いざ、お見舞いへ(前編) 投稿者: いけだもの
おはよ〜ございます。いけだものです。
なんとか1週間でSSを書くことができましたっ。
『彼女のいない朝』の続きで、しかも前編だけどね(汗)。
では、どうぞっ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「...平...浩平ってばっ。」
耳元で俺の名前を呼ぶ声が聞こえてる。
この声は...長森か...
ゆさゆさ、ゆさゆさ
続いて体を揺すられる感覚。
「浩平、起きなよ〜」
起きなよ?
そうか、授業があまりに退屈だから寝てたんだっけ。
でも麗らかな午後の貴重な睡眠時間を奪おうとは、俺に何か恨みでもあるのか?
「う〜、あと12分27秒だけ寝かせてくれ〜」
「そんなに細かく指示されても困るよっ」
「だったら俺のことは放っておいてくれ〜」
「放っておいてもいいけど、里村さんのお見舞いに行くんじゃないの?」
「長森〜、それは放課後の話だぞ〜。」
「もう放課後だよっ。それに柚木さんはもう行っちゃったよ?」
「何ぃっ!」
その一言で、眠気が一気に吹き飛ぶ。

「あっ、起きた。」
「あいつ、何時からいないんだ?」
「6時間目が終わった時には、もういなかったよ。」
「くっ、柚木のヤツ、この俺に眠り薬を盛った上で出し抜くとはなかなかの手だれ...」
「誰も浩平に薬なんて盛らないよ。」
「そんなことはないぞ、昼休みにあいつから貰ったジュースを飲んだら急に睡魔に襲われたんだからな。」
「はいはい、きっとそうだね。それより浩平、お見舞いに何を持っていくか決めたの?」
俺の反論を軽くいなし、半ばあきれたような口調で問いかけてくる長森。
「いや、まだだ。」
「まだなの?」
「ああ、なかなか良いのが思い付かなくてな、行きがてら商店街で適当に見繕っていくつもりだ。」
「えぇ〜、それじゃあきっと、何も買えずに里村さんの家に着いちゃうよ。」
「そんなことあるかっ!」
「浩平ならありえるもんっ。」
ちょっと待て、いくらなんでもそれは言い過ぎだろう。
非難の意味を込めて、少しむくれた表情を作って見せるが、長森はそんな俺にかまわず言葉を続ける。
「そうだ、アレ作ってあげなよ。簡単だから浩平でも作れるだろうし、里村さんも喜ぶと思うよ?」
「なんだよ、アレって?」
「浩平が風邪ひいたときに、よく作ってあげるアレだよ。」
「ああ、アレか。でもあんなの、お前くらいにしか食べれないんじゃないか?」
「そんなことないよっ、浩平だって美味しいって言って食べてたもんっ。」
「それはガキのころの話だろ。」
「う〜ん、最近は浩平も風邪ひかないから、作ってあげてないもんね。味、忘れちゃってるんだよ。」
そう言いながら生徒手帳にささっとなにやらメモをすると、そのページを破って俺に渡す。
「はい、これ作り方。」
「お、おい、まだ俺は作るとも...」
「うわあっ、もうこんな時間だよっ。じゃあ私は部活に行かないといけないから、里村さんによろしくねっ。」
教室の壁にかかる時計が指す時間に驚いた長森は、慌ただしく教室を出て行った。

それにしてもレシピまで書いてよこすとは、相変わらずおせっかいな奴だ...
でも確かに、何かを作ってやるってのも良いかもしれないな。しかも俺が作るともなれば、意外性も抜群だろうし。
長森、さんきゅ。
心の中でそう呟くと、俺も鞄を背負い直して足早に教室を後にした。


30分後...

長森から貰ったレシピどおりに材料を買い込んだ俺は、茜の家のドアの前に立っていた。
そしておもむろにインターホンのボタンを押す。
ぴんぽ〜ん...ぴんぽ〜ん...ぴんぽ〜ん...
「...はい、どちら様ですか?」
しばらく待っていると、インターホンから女の人の声が聞こえてきた。
「こんにちは、折原ですけど。」
「...折原...さん、ですか?」
「はい。」
「...どちらの折原さんでしょうか?」
どちらの?
茜のお母さんは俺のことを知ってるし、茜には姉妹もいない。つまり、茜の家には俺を知らない女の人はいないはずなんだけどな。
お手伝いさんを雇ってるなんて話は聞いたことないし、一体この人は誰なんだろう?

