空白(2) 投稿者: WILYOU
8,10

今日、長森は友達と泊まりがけで海へ行った。
僕は朝からコンビニへ行き、しばらくバイトをしていたが、昼頃、気になってバイトを早退し海へと向かう。
これまでに稼いだお金を握りしめて電車に飛び乗り、揺られること2,3時間で僕は海の見える街へとたどり着く。長森からは地名しか聞いていなかったため、いくつかある海水浴場をタクシーで巡るがなかなかみつからない。やがてもってきたお金が無くなり、僕は歩いて探し回ることとなった。
海水浴場が点在する海岸線を僕は歩いていた。近くを、時折猛スピードで通り過ぎる車に気を配りながら、向こうに見える、人が少なくなってきた海水浴場へと向かう。
 これで最後だ。もう時間がなかった。
 日は赤みを増し、もうしばらくしたら海に触れるだろう。
今日は無理…………………、僕がそう思ったときだった。
「折原君?」
突然声をかけられ、僕が太陽に向けていた視線を前に向けると、見知った顔があった。
「どうしたの、瑞佳を追いかけてきたとか?」
彼女は佐織。長森の友達だ。名字は知らない。ただ長森が佐織とよんでいるのを聞いていただけだ。
「長森は?」
 との僕の問いに、彼女は彼女が歩いてきた方向、その先に見える海水浴場を指さす。
「あっちよ」
「ありがとう」
そうして僕がいこうとすると、彼女が突然肩を掴んできた。
「何?」
「瑞佳の事だけど―――」
 彼女はそこで一瞬戸惑うが、すぐに口を開いた。
「おねがい」
「…………………」
「気晴らしに連れてきたんだけど、なんか、もう見てらんなくて」
 そういうことか。
「わかった。できるかどうか分からないけど善処とてみるよ…」
「砂浜にいるから。住井君も一緒だから見つけやすいとは思うけど」
「住井が?」
 どうしてあいつがここに…………………。
「うん。追っかけてきたみたい」
「そう…。じゃあ、とりあえず行ってみる」
 そうして僕は歩き出す。「お願い」ともう一度いう彼女に、軽く手を上げで答え、早足で海水浴場へと向かう。
 住井が、長森を?
考えられないことではなかった。奴が長森に対して時折見せる態度や言葉遣い、それらは自分も何度も目にしてきた。
そして今。海まで追いかけてきたという住井。もし、彼が本当にこの海辺にいるのなら、間違いなく決定と見ていい。
ただ、そうなると分からないのは、どうして自分を作ったかという事だ。
好きな女の好きな男。そんな奴のモデルを作るなんて、僕には納得できなかった。
 そして、僕はその海水浴場に来た。日はもう沈みかけていて、あまり人も残ってなく、目的の人はすぐに見つかった。
 歩きにくい砂の上を、慣れない足取りで向かう。靴に砂が入ってちょっと気持ち悪い。
 と、その時。僕は彼女の後ろのほう。一件の海の家のベンチで焼きそばを食べている一人の男の姿を見つける。
「住井」
 近寄っていって、そう声をかけると、やはりその男は振り返った。
「よ、やっと来たな。まあ座れよ」
「好きなのか?」
 進められたベンチに座ろうともしないで、僕は立ったまま言った。
「…………………え〜と」
「長森が好きなのか?」
「……前々から言おうとは思っていたが、お前って話の振り方が唐突だよな」
「作ったのは誰?」
「作ったのは俺。歪んだのはお前。そして俺は長森が好き。これで答えになるだろ」
「…………………」
今度は僕が閉口する番だった。
「どうして……」
「どうして?」
「どうして僕を作った?」
 住井は「唐突だな」とも言わず、前を向いて語りだす。夕日が住井の顔に当たり、顔が赤く染まっていた。
「どうして、俺がここへ来たと思う?」
 唐突な質問に、またも僕は閉口する。
「好き、だから……?」
「それもあるが、お前にいろいろと言いたくてな」
 住井は手に持った焼きそばを夕日の中で一口食べ、咀嚼して飲み下すと、再び語り出す。
「コンビニまでお前の様子を見に行ったら、早退したっていうしな。たぶんここに来ただろうとおもって待っていたわけだ」
「いつから?」
「3時間ほど前かな?ここの浴場はうちの学校で人気が高いからな」
「なら――」
 ならどうして声をかけない。そう聞こうとした時、住井がそれを遮っていった。
「どうしてかって?彼女の中には俺がいないからさ」
 自嘲気味に、そして半分その台詞にたいする照れを交えて住井は笑う。
「そしてお前もいない。彼女の中には誰も知らない『浩平』っていう人物でいっぱいなんだ」
 浩平。長森の頭の中にのみ存在する人物。その話は僕もよく知っている。何故なら、その浩平の変わりとして作られたのが僕だからだ。
 不思議な話だとは思う。だが、その話が嘘だという気はまったくしなかった。
「………どうしてお前を作ったのか、っていう質問の答えは、彼女に頼まれたのと、そそしてもう一つ、彼女を救いたかったんだ」
「救う、僕みたいな偽物で?」
 それは皮肉的に言ったのではなく、心底の疑問だった。
「自分でも酷い奴だとは思う。ただ、偽物でもお前が一緒にいる間だけは幸せにしたかったんだ」
「……余計、辛くならない?」
「………浩平とお前は違う人間だ、って思いこむたびに『浩平』のいない現実を彼女に実感させてしまうことはわかってる。でもな、彼女がお前を『浩平』としてではなく、お前自身として好きになれば、忘れられるんじゃないか?」
「アンドロイドが人間に好きになって貰う?」
「機会人形でも、お前は特注だ。お前、どうしてここに来た?」
突然の意外な質問に僕は戸惑う。
 その答えがすぐには見つからなかったからだ。
「ここに?そ、それは……長森の様子が、気になって………………」
「お前に与えられた仕事は『浩平』の変わりをすること。ただのロボットならこんなところまで機体を潮風にさらしにきたりしないんだよ」
「どうして?」
「お前に6月の定期メンテの時に『感情』みたいなのを付けたからさ」
「感情?」
「お前、長森さんのこと好きだろ」
 好き?僕が長森を?
「気がついてないならそれでいい。とにかく、言いたいことは、お前は人に好きになって貰う要素がだいたいそろってるんだよ」
 好き?僕が長森を?
「ロボットに『感情』を付けるのがやばいことは分かってる。彼女が『浩平』以外の男を愛さないことは分かってる。だから牽かれたんだしな。ただ、俺は彼女にもう少し楽になって貰いたいんだ」
「…………………好き?」
「ああいう性格だから、『浩平』をあきらめて他の男に逃げるなんてことはしない。それは立派なことだけど、実際人は弱い。本当はこんなことしないほうがいいけど、俺は自分の長森さんに対するエゴの為にお前を作った。『浩平』に似た容姿は糸口だ。とりあえず今はお前にすがって貰いたい。そして、その『浩平』
とやらが彼女の前に出てこなかったら、うばっちまえ」
「…………………」
「い、いや、お前がそんなことをしないのはわかる。何も今すぐ彼女を奪えといってるんじゃない。2,3年。あるいは5,6年たって『浩平』があらわれない時の話だ」
「…………………」
「とりあえず今はお前に彼女を慰めて欲しいんだ。お前にも残酷だとは思う。だから、嫌なら止めてもいい」
「………………そうか、僕は長森さんのことが好きなのか」
「…………………は?」
「知らなかった。全然気がつかなかった」
「……………聞いてたか?」
「何を?」
 そこで、会話が途切れた。
「…………………」
「…………………」 
 10秒。
「…………………」
「…………………」
 20秒。
「………………………………………………………」
 30、いや、35秒ぐらいいっているかもしれない。
数えている自分も暇だ。
「…………………」
「…………………と、とにかくだ」
「?」
「長森さんの白い水着姿って、清純というか、巫女さん的な魅力を感じないか?」
「賛同します」





