罪と罰 投稿者: いけだもの
こんばんわぁ。いけだもので〜す。
今週はもう書けちゃったんですよねぇ、SSが。
ってな訳で、では、どぞっ!
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ざーーーーーっ
雨が降っていた。
ざーーーーーっ
「...もうどこにも行かないって、私を一人ぼっちにしないって、約束してくれたじゃないですか。」
茜は泣いていた。
ざーーーーーっ
「どうしても...どうしても駄目...なんですか...」
絶望にも似た表情で幾度となく俺の胸を叩く茜。
俺だって、茜と別れたくなんかない。でも...
「...ごめんな、茜。」
どうして俺達、こんな事になっちまうんだろうな。


事の発端は、今朝の由起子さんとの会話だった。

「浩平、話しておきたい事があるんだけどいい?」
珍しく一緒に朝食を食べていると、由起子さんが突然、やけに神妙な顔をして話を持ちかけて来た。
「ん?そんな顔して、なんかあったのか?」
「実は私、今度の人事異動でニューヨークの支店に転属することになったの。」
「ふ〜ん、凄いじゃん。」
「それで浩平、あなたも一緒に行ってもらうつもりなのよ。」
「へ?」
突然の言葉に、俺のすべての回路が停止する。
口いっぱいにハムエッグを詰め込んだまま、ただ呆然と由起子さんを見つめる俺。
「まあ、5年は向こうにいる事になると思うけど。」
「...」
「出発は来週の週末の予定だから、早めに準備しておいてちょうだいね。」
「...」
「あ、そろそろ仕事に行かなくちゃ。」
壁に掛けられている時計を見て、由起子さんが席を立つ。

ニューヨーク?転属?俺も?5年?来週?準備?
「ちょ、ちょっと待ってくれ由起子さんっ!何で俺までニューヨークに行かなきゃならないんだ?」
「向こうで仕事をするにあたって新しいスタッフが必要なんだけど、今、ウチの会社は人手不足なのよ。」
「もしかして...」
「ええ、あなたをスタッフとして採用してもらったの。」
「でも由起子さん、俺、高校も卒業してないんだぜ。」
約1年という期間、永遠の世界に行っていた俺は、出席日数が足りる訳もなくあえなく留年。この4月からもう1年間、高校に通う事が決定していたのだ。
「そんなこと問題じゃないわ、必要なのは学歴じゃなくて能力なの。浩平、叔母の私が言うのもなんだけど、あなたはなかなか頭も切れるし行動力もある。私のスタッフの1人として仕事をやっていく素質を十分に持っているのよ。」
「...」
「学校には私から話をしてあるから。それじゃあ、行ってくるわね。」
そう言うと、由起子さんは足早にダイニングルームから出て行った。

由起子さん、本気なのか?
いまひとつ現実味がない話ではあった。
しかし話の流れからすると、俺がニューヨークに行かないことにでもなれば、由起子さんの責任問題にもなり兼ねなさそうだったよな。
これ以上、由起子さんには迷惑かけられないし...
でもニューヨークに行くって事は、また茜と離れ離れになるって事じゃないか。
ダンッ!
俺は両の拳をテーブルに叩き付けると、そのまま頭を抱え込む。
「茜に...なんて言ったらいいんだ...」


ざーーーーーっ
どうせ言わなくちゃならない話なら、できるだけ早く話しておいた方がいい。
そう決心した俺は、いつもの公園に茜を呼び出した。
ざーーーーーっ
「...と言う事なんだ。」
「嫌です...そんなの嫌です...浩平、嘘だって言ってください!」
目を瞑って何度も首を横に振り、俺の話を否定しようとする茜。
そんな茜を、俺は無言を抱き寄せる。
ぱちゃっ
足元に、傘が落ちた。
ざーーーーーっ
「茜...」
「...浩平。」
雨に濡れるのも構わずに、俺達は抱きしめあう。
そして、まるでこれが最後かのように、長く、熱いくちづけを交わす。
ざーーーーーっ
濡れた服をとおして伝わってくる茜のぬくもり。
込み上げてくる愛おしさ。
「...俺ん家...来ないか?」
でも、もっと、もっと茜を感じたいという衝動が、俺にそんな言葉を紡がせた。
言葉の意味は...分かるよな。
ざーーーーーっ
無言で頷く茜。
それに応えるように、もう一度唇を合わせる。
「んっ...」
しばらくそうしていた後、俺達は2人寄り添うようにして公園を後にした。


数時間後...

