本日開店!川名心霊研究所 投稿者: いけだもの
こんばんわ、いけだものですっ。
久々に季節モノではありませんっ。
でも長いっ、さらにどっかで聞いたことがある話かも?
ご注意くださいっ。

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やっほー、私、川名みさき。ここ川名心霊研究所の所長なんだよ。
研究所って言っても何かの研究をしてる訳じゃなくて、私の霊能力を使って霊視とか祈祷とか除霊とかをしてるんだ。もちろん有料でね。
えっ?私1人じゃ心配だって?失礼だなぁ。
それに有能なアシスタントが2人もいるんだよ。
さあ、今日もお仕事、お仕事っ。

File 1
 〜猫好きもほどほどにね〜

プルルルルルルルル...プルルルルルルルル...
 雪 見「はい、川名心霊研究所です。」
アシスタントの1人、深山雪見が受話器を取った。
  声 『もしもし、私、長森と申しますが、娘のことでご相談があるのですが...』
 雪 見「仕事のご依頼ですね。」
 長森母『はい...』
 雪 見「では、簡単で結構ですので状況を説明してもらえますか。」
 長森母『はい...実は娘がここ何日か連続で猫を拾って来ておりまして...』
ガタガタッ!
雪見は椅子から転げ落ちた。
 雪 見「あの...それは単にお嬢さんが心優しい猫好きな少女ってことじゃないんでしょうか...」
 長森母『いえっ、それが普通じゃないんです。昨日だけでも8匹ほど拾ってきて...もう家には猫が100匹くらいいるんです。うううっ...』
 雪 見「それは普通じゃありませんね。」
 長森母『お願いします...もうほかに頼れるところがなくて...うううっ...』
 雪 見「ご安心ください、では早速お伺いさせていただきます。ご住所は...」
かちゃん
受話器を置いた雪見は所長室のドアを勢いよく開ける。
 雪 見「みさきっ!仕事が入ったわよ...っていないじゃない。」
所長室には誰もいなかった。
そう言えば今日はもう1人のアシスタントの姿も見ていない。
 雪 見「あの2人、どこほっつき歩いてんのよっ!本当に世話が焼けるんだからっ!」
雪見はぶつぶつとひとり言を言いながら道具袋の中身を確認すると、引き出しから車のキーを取り出して研究所を出ていった。


それから2時間後、雪見は駅前の中華料理店で餃子の大食いにチャレンジしていたみさきを強引にピックアップし、長森家にやってきた。
 雪 見「遅くなりまして申し訳ありません...」
 長森母「いえ、とんでもありませんわ。」
 みさき「私達が来たからには、もう安心ですよ。」
 雪 見「あんたが言わないのっ。誰のせいで遅くなったと想ってんのよ。」
 長森母「どうぞ、お上がりください。」
 雪 見「では、おじゃまします。」
 みさき「ふえ〜ん、雪ちゃんがいじめる〜」
 雪 見「...」
雪見はみさきを無視して家の中に入っていく。
 みさき「雪ちゃん、酷いよ。」
 雪 見「みさきっ、早く来なさいって!」
 みさき「は〜い〜」
間の抜けた返事をしながら、みさきも家の中に入っていった。

みさきと雪見は長森(母)の後ろについて廊下を歩く。家の中は確かに異様な雰囲気に包まれていた。
 猫 1「にゃー」
 猫 2「みゃー」
 猫 3「みゅー」
  ・
  ・
  ・
数え切れないほどの猫が我が物顔で、家中を歩いたり、走ったり、跳ねたりしている。
 雪 見「話のとおり、すごい数の猫ね。」
 みさき「本当だよ。」
 雪 見「みさき、何か感じる?」
 みさき「2階のほうから微かだけどイヤな気配を感じるよ。」
 雪 見「イヤな気配?」
 みさき「うん、私達の訪問を快く思っていないみたいだよ。」
 雪 見「そう...」
 みさき「この感じだと浩平君の力がいると思うな。雪ちゃん、浩平君はどうしたの?」
 雪 見「それが連絡つかなくて。」
 みさき「そうなんだ...」
 長森母「とりあえず、こちらへどうぞ。」
そんな話をしているうちに2人はリビングへと案内された。

