1/8
ひさびさに長森と登校。時間に余裕があったので猫を見せて貰う。
あまり可愛いとは思えなかったが。
1/12
受験シーズンまっただ中。担任の先生から気を抜くなという話があった。
僕はどこも受けない。本当なら浩平が帰ってきて、自分で決めるのが望ましい、そう思ったとき。
不意に、空き巣のような自分に気がつく。
先生の話がなんとはなしにうざったかった。
1/15
テスト。データの中からそれらしいものを選んで記入するだけの作業。
「自分の意見を書け」という問題に、とまどった自分が嫌だった。
1/18
長森とテスト中ながらも街へ遊びに行く。
何か自分が引っ張り回してるような気がしたので訊ねたら、「私が連れだした」と予想通りの答えを帰してきた彼女に、言い様もつかみどころもない感情を覚える。
表現方法の乏しい自分が情けない。そんなことを思っていたら、その気持ちにピッタリ来るコードを見つけた。
『smile』、初めて使う。
1/20
テスト終了。仲が良くなったクラスの連中と見せ合う。
帰り道、長森といろいろ見せ合う。
イラスト入りで減点されたテストにやたらと笑っていた。
つられて僕も『smile』。
『smile』『smile』、連続で『smile』。
(追)…………自己嫌悪。
1/23
雨。里村が空き地の手前でじっと立っていた。
1/25
詩子から里村にアンドロイドということがばれる。
ずっと前から知っていたようだったが、それはともかく面白い話を少しだけ聞かされる。
『forever』。知識の上でしか、僕はそれを知らない。
1/29
空き巣。人のいない合間に入り込む盗人。
人の心に入り込み、他人の位置を奪う僕こそ、一番の盗人ではないか?
長森家に入ろうとしていた空き巣を捕まえ、そんな事を思っていた。
2/1
新しい月の始まり。なぜだか気分が晴れ晴れしくない。
今日も雨が強い。
部屋の中に押し込められたような気がする。
2/6
長森がまた風邪をひいた。なんでも雨の中、高台の公園でずっと待っていたらしい。
またもこっそりと長森の部屋へ行く。
熱にうなされ、僕の手を握ってきた長森の目に涙が浮かび、安心したように眠りに沈んでいった。
胸が苦しかった。
2/7
次の日も長森の家へいった。
今日はまだ調子が良さそうだった。子守歌を歌ったら起きた。
起こしてしまったものは仕方ないので、暇つぶしにたわいない話をしていた。
胸につかえた言葉が、堰を切るように飛び出しそうだった。
初めて知る感情というものが体のどこかで渦巻き、外にでたいともがいている。
ただ出してしまえば、彼女が僕を受け入れても受け入れなくても、とぢらにしても僕の中で何か大事なものが壊れるだろう。
言い方は知らない。ただ近い言葉で言えば、それはプライドというのかもしれない。
長森は今日も手を握ったまま眠った。
2/8
今日は長森家に人が一日中いる。
仕方ないので倉庫で休む。
なんとはなしに手首の関節をあらぬ方向に軽く曲げる。
パシッ
だいたい限界だと思われる辺りまで曲がったところで、手首の中の方で小さな音が聞こえる。
パシッ パシッ
どこの関節でも同じような音が聞こえる。長い長い時間、そんなことをくりかえしていたら、体が元に戻らなくなった。
体の関節を5ヶ所ぐらい変な方向にねじまげたままあえいでいると、住井がやってきて一笑していった。
2/9
長森復帰。
僕は修理。
2/11
今日は学校へ。
授業中、ついつい前の席の長森に視線がいってしまう。
パシッ
あの音が聞こえた。
2/15
また体がよじれる。
「持て余した感情を始末する方法がわからないからだ」。住井が変な音の原因についてそう言っていた。
涙を流せない自分にとっては、それが変わりになっているらしい。
涙は難しいとのことで、よだれの機能を付けて貰った。
2/16
役に立たない。
2/18
今日はひさびさに屋上に行ったら長森がいた。
「あれ、どうしたの?」
「そっちこそ」
「え、ちょっと外の空気がすいたくて」
「ならそれでいいです」
そして僕は笑う長森の隣に並ぶ。