サザァ…………………。
 押し寄せる波、沈んで行く夕日。そして、砂浜に座り込んでそれらを見つめる女性はそれに増して綺麗な物だと思う。
 そんなことを思いながらも、僕は長森れさんに近づいていく。
 住井の話では、6月頃に一度僕を廃棄する案も出たらしい。
 というか、長森さんが僕を作らせたことを後悔しているようだったので、住井が持ちかけた話らしいが、なかなか否定できなかったそうだ。
だが、結局彼女は否定する。たとえ心が無くても、一度生み出した命を簡単に消すことは出来ない。せめて任期が終わるまで、とのことだった。
 住井も迷ったらしい。彼女のことだから絶対に否定するとはわかっていた。だから、その時に僕を消そうか迷った。そして、その結果、奴は一番つらい選択をしたともいえる。
 彼女の白い背中がすぐ近くで見える。彼女はまだ気がつかない。
 住井は浩平が帰らず、長森さんの気持ちが僕に傾いているのなら、僕に譲ると最後に付け足した。焼きそば片手に呟く奴も滑稽に見えたが、僕たちらしいと言えば、僕たちらしいのではないか?
 これ以上いい加減なことはしたくないという、奴に背を向けて、僕は今長森さんの真後ろまで来ていた。
 僕は無言で、彼女の肩に佐織から受け取ったタオルをそっとかける。彼女が少し驚いたように、スッと後ろを振り返った。
「こう、へい?」
 キスしたら自爆スイッチポンだったよな…。
 俺に譲ると言った割にはこころのせまい住井の言葉を胸に、僕は彼女が十分に僕を確認しないうちに無言で抱きしめる。声を出せば僕だと認識させることになるからだ。
「え、えっ」
 当然のことながら、彼女は慌てる。住井も何か勘違いしたのだろう、僕の中に仕込まれた爆弾の安全装置が音を立てて外れるのがわかった。
 だが、彼女もしばらくすると、落ち着いたように体から力をぬき、そして安心したように僕の背中に手を回して抱きしめてくる。強く、強く。
 その背中に食い込む爪の力が、彼女の寂しさを何よりも物語っていた。 
 そんな気がした。






8/12

まあ、住井にはああいわれたものの、僕は彼女に心を許させるつもりはない。
彼女はそれを望まないだろうから、僕もそれを望まない。
心を許させないギリギリの境界線で、彼女を少しはサポートしていきたい。

ただ、僕は彼女を好きなのだろうか?帰りの電車で何度も住井に尋ねたら「うるさい」と言われたのだが、やはり気になる。
う〜む。


追記
明日は住井に肝試しの手伝いをさせられるらしい。
結局いいように使われているのは気のせいか?


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な〜んか、不燃焼ですね(−−;
ご勘弁を。
シリアス向きじゃないもんで。
とはいえ、笑い向きとはとても言えませんけど(笑)
……………………………………。
全部だめじゃん…………………(自爆)。

次からはすこしばかし明るいはなしにっ(汗)
それと長くなったので、次で5,6ヶ月は飛ばす予定です。
ん〜、一年って短いっ(違)



「感想」と、いきたいんですが、夜も遅いのでまた次の機会にm(_ _)m

それでは。

>最後に
関そう下さった方本当にありがとうございます。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/