 浩 平「よお、遅かったな。」
リビングのソファーにはもう1人のアシスタント、折原浩平が偉そうに腰掛けていた。
 み&雪「浩平君!どうしてここにいるの?」
 浩 平「瑞佳は俺の幼なじみだからな。おばさんに研究所へ電話するように言ったのも俺だ。」
 雪 見「そうだったの...それで、瑞佳さんの状態は?」
 浩 平「あまりおもわしくないな。」
 みさき「やっぱり何か憑いてるのかな?」
 浩 平「おそらく...俺じゃあ何が憑いているのかまでは分からないけど、今日になって時々発作的に暴れたり唸り声をあげたりするようになった...」
 雪 見「恐らく動物霊ね。この状況から考えると猫ってとこかしら。」
 みさき「うん、きっとそうだよ。しかも人間の身勝手で虐待され、捨てられて、よりどころもなく死んだ猫だね。」
 浩 平「猫...くそっ、瑞佳の猫に対する優しさが仇になったってことか...」
 雪 見「ところで今、瑞佳ちゃんはどうしてるの?」
 浩 平「一応、動けないように護符を貼ったロープで縛っておいた。」
 雪 見「そう、でもそんな状態じゃあ、あまり悠長にしてられないようね。」
 みさき「動物霊の怨恨か、平和的解決は難しそうだね。」
 浩 平「力でねじ伏せる、か...」
ガチャーン!!
 み浩雪「...!」
3人が振り向くと長森(母)は床に転がるコーヒー・カップやソーサーを片付けようともしないで立ち尽くしていた。
 長森母「お願いです!あの子を、瑞佳を助けて下さい!!」
おそらく3人の会話を聞いていたのであろう、長森(母)が泣き崩れる。
 浩 平「おばさん、しっかりして下さい!大丈夫、瑞佳は俺達が必ず元に戻してみせますからっ!」
 長 森「ううっ...浩ちゃん、お願い...」
 浩 平「みさきさん、雪見さん、早速仕事にかかろう!」
 み&雪「うんっ。」
浩平が長森(母)をソファーに寝かせると、3人は2階へ向かうべく廊下へ飛び出した。


 み浩雪「...!」
廊下には3人の行く手を阻むかのように数十匹の猫が集合し、威嚇の姿勢をとっている。
 猫 達「フーーーッ!」
 浩 平「まずは、こいつらの相手かよ...」
 雪 見「私にまかせて。」
雪見は道具袋からスプレー缶を取り出した。 
 雪 見「こんなこともあろうかと準備しておいたのよ。それっ!」
プシュー、プシュー
スプレーを吹きつけられた猫達は、次々と気持ちよさそうに転がりだす。
 猫 達「ゴロゴロ、フニャ〜♪」
 みさき「雪ちゃん、何をしたのかな?」
 雪 見「特製またたびスプレーをまいたのよ、やっぱり効果抜群ね。」
 浩 平「よしっ、2階へ急ごう。」
3人は転がる猫達の合間を縫って、階段を駆けあがる。
そして護符の貼ってあるドアの前に立った。
 浩 平「ここが瑞佳の部屋だ。」
 みさき「やっぱりね、さっき感じた気はこの部屋から出てるよ...雪ちゃん、分かる?」
 雪 見「ええ、これは私でも分かるわ。」
 浩 平「どうする?」
 みさき「雪ちゃん、『閻魔の剣』を出してもらえるかな。それから浩平君は『黄泉の鏡』を、雪ちゃんは『精霊の勾玉』を準備して。」
 浩 平「...ってことはアレをやるつもりなのか?みさきさん。」
 みさき「そうだよ。今回はほかの方法じゃあ難しそうだからね。」
 雪 見「なるほど、だから浩平君の力が必要って言ってた訳ね。」
 浩 平「ううっ、やだなあ。」
 みさき「浩平君は瑞佳ちゃんを助けたくないのかな?」
 浩 平「そんなワケないだろっ、でもアレはなぁ...」
浩平は今回の作戦にいまいち納得していないようだ。みさきと雪見はそんな浩平を無視して準備を進める。