2人でじっと街を見下ろしていると、なんとなく静かさが気になった。
何か話をふろう。
………………………………………。
「長森」
「何?」
「いい天気ですね」
「うん」
…………………曇ってはいるが。
「長森」
「何?」
「僕の事、どう思います?」
「好きだけど」
………………………………………………………。
何か、心のどこかで重い音がした。
「あの、落ち込んでる?」
「いえ、別に…………」
僕はフェンスの上でくたっ、となりながらも答えた。
「1人の、人格としてです」
気を取り直してもう一度訊ねる。人格、といったのは、本物の体はもちろん、性機能すらない僕には「男」という言葉はつかえないからだ。
「人格として?」
「はい」
「…………………」
予想した通り、彼女は僕が何を言いたいかを悟った瞬間、黙ってしまった。
長森は視線を落とし、下に見える中庭の方に視線を移している。まあ、その目が何も映していないことは間違いないのだろう。
彼女は優しいから、「浩平」を裏切るような事はまずできない。かといって、相手に対して「断る」と言うこともなかなかできない。
といっても、それだけの理由ならそれほど迷う事はない。彼女を迷わせているのは、恐らく「寂しさ」にあると僕は思う。
優しい人間というのは、人の気持ちをわかってあげられる反面。人に気持ちをわかってもらえない事が多い。与えるばかりで欲しがらない、そんな修行者のような性格をもつ彼女が体験したこの一年。寂しくなかったはずがないのだ。
(どうして、わかっちゃうんだろうな…………………)
たぶんここ一年、側いたからだとは思う。そして、そんな弱みにつけこんでいる自分が、どうしょうもなく嫌になった。
そろそろ止めよう。もともとそのつもりできいたのだから。そう、僕が思ったときだった。
「ごめんね」
長森が本当にすまなさそうな顔でこちらを向いてきた。
「え?」
「私、浩平が好きだから。つきあってはいないけど……」
長森が本当に悲しそうに小さく微笑んで、それでもはっきりとした声でそう言った。
僕は正直驚いていた。
これまで自分が考えていた長森の性格からすれば、まずでてこないはずの台詞だったからだ。
「まだ…、帰っては来ないけど。でも待って見るつもり」
自分はわかってなかったのかもしれない。長森の側にいて、長森の全てを知った気になっていて、一番大事なものを見逃していたのだろう。
「ごめんね」
好きな人に去られ、1人でも寂しさに耐え、彼を好きでい続けるその強さを。僕は一番大事なものが見えてなかったのだ。
おそらく彼女にとってこの僕の存在なんて、浩平に対する気持ちをほんのの少し揺さぶる、そんな程度のものでさえなかったのだろう。
結局僕が1人でもがいていただけなのかな…………。
まあ、彼女の寂しさをほんの少しでも和らげるぐらいはできた、と自惚れさせて貰おう。そうでないとあまりに自分が格好悪すぎる。
「冗談です」
「え?」
きょとん、とした顔で僕を見つめてくる長森。
いくらなんでもこんないい加減な感じで告白、と言っただろうか?とにかく自分の思いを伝えたくはない。もし、もし、浩平が現れたら、その時にもう一度フェアな位置で言いたい。そう思ってのことだった…………………が。
「…………………」
長森が黙った。
何か、何か怖い気がする。
「…………………冗談?」
「は、はい」
……………………………………。
長森の顔が赤く染まってゆく。
「絶対知らないっ」
プイッとそっぽを向いて、すたすたと歩いていってしまう。
「あ、ちょ、待って下さぁ〜ぃっ」
この後、彼女の機嫌が直るまでにかなりの時間がかかった。
一応本気だったのに…………………。
(追)長森の良いところ一つ発見。
2/27
今日は朝からいい天気だった。珍しく暖かく、そろそろ春でもくるかな?という気分にさせられる、と誰かがこぼした。
朝、玄関に立って長森をまっていると、強い風が吹いてきて、僕は初めて起動した4月の雰囲気をふと思い出した。
「春一番だね」
いつのまにか出てきた長森が横でそんなことを言った。
「春一番?」
