浩平サスペンス劇場(味覚の崩壊・・・その3) 投稿者: いけだもの
こんばんは、いけだものです。
うまいストーリーが思い浮かばぬまま(その3)まできてしまいました。
お気づきの方も多いと思いますが、この話、「世にも奇妙な物語」のテイストがかなり入ってます。

ではどうぞ〜

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みんなが『あのジュース』(通学路の自販機で売っているヤツだ)を好んで飲むようになっていく...そんな環境にノイローゼとなってしまった俺は暗い年末年始をおくっていた。
そんな冬休みの最終日、茜から電話がかかってきたのであった。
(よくわからない方は「その1と2」を読んでね)

 浩 平「どうしたんだ?茜。」
  茜 「年末、浩平学校に来てなかったから。」
 浩 平「...」
  茜 「明日からはちゃんと来るのかなって、気になったから。」
 浩 平「...」
俺は返事ができないでいた。はっきり言えばまだ学校へ行く気にはなれていない。
  茜 「浩平?」
 浩 平「ああ、大丈夫だ。ちゃんと行くよ。」
  茜 「本当ですか?」
 浩 平「体の調子もいいし、休む理由もないからな。」
嘘だった。ここのところ食事もロクに取っていないため、今朝も由起子さんから「まだ顔色が悪いわよ。それにかなり痩せたんじゃない?」と言われたばかりだ。
  茜 「浩平?」
 浩 平「なんだ?」
  茜 「今日は、何か予定がありますか?」
 浩 平「...べつに...ないけど。」
  茜 「それなら、遊びに行きませんか?」
 浩 平「はい!?」
意外な茜の言葉に一瞬脳味噌がとんだ。
  茜 「...だめ...ですか?」
受話器の向こうの声が不安そうに聞く。
 浩 平「い、いや、そんなことはないぞ。」
  茜 「そうですか、よかった。」
あまり気は進まなかったが、珍しく茜からの誘いである。
少しは気が紛れるかと思って誘いを受けることにした。
 浩 平「じゃあ、1時にあの公園で待ち合わせってのはどうだ?」
  茜 「はい、わかりました。では後ほど。」
 浩 平「おう。」
そう言って受話器を置いた。

軽く昼飯を食べて家を出る。
 浩 平「...雨、降ってるじゃないか。」
本格的な降りではなかったが、ぽつぽつと冷たい雨が降っていた。
俺が公園に着いた時、茜はもう公園に来ていた。
茜は何もない空間を見つめて佇んでいる。場所こそ違うが、雨の空き地での茜を思わせる姿だった。
 浩 平「よお。」
声をかけると茜はこちらを向いた。
  茜 「こんにちは。」
 浩 平「突然のお誘い、光栄でございます。」
軽いノリで挨拶を返すと、茜の表情がふっと穏やかになった。
  茜 「フフフッ。...元気そうですね。」
 浩 平「さっき電話でそう言ったろ?」
  茜 「そうでしたね。」
 浩 平「さて、これから何処いこうか?」
  茜 「商店街がいいです。」
 浩 平「よし、わかった。これから夜まで引っ張り回してやるからな。」
  茜 「お手柔らかに。」
笑顔で茜が言った。

それから俺と茜は商店街で思いっきり遊んだ。
ウインドウ・ショッピングしたり、ゲーセンでゲームしたり、山葉堂でワッフルを食べたり、カラオケでデュエットしたり...
久しぶりに楽しい一日だった。『時の経つのも忘れる』とはこういうことを言うのだろうか。
いつしか雨は雪に変わっており、時計を見るともう8時を回っていた。

 浩 平「茜、雪も降ってきたしそろそろ帰らないとヤバくないか?」
  茜 「...そうですね。」
 浩 平「じゃあ誘ってもらったお礼に家まで送るよ。いいだろ?」
  茜 「...」
茜は無言のまま俯いていた。
そしてしばらくの沈黙の後、意を決したかのように口を開く。
  茜 「...浩平、最後に私につきあってくれませんか?」
強い意思がこもった言葉。
 浩 平「ああ、いいけど。」
  茜 「それではついて来てください。」
そう言うと茜は歩きだした。
  茜 「...」
 浩 平「...」
茜は何も言わずに歩いていく。
俺は茜の背中にある種のオーラを感じ、声をかけることもできずにただ茜の後について歩く。
雪はしんしんと降り続いている。
  茜 「...」
 浩 平「...」
不意に茜が立ち止まる。そこはいつもの空き地だった。
茜が振り返る。
  茜 「着きました。」
 浩 平「どうして...ここに?」
茜は俺の問いかけを無視して話し続けた。
  茜 「浩平、元気出ましたか?」
 浩 平「ああ。」
本当だった。まるで茜から元気を分けてもらったみたいで、今の俺には今朝までの俺とは別人のように力がみなぎっていた。
  茜 「それじゃあ明日から、学校来ますよね?」
 浩 平「ああ。でも、どうして?」
俺には何で茜がこうも俺のことを気にするのかが分からなかった。
  茜 「...浩平がノイローゼになったの...わたしのせいだから...」
 浩 平「え?」

