雨の日 投稿者: いけだもの
こんにちわぁ。約2週間ぶりのいけだものです。
タイトルで予想がつくとは思いますが、またしても茜SSを書いてしまいました(笑)。
それでは、どうぞっ。
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「はぁっ」
窓の外をうらめしそうに眺めていた浩平が、本日9回目の溜め息をつく。
土曜日の午後。
商店街の一角にある喫茶店で軽く食事を済ませた私達は、引き続きそこに居座って、他愛のない会話を楽しんでいました。
「まったく、飽きもせずによく降るよな」
「...梅雨ですから」
「まあ、そうなんだけどさ」
あまりに単刀直入な私の答えに、苦笑しながらカップに残っていた紅茶を一気に飲み干す浩平。
そして、「で、これからどうする?」と、これまた本日3回目の質問を投げかけてきます。
今年の梅雨前線は酷く天邪鬼のようで、平日には度々晴れ間を覗かせるものの、これで週末は3週続けて雨。
「映画かゲーセンか、はたまたカラオケか...」
「...どこも行ったばかりです。それに今月はもう、お小遣いも残り少ないです」
「そうだよなぁ」
おかげで、流石の浩平も遊びのネタが切れてしまったようでした。
でも、私に聞かれても困ります。
だって、これまで雨の日に私がしていたことと言えば...
ただ、人を待つことだけでしたから。
「...私は、今みたいに2人でぼーっとしてるのも、嫌いじゃないです」
「そう言われてもなぁ...そろそろウエイトレスの視線も痛くなってきたし」
「...そうですね」
浩平の言葉にちらと腕時計を見ると、お店に入ってから2時間が過ぎていました。
どおりで頼みもしていない梅昆布茶が出てきた訳です。
確かに、そろそろ場所替えをした方が良いかも知れません。

「こうなったら、空き地で『他人のふりごっこ』でもするか」
腕組をして、しばらく思案にふけっていた浩平が、突然そんなことを口走りました。
「...嫌です」
「冗談だってば、そんな恐い顔するなよ」
分かってます。
でも、そんな事を言われて、平然となんてしていられません。
「...浩平、意地悪です」
私の拗ねた素振りに、「しまったなぁ」と言った表情で頭を掻く浩平。
だけど、不思議です。
あの事は、あまり触れて欲しくない話題のハズなのに。
今みたいに、浩平がさらりと冗談にしてしまっても、そんなに不快に感じなくて。
それどころか、「もう浩平は何処にも行かないんだ」なんて思えて。
心の奥では、ほっとしているんです。

それでも、できれば思い出したくない事には変わりありませんから、ここは心を鬼にして、拗ねた振りを続けておきます。
すると浩平は案の定、頭を垂れて両手を合わせてきました。
「悪かったっ。今のは少し冗談が過ぎてたっ」
少しは反省したみたいですね。
では私も、冗談でお返しして許してあげることにしましょう。
「山葉堂のワッフル...」
「え?」
「...山葉堂のワッフル2つで許してあげます」
「ワッフル2つでいいのか?」
「...はい」
「よし、分かった。それで許してもらえるなら、安いもんだ」
「...2つ、食べて下さい」
私の言葉に、浩平の表情が僅かに曇りました。
どうやら、言おうとしていた事を読まれてしまったようです。

「食べて下さいって、俺が食べるのか?」
「はい」
「...もしかして...あのワッフルをか?」
「はい」
「...茜...お前、鬼だろ?」
「...」
「...」
見つめ合ったまま、しばらくの沈黙。
「美味しいですから、大丈夫です。それでは早速行きましょう」
「頼むから、あれだけは勘弁してくれ〜」
沈黙を破ってすくっと立ち上がると、浩平は情けない声を出して、更には目でも「勘弁してくれ」と訴えてきます。
「冗談です」
だから笑って、そう答えてあげました。
「ほ、本当に冗談か?」
「はい」
「本当に本当か?」
「はい」
「はぁ〜、冗談きついぞ茜ぇ〜」
何度も念押しをした後、大きく安堵の息を吐く浩平。
そしてオーダーシートを手に、ゆっくりと席を立ちます。
冗談がきついのは、お互い様ですよ。
小さな声でそう呟きながら、レジの前で自分が食べた分のお金を浩平に渡し、私は先にお店を出ました。


ざーーーーーっ
お気に入りのピンクの傘をさし、軒先を離れて浩平を待ちます。
どんよりとした空から、絶え間なく落ちてくる雨。
浩平は、なかなかお店から出てきません。
1人で雨を眺めていると、少し不安な気持ちになってきました。
まだ私、完全には吹っ切れていないようですね。
「待たせてゴメンな。小銭で払ってたら遅くなっちまったよ」
しばらくして、財布をズボンのポケットにしまいながら、浩平が現われました。
そして、ばさっと大判の黒い傘を開きます。
「さて、これからどうするかだけど」
「...」
「ビデオでも借りて、俺の家で見るってのはどうだ?」
「...」
「ほら、この前見逃した映画があっただろ。あれ、もうレンタル始めたらしいんだ」
「...」
ビデオ...それも悪くないです。
でも、何か物足りない気がして、私は無言で浩平をじーっと見つめていました。