数分後...
 みさき「準備はできた?」
 雪&浩「OKっ。」
 みさき「じゃあ、いくよっ。」
 浩 平「うらあっ!」
ドカアッ!
浩平がドアを蹴破り、部屋の中へ突入した。その後を2人も続く。
 浩 平「瑞佳っ!...あれっ?」
 雪 見「どうしたの?浩平君。」
 浩 平「瑞佳がいない...」
 雪 見「えっ?」
2人の視界の中に瑞佳はいなかった。
ベッドの上にはひきちぎられたロープが見える。
 みさき「2人とも横に跳んでっ!」
みさきの声にはじかれるように浩平と雪見はそれぞれ部屋の隅へ跳んだ。その刹那、天井から黒い影が落ちてくる。
影の攻撃を間一髪でかわした3人は、次の瞬間には体勢を立て直していた。
ちょうど襲ってきた影を中心に3人が正三角形の各頂点に位置する絶妙なフォーメーションである。
 雪 見「な、なんなのこいつは...」
3人を襲った影は人には見えなかった。
その顔はまるで血に飢えた獣を思わせ、腕や足の服から出た部分には濃い体毛が生えている。
  獣 「グルルルルルル...」
 浩 平「み、瑞佳?」
 雪 見「こ、この化けモノみたいなのが瑞佳さんなの?」
 浩 平「こいつ、さっきまで瑞佳が着ていた服を着てる。」
 雪 見「どういうこと?」
 みさき「う〜ん、実際はどんな姿かは分からないけど、私には憎悪の塊に見えるよ。」
 浩 平「瑞佳に取り憑いたヤツが瑞佳の体を変態させたのか...」
中央の獣を見つめる3人。
  獣 「グルルルルルル...」
 雪 見「みさきっ、瑞佳さんの魂は感じられる?」
 みさき「なんとか、ほんの微かだけど感じるよ。」
 浩 平「それじゃあ速攻で祓っちまおうぜ。」
  獣 「グァァァッ!」
雄叫びをあげ、獣がみさきに襲いかかった。
 雪 見「みさきっ!そっち行ったよっ!」
 みさき「きゃあっ!」
叫びながらもみさきは攻撃をかわす。先ほどの奇襲の時もそうだが、これほど霊力の強い者だとみさきにはその動きがはっきりと『見える』ようだ。
  獣 「ガァァァッ!」
獣もみさきの特別な力を感知しているのか、みさきばかりを集中的に攻撃してくる。
 みさき「浩平君、アレやるよっ!いい?」
獣の攻撃をかわしながらみさきが叫ぶ。
 浩 平「よっしゃあ、まかせろっ!」
今の浩平に躊躇はないようだ。浩平は上着を脱ぎ捨てると獣に突進していく。
 浩 平「どりゃあ!この化け物め、瑞佳から離れやがれっ!」
ガシッ!
  獣 「グオォォォォォォォォ!」
浩平が獣を羽交い締めにした。
 浩 平「雪見さん、今だっ!」
 雪 見「まかせてっ、勾玉に宿る精霊よ、『深山雪見』の名において汝らに命ずる、今こそ...」
雪見は獣の正面にまわり『精霊の勾玉』を持った手を獣にかざして、精霊との契約を唱え始める。
 雪 見「...迷える死者の魂を『黄泉の鏡』へといざなへ。」
雪見が契約を唱え終わると『精霊の勾玉』から青い光が発せられ、獣と浩平を包み込んだ。
  獣 「ガアァァァァァァ.....」
それは数秒のことだったであろうか、獣と浩平を包みこんだ光が今度は浩平の体、いや浩平の胸に刻まれている古代の鏡を思わせる模様に染み込んでいく。
光が完全に消えると、浩平の胸元に気を失っている少女の姿が見えた。
 浩 平「雪見さん、瑞佳をお願いします。」
 雪 見「わかったわ。」
雪見が浩平から瑞佳の体を預かる。
 浩 平「みさきさん、痛くないように切ってくれよ。」
 みさき「無理だよ。」
みさきはクスッと笑いながら浩平に向けて『閻魔の剣』を振りかざした。
 浩 平「ううっ、やっぱり嫌だなあ...」
『閻魔の剣』は使用する者が『意識』した霊魂のみを、それが憑依した肉体ごと切ることによって成仏させる能力を持った剣である。
しかし、切られた肉体も大きなダメージを受けるので、残された霊魂(元の肉体の持ち主)が弱っている場合には最悪、死に至ることもある。
そのため今回は、憑依していた霊を瑞佳から浩平に移して浩平ごと霊を切るという方法を取ったのであった。
 みさき「ハッ!」
バサッ!
短い気合と共にみさきは浩平を切りつけた。
 浩 平「ぐ...い、痛い...って言うか、し、死にそう...」
バタッ!
どくどくと血を流しながら浩平が床に倒れる。
 みさき「すぐ直るから、大丈夫だよ。」
 雪 見「でも、何度見てもすごく痛そうね。」


