みさきロボ<後> 投稿者: WILYOU
「これは?」
 俺は訊ねた。そう、目の前でちょっと意地の悪っぽい笑みを浮かべる住井と深山さんの2人に。
 俺の両手、両腕は俺の意志の下にはない。別に動かないと言うわけではない。ただ、両側で2人の
みさき先輩が俺の手をぎゅっと握っているために、自由に出来ないのだ。
「で、これは?」
「いいこと?みさき」
 俺からの問いをまったく無視した深山さんの声に、2人が顔を上げる。
「浩平君のこと、好きよね?」
 顔を赤らめて、しかしそれでもはっきりと頷く先輩達。
「でも浩平君は1人しかいないの、この意味、わかるわよね?」
 再び、少し間をおいてから、こくっ。
「それじゃあ・・・」
 すっ、と深山先輩が手を上げ、それを勢いよく振り下ろす。
「両側から彼の腕を引っ張って奪い取った方が本当の彼女よっ!」
「って、それって大岡っ!」
 と、俺が叫び声を上げた瞬間。そろそろと俺の両腕が反対方向に引っ張られ始めた。
 最初は遠慮がちに、そしてだんだんと強くなっていく。

 ピンッ

 とうとう俺の腕がはられた状態になる。両側から引かれる力はそこでとまった。
「どうしたの、さあ、ほらっ!」
 しきりに焚き付ける深山さん。楽しんでいるように見えたりもする。
 そして、再び腕をグイッと引っ張られる、が、その時。
「え?」
 左の方が一瞬引っ張るのが早く、俺はふらっとそちらに倒れてしまう。危ない、何か捕まる物は、
と思った瞬間、左手がなにか柔らかい物に触れた。

 むにゅっ

 こ、この感触はもしやっ!
 俺はパッと顔をそちらに向ける、と、予想どうりに俺の左手は彼女の右の乳房をわしづかみにして
いた。
「しまったぁっ!」
「顔が嬉々としているのはどうしてだ?折原」
 と、その時。それまで放心していた彼女が叫んだ。
「いやだよっ!」

  ドゴオオオォォォォォォォォォォンッッッッッッッッッ!!!!

「のほへええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっ!!!」
 そして俺は宙をまった。体がくるくると回転し、もはやどこが上で下なのかもわからない。
 ただわかるのは、自分の体が高く舞い上げられ、屋上のフェンスの上を越えて向こう側へ落下して
いこうとしていること。
 死ぬのか?そう思った瞬間。がっし、と両足を捕まれた。
「大丈夫?」
「掴んでるの腕っ!?」
 恐る恐る上を見上げると、なんと2人のみさき先輩がフェンスから身を乗り出して俺の足を掴んで
くれていた。
 目が見えないのに・・、危ないのに・・・。
 しかし感謝してばかりもいられない。いくら2人とはいえ女の子。この体制を維持するのは辛いは
ずだ。
「悪いけどもうちょっと我慢して、今足場を・・・」
 俺は下を見渡して、何か体制を戻す為にもとっかかりになるものを探す。
 ・・・・・・・・う〜ん、みつからない。
 と、その時。俺はあることに気がついた。
 先輩が両の足を一本ずつ持っている?!
 俺が上を見上げると、同じ事を考えていたのだろう。2人の先輩も同じように、俺の足を掴んだま
までう〜ん、と何かを考えて悩んでいるようだった。
 そして2人同じように悩み、同時に何か結論が出たかのような顔つきをすると、同じタイミングで
掴んでいた手をパッ離した。
 とたん、俺の体を浮遊感に似た、それでもやはり間違うことのない落下感が包む。
 
 ひゆゆゆゆううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっっっっっっっっ・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・予想は、していたさ・・・」
『あれ?』
 上から聞こえる先輩達の疑問の声。そこまでが俺の覚えている全てだった。




 とりあえず、下にプールがあったことを付け加えておく。







 四時間目が終わって昼休み。とりあえず保健室で着替えを終えた俺はみんなと一緒に食堂に来ていた。
 俺とテーブルをはさんで向かい側に彼女たちはいる。

 ぱくぱくぱくぱく・・・。
 
 一定のペースで、そろってスプーンを口に運ぶみさき先輩達。
 彼女たちの前に置かれたカレー。不作法にも見えなく、がっついてもいないのに、見ていて確実に
それが減っていくのがわかる。
  やがて容器が同時に空になり、2人同時に食器を横に重ね、カランッとトレイを上に積み上げる
と、新しいトレイを引き寄せ、食べ始める。

 ぱくぱくぱくぱく・・・。
「おいしい?」
『うんっ』
 目立つことこの上ないが、もはや俺にはどうでも良かった。
「ロボットの食費って誰が持ってるの?」
 これまた深山先輩が、同じくどうでもいいように、というよりはまったく気にしてもいないように
呟いた。
「ああ、それ俺の開発資金のあまりからです」
 その金の出所については疑問があるが、少なくとも少ない金額ではなさそうだ。

