夢を歩こう 気まぐれなベクトルが指し示す間々に
縛るものなど何もない このエゴと不安と、それでいていとおしい世界
端までゆこう この大地がぼやけぬうちに
そこは先 今だ観ぬ夢の先
もしかしたら触れ合えるかもしれないよ
僕らが膨らませた夢の世界が
そして僕は歩く 夢の交差点(クロスロード)を
長森さんの夢、それはファンタジックだ。
いつもの街、見なれた街。それすらもここでは愉快に見える。
色とりどりにデコレートされた店、当たりに流れる流行の童謡。ゆきかう猫達もリズムに乗ってステップを踏む。
人々もこの青空のように、はじけるような笑顔を見せる。
笑顔。笑顔。笑顔。楽しくて笑顔、可笑しくて笑顔、悲しくても笑顔を見せるこの街では、年中笑顔が絶えない。
そう、今僕が足を踏んでみたヤクザ風の男も、笑顔でふりかえる。
「喧嘩売ってんのか?」
そして笑顔でパンチをくり出す。だから僕も笑顔で返そう。この顔に張り付いた笑顔が消えないうちに。
「歯ぁくいしばりなっ!」
しかし相手も緩んだ顔で食いしばれるはずもない。僕の回し蹴りを顔に食らった彼は、口から血を垂らしながら地面に崩れる。
僕は蹴る。カカトで数発。もちろん口の端を愉快そうに歪めながら。
「あれ、住井君?」
と、しばらくし、彼が動かなくなってきた所で、後ろから声がかかる。
長森さんだ。僕は下の半死体を足で路地裏に押しやりながら振り返った。
「やあ、奇遇だね。夢が交差するなんてさ」
しかし彼女はそんなことには興味がなかったのか、それとも意味を解していないのか、軽く「ふぅん」とあいづちを打つと、僕の手を引いて街を歩き始めた。
知り合いの猫に挨拶をかわし、鼻をかすめたクレープの甘い匂いを視線で追いかけながら。
と、路上で童謡の弾き語りをしていたパンク兄ちゃんが、マイクを差し出し声をかけてきた。
「童謡、どうよう?」
「いーよう」
そして2人で唄い出す。
歌声は街に響き、行き交うひとが足を止めて聴き入る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
と、長森さん達が、ビッと僕を指差し、ハモりながら唄う。
『どうよーう(動揺)』
「やかましいわ」
と、その時。先ほど半分殺したはずのヤクザが笑い声けたたましくタックルをしかけてき、僕の意識は暗転した。
僕が目を開けるとそこは宮殿の中だった。
目の前に延びる赤い絨毯。両側には正装した紳士、淑女が並び、後ろには王様とその妃。
そしてその隣にいた、頭のはげた神父さんの促すままに、赤い絨毯の向こう側から、真っ白なウェディングドレスに身を包んだ女性がこちらに歩み寄ってくるところだった。
僕は目の前まで来た女性のベールをそっとめくる。すると名かには、はにかんだ笑みを見せる七瀬さんの姿があった。
「汝、住井は―――」
式が始まった。僕は彼女を愛すことを誓い、彼女は僕を愛すことを誓う。
「では、誓いのキスを―――」
そしてふれあう唇。彼女の鼓動が伝わってくるように、僕の胸もビクンッと大きく震える。
僕はドキドキしていた。何だろう、胸が震える。ドキドキ、ドキドキ・・。
「では例のものをここへ」
王様の声によって、僕らの前にどこからか一台の古びた自転車が運ばれてきた。
「お父様、これは?」
「わしらの結婚式のとき。2人で乗った自転車さ」
王様が七瀬、いや、今は僕の妻となった留美にそう答え、彼女はにこやかに微笑んで王様の頬にキスをする。
「さあ」
僕らは促されるままに自転車にのる。前に僕、後ろに留美がチョコンと腰掛け、やがて赤い絨毯の上をタイヤは転がり始めた。
後ろにつけた空缶がコロンッとなり、大聖堂の鐘の中、来賓の割れんばかりの拍手の中を、絨毯の無効の開かれた扉へと僕らは進む。
そして扉をぬけ、眩しい光が僕らを包んで、刹那。
太陽が見えた。陽光を眩しく僕らに向けた太陽が。
ふわふわの雲が辺りに浮かび、白く輝く宮殿が真横にそびえ、そして何よりも目を引いたのが、遥か、遥か下に広がる大森林と、そこへと続く曲がりくねった長い、長い階段。
「・・・・・・・・・・・」
ブレーキがない。止まる雰囲気もない。神様なんていない。
留美がギュゥッと僕に抱き着き、ダグンッと前輪が45度ほど下がる。
そして、
「うどおわあぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!」
ダグダグダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダタ・・・
最初見たときは長いと感じた直線を、ほぼ一瞬のうちに、僕らはほぼ落ちてゆく。
右へ曲がるカーブ。しかし自転車は止まらない。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダタ・・・
「のぉどわあぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!」
一際増したスピートで、右カーブをなんとか曲がりきると、また同じ様な直線があった。
しかし自転車は止まらない。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダタ・・・
「うおりやあああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!」
次はヘアピンカーブ。
「ドリフとして曲がるのよ!」
しかし自転車はブレーキがない。ましてドリフトなどできようはずもない。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダタ・・・
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!」
どうやって曲がったのかもわからないまま、とりあえず前を見ると同じ様な直線があった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
声も出ない。しかし自転車は止まらない。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・
タイヤもなかったりする。
しかし自転車は止まらない。
加速してゆく。
しかし自転車は止まらない。
しかし自転車は止まらない。
止まらない。
止まらない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・止まってくれると嬉しい。
しかし自転車は止まらない。
やがて、放心状態となった僕とともに、自転車は宙へと投げ出された。
そして僕はここに来ていた。
夏。そう夏の世界だ。
青空の中、でっかい入道雲が手足を伸ばし、煌く日差しの中で緑鮮やかな草原を風が通り抜ける。
背中の大きな樹は木漏れ日を落とし、涼しげな風が汗ばんだ肌を心地よく冷ます。
夏・そう夏の世界だ。
しかし何かがここには足りない。
高鳴る鼓動、高揚感、体を包む浮遊感。空回りする期待。夏のドキドキ。それらはここでは翳りをおびる。
淋しい。
この世界は淋しい。
これが人の夢だというのなら、彼はこんな思いを抱えているのだろうか?
