あきらめの悪い女 (後編) 投稿者: いけだもの
みなさん、こんにちわ。
いけだものです。
なんとか後編をお届けすることができました。
お時間と興味のある方は読んでやってくださいましっ♪
では、ど〜ぞっ。
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前回のあらすじ
 山葉堂が個数限定の特製ワッフルを販売し始めた。
 俺と茜もそれを目当てに足しげく山葉堂に通うものの、なかなか買うことができないんだよな。
 おかげで俺は、4日連続で例の練乳蜂蜜ワッフルを食べると言う、前人未踏の偉業を達成させられる羽目になったんだ。
 結局、今日も山葉堂に行くことになったんだが...これ以上の記録更新は、なんとかして避けたいぞ。


ざーーーーーっ
雨の雫が跳ねる通学路を、小走りに商店街へと急ぐ。
こうなってしまった以上は、最善を尽くすのみ。
俺は、あきらめが良い方なんだ。
そんな事を考えながら、ちらと隣に目を向ける。
うっすらと顔を上気させながら、真剣な表情で走る茜。
そう言えば...
茜は自分の事を、あきらめが悪い方だって言ってたっけ。
本当に、そのとおりだよな。
たかがワッフル1つ買うために、こんなにもむきになって。
まるで子供みたいと言うか。
普段はあまり見せることのない、茜のそんな一面に、思わず口元が緩んでしまいそうなる。

「...どうかしましたか?」
俺に見られていたことに気付いた茜が、いぶかしげな顔で問いかけてきた。
「ん?どうもしてないぞ」
「...顔がにやけてます」
いかん、いかん。
実際に口元が緩んでいたらしい。
考えがすぐに顔に出るこの癖、早いとこ直さないといけないな。
「いや、そんなことはないはずだぞ」
話をごまかすように、俺は僅かにスピードを上げる。
「あっ、待ってください」
「急がないと、また売り切れちまうぞっ」
そうこうしているうちに、俺達は商店街へと辿り着いた。


ざーーーーーっ
そのままペースを落すことなく、山葉堂へ。
「おっ」
こんな天気のせいか、山葉堂の前にできた人の列は、ここ数日と比べて明らかに短かった。
「今日は、買えるかもしれないな」
「...そうですね」
少しは期待の出来る状況に、ほっと胸を撫でおろし、行列の最後尾に並ぶ。
「それにしても、特製ワッフルって、どんなのだ?」
「...分かりません」
「なんだ、茜も知らないのか」
「...はい。ですから楽しみです」
新商品を目当てに行列を作る誰もが交わすであろう、何の変哲もない会話が弾む。
だけど昨日までは、前に並ぶ人の数に圧倒されて、こんな会話すらできなかった気がするんだが...
つまりそれだけ、俺も茜も、この状況にかなりの期待を持ってるってことなんだろうな。

ざーーーーーっ
1組、また1組と、行列は順調に捌けて行く。
そして並び始めて十数分が過ぎたころには、俺達の順番まで、あと5組という状況になっていた。
これは...行けるだろ。
期待が確信へと変り始める。
茜も同じような想いなのだろう。
その瞳が、心なしか輝きを増してきているように見えた。
ところが...
「お並びのお客様ぁ、大変申し訳ございませんが、特製ワッフルは只今売り切れましたー」
2組前の客が会計を終えてレジから離れた時、店員の口から、そんな無情な台詞が放たれたのだ。

「...っ!」
突然の通告に、絶句してしまう俺。
俺達の後からも「えぇ〜〜〜っ!」と言ったどよめきが聞こえてくる。
茜は?
首を回して横を見ると、茜は虚ろな目をして、まさに呆然と言った感じで突っ立っていた。
期待がかなり膨らんでいただろうからな。
この反応も無理はない。
「惜しかった、な」
ぽんと肩に手を置いて、そう声をかける。
「...仕方...ありませんね」
力なくそう呟くも、気丈に笑顔を作って見せる茜。
しかし今日は、そんな茜に、更に追い討ちをかける事態が待っていたのだ...


「いらっしゃいませぇ。ご注文をお伺いしますぅ」
店員の明るい声に促されて、ショーケースの中の商品をひととおり眺める茜。
はははっ、何を買うかはとうに決まっているのに、おかしなもんだよな。
その行動に、思わず苦笑してしまう。
茜が注文するもの。
それはまず間違いなく、『練乳蜂蜜ワッフル』だ。
はぁっ、結局今日も記録更新か...
覚悟を決めて、茜が注文をするのを待つ俺。
だが、



いつまで経っても、茜はうんともすんとも言わなかった。

「あのー、ご注文は...」
店員が困った顔で、俺に声をかけてくる。
「どうした、茜?」
声をかけながら茜の顔を覗いてみると、その視線が、ショーケースに貼られている1枚の貼り紙に釘付けになっているのに気が付いた。
何だ?この貼り紙?
とりあえず読んでみる。
と、
『本日は都合により、練乳蜂蜜の販売をお休みさせていただきます』
そこには、そんなことが書かれていた。
なるほど。
どおりで茜の動きが止まっている訳だ。
茜、今日は厄日のようだな...
そんな茜が流石に可哀想だとは思ったが、慰めの声をかける前にとりあえず、図らずも記録更新が止まったことを神に感謝した俺であった。


