あきらめの悪い女 (前編) 投稿者: いけだもの
みなさま、こんばんわ。
すっかりとご無沙汰しておりました、いけだものです。
そのおかげでこのコーナーも、ほとんど始めましてな方ばかりになっちゃってますね(汗)。
まさに浦島太郎左衛門(笑)。

たいしたことのないお話な上に、しかも前編なんすけど、お暇でしたら読んでやってください。
では、どうぞっ!
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「んあー。今日のHRは以上ー」
相変わらずの気が抜けるような髭の一声で、俺達の足枷が外される。
今からは自由な時間。
普段の俺ならば、ありあまる時間を浪費するかの如く、同じように暇を持て余す悪友らと共に、だらだらと教室に居座っていただろう。
しかし、今日は少しばかり事情が違っていた。
宿題のプリントなど、必要最小限の物を手早く鞄に突っ込むと、雑談に興じるクラスメート達の間を縫って、まるで何かから逃げるかのように、そそくさと後ろ側のドアへと向かう。
この間、およそ1分弱。
我ながら感心する素早さだ。
その甲斐あって、誰からも声をかけられることなく、教室を出る事ができた。

「ふうっ」
廊下へ出た俺は、大きく1つ、安堵の息をつく。
そして一気にこの場を離れるべく、走り出そうとしたその瞬間...
「...浩平」
びくっ!
背後から、俺の名前を呼ぶ声。
恐る恐る振り返ると、そこには案の定、茜の姿があった。
「...何処へ、行くんですか?」
穏やかな口調での問いかけ。
しかし、その瞳は笑っていない。
「ど、何処って...」
「...部活、ですか?」
「あ、ああ、そうだそうだ、久しぶりに部活にでも顔を出そうかと...」
「...軽音楽部の部室はあっちです」
俺の言葉を遮り、眉を顰めて、俺が走り出そうとしていた方向とは反対の方向を指差す茜。
「ぐぁ...」
「...何処ですか?」
鋭さを増す、茜の視線。
その背後では、めらめらと音を立てて、怒りの炎が燃え盛っているのが見える...
気がした。

下手な言い訳など、許されそうもない迫力。
「そ、そんなこと決まってるだろ。さ、さあ、今日こそは例のワッフルが買えるように、急いで山葉堂へ行こうじゃないか」
そう答えるしか、俺に道は残されていなかった。
「はい。それでは行きましょう」
俺の答えを聞くやいなや、茜はふっと表情を和ませると、すたすたと軽い足取りで昇降口の方へと歩き出す。
はぁっ...
一方、心の中で深いため息をつきながら、仕方なく茜の後ろをついて歩く俺の足取りは、まるで鉛の靴を履いているかのように重かった。


俺が茜から逃げようとしていた理由。
事の発端は、月曜日に溯る...

山葉堂が個数限定の特製ワッフルの販売を始めたと言う情報を入手した俺達は、その日の放課後、早速足を運んでみたのだが...
噂を聞きつけた人達で、いつも以上の盛況ぶりを見せる山葉堂。
「...買えるでしょうか」
「う〜ん、この状況だと、難しいかもな」
客の多さに圧倒されながらも、とりあえず列に並んでみたが、俺達の順番が回ってきたときには、既に特製ワッフルは売り切れていた。
「...」
ショーケースの前でがっくりと肩を落とし、言葉もなくうなだれる茜。
「そんなに気を落とすなよ。今日は別のワッフルでも買って、また明日来たらいいだろ?」
そのあまりの落ち込みぶりに、俺は軽い気持ちでそんな言葉をかけた。
でも、それが間違いの始まりだったんだ。

次の日も。
「ほら、明日は買えるって」
その次の日も。
「明日こそ...な...」
またその次の日も。
「はっ、ははっ、はははははっ...」
俺達は、特製ワッフルにありつけなかった。
「なあ茜、もう平日はあきらめて、次の日曜にでも、朝一番で買いに来ないか?」
「...嫌です」
『売り切れ』の貼り紙を、悔しそうにじーっと見つめながら、はっきりと答える茜。
とにかく1日でも早く、特製ワッフルを食べたいようだった。

執着心が強いと言うか、あきらめが悪いと言うか。
でもまあ、特製ワッフルが買えるまで毎日通うのは良いとしようか。
だけどな...
「...茜」
「なんですか?」
「今日は、違うワッフルを買おうな」
「嫌です」
検討されることもなく、即却下される俺の提案。
「...」
「...」
「なあ、どうして毎日、練乳蜂蜜ワッフルなんだ?」
「...お気に入りですから」
「でも俺のは、別のでも構わないだろ?」
「...おいしいですから、一緒に食べてください」
「...」
はぁっ。
笑顔でそう言われると、断れないんだよな...

そんな訳で、俺は昨日までに、4日連続で練乳蜂蜜ワッフルを食べると言う偉業を達成していた。
これはギネスブックに登録されても良い記録だと思うぞ。
そして今日もまた、この記録を更新してしまうのかと思うと、逃げたくもなるってもんだ。


頼むっ!俺の気持ちを察してくれっ!
前を歩く茜の後ろ姿に向かって、そう強く念じる。
すると、数メートル歩いたところで、茜がちらと俺のほうを振り返った。
おおっ!届いたかっ!
2人の絆の強さに感動する俺。
ところが...
「急いでください」
「ぐぁ...」
茜は、そんなとどめの一言を、俺に浴びせて来たのだった。


・・・・・ つづくらしいです ・・・・・

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はい〜、おそまつさまでしたぁ。

あははははっ。
かなり毒をつけちゃいましたけど、茜ファンの方々、怒らないでくださいね。
始めましての方には信じてもらえないかもしれませんが、自分も茜ファンなんですよ。一応。
まあ、後編でフォローはする予定でけどっ。

続き、来週には投稿できると良いなぁ。


それから前作、『雨の日』に感想をお寄せいただいた方、ありがとうございました。
読んで頂けるだけでも嬉しいのに、更に幸せな気分に浸らせていただきました。
この場を借りまして、お礼申し上げます。


えっと、最後にお知らせですっ♪
タクティクス系SS作家さんのオフ会、題して『SS座談会』を、8月28日(土)に名古屋で開催することになりました。
詳しい(?)ことは自分のHP、『ほんわか日和(URLは下です)』の『SS座談会情報』で告知していますので、興味を持たれた方は、一度覗いて見てください。
なお、これまでに行われた座談会のレポートも掲載していますので、そちらも併せてご覧いただくと良いかもしれませんっ♪


それでは、まった来週〜 ←良い度胸(笑)

http://village.infoweb.ne.jp/~fwiv2654/index.htm