サンマの塩焼き 投稿者: いけだもの
こんばんわ、いけだものです。
今回も季節ものに挑戦しました。

では、どうぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「浩平。」
金曜日の放課後、家に帰ろうとしていた俺は1人の女生徒に声をかけられた。
彼女の名は『里村 茜』、ちなみに俺の彼女である。
「浩平、サンマの塩焼きは好きですか?」
「ああ、好きだけど。作ってくれるのか?」
「はい、秋の味覚といえばサンマですから。」
「そうか、ありがとうな。」
俺が言うのもなんだが、茜はむちゃくちゃ料理が上手い。
何度か手料理を食べさせてもらったが、その味ときたら文句のつけようがないほどに美味いのだ。
しかも最近では無農薬有機栽培の野菜とか、天然ものの魚だとか素材にも気を遣っていいる。
「そこで浩平にお願いがあります。」
「何だ?」
「サンマを獲ってきて欲しいんです。」
「はい?」
「聞こえませんでしたか?「サンマを獲ってきて欲しいんです。」って言ったんですよ。」
「あ、茜、サンマなんかスーパーでいくらでも売って...」
「嫌です。」
俺の意見はあっさりと拒否される。
「実は今の時期、柚木崎沖ですごくおいしいサンマが獲れるらしいんですが、水揚げ量が少なくて普通の魚屋さんでは手に入らないそうなんです。」
「だからってわざわざ...」
茜は俺の言葉を遮って、俺の手を握る。
「おねがいします...」
にっこりと微笑む。
(笑顔の茜...やっぱりかわい〜な〜)
「...ね。」
「おう、まかせとけ。」
俺はまるで催眠術にかかったかのように茜のお願いを承諾してしまった。
恐るべし、茜の笑顔...
「船はここで予約してありますから。それではよろしくお願いします。」
そう言うと茜は俺にメモを渡し、軽く会釈すると席に戻っていった。

...数時間後、柚木崎...
「船って手漕ぎボートじゃないか...」
現地で準備されていたのは観光地の湖にでもありそうな2人乗りの簡素な手漕ぎボートだった。
「おや?こんな日に釣りに行くなんて、君もずいぶんと物好きだね。」
貸しボート屋の兄ちゃんの言葉が少し気になったが、俺は竿とクーラーボックスをボートに放り込むと沖へと漕ぎ出した。
波が少し高い気もしたが...

...更に数時間後、里村家...
茜はTVを見ながら山葉堂のワッフルを食べていた。
「気象情報です。台風7号の接近にともない、これから太平洋沿岸地域はおおシケとなるでしょう...」
「...浩平、気を付けてください。」
2つ目のワッフルに手をのばしながらそう呟いた。

...同時刻、柚木崎沖...
さっぱ〜ん、ざっぱ〜ん。
荒れ狂う波。俺の乗ったボートは波に翻弄され、まるで木の葉のように右へ左へ大きく揺れていた...って言うか今にも沈みそうだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!茜っ、待ってろよ〜!必ずサンマを釣って帰るからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
このような環境におかれると人間はハイテンションになるらしい。
服はとっくに水浸しで気持ち悪いが、そんなことはお構いなしに俺はサンマを追い続けた。

...台風通過後、柚木崎...
「やあ君、大丈夫かい?」
「ううっ...」
気がつくと俺は海岸に打ち上げられていた。
「ここは?」
「柚木崎だよ。」
どうやってここまでたどり着いたのか、まったく記憶がなかった。
「君は何をしていたんだい?」
「確か、釣りを...」
体に絡み付いていたクーラーボックスの中を見るとサンマが1匹入っていた。
「それじゃあ。」
俺を起こしてくれた青年に別れを告げると、俺はとりあえず茜の家へ行くことにした。