その言葉の意味が理解できなかった。
確かに事の始まりは茜の一言だった。しかし俺が追い込まれていく過程において茜の関与はなかったように思える。
それに俺がノイローゼになった理由を知っているヤツなんていないハズだった。教室での一件の後も色々な人に『あのジュース』を飲ませはしたが相手がどんな反応を示してもクールに振舞っていたし、結局同じ味覚を持った人(『あのジュース』をマズイと言ってくれる人)は見つからず誰にも相談できないでいたからだ。
事実、もっとも身近にいる由起子さんや長森ですら俺のノイローゼの原因を分かっていないようだった。

茜は何も言えずに立ち尽くす俺を見つめている。
  茜 「私があいつの仕業だってことに気付くのが遅かったから...」
『あいつ』、俺には誰のことかさっぱり分からなかった。いままでの事がタチの悪いイタズラとすれば、そんなことを考えるのは住井くらいだ。しかし茜が住井のことを『あいつ』と呼ぶとは思えない。

そして茜は辺りを見回して、いつになくきつい口調で何もない空間に向かって言った。
  茜 「アルジー!いるのはわかってます、出てきなさい。」
すると茜の前にぼわ〜っとした光の塊が現れた。
 鳴き声「にゅ〜」
そしてどこか間の抜けた鳴き声が聞こえると同時に光の塊は身の丈30cmくらいの動物の様なものに姿を変えていく。
そいつが完全に実体になった時、俺は更に驚いた。そいつは商店街で茜が見入っていたぬいぐるみにウリ2つの姿をしていたからだ。
そして突然の出来事に俺はパニック状態に陥っていた。
 浩 平「あ、あかね、こいつはいったい?」
  茜 「『不思議生物アルジー』、私のペットです。」
 浩 平「あるじぃ?ペット?」
  茜 「はい。」
 浩 平「...」
俺が落ち着くのを待って茜は更に話を進めた。
  茜 「浩平のノイローゼの原因ってコレでしょう?」
そう言いながら茜はどこからともなく『あのジュース』を取り出した。
 浩 平「...」
雪はまだ降り続いていた...

つづく

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ああっ、結局今回も終わらなかったっ。
次回こそ完結編にしたいと思ってますのでお許しを。

それから、たくさんの方に感想を書いてもらえて大感激です。
感想書いてもらえると創作意欲が沸いてくるようで...だから自分は感想だけってのもいいかなと思います。

それにしても、最近どんどん面白い作品が増えてると思います。自分もがんばらねばっ。
では、感想です〜。

藤井勇気さん
 途中はどうなることかと思いましたが、ハッピーエンドでよかったです。
 でも繭のお母さんも自分で「美人薄命」なんて、結構自信過剰ぎみですか?

スライムさん
悪あるところに...
 電子レンジャーの外道ぶりが良いです。
Moonな日々
 「ちなみに俺の仲間は捨て駒と同意語だ」ってセリフが笑えました。

11番目の猫さん
 長森を責める2人の言葉と長森自身の想いがすごく痛いです。

瑞希 龍星さん
 あっちの世界とこっちの世界を楽しむ浩平、こんなのもいいですね。

天ノ月紘姫さん
 激甘ワッフルで不可視の力が...もしや茜も?それにしてもわさび入り激甘ワッフルクレープってどんな味なんでしょうか(これはさすがに試せない)。

ここにあるよ?さん
 やはり料理は茜ってことですね。きっとおいしいんでしょうねぇ。

白久鮎さん
 (ニヤリ)、いいですね。洒落が効いてます。

火消しの風さん
 ハッピー・エンドだ〜。シュン、帰ってこれてよかったね〜。

しーどりーふさん
 子供のころの約束って、守れなかった時のダメージが大きいんですよね。だから浩平も今回の約束は守りたかったんだと思います。
 そういえば今見たらコレ消えてましたね。ど〜したんですか?

偽善者Zさん
 浩平がすごくかっこいいですっ。それと先を読みたくなるストーリー展開がまたお見事ですっ。

GOMIMUSIさん
『追憶』の歌詞
 歌詞って作るの難しいですよね。感心するばかりです。
ONE of the Daydreamers
 1人の人間がいなくなった後の矛盾がすごく伝わってきました。ほぼ全篇にわたって『海鳴り』が流れているように感じるのは自分だけかな?

雫さん
 「七瀬留美」これだけで思わず笑いが込み上げてきましたよ。この後どんな七瀬が出てくるのか楽しみです。

あと自分は、みさきWeekに一票!
ではまた〜。