だが、茜には詩子の呼びかけに答える余裕はなかった。
いや・・・・むしろ邪魔だった。
「・・・・っておいて・・・・・。」
「何?どうしたの茜ぇ!。」
「ほぉって・・・・おいて・・・・ください・・・・うっ!。」
苦痛だった・・・・たったそれだけ口に出しただけで記憶が流されてしまいそうだった。
言葉を交わした分だけ・・・・・
ぬくもりを感じた分だけ・・・・
茜の心は深く傷ついていた。
記憶を押し流す激流に耐え、逆らう力も残ってはいなかった。
「嫌・・・嫌・・・・嫌ぁ・・・・・。」
流れゆく記憶・・・・・・
河原の小石のような小さく、しかし暖かく敷き詰められた記憶は流され、ぶつかり、砕けていく・・・・・
行き着く先は海
粉々にうち砕かれた想いは、砂のようにちらばり、元に戻ることはない。
「浩平・・・浩平・・浩平っ!!!!。」
激しく頭を振り、叫ぶ。
流れに逆らえない自分の心が・・・・・もどかしかった。
ズキズキと心が痛む。
バラバラになりそうだった。
記憶と共に心まで砕けそうだった。
「茜っ!!!。」
詩子が茜を抱きかかえる。
「茜っ!、茜っ!!、茜っ!!!。」
「あ・・・・・・。」
暖かい・・・詩子の体が・・・いや、詩子から流れてくる想いが・・・・心が温かかった。
力が・・・・激流に耐える力が湧いてくる・・・いや詩子から流れてくるのが感じられた。
先ほどまでの痛みが嘘のように引いてくる。
流れゆく記憶がせき止められている・・・・・
「し・・・い・・・こ・・・・・ありが・・・とう・・・。」
「茜?しっかりして!!、しっかりしてよぉ・・・・・・。」
詩子を感じながら、茜の意識はゆっくりと川底へと沈んでいった・・・・・