〜 数分後 〜

「お決まりですかぁ?」
俺の慰めでなんとか頭を上げた茜を見て、店員がにこやかな顔で再び声をかけてきた。
ところが...
「...すみません。今日は止めておきます」
茜は軽く頭を下げて店員にそう告げると、足早にレジを離れる。
「え?」
予想外のその行動にあっけにとられ、茜の後姿を唖然として見つめることしかできない俺。
その間にも茜は、てとてとと商店街の出口に向かって歩いていく。
「お、おいっ」
数秒後、やっと我に返った俺は、とりあえず「すみません」と店員に声をかけ、慌てて茜の後ろ姿を追いかけた。

ざーーーーーっ
「茜っ、どこ行くんだよっ」
「...」
追いついたところで、声をかけてみるものの、返事はない。
無言で歩き続ける茜。
時折俯いて目を閉じたり、空を見上げたりしながら。
どうやらそれは、気持ちを落ち着かせるための仕草のようだった。
だから...
仕方ない、気が済むまで付き合ってやるか。
俺は、茜の後をのんびりとついて行くことに決め込んだ。

ざーーーーーっ
しばらく歩いているうちに、俺達は学校帰りにたまに立ち寄る公園に辿り着いた。
茜が歩みを止め、俺の方を振り返る。
「...今日は残念でしたね」
苦笑いのような表情を浮かべて、この台詞。
少しは元気が出たみたいだな。
「ああ」
「...浩平が言うとおり、平日に買うのは無理かもしれません」
「だったらもう、あきらめよう。な」
できるだけ穏やかに、言い諭すような口調で説得を試みる。
が、
「嫌です」
またしても、きっぱりと言い切られてしまった。

ざーーーーーっ
「でも、こうも毎日がっかりしてたら、気が滅入るばかりだろ?」
「...これくらいのがっかりは、大した事ありません」
「そうか?」
「...はい」
僅かに俯いて答えた後、少し間を置いて、更に言葉を紡ぐ。
「...私は、あきらめが悪い方ですから」
「本当にそうだな」
「それに...」
顔を上げ、まっすぐに俺の顔を見つめる茜。
「それに?」
「今は、なんだかんだ言いながらも、とことん付き合ってくれる人が側にいますから」
茜はにこりと微笑んで、はっきりとそう言った。
直後、よっぽど恥ずかしかったのか、頬を真っ赤にさせて、また俯いてしまったけど。
「...付き合って、くれますよ...ね」
その台詞と仕草に、俺は白旗を上げるしかなかったんだ。

まあ、そこまで言われたら、悪い気はしないよな。


・・・・・ おしまい ・・・・・

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はいっ、おそまつさまでした〜

ちなみにこのSSで今回書きたかったコトは、茜の最後の「今は...」って台詞です。
自分の場合、「あのキャラにこの台詞を言わせたい」って思ってSSを書くことが結構あるんですが...なかなか話が纏まらないんですよね(苦笑)。
今回も難しかったなぁ。
えっと、あと、特製ワッフルが何かを楽しみにされていた方がおられたら、ごめんなさい。
いつか書くことがあるかもです。


では、少ないですが1ページ分の感想で〜す。

本間ゆーじさん
・これもまた日常…になる?(2)
 FRAGO絡みになるみたいですけど、明るいタッチなのが(まあ、理由が理由ですしね(笑))自分は好きです。浩平と住井の男の友情みたいな場面が、どこかずれてて笑えました。

加龍魔さん
・ジャム(すずうたside)2
 確かに『すずうたside』なんですが...このコーナーで、こーまでモロに他のブランドさんのゲームのキャラを絡ませるのはどうかと...まあ、個人的意見ですけどね。

犬二号さん
・私的なお知らせ
 SS的な伝言だから、まあ良いかとは思うんですけど、一日位したら消しましょうね。
 えっと、あと、テスト頑張ってください。そしてまた続きをガンガン書いてくださいねっ♪

から丸さん
・夜曲
 夢オチ...と思ったら、もうひとひねりありましたね。しかしそっちも恐いなぁ。長森に寝首をかかれなかったのは、良かったのかそれとも悪かったのか...

Sashoさん
・リレーSS 第17話
 言い訳してる住井に大笑いっ!ホントに...ホントにバカだよ...お前...あー可笑しいっ♪コレ、自分もまた参加したいなぁ。 ←ネタなしくん


あと思ったんですけど、最近続きモノを書かれてる方って多いですよねぇ。
途中で煮詰まっちゃったりして、結構大変だと思いますけど、頑張って完結させてください。
一読者からのお願いですっ♪


さて、続いては、そろそろしつこいと思われそうな、『夏のSS座談会』のお知らせです。
8月28日(土)に名古屋で、タクティクス系SS作家さんのオフ会、『夏のSS座談会』を開催します。
詳細情報や参加を予定されているSS作家さんのリストなどを、自分のHP『ほんわか日和(URLは下です)』で、告知しておりますので、興味のある方は一度お越し下さいませませ♪


さて、次回は何時になるかは分かりませんけど...新作が書け次第、投稿したいと思います。
それじゃあ、まったね〜

http://village.infoweb.ne.jp/~fwiv2654/index.htm