やるせなくどうしょうもない、何ともいいようのない気持ちに捕われて、僕はおもむろに右手を突き出した。
「どら、この辺りに住井君レジャーランドでも作るか」
「作るなああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!」
突然後ろに現れた折原のソバットに、七割近く具現化していたパークは、霧のようになって空気に消えた。
「てめぇっ!人のシリアスな深層心理までやってきて、メリーゴオランドなんてメルヘンなもの白々しく作ってんじゃねぇっ!」
「馬券も付いてるが」
「なお悪いわっ!!」
と、折原は何か悩ましげな事でもあるかのように、頭を抱えるとうなり始めた。
と、その時。僕は彼の後ろからヒョコッと顔を出した、長森さんによく似た、小さな女の子の姿を見つける。
「おいで」
僕の笑顔に脅えているような彼女は僕のまねきにも応じず、ササッと折原の後ろに隠れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふふっ」
つい声が漏れる。
長森さん、そして小柄な幼い女の子。この2つの条件が満たされたとき、彼女は僕にとって悩ましげな存在になると言えた。
彼女が逃げる。僕は追う。
「ははっ、待て待てぇ〜」
ついついスキップなんかで追いかける。と、それがいけなかった。
彼女は僕が差を詰めなかった隙に、どこからか吹いてきた風に身を委ねて空へと舞いあがった。
しかし僕も負けてはいない。彼女が飛び去った海の果てへと、何故か都合よく海に浮かんでいる羊達を踏みつけながら跳び渡ってゆく。
「だあぁぁっっっ!!やめろっ!それは俺のナイーブな心の象徴、俺の心のそのものなんだぁっ!」
しかし僕の耳には入らない。
そうして、僕は夢の果てまで、彼女を追い続けた。
海に浮かぶ羊達を踏みにじって。
次の日。僕は小さな女の子をつれて登校した。
「ははっ、連れて来ちまったい」
「現実オチかああぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!」
かくして、繭よりもはるかに幼い高校2年生が誕生する。
(追記)
彼女が戻るまでに2週間はかかった。
(追記2)
「おはよっ。七瀬さん」
「おはよ。瑞佳は朝から元気ね」
「そういう七瀬さんは元気ないね。夢見でも悪かった?」
「ま、まあね・・・」
この日、七瀬はやたらと自転車に脅えていたそうな。
<おわり> _____________________________________
WIL「こんにちは、はじめまして。初めてでない方はじめてじゃないまして。一年どうこう言っておきながら、2月でシャリシャリでてきたプッツンWILYOUと申します。以後石など投げられませぬよう、よろしく〜☆」
赤上「飼い主の教室背景CG教卓直前赤い髪キャラ、あだ名が赤上です。なんとなくよろしく〜」
WIL「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
赤上「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
WIL「・・・・・俺が悪かった」
赤上「何がよ・・・」
<あまり読みたくないだろうけど裏設定>
茜
童話に出てくるようなお菓子の世界を、ワッフルにはさんで食す夢。
澪
おすし屋でカジキを頼む夢。
繭
みゅ〜
みさき
もしかしたら書くかも。
WIL「え〜と今、カフェならぬ情報センターという便利なところから繋いでいます。」
赤上「真面目な方達が働いてる傍らで、壊れSS送ってます」
WIL「メルアドは新規です」
赤上「GOOのただメールです」
WIL「後書き長いです」
赤上「すいませんです」
WIL「感想も今回は書けないです(すみませんっ)」
赤上「もうしわけありませんです」
WIL、赤上「それではっ」