みさきロボ<前> 投稿者: WILYOU
 とある冬にしては珍しく晴れた日。四時限前の休み時間を、俺がいつものようにぼうっとしてすご
していると、ここ最近学校を休みがちだった住井が俺の席までで来た。
「グモニー」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 どうやら彼は相当テンションが高いようだ。
「・・・・・何があった?」 
しかし彼は俺の問いに答えるかわりに、どこからかボタンのたくさんついたトランシーバーの様なも
のを取り出した。
「なんだ?」
 俺が尋ねるも彼はにゃっと笑っただけで答えもせず、手に持ったトランシーバーの赤いボタンをポ
チッと押した。
 ・・・・・・・・・・・。
 押してしばらく・・。何が起こるかと俺が警戒していると、喧騒の中、廊下からタッタッタッとい
う足音が聞こえてきた。
「・・・?」
 俺が首をかしげてる間にも、足音はだんだんと大きさを増す。やがて、俺達のクラスの前まで来た
それは、キュッと言う音を立てて方向転換をしたようだった。
 その先にはこのクラスしかないと言うのに・・。

  バキィッ!!!

 教室のドアを蹴破り、一人のみさき先輩が姿を現す。
「おひさしぶりだよねっ」
「見たか。制作時間、授業24時間分の力作。みさきロボだっ」
 にこっ、といつものように微笑んで、こちらに向かって軽く手を上げる先輩と、その傍らで誇らし
げに胸を張る住井。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 と、住井がどこからか紙と眼鏡を取り出し、眼鏡をかけて紙に目を通し始めた。
「ちなみに名称 『みさきロボ』身長体重スリーサイズは企業秘密。どこの企業かは『住井コーポレ
ーション』。特技 食器タワー作り。オプション装備 寿司、ケーキ用胃袋、称して別腹。維持費は
月50万。食費オンリー。口癖 『もうちょっと食べようかな』、『ごちそうさま、3度目だけどね
』。作者コメント 愛は技術を越え、欲望は愛をも凌駕す」
 俺はそれをどこか遠いところで聞きながら視界をずらす、と、次の授業の先生が壊れたドアの所で
呆然と佇んでいるのが伺えた。そしてそれをなにげに見つめてから、再び視線を戻す。
「・・・ああ。作ったって?お前が?マルチみたいなのを?」
「それだけじゃないぞっ。3タイプのモード切り替えにより、メイド型、戦闘型、リアル型が可能だ
っ」
 こちらの話を無視して説明を続ける住井。
「・・・・・・・・・・・・ああ」
「さら〜にっ。驚くなよっ」
 住井は先ほどのトランシーバーをみさき先輩、いや、みさきロボに向けると緑色のボタンを押した
。とたん、彼女の体がブウゥゥンッと震え始め「リアルモード・オン」と事務的な口調で繰り返す。
「リアルモード。ナノマシンより抽出したみさき先輩の人格をそのままデータベースに置き換え、そ
のままに動かすモード」
 やがて、彼女の体から震えが消える。
「即ち、人間社会での生活が人間として可能であると言う、まさに究極のモード。いまや彼女は川名
みさきとほとんど変わらないのだっ。たとえば・・・」
 そう言うと住井は彼女の肩にさりげなく手を回してみた。
 とたん・・。
「いやだよっ!」
 
  ドゴオオオォォォォォォォォォォンッッッッッッッッッ!!!!

 くるりと住井の方を振り返った彼女がそう言うと同時に、目にみえない力が上井とその後ろの机、
椅子、生徒達もろとも教室の端まで強風とともに吹き飛ばす。
「・・・・・・・・・・ソ、ソニックブラスター・・」
 声の中に違う種類の波動を混ぜ、それによって目標に攻撃を加える超音波兵器だ。  
 やがて教室内に吹き荒れていた風がおさまると、教室の端には机、椅子、そしてクラスメート達の
山ができていた。
 そしてその中から、ボコッと住井の片手と顔が覗く。
「ど、どうだ。そこにいる彼女の少し困ったような、照れているような顔を・・。これさえ、これさ
え見れるなら俺はほ、ん、も・・・・うぅっ」
 そしてバタッと倒れる。二度と動かない。
「・・・・・SM(すぺしゃるっぽいマゾ)」
 その山の傍らで何故か無傷のままたっている茜が小さく呟いたが、俺はそれを聞き逃さなかった。






