プレーヤー(前) 投稿者: WILYOU
「実はCDプレーヤーを自作した」
「いきなり人の机の上に座り込んで何いってんだ?住井」
 休み時間。いきなり住井図人の席にやってきた。
「CDプレーヤー?自作した?」
「そうっ、SOMYだろうが、三節だろうが目じゃない。名付けて………」
「住井君プレーヤーとか?」
「な、何故わかるっ」
 これもつき合いって、やつなのかな…………………。
 俺はちよっと嫌だった。
「で?今度はどんなオプションを付けた。ビーム?レーザー?意表を突いて電子ウィルスとか?」
「なんかお前、俺を嫌ってないか?」
「前科があれだけあるお前が言えた義理か?」
「う゛っ」と住井はたじろぐ。
「まあ話だけは聞いてやろう」
 かくいう俺も実は少しだけ興味があった。
「そ、そうか。実はこれなんだが………」
 奴はごそごそとふところから携帯用のプレーヤーと携帯ステレオを取り出した。
 どこに仕舞ってるんだ、お前は………。などと思いつつも、俺はそのプレーヤーに見入った。
 普通のプレーヤーだ。銀色ボディに三角マークなんかがついたボタンがいくつか、変わったところと言えば住井重金属(株)、というロゴが入っている事だろうか?
「…………………つーか、住井重金属(株)って?」
「心配するな、ペーパーカンパニーだ」
……………………………………。
「…………………あ〜、一応確認して置くが」
 俺は一呼吸置いて続ける。
「社会様に迷惑はかけてないよな」
 と、そこで住井の顔がいくらか凍り付いたのを俺は見逃さなかった。
「べ、別にっ。テレビのニュースで騒がれていることなんかはっ」
 いまの間はなんだ住井。
 まあ、いつもの事か。俺は勝手に自己完結すると、目の前のプレーヤのボタンをなにげに一つ、ポチッと押してみた。
 フウウゥゥンッ
 気持ちよく回る、プレーヤーの音。
 とたん流れる『オンユアマーク』。
 朝、長森にたたき起こされるシーンの音楽である。
「あ、こらっ。お前勝手に動かすんじゃないっ」
 住井がそう言って、停止ボタンを押そうとしたときだった。
「起きやがれこらああぁぁぁっっっ!」
 バキィッ!という音と共に、南のソバットが住井の頭を直撃し、住井は横に並んでいた机に突っ込んだ。
「な!」
 だがそれでも南の暴走は収まらない。今度は俺の前の前の席で眠っていた男子生徒の上に、持ち上げた机を叩きつける。

ゴッ

やけに現実味のある音をたてて、男子生徒は机の上にのびた。
「ふははっ。起きろ、みんな起きろぉ〜っ。お?眠っている奴発見!」
 教室をきょときょとと見回していた南は、教室の端に授業中から眠りこけている奴を発見すると、机の上をひょいひょいっと飛んでいって…………………

ガスッガスッガスッ!!!
…………………
いや、語るまい。とても俺には語れないっ。
「な、何?」
 七瀬が前の席で、呆然としてその非日常を見つめていた。
「俺が聞きたい…………」
 と、そこで俺の視線は机の上で回っている、プレーヤーに止まる。
「ひょっとして…………………、これか?」
 ひょっとしなくても、俺が呈しボタンを押すと同時に南の活動は停止した。
 …………………。
 教室内に重い沈黙が流れる。
「み、見たか…………………、曲のイメージを映像にする技術を応用して、現実に働きかける新機能だ…………」
 向こうから住井が親切にも解説して、ガクリッと床の上に崩れ落ちた。