外もすっかり暗くなり、夕食でも食べに行こうと二階から下りてきた俺達は、玄関でばったり由起子さんと出くわした。
「あら、茜ちゃん、こんばんは。」
にこりと微笑みながら、挨拶をする由起子さん。
一方茜は、その表情を険しくする。
「...こんばんは。」
挨拶はしたものの、由起子さんを睨むように見つめる茜。
「由起子さん、本当に浩平をニューヨークへ連れて行くつもりなんですか?」
「茜ちゃん...」
由起子さんは驚いたような表情で、茜から俺へと目を向ける。
「浩平、あのこと、茜ちゃんに話したの?」
「ああ。」
「はあっ、浩平がこれなんだから、恋ってホントに人を盲目にさせるのね。」
「どういう意味だよ?」
軽くため息をつきながら、にやりと笑う由起子さんの真意が分からず、俺は少し怒鳴り気味に言葉を返す。
「浩平、今日が何月何日だか分かってる?」
「あ...」
由起子さんの言葉に、茜が反応した。
そして俺の方を振り返る。
「...今日は、4月1日です。」
「4月1日って...」
「そう、今日はエイプリルフール。朝の話はぜ〜んぶ嘘よ。」
まだ状況が理解できていない俺に、由起子さんはウインクをしながらそう言った。

「う、嘘ぉ?」
全身の力が抜け、へなへなと廊下にへたり込む俺。
「茜ちゃん、ごめんなさいね。浩平が真に受けるなんて思ってなかったのよ。」
本当にすまなさそうな顔で、茜に謝る由起子さん。
「...由起子さん...酷いです。」
茜の瞳からは、涙がぼろぼろと零れ落ちている。
でも、その表情は笑顔に戻っていた。


この後由起子さんは、お詫びだと言って俺達にゴージャスなディナーをおごってくれた。
『私が悪かったんだから、遠慮しないでいいわよ。』なんて言ってたけど、店を出る時にちらと見た由起子さんは、いかにも後悔してますって感じの顔をしてたんだ。

「はぁっ、手痛い出費だったわ。エイプリルフールだからって、嘘なんかつくものじゃないわね。」


・・・・・ おしまい ・・・・・

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はいっ、楽しんでいただけましたか?

エイプリルフールってことで、またまた季節ものでしたが、今回の話は結構予想外の展開だんったんじゃあないでしょうか?
タイトルも、オチに気付かれないような雰囲気のものを、ひねりにひねって(笑)考えて見ましたし、時期も4月上旬ってことを匂わすくらいに抑えておいたんですけどね。
あと由起子さんの性格、ちょっと変わっちゃってるかもしれませんが、彼女も浩平の叔母さんですから、きっとこう言うコトをする素質は持ってるんじゃないかと思ってます。
まあ、ハッピーエンドで良かった良かった♪

で、次は感想に...って行きたいトコなんですが、すみません。諸処事情がありまして、感想書くのが追いついておりません。
また、つっこみ茜ちゃんシリーズででもお届けしたいと思いますので、お待ち下さいっ!

最後に重要な連絡ですっ。
ウチのHP『ほんわか日和』ですが、プロバのドメイン名が変わる関係で、明日以降、今までのURLではアクセスできなくなりそうです。
新しいURLは下記のようになりますので、お気をつけ下さい。
連絡が遅れまして本当に申し訳ありませんが、これからも『ほんわか日和』をご愛顧いただけますようお願いいたします。

それじゃあ、まったね〜

http://village.infoweb.ne.jp/~fwiv2654/index.htm