 それから5分後。『空が見たい』との『彼女』の要望で、俺は住井を引きずって屋上に来ていた。
先生までもがソニックブラスターで悶絶しているのに今更授業もないだろう。
「ねぇ、何点?」
「まだ夕焼けの時間じゃないぞ」
「そうなんだ・・・」
 そしてクルリとこちらに背を向けて風を感じている彼女。そちらはとりあえずいいとして、俺は住
井に向き直って頬をぺちぺちと叩く。しばらくして住井が目を開いた。
「止めろ、直ちに」
俺は『彼女』の方を指さす。
「ん?あ〜、ああ、あれね。リアルモードに切り替えたから、2週間は外部からの信号を受け付けな
い。つまりこちらからも操作はできな・・・って、髪にガムテープは人道に外れてると思うぞ、折原」
「リアルにしたいならあんな兵器つけるなあああぁっっっっっっっ!!!」
 住井の胸ぐらを掴み上げ、カックンカックンと揺さぶるが、それでも彼はフッと笑う。
「甘いな。兵器でないロボットなど何の意味があるんだっ!・・・って、どうした?急に背を向けて
落ち込んで。背中が寂しいぞ、折原」 
「学校のアンケートの親しい友人覧にお前の名前を書いたのは間違いだった気がする・・・」
 しかし住井はこたえた様子もなく、へらへらと笑いながら俺の肩をポンポンッと叩いてきた。
「ままっ。落ち込んでも仕方ない。俺も考えなしに起動しちまったからな。とりあえずなんとかしよ
ーぜ」
「・・・まあ、そうなるよな・・・・・・・」
 俺はほぼあきらめに似た気持ちで後ろを振り向く、とその時だった。
「へえ、川名さんっていうんだ。同じだね」
「うんっ。川名みさき」
 いつのまにか2人に増えていたみさき先輩が、互いに話し合っていた。
「へえ、私もみさきっていうんだよ」
「えっ、そうなの?」
 そして2人で少しの間、黙る。
『奇遇だよねっ』
『おいっ』
 ついついつっこみを入れてしまった俺達の声に、2人の先輩が振り返る。
「何?」
 こちらはみさき先輩だ。
「どうしたの?」
 こちらもみさき先輩である。
「って、これって・・・・・」
「混ざった、のか・・・・・?」
 交互に呟く俺達。階下から聞こえる「みさき〜っ」という深山さんの声が、俺達の予想を裏付け
ていた。



「混ざった?みさきが?」
「ああ・・・」
 授業をさぼったみさき先輩を追いかけ、深山さんが来てから5分。みさきロボという非現実的なも
のを俺達は懸命に説明していた。
「ふぅん、信じられないけど・・」
 そう言って、深山さんはみさき先輩達に近寄っていく。
「どっちも、変わらないけどねぇ。そうだ、ロボットの方はそのソニックなんとか使うんでしょ?」
「いや、本物が近くにいる場合でも。いらぬ虫けらが寄りつかないようにさりげなくガードするよう
にプログラムしてある」
「・・・さっき吹き飛ばされたお前がいうのは、何か認めたくない物を感じないか?」
 まあ、とにかくこれでどちらかに触ってみて、吹き飛ばす方がロボット、という確かめ方は出来な
くなったわけだ。
「まあ、いいけどね・・・」
 そして深山さんが先輩達の前に立つ。
「私の名前は?」
『雪ちゃんだよっ』
 と、2人まったく同時に声を上げる先輩達。
「私の部活?」
『弱小演劇部っ』
「・・昨日の事で私に謝ることがあるわよね」
『ごめんねっ。ちょび髭はわざとじゃないんだよっ』
「・・・・・・そうそう、百円貸してたわよね」
『あっ、ごめんね。はいっ』
 そして、差し出された二つの手からそれぞれ百円を受け取るとサッとポケットにしまい、雪見さん
はこちらに振り返った。
「どっちでもいいんじゃない?」
「やっぱり先輩の友人だ・・」
 その言葉に深山さんの片方の眉が少しだけつり上がるのを俺は見逃さなかった。
「でもさあ、どっちも大差ないよ?」
 深山さんはくるりと先輩達の方を振り返ると、どこからかサッとポテトチップの袋を取り出すと封
を切り、パタパタと匂いを中りに漂わせるように手で扇ぐと2人に尋ねた。
「食べる?」
『ありがとっ』
 嬉々として同時に袋に手を伸ばすみさき先輩達。彼女らは一定のペースで食べ続け、15秒もしな
いうちに袋は空になった。
「ほらっ」
「って、勝ち誇ったように言うなぁっ」
 何故か胸をはっている深山さん。そんな彼女を見ながら俺は何度目かのため息を付いた。
「・・・・・・・・あ」
 と、突然雪見さんが呆けたように呟く。
「どうした?」
「・・いいこと思いついちゃった」
 そして彼女は俺を先輩のもとへと引っ張っていったのだった。

____________________________________
WIL「え〜と、タイトルの通りみさきロボです。ずっと前に出したSSのネタ
を受け継いでいるところがあるので、わからない方はごめんなさい」 
赤上「さらに、タッタッタッタッバキッ!っというネタは某有名な○ー○○○から
借りていろいろいじったものです。気になった方すいません」
WIL「次回の更新は近日中にいきます」
WIL、赤上「ではっ」

*感想下さった方本当にありがとうございます。

*今度も感想なくてすみません(−−;