 瑞 佳「う、う〜ん」
除霊が終わってから数時間後、長森瑞佳はベッドの上で目を覚ました。
 長森母「瑞佳っ。」
 瑞 佳「あ、お母さん...あれ?浩平に川名先輩に深山先輩...どうしたの?何かあったの?」
状況がのみこめない瑞佳は目を丸くさせている。
 浩 平「いや、お前があまりにもだらだらと寝てるもんだから、おばさんが心配してな、遊びにでも誘ってくれって言うから来たんだよ。」
 瑞 佳「そんなの嘘だよっ。私は浩平と違ってだらだらなんかしてなもん。」
 みさき「くすっ、本当は瑞佳ちゃん家に猫がたくさんいるから、もらって欲しいって言われて来たんだよ。」
 瑞 佳「えっ?たくさんって8匹しかいないですよ。」
 雪 見「ふふっ、100匹くらいいるって聞いたんだけど。」
 瑞 佳「私がいくら猫好きでもそんなに拾ってこないですよ〜」
瑞佳が笑いながら答える。
 長森母「も、元の瑞佳に戻ってるわっ。」
長森(母)は瑞佳を抱きしめて泣いていた。
 瑞 佳「お、お母さん?本当にどうしたの?」


長森家を後にした3人は、研究所に向かって車を走らせていた。
 雪 見「あ〜、今日は疲れたわね〜」
 みさき「うん、すごくお腹がすいちゃったよ。」
 浩 平「じゃあ久々に報酬が入ったことだし、美味いものでも食いに行こうか。」
 みさき「賛成〜」
 雪 見「何言ってんのよ、今回の依頼主は浩平君の知り合いだったから、報酬はほとんどもらってないのよ。」
 浩 平「えっ?俺があんな死にそうな思いをしたってのに?」
 みさき「仕方ないよ。それとも浩平君なら瑞佳ちゃんやおばさんにいつもの額を要求できるのかな?」
 浩 平「ううっ...出来る訳ないだろっ。」
それもそのはず、通常彼らが要求する報酬の額は中堅サラリーマン家庭の半年分の収入に匹敵するのだ。
 みさき「じゃあ、商店街のお寿司屋さんにでも行こうよ。あそこなら30分以内にで5人前食べればただになるし。」
 雪 見「私はそんなに食べられないわよっ。」
 浩 平「それ以前にみさきさん、あの店出入り禁止にされてなかったっけ?」
 みさき「そうだったかな?そんなお店ばっかりだから、いちいち覚えていられないよ。」
 み&浩「ははははははははは。」
 雪 見「はぁ〜、今にこの街にいられなくならなきゃいいけど...」


こうして川名心霊研究所員の活躍によって、今日も街は邪悪な霊から守られたのであった。


・・・・・おしまい・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うっしゃあっ、できったあっ!あっ?
バタッ!.........