夏の楽しさを 投稿者: いけだもの
こんばんわ、いけだものです。
やっとこさ、新作が書けました。
そしてなんと今回は...茜SSじゃあ、ありませんっ!
ええっ!じゃあ、誰の? ←わざとらしい演出
その答えは、読んでからのお楽しみっ!
では、ど〜ぞっ♪
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「ここでも...良い風が吹いてるんだね」
艶やかなストレートの黒髪を潮風になびかせて、みさきさんは嬉しそうにそう言った。
陽が落ちて間もない時間帯。
風景は本来の色彩を失い、藍、そして黒一色の世界へと変わり始めている...


鬱陶しい雨の季節が過ぎ、今年もまた、強い陽射しが照りつける季節がやってきた。
多くの人達が、我先にと海や山へと繰り出して行く。
でも、みさきさんは違う。
大勢の人が集まる行楽地は、気を遣うばかりだし。
涼感溢れる川や海での水遊びだって、俺達が考えてる以上に危険な行為だ。
そして夜空を鮮やかに彩る花火さえも、不規則に鳴り響く、だだの大きな音でしかない。

『夏』

今のみさきさんにとっては、特別に楽しい事もない、暑いだけの季節。
だから俺は、そんなみさきさんを、あえて海へと連れ出しんだ。


「はい、みさきさん」
声をかけながら、先ほどスーパーで購入したカップのかき氷を、みさきさんに手渡す。
「冷たくて、気持ち良いね」
受け取ったカップを頬に当てて、本当に気持ち良さそうな表情を見せるみさきさん。
ところが、
「そうだな...って言った側から食べようとするなよっ!」
次の瞬間には、早くもその蓋を開けていた。
「だって、早く食べないと、融けちゃうよ」
なんて言い訳をしながら。
それがまた、いかにもみさきさんらしくて、俺の口元は緩んでしまうのだった。

シャリッ、シャリッ...
木製のさじで氷をつつく、涼しげな音。
...ぱくぱくぱく
防波堤に2人並んで腰掛け、無言でかき氷を食べる。
シャリッ、シャリッ...
...ぱくぱくぱく



シャリッ...
しばらくすると、みさきさんがかき氷を食べる音が止まった。
もう食べ終えたのか。
相変わらず、食べるペースが早いよな。
「みさきさん、そんなに急いで食べると頭が...」
そんな言葉をかけながら隣に目を向けると、みさきさんは俯いてこめかみを押さえていた。
「う〜」
「ぷぷっ」
あまりにベタな展開に、思わず吹き出してしまう俺。
「浩平君、酷いよ〜」
みさきさんは、そんな俺を恨めしそうに見上げながら、情けない声を上げるのだった。


「よしっ、それじゃあ今日のメインイベントを始めとするかっ」
かき氷を食べ終え、会話もひと段落したところで、俺はすくっと立ち上がる。
「待ってました〜。で、何をするのかな?」
ぱちぱちと手を叩きながら、興味津々といった表情で聞いてくるみさきさん。
「スイカ割りだよ」
「スイカ割り?」
「知らないか?目隠しをして、棒でスイカを叩き割る遊びなんだけど...」
「それくらい知ってるよ〜」
「なら問題ないな。じゃあ俺は準備をするから、ちょっと待っててくれ」
そう言って俺は砂浜に降りると、適当な場所にビニール・シートを敷いて、その上にスイカを置く。
続いてみさきさんのところに戻り、その手を引いてスイカから5mほど離れた位置に誘導する。

「じゃあ、ちょっと失礼して」
みさきさんの後ろに回ると、タオルで目隠しをし始める俺。
と、
「浩平くん...それ、私には必要ないんじゃないかな?」
少し遠慮気味に、みさきさんが聞いてきた。
それは、きっと聞かれるだろうと思っていた事。
「いや、これはルールだから」
だから俺は、さらりとそう答える。
「ルール...だから...」
俺の答えを反芻するみさきさん。
そして少しの間を置いて、
「そうだよね。ルールなんだから、ちゃんとしないと駄目だよね」
自分自身に言い聞かせるかのようにそう呟くと、みさきさんは嬉しそうに微笑んだ。


「それじゃあ、始めようか」
「うん。いいよ」
みさきさんの言葉を受けて、俺はみさきさんの身体をくるくると回し始める。
1回、2回、3回...
...6回、7回...
「ねえ、浩平くん、これって回しすぎなんじゃないかな?なんとなくだけど」
「そんなことはないぞ。18歳以上の女子は10回以上回転させることって、世界スイカ割り協会のルールブックにも書かれてるんだからな。ちなみに男子だと15回以上だ」
「そんなの聞いたことないよ〜」
「世の中には、みさきさんが知らないことが、まだまだ沢山あるってことだ。はい、10回っ」
抗議の声をさらりと流し、みさきさんを回し終えた俺は、スイカが置いてある場所へと移動する。
「さあ、みさきさん、とりあえず俺の声が聞こえる方向に真っ直ぐ歩いて来てくれ」
そして、最初の指示を送った。
「声の聞こえた方に、真っ直ぐだね」
「ああ、そうだ」
「行くよっ」
木の棒を必要以上に振り上げ、意気揚々と歩き出すみさきさん。
すたすたすたすたすた...
「おおっ」
10回も回転させられたってのに、その足取りは見事なまでに一直線だった。
「お...」
でも何故か、海に向かって。

