。
でも多分誰もそう言うシーンは書いてないと思うし、ヤバイかな〜なんて。
まぁ、要望があったら載せるけど。でも半日で削除されてたりして…」
マッド瑞佳「ふ〜ん。まぁ、ひねりも何もないしね」
いいんちょ「(ぐさっ)…そういや七瀬改は?」
マッド瑞佳「メンテ中」
いいんちょ「メンテって……。でもあいつがいないなら続きも載せてしまおう」
七瀬改「やめんか〜〜〜!!!」
いいんちょ「ぐほぉっ!!!むぅ。日々技が冴えてくるな、おまえ」
七瀬改「乙女の修行の賜物よ。それより気になったんだけど……」
いいんちょ「確かに乙女の修行で強くなれることが気になるな」
七瀬改「そうじゃなくてっ。前のSSでキスしたあと浩平って呼んでたのになんでまた折原なわけ?」
いいんちょ「むっ。それには深い理由があってな。語ると日が暮れる」
マッド瑞佳「単にしっくりこなかったから戻しただけだよ」
いいんちょ「あっ、こらっ!!余計な事を言うな」
七瀬改「はぁっ。計画性ないのね…」
いいんちょ「ぐあっ。痛いところを…。ちくしょう瑞佳め。おまえのせいだぞ」
マッド瑞佳「わたし悪くないもんっ。計画性がない方が悪いんだもん」
七瀬改「あと、なんであたしのSSばっかり、それも本編に極力準拠して書いてんの?特に台詞なんてそのままじゃない」
いいんちょ「それはだな、おまえのストーリーで小説が出そうにないから同情してオレが書いてやろうかと。
でも全編書いても疲れるし誰も読む気起きないだろうから、適当なシーンをSSにしていこうかと…」
七瀬改「あんたなんかに同情なんてして欲しくないわよ」
いいんちょ「そういうこと言うと今回のSSの後半部分のせるぞ」
七瀬改「イヤッ!それだけはやめて。お願いだから」
いいんちょ「載せるのが駄目なら読み上げよう。
『「七瀬、もっと奥まで…」
折原の言葉に従い、さらに奥へとそれを頬張る。
上目遣いに見上げると、折原はすごく切なそうな顔をしていた。』」
七瀬改「読むなぁぁっっ!!!!」
いいんちょ「ぐぼあぁっっ!!!」
マッド瑞佳「わあっ。死んじゃうよ。
……死んじゃうといけないから改造してあげるね」
いいんちょ「ぎゃぁぁぁぁっっっ!!!」
七瀬改「はぁっ。また感想書けなかったわね…」

おしまい