まてよ?
もしかして家を間違えたのかと思い、門まで戻って表札を確認する。
しかし、塀に埋め込まれている今時珍しい木製の表札には、深々と『里村』の2文字が刻まれていた。
間違っては...ないみたいだな。
気を取り直してドアの前まで進み、再びインターホンの向こうにいる女の人に話しかけてみる。
「すみません、茜さんはいらっしゃいますか?」
「...おりますけど。失礼ですが、茜とはどのようなご関係で?」
「クラスメートですけど。」
それにしても用心深い人だ。
もしかして、近所の親戚にでも来てもらってるのか?
でも茜の症状はそんなに悪くなかったはずだし、この声も...何処かで聞いたような気がするんだが。
「...ただのクラスメートの方ですか?」
「へ?...い、いえ、たた、ただのって訳じゃなくて結構深...い、いや、け、健全なお付き合いをさせてもらってる仲だったりするんですけど...」
不意に投げかけられた唐突な質問に、思わずしどろもどろになってしまう俺。
「...くすくす...くすくす...」
するとインターホンの向こうから、押し殺したような笑い声が聞こえて来た。
その瞬間、ぱっと1人の人物が思い浮かぶ。
「おい...お前、柚木だろ。」
「あははははっ。ふ〜ん、折原くんって、やっぱりただのクラスメートじゃないんだねぇ。」
「...」
くっ、またしても嵌められてしまったのか。
俺が地団太を踏んでいると、かちゃっと音がしてドアが開き、中から必死で笑いをこらえてるといった表情の澪が顔を出した。
『いらしゃいませなの』
ぐあ...澪までいたのか...

めやくちゃバツの悪さを感じながら玄関にはいると、そこには予想どおりにやにやとした笑みを浮かべた柚木が立っていた。
「折原くん、遅いよっ。」
柚木...人に一服盛っといて、よくそんな事が言えるな。
「なかなか来ないから、茜ったら寂しがっちゃって仕方がなかったのよ。」
『本当なの』
「...」
「折原くん、早く茜の部屋へ行ってあげなよ。澪ちゃん、私たちは2人の邪魔になるから、リビングでケーキでも食べてよっか。」
『それがいいの』
「...」
しかも学校のみならず、澪を囲ってまでして、ここでも俺をおちょくるのか...
こみ上げる怒りを抑えつつも、わなわなと肩を震わせる俺。
それでも2人はそんな俺にはお構いなしに、なおも会話を続ける。
「あ、でも茜は病み上がりなんだから、2人きりだからって無茶なことさせないでよね。」
『体が冷えると、里村先輩の風邪がぶり返しちゃうの』
そしてついに、堪忍袋の緒が切れた。
「お前らっ...いい加減にしろーーーーーーーっ!」
「あははっ、怒った怒ったっ。」
『なのなの』
俺が怒鳴りつけると、2人は楽しそうに笑いながら階段を中ほどまで駆け上がり、姿勢を低くして俺の様子を伺う。
はぁ〜っ...こいつら、ぜんぜん懲りないみたいだな。
俺は心の中で深い溜め息をつくと、2人に声をかける。
「もういい、俺はちょっと準備があるから、しばらく茜の相手をしててくれ。」
「えっ?もしかして何か作ってくれるの?」
『手料理なんて、感動モノなの』
「楽しみだね、澪ちゃん。」
『チョコレートパフェがいいの』
「お前らに作るんじゃないぞっ!」
「きゃぁ〜〜〜」
『きゃぁなの〜〜〜』
少し荒げた声を上げながら階段を昇る振りをして見せると、2人は階段を昇りきって茜の部屋に逃げ込んで行った。

「まったく、あいつらときたら...」
2人が部屋から出て来ないのを確認すると、くるりときびすを返してキッチンのドアを開ける。
「それじゃあ一緒、頑張って作るとするか。え〜っと、材料はこれで全部揃ってるよな?」
茜は喜んでくれるだろうか?
なんて事を考えつつ、とりあえず買ってきた材料の確認をする俺であった。


・・・・・ つづくになってしまった ・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はい、お付き合いありがとうございました〜

あはははは...今回も茜が出てこなかったなぁ。
別に狙ってた訳じゃないんですよ。それにもともと、前後編に分けるつもりなんかなかったし...
でも、ここまで書たら結構長くなっちゃったんで、とりあえず投稿することにしました。
次回は、きっと出て来てくれるハズです。←何故か『ハズ』(笑)

さて、自分のSSに感想を書いてくださったみなさん、読んでくださったみなさん、ありがとうございました。
罰当りなことに、いまだに感想を書くのが追いついておりません。
GWにはなんとかと思っておりますので、いましばらくお待ち下さい。
「...守れない約束はしないことです。」
ざくっ!
うっ...そ、そのような事がないよう精進しますのでっ。

それじゃあ、まったね〜

http://village.infoweb.ne.jp/~fwiv2654/index.htm