すたすたすたすたすた...
うーん、これはどう解釈したら良いものだろう?
声の方向に向かって歩くことなんて、みさきさんなら朝飯前だと思ったんだけどな。
って言うか、あの状態で真っ直ぐに歩く事の方が、難しいだろ。
もしかして...わざとやってるのか?
あまりに不思議なその動きに、唖然としてみさきさんの動きを目で追うだけの俺。

...ぺたぺたぺたぺた
「...」
ぴちゃぴちゃぴちゃ...
...ざぶっざぶっざぶっ
「...」
足首が完全に水に浸かるくらいの所まで進んで、みさきさんはようやく歩みを止めた。
「浩平く〜ん、足が冷たいんだけど、このまま進んで大丈夫なのかな?」
そして沖合いに浮かぶ漁火に向かって話しかける。
「...」
「浩平く〜ん、返事がないよ〜」
「あ、悪い悪い、あっけにとられて言葉もなかったんだよ」
「...あれ?浩平くん?」
変な間をあけての返事。
「酷いよ〜。浩平くんが移動するなんて、ルール違反だよ〜」
続けざまに、そんなことをのたまうみさきさん。
どうやら素だったらしい。
「俺はさっきからずっと同じ場所にいるって...」
スイカ割りは、前途多難のようだった。


〜 数十分後 〜

しゃくしゃくしゃく...
俺達は再び防波堤に座って、みささきさんが割ったスイカに齧りついていた。
...しゃくしゃくしゃく
「このスイカ、美味しいね」
「ああ、そうだな」
あまり冷えていないのと、形がいびつで持ち難いのがたまに傷だが、瑞々しくてなかなか美味い。
それにしても、海でスイカを食べるってのは、なかなか風情があって良いものだ。
ほんの少しでも、みさきさんがそれを感じてくれてたら良いんだけどな。
しゃくしゃくしゃく...
そんなことを考えながら、スイカを咀嚼する俺。

「浩平くん、今日はありがとうね」
不意にかけられた声に顔を横に向けると、みさきさんはスイカを食べるのを止め、海の方向に目を向けていた。
「ん?礼を言われるようなことはしてないと思うけど」
「海に来るのなんて、本当に何年かぶりだから、凄く嬉しかったんだよ」
「そうか...なら良かった」
「スイカ割りも...あんなに楽しい遊びだったんだよね」
そう言いながら、みさきさんが俺のほうに向き直る。
「ねえ、浩平くん」
見えない瞳で、俺を見据えて。
「何だ?」
「来年もまた、連れて来てくれるよね?」
そして、にこりと微笑んで、そんなことを聞いてくる。

防波堤に並んで腰掛け、見つめ合うカップル。
傍目には、今にもキスの1つでもしそうな雰囲気に見えたかも知れない。
しかし、
微笑むみさきさんの口元には、1粒のスイカの種。
そのおかげで、そんな気分になる訳がなかった。

だから俺は...
「ああ、もちろんだ。でも来年は、スイカ割りはもう止めようかな」
そう答えながら、そっとスイカの種を取ってやったんだ。
みさきさんったら、恥ずかしさと嬉しさが入り混じったような、そりゃあ複雑な表情をしてたよ。
「う〜、浩平くん意地悪だよ〜」

だけどこれで、少しくらいは夏の楽しさを分かって、いや...思い出して貰えたよな。みさきさん。


・・・・・ おしまい ・・・・・

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はいっ、お付き合い、ありがとうございました〜♪

みさき先輩のスイカ割り、いかがだったでしょうか?
目が見えない人でも、できる夏らしい遊びって、これくらいしか思い浮かばなかったんですよねぇ。
しかも都合の良い展開で(苦笑)。
でも、久々にほのぼのとした雰囲気が出せたような気がして、自分では満足しています♪

それでは、少しですが感想などです。

変身動物ポン太さん
・リレーSS 第19話
 ポン太さん御得意の浩平ラヴラヴシュンくんを出してきましたね(笑)。相変わらずの妖しさが、良かったですっ。
・感想SS”夏真っ盛りだねえ・・・(しみじみ)” 
 ことわざシリーズ、個人的には「その1」が好きですね。あと、感想ありがとうございました♪って、このメッセージは届くのかな?

はなじろさん
・ある少女の日記より
 佐織(ですよね)、長森想いの良い奴だった...(笑)って冗談はさておき、長森を想う気持ちがホントに溢れんばかりの作品で、自分好みでした♪それから感想もありがとうございました〜

はにゃまろさん
・ぴーたーぱん
 す...凄いファンタジーだ...そして夢落ち...でもって続き物みたいですけど...ど、どーなるんだ?これから?

どんぐりさん
・今を奏でるピアノ その四
 澪に忘れられそうになったときの描写が、緊迫感があって良かったです。さて、浩平が消えるときは、どんな切なさを見せてくださるんでしょうか?そこが、創作シナリオのポイントですから、楽しみです。

最後に、前作「あきらめの悪い女」を読んでくださった方々、感想までお寄せくださった方々、ありがとうございました♪
自分、ペース遅いですけど、新作を見かけた時は、また読んでやってください。

それじゃあ、まったね〜

http://village.infoweb.ne.jp/~fwiv2654/index.htm