...数時間後、里村家...
俺は茜の家の縁側に腰掛けていた。
くんくん...
サンマの焼けるいい匂いが鼻腔をくすぐる。
茜は庭で七輪を使ってサンマを焼いている。ちなみに使っている炭は紀州の備長炭らしい。
「こういうのも風情があっていいですね、浩平。」
「ああ、そうだな。」
庭のもみじはもう色づき始めている。青く澄み切った空を見上げると、心なしか高くなったように思えた。
「はい、焼けましたよ。」
茜はサンマを皿にとり、俺のところまで持ってくる。
「1匹じゃあ、少なかったな...」
「そんなことないです。浩平ががんばって獲ってきてくれたんですから。」
「そうか?」
「はい。」
「じゃあ、食べようか。いただきます。」
「いただきます。」
1匹のサンマを2人で食べる。
「...美味いな、このサンマ。」
「おいしいです。」
確かにサンマは美味かった。
それはきっと自分が釣ってきたサンマであるということと、こうして茜と一緒に食べているということがサンマの味をより引き立てているのだろう。
などど考えていると、頬に柔らかい感触が...
「えっ、あっ、あかね?」
あたふたして横を見ると、茜ははずかしそうに少し俯いていた。
「...がんばってくれたから、ご褒美です。」
なんて可愛いんだ。少しからかってみたくなる。
「ご褒美なら、口にがよかったんだけど。」
「嫌です。」
まともに返されてしまった。相変わらずだ。
「...」
「...そういえば、浩平は栗ごはん好きですか?」
「ああ。」
「実は今の時期、上月山ですごくおいしい栗が採れるらしいんです。」
「じゃあ、今度は2人で栗ひろいにでも行こうか。」
そんな提案をしてみる。
「嫌です。」
茜はにこやかに笑いながら拒否した。
それもそのはず、上月山はとてもハイキング気分で行けるような生易しい山ではない。熊が出るという噂もあるくらいだ。
「ごちそうさま。じゃあまたな。」
そう言うが早いか、俺は玄関に向かって走り出す。
「あっ、浩平!待ってください!」
茜の声が秋晴れの空にこだました。

・・・・・おしまい・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やっぱり茜はいいですね。どうしてもどこかを崩してしまいますが、ハッピーエンドが似合うキャラですよね。
みなさんのSSでも茜が幸せになる話が多いのでうれしいかぎりです。

週に2作のペースで書けるようがんばってるんですが、それでも感想がたまっちゃいますね。
感想だけの方もそれぞれに工夫されているんで楽しませてもらってますし。

では、今朝のよもすえさんの作品までの感想で〜す。

T.Kameさん
 ああ...南くんがボロボロになっていくっ。やっぱりむくわれないんですね。でも詩子と澪からもよく思われてないみたいだし、しかたないですね。

だよだよ星人さん
・HPリニューアル祝感想EX
 げっ、七瀬がナレーターになってる...で、でも最初の方は少し誉めてるし...最後のほうも可愛いっぽいだろっ、なっ、ほらっ、泣くなよっ。
 お、おいっ、七瀬っ、その木刀で何をする気だ?まてっ、早まるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ...
(バシッ!グキッ!バキッ!ゴキッ!)
 ううっ、こ、こんなことになるとは...でも、感想ありがとうございました...(バタッ)
・さよなら
 キャミソールのみさき先輩、すっごく色っぽそうですね。あと意外なオチにまいりました。
・4 YEARS AFTER
 浩平の最後のぼやきがいいですね。あれだけ恵まれてたんだから、その後不調になるのもしかたないと思います。

KOHさん
 温泉地にもワッフル進出ですか...茜が参加するのも納得ですね。ワッフル地獄にはまった詩子、あと何回並んだら抜けられるんでしょうか。かわいそうに...
みさき先輩と一緒に泳ぐ深山先輩、とってもキュートです。あと2人のやりとりがほのぼのしててよかったです。
 七瀬の魅力が大爆発って感じです。いいなあ、自分の七瀬とは大違いですね。

スライムさん
 復活おめでとうございます。アサッシン...すごいプロ意識ですね。恐いなぁ。

偽善者Zさん
・浩平犯科帳
 う〜ん、相変わらず浩平がかっこいいですね。次回も浩平の大立ち回り期待してますっ。
・吾が輩はハムスターである
 ついに同棲に展開しましたかっ!それにしてもいきなりかいっ!浩平!「犯科帳」とは大違いだなって感じです。

まてつやさん
 みなさんから意見を聞くってことは、まてつやさんの考える展開は暗い方向なんでしょうか。でも書いてもらった方がすっきりするし、続き書いてくださいね。

雫さん
 茜ちゃん軍団、それぞれのおとぼけぶりがいいですね。それにしても晴香、恐るべしです。値切りが尋常じゃない...

GOMIMUSIさん
 長期連載お疲れさまでした。それぞれのキャラがうまく生かされていて本当に面白かったです。個人的には浩平の「えっと…すまん! 迷惑かけた!」って台詞がそのままの浩平って感じでで好きです。  

ここにあるよ?さん
 やっぱり来ましたかっ、みさき先輩のこの手の食べ物ネタ。みさき先輩の暴れっぷり、期待してます。

もうちゃん@さん
 澪&繭のおんぶ攻撃、怒るに怒れませんよね。

よもすえさん
 『ありえないよ。の茜空』と並行してこういうのが書けるなんてすごいです。あと感想ありがとうございました。

ではまたっ!今度は金曜日に投稿できますようにっ!