「春が来たことを知らせる、強い今みたいな風邪の事を言うの。冬の風とはちがうよね」
「そういえば冷たくなかった気がします」
「暖かくなったよね」
「ええ、変なのがうろつく季節ですね」
「…………………え?」
「違うんですか?データベースにはそうありますが」
「ううん、そういう解釈もあっていいと思うよ」
そして苦笑いする長森。このサインは「おかしい」ということだ、後で住井に聞く必要があるだろう。
最近、注意して長森を見るようになったおかげで、いろいろなことがわかるようになった。
そうして、僕たちはいつものように学校へと向かった。
玄関で下足箱に靴を入れ、これから教室へ向かおうとしたとき、僕は、出がらしに下足箱の影から飛び出してきた小さな影とぶつかった。
どっ。
どうやら相手は小さめの女子らしく、僕は少しよろめくだけですんだのだが、
ぺたっ
と、尻餅をついた。
「あ、ごめん。大丈夫?」
2年のスリッパを履いているその小さな女の子は、痛そうに顔をしかめていたが、僕がそうたずねると首を横に大きく降って微笑んだ。
心配ないようだ。僕は彼女に手を差し出した、と、その時。
「?」
彼女が僕の顔を見た瞬間、一度戸惑ったような表情を見せ、それから頭の中でなにかが一致したように顔を輝かせた。
そしていつになく慌てて、自分の体の回りや、鞄の中をごそごそと探り始める。
「あの…?」
彼女は俺の言葉などまるで聞こえていないかのように、一通り慌てた後、やがてどこからか一冊のスケッチブックを取り出す。
……………かきかき。
『ひさしぶりなの』
突然そう書いた白い紙を見せられ、僕は戸惑った。
「え?」
とうとう人の名前すら忘れるようになったらしい、データが破壊されているともその時思ったが、何か血がう気もした。
「あの…」
と、簿が聞こうとしたとき、チャイムが鳴って、彼女は慌てたように俺に一礼して去っていってしまう。
「あれ、今の澪ちゃんじゃない?」
後ろから、ようやく靴を履き替えた長森がでて来た。
「みお?」
こちらも時間がない、チャイムが鳴り終わるまでに教室に駆け込まなければいけないので、僕も走りながら訊ねる。
「え、演劇部の子じゃ…。ああ、浩平は去年の4月からだから知らなくても無理ないよね」
「浩平、の知り合い?」
「うん」
そして、今日が始まった。
違和感。
最初に教室に入っていったとき、やはりそんなものを感じた。
朝のショートホームルームに少し送れて入ってきた生徒に対して向けられる視線、ではない。クラスの一人一人が、ここ一年かけて知り合った人たち一人一人が、入ってきた僕に対して戸惑いの表情を浮かべているのがよくわかった。
「おう、折原。遅刻にはしないでやるから早く席に着け」
担任の「髭」とかいう人が、教室の入り口で硬直していた僕に席へ着けと、あごで指してきた。
「…………………」
僕は住井に目をやる。彼もまた、僕に対して戸惑いの表情を浮かべている。
いや、違うかもしれない。戸惑い、というよりは、それは悲しげに見えた。
そうか……。
僕は何が起きたかを悟り、教室の入り口で反転する。
「え、浩平?」
僕の後ろにいた長森が、不思議そうな声を上げるその横を、僕はスッと横切り、駆け出した。
「浩平!」
「おい、折原!」
後ろから担任と長森の声が聞こえる。だが僕は止まらなかった。
僕の居場所。「浩平」という、いるかいないかもわからない人物の変わりとしての居場所。
もし、彼が本当に帰ってきたら? あまり考えなかった事。自分でも考えることを拒否していたのかもしれない。
何故だろう、体が熱い。そう、気持ちが高ぶっている。
流行る気持ちを抑えながら、僕は玄関から出て外へと向かった。
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ぐぁっ、急いで書いたので、文〜話の流れにいたるまで変かも、いや変でしょう(爆)
もしなんだったら読んで下さい(^^;http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/