 ぱくぱくぱくぱく・・・。
 カランッ

 ぱくぱくぱくぱく・・・。
 カランッ

 ぱくぱくぱくぱく・・・。
 カランッ

『ごちそうさま。3度目だけどね。もうちょっと食べようかな?』
「いや、止めないから好きなだけどうぞ・・・」
『ありがとう』
 そして2人同時に立ち上がり、向こうへと歩いて行く。込み合っている中で、列に並ぶのだが、彼
女らの前にいる人間が原因不明の力を受けて吹き飛んでいくのを俺達は呆然と見ていた。
「・・・・・・・・・・」
「どうにかならないか?」
「本物と同じっていうからね・・・。記憶、癖、全部同じじゃ・・・」
 と、その時だった。
「う〜ん、やっぱりお金がないから今日は止めておくよ」
 カウンターの前で片方の先輩がそんなことを呟いくのが俺達の耳に入った。
「え?」
「なんなら私が出そうか?ほら、後50万あるし・・」
「ええっ?」
 そう、これまでまったく同じ行動をとり続けてきた2人が違う事をし始めたのである。
 そして、50万ある、と呟いた側の財布に入っている、1人の学生がもつには厚すぎる札束。
「決まりね」
 深山さんは突然ガタッ、と立ち上がると、不敵にそう言い放ち、スタスタと彼女らの前に歩いてい
くと、手に持っていた何かを彼女の額にポンッと当てる。
 深山先輩がすっと身を引いた後には、札束を片手に呆然と佇む1人のみさき先輩。額にはお墨付き、
と真っ赤なまん丸の大きなはんこが押してあった。
「解決・・・」
「・・・・いや、なんか違う」
 向こうで何故か窓の外に視線を向ける深山さんに、俺は邪魔をして悪いと思いつつも声をかけた。
 ここは昼過ぎの食堂。みさき先輩というただてさえ食事時は目立つ彼女が2人もそろっているのに
加えて、食堂の片隅には先程彼女らが吹き飛ばした生徒の山。もはや外聞も恥もない自分らだったが
、やはりこういうことをされると恥ずかしいものがある。
「ほら、先輩。決めポーズはいいですから」
 俺達は深山さんに近づくと、まだ明後日の方向を見つめている彼女の姿勢を正した。
 と、俺達がそんなことをやっている時だった。
「あれ?みさき。首筋のMS−03ってなに?」
 ちょうどそばを通りかかったみさき先輩の友人と思われる女の人が、そんな事を言ったのが俺達の
耳に入った。
「え?」
「はい?」
 俺達も回り込んでもうひとりのみさき先輩の首筋を覗く、と、確かに彼女の首筋の所に型番と思わ
れるものがついている。
「え・・・?」
「って、ことは・・・」
 
 ポンッ!

「解決っ!」
「いや、もういいですってば・・」
 俺ははんこを手に持ったまま不敵に佇んでいる深山さんをどかすと、もう1人の、先程偽物と決め
つけたみさき先輩の方に向かう。
「こっちが本物?」
 と、俺が彼女の首筋をそっと覗くと、そこにはMS−02としるされていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 これは、いったい・・。
 俺が黙っていると、不思議に思ったのか住井と深山さんもこちらに近づいてきた。
「・・・・・・・・・・・・・こっちも偽物?倉庫に寝かせていたのが勝手に来てたらしいな」
「何?2人ともロボットだったわけ?」
 意外な展開に2人も驚きを隠せないようだった。
「じゃあ、本物は何処?」
 深山さんが呟く。
 しかし、俺にはそれよりももっと気になることがあった。
 俺はくるりと住井の方を振り返る。彼も俺が何を言いたいのか悟ったのだろう、ひくっ、と顔をひ
きつらせるのが見て取れた。
「02。だったよな・・・」
「そ、そおだね・・・」
「01はいるのか?」
 

どおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!


 住井が答えるよりも早く、校舎のどこからか爆発音が響いてきた。
「・・・・・・・・」
「大変ですね」
 爆発の音に混じって、どこからか茜の声が聞こえた気がした。


<そのころのみさき>

「倉庫掃除嫌だよ〜っ」
「遅刻した罰にしては結構重いですね。ひょっとして連続?」
「え?えと、えと・・」
「ふふっ、さっさと終わらせましょ」
「ゴメンね。手伝って貰っちゃって、えっと、川名さんだっけ?私と同じなんだよね」
「はい。あ、そこどいてもらえます?綺麗にするので」
「あっ、ゴメンね」

  サッ

 どお〜〜〜んっ!

「わぁ、凄い。散らかっていた物が片づいてるね」
「はい。掃除は完膚なまでに徹底的にですっ」
「でも壁も消えてるね」
「細かいことは気にしないことです。どうせ三年生の使う教室ではありませんし」
「そうだね」

 どお〜〜〜んっ!


 この後、見回りに来た先生は機材と棚、机、そして壁の消えた風通しのいい化学準備室を発見する
ことになる。



<追記>
 みさきロボが外部の信号を受け付けるまでの間。住井にかまわせるとなにに使われるかわからない
とのことで引き取ったが、かかった食費は5万。『1300グラムたべたらタダ』などというのを利
用してやり過ごしてきたが、もう店にも入れてもらえないだろう。みさき先輩が3人という夢のよう
で地獄のような、ある意味生きる手応えを感じた2週間であったとコメントしておく。
                               浩平


                              <以上>

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ぐあっ。次に感想、などといっておきながら、今度もかけません(泣)
友人のパソコンが復帰するまで、ちょっと控えてます。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/index.html