みなさん、こんばんは。始めましてな方は、始めまして。 いけだものと申します。 数ヶ月ぶりにSSを書いたので、投稿しに来ました。時間に余裕のある方は、騙されたと思って(笑)読んでみてください。 それでは、どうぞっ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「もう少しで出来ますから、こちらに座っていてください」 土曜日の夕飯どき。 俺は1人、茜の家のダイングルームの椅子に腰掛けて、料理が出揃うのを待っていた。 本当は茜の両親も一緒に食事をする予定だったのだが、2人とも急用が出来たとかで外出してしまい、結局、茜と2人きりで食べることになったのだ。 「お待たせしました」 程なく、俺の前に今日のメインディッシュである、クリームシチューが運ばれて来た。 「おお、美味そうだな」 ホワイトソースの白いキャンバスに、人参の赤、ほうれん草の緑そしてトウモロコシの黄色が色合い良く散りばめられていて。 さっきから俺の胃袋を刺激しまくっている匂いと併せて、ここまでは完璧な出来と言えるんじゃないだろうか。 「...そうですか?」 俺の言葉に素っ気なく、でも口元にほんの少し笑みを浮かべてそう答える茜。 そして「口に合うと良いんですけど」と付け加えながら、俺の正面の椅子に座る。 「では、冷めないうちに食べましょう」 「ああ」 「「いただきます」」 茜に促され両の手を合わせると、俺達は会話もそこそに、湯気の立ち上がるシチューを頬張った。 はっ、熱っ...ハフハフハフ... もぐもぐ...ごくん ...美味い。 基本となるホワイトソースの舌触りは滑らかで、それぞれの具材の旨みがぶつかり合うことなく絡み合った濃厚な味になっている。しかしそれでいて、少しもしつこさを感じないのが驚きだ。 続けてもう一口。 ハフハフ...もぐもぐ...ごくん。 うむ、食べ応えを考えて大きめに切られた野菜も、火がしっかり通っていて柔らか... ・ ・ ・ ...って、俺はどこぞのグルメ番組の審査員かっ! とにかく。思わずうんちくをたれてしまうくらい、茜のシチューは美味かった。 『口に合うと良いんですけど』って一言が少し気になっていたんだけど、単なる社交辞令だったってことか。 茜の舌も基本的には信用してるんだけど、たまに凄い味覚を披露してくれるもんだから、ついつい警戒しちまうんだよな。 ...ハフハフ ...もぐもぐもぐ... それにこの、じわじわと体の芯から暖まって行く感覚は、いつものインスタント食品じゃあ到底味わえない。 寒空の下、体を震わせながら来た甲斐があったってもんだ。 ...ハフハフ ...もぐもぐもぐ... 「ふう...」 シチューを半分ほど食べたところで、軽くひとつ息ついて顔を上げる。 と。 テーブルの対面では、茜が不機嫌そうな表情で俺を見つめていた。 ん? 俺、何かしたか? そう思った矢先。 「...こんな時、普通は会話を楽しみながら食べるものです」 茜のもっともな一言が、俺の胸を抉る。 ぐあ... 言われてみれば食べるのに夢中で、さっきから一っ言も喋ってない気がするぞ。そりゃ不機嫌にもなるよな。 「あ、えぇとな。ほら...」 慌てて会話を始めようとするが、こんな時に限って頭が上手く回らず、話題が浮かばない。 「...」 ううっ、茜の視線が一段と厳しくなって来た...こんな雰囲気のまま食事はしたくないぞ...とりあえず何か話さないと... 「き、今日って、かなり寒かったよな」 「...そうですね」 「最高気温も5℃までしか上がらなかったらしいぞ」 「...そうですか」 「...」 「...」 しまったっ、10秒と会話が続かなかったじゃないかっ! って、どうしてそんな盛り上りそうもない話題を振ってんだ、俺はっ! 何か他の話題...っと、そうだ、柚木の話なんか... ...いやいや、それだけは止めたほうが良いな。いきなり現れでもたりしたら嫌だし。 それじゃあ、いったい... とまあ、こんな感じで。焦れば焦るほど手ごろな話題が見つかるはずもなく、茜に見据えられたまま嫌な沈黙の時間が続くのだった。 「...感想は?」 しばらくして、いい加減油汗をかいている俺を見かねたのか、助け船を出すかのように、茜の方からそんな問いかけをして来た。 「こんな時、普通はまず感想を言うものです」 「あ、ああ、そうだよな」 本当にそのとおりだ。言われてみると、何でこんな簡単なことが思い付かなかったのか不思議に思う。 「...はい」 小さく頷いて俺の答えを促す茜。 それを受け、俺はいつになく真剣な表情を作って言葉を紡いだ。 「12点」 「何点満点ですか...?」 「10点」 「...」 「文句なく美味い。それと...」 「それと?」 「メインデッシュがシチューだってことで、プラス2点の12点だ」 「...浩平って、そんなにシチューが好きでしたか?」 俺の答えに、不思議そうな顔で聞き返して来る茜。 確かに今の説明だと簡潔すぎて、理由が良く分からなかったかも知れないな。 「いやな、今日ってかなり寒かっただろ? だからなんとなく、シチューなんかが食べたいって思ってたんだよ」 「...」 「そうしたら、そのものズバリだろ。こう言うのってなんか、気持ちが通じ合ったみたいで嬉しくないか?」 「...」 まあ、実際のところ。俺の想いと茜の考えていたメニューが一致したのは、ただの偶然で。 気持ちが通じ合ってるなんて、勝手なこじつけなんだろうけど。 それでもそんな風に考えたくなるのは、その相手が本当に好きな人だからだと思う。 そして茜も、くすりと笑いながら「そうです...ね」って同意してくれるから。 「だったら、遠慮しないで沢山食べて行って下さいね」 「ああ、もちろんだ。それじゃあ、おかわり貰えるか?」 「はい」 このシチューが、体だけじゃなく心まで暖かくしてくれるように思えて。 いつになく、食が進んでしまうんだ。 ・ ・ ・ 「うう...腹が苦しくて動けん...」 「調子に乗って食べ過ぎるからです」 「...なあ、茜。悪いけど、茜の部屋で少し休ませてもらえない、か?」 「嫌です」 「そんなこと言わないで...な?」 「顔がにやけてるから、嫌です」 だぁっ! そんなところまでは通じなくていいんだよっ! ・・・・・ おしまい ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ おそまつさまでした〜 今回は、みなさんも(恋人とではなくても)一度は体験したことがあるんじゃないかって出来事をSSにしてみました。 大きな山も谷もない面白味に欠ける展開ですけど、こんなコトも”幸せのかけら”の一つなんだなと感じて頂けたら幸いです。 それではみなさん、また機会がありましたらお会いしましょう♪ 最後に、このSSを書くにあたってパワーを下さった変身動物ポン太さんとパルさんに、『ありがとう』と簡単ではありますが感謝の言葉を贈らせて頂きます。 http://village.infoweb.ne.jp/~fwiv2654/index.htm