「茜?」
不思議そうな顔で、私の名前を呼ぶ浩平。
「...」
その時、ふっとある想いが胸に込み上げてきて、私は無言で自分の傘を閉じると、浩平の隣に駆け寄りました。
そして浩平の腕に自分の腕を絡ませます。
少し恥ずかしいですけど。
1つの傘に入ってたら、こんなことをしても別に不自然じゃないですよね。
「お、おい、茜っ」
戸惑ったような声に浩平の顔を見上げると、浩平は顔を真っ赤にしていました。
でもきっと私は、普段と変わらない表情をしてるでしょうから、ここはさり気なくとぼけておきます。
「...どうかしましたか?」
「茜、それはこっちの台詞だぞ。そんな赤い顔して何をとぼけてるんだ?」
失敗でした。
全然さり気なくなかったみたいです。
私は覚悟を決めて、浩平に正直な気持ちを伝えることにしました。
浩平の気持ちも確かめたかったから。
「...折角の...雨ですから」
「だから?」
「...相合傘が...してみたいなって...思ったんです」
言葉を紡ぐ度に、どんどん顔が熱くなっていくのが分かります。
それこそ、本当に顔から火が出てしまいそうな程。
「ふーん、そうか...」
でも、浩平の返事は素っ気なくて、自分のしたことを後悔しそうになりました。
だけど次の瞬間、
「茜がそう思ってくれたこと、それはもう小躍りしたくなるほど嬉しいぞ」
浩平は満足そうな笑みを浮かべて、そう言ってくれたんです。

「それじゃあ、このままウインドウショッピングでもするか」
「はい」
頷きあって、私達は歩き出しました。
ざーーーーーっ
雨の商店街を、好きな人と相合傘で腕を絡ませながら歩く。
普通に考えたらさほど珍しくもない、そんなありきたりな事に、心が安らいでいくのが分かります。
そして、ウインドウショッピングもそろそろ終わりにしようかという頃、気がつきました。
自分が無意識のうちに、雨の日にしか出来ないことをしたがっていたことに。
映画も、ゲームも、カラオケも。
ビデオを見ることだって、雨の降っていない日にもできるとこだから。
だから、物足りなく思えて...
きっと私、こんなふうに浩平と、雨の日にしか出来ないことをすることで、『雨の日』がもう非日常じゃないんだって、確かめたかったんですよね。

ざーーーーーっ
「こんなことが出来るんなら、雨もそう悪くないな」
隣で浩平が、少し照れくさそうにぼそりと呟いて。
「そうですね」
それは間違いなく...
幸せな日常そのものでした。


・・・・・ おしまい ・・・・・

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お付き合い、ありがとうございました♪

あはははは...今回こそ、よく分からないSSになってしまいましたねぇ(汗)。しかも長いわ文末が単調で読み難いわで...茜視点で書くのは難しいです(苦笑)。
「...明らかに技量不足です」
ざくっ!
くっ、図星...
と、とりあえずは、自分の気持ちには素直で、自分以外の人にはなかなか素直になれないけど、そんなところが可愛い茜を、楽しんで頂けたら幸いなんですけどっ♪
「...そんなふうに書けてるんですか?これ」
ちくっ!
そ、そのつもりなんだけど...
で、では、少しですが、感想いっきま〜す。
「...逃げましたね」

ニュー偽善者R【感想不要】さん(笑)
・来ない彼女とそばの君
 う〜ん、BAD一直線ですね、こりゃ。空き地で茜を助けられなかったのが運のツキ...自分もこれで失敗したのを思い出しました。

ひろやんさん
・Something there
 繭シナリオの要約版って感じの作品ですね。淡々とした浩平の心理描写は、共感できるところ(特に「それはきっと恋愛感情ではなく、それはきっと恋の始まりでもない。」っての)がかなり多かったです。

神楽有閑さん
・つなぎ止める想い
 澪視点から見た澪シナリオ。浩平を一旦忘れてから思い出すまでの過程が、自分が想像しているものとはまた違って面白かったです。あと澪が浩平のことを「浩平さん」と呼ぶのも新鮮でした♪ 

サクラさん
・七瀬留美・暗殺計画(2)
 黒幕はいったい誰なんだっ(←分かり易いボケ)?でもそれより、七瀬が制服を1枚脱いだらどうなるのかってのが、気になりましたけどね(笑)。

神凪 了さん
・アルテミス
 ついに最終決戦ですね...それにしても金絡みでFARGOを自衛隊、日本政府と関与させるとは、奥の深い設定に感心します。 


さて、そろそろお別れの時間だよ。
「...いけだものの次回作はいつ頃になるんでしょうね」
そうだねぇ、いつ頃だろうねぇ。 ←遠い目で
「...そのまま永遠の世界にでも行って来ますか?」
い、いや、その気はないよ...
「...残念です」
まあ、これが今生の別れにならないことを祈りつつ(笑)。
それじゃあ、まったね〜
「...さようなら」

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