 そして次の授業中。復活した住井と、正気に戻った南が復帰して、授業はいつも通り行われていた。
 だかしかし!ここにその平和を壊さんとするモノ一人。
 まあ俺だけど…………………。
 とにかく、俺は住井から1000円で買い取ったプレーヤーの力を試してみたくてしかたがなかったのだ。
 つまり研究心旺盛、という訳である。
 建前はともかく、俺はプレーヤーをセットすると、早速再生してみた。
 曲は『虹を見た小径』。つまり茜のテーマだ。
 …………………。
「わっふるが食べたい」
 突然住井の前の席。謎の女子生徒がそう呟いた。
「たい焼きが食べたい」
「チョコパなんていいかも」
「いや彼女の甘い口づけなんてのも………」
 そして連鎖的につぶやきはクラス中に広まっていった。
「ああっねなんか甘いモノが食べたくなってきたわっ」
 七瀬までもが欲求を率直に語る。いまやクラスはぶつぶつ呟く連中ばかり。
 怪しい。はっきりいって怪しい。
 何か皆が飢えた野獣のようになっていた。
 と、そこで俺はふと思いつき。鞄の中から、今日の昼色。メロンパンを取り出し、匂いがもれないようにふうを切る。
 中から出てくるちょっとベトベト感のあるパン。俺はそれをちぎって丸め、教室の真ん中に投げた。
 教室の後ろから放られたパンの切れ端は、普通なら誰も気が付かない。だが今回ばかりはちょっと違った。
 最小に反応したのは、教室の真ん中にいた女子生徒。佐織、とか長森が呼んでいただろうか?彼女は鼻を反射的にパンの方に向けると、パッと目を開いて、立ち上がり、机の上によじ登って飛来するそれをキャッチした。
 …………………。
 そして何もなかったかのように、つぶやきモードに入る彼女。教室の誰もがそれを気にしていない。
 …………………。
ちぎっ まるまる ぽいっ

ガタッガタッガタガタッ!!!
 今度は教室にいた人間の半数以上が、押し合い蹴り合いながらひたすらパンの切れ端を目指す。
 ケリッ、ボグゥッ、フミフミフミフミ…………………。
 ぼろぼろになりながらも、激戦の勝利者は先生だった。
 まだ若い女教師は、パンくずを手にしっかと握りしめると、その拳を上に高々と上げてポーズをとる。
 言葉で言い尽くせないほどのその顔の充足感。
…………………。
「嫌です」
 教室の端でじっとみていたらしい茜に言われるまでもなく、俺は停止ボタンを押した。


 そして授業は何事もなかったかのように続く、俺は17トラックを再生してみた。
『永遠』
 雲、そう空、雲、夕焼けのテーマが、クラス中響く。
 バッ!
 突然、クラス全員の顔が一斉に窓側に向いた。
…………………。
「僕は一人なんだろうか?」
「灯り…………………」
「雲が、高くそびえる雲が見えるよセレン……」
 南、お前の席からは空はみえないだろうが…………………。
そんな事を思いつつも、俺はプレーヤーを止めようとした、が、間違って早送りしてしまう。
…………………。
とたん鳴り響く。『偽りのテンペスト』

「ごめんよぉっ、佐織!僕は、僕はキミを幸せにできなかったんだっ!」
「いいのよ、柴崎君!私もクリスマス前に男3人キープした悪い女なのっ!渡しも、私も悪いのよっ!」
「そんなことはないよ、サオリンっ!」
「いいえ、ぶつなら私をぶって、いえ、私をぶってえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 教室の真ん中で二人、ドラマをやっている佐織と柴崎。そしてそれを立ち上がってじっと見つめるクラスのみんな。
 いや、違う。じっと見つめているのではなく、ひそかにハミングしていた。
 …………………。
「七瀬、お前まで…………………」
「違うのよっ、体が勝手にっ!ん〜ん〜ん〜」
 そしてハミングを続ける七瀬。
 クラス全員が異様、というか異常な風景にとらわれていた。
 まるで怪しい学園モノ映画のワンシーンがそこにはある。
 だが、それに気付くものはいない。住井君特製耳栓をしている俺と力無く机の上に突っ伏したままの住井だけが、これを異様として受け入れていた。
「嫌です」
 もう一人。耳栓もなしに自意識を保っている茜を覗いて。
 …………………俺はボタンを押した。
 …………………。
 しかし音楽は鳴りやまない。というか、1トラックすすめてしまったようだ。
『A Tair』〜消える直前のテーマ〜
…………………。
「サオリン。君に会えて、よかったよ…………………」
「わたしを私を置いていくのシバッチ!」
「しかたない、仕方ないんだよさおりん」
「分からない、分からないわっ、何故貴方が消えなければならないの!?」
「…………………さおりん」
「…………………、また会えるわよね?」
 同じくハミングしながら、二人を見つめるクラスメート。無表情ながらも、何人かは涙を流していたりもする。
「そして、柴崎は笑顔を残して消えようとしていた。消えゆく彼の体は、あっけなく。まるで季節はずれの雪のように消えてゆく………。まるでこれまでの事が嘘だったかのように。佐織は求める。彼のぬくもりを、彼の暖かさを。彼と過ごした日々を確かめるために。だか、彼女が彼を抱こうとした瞬間。彼は微笑みと共に消える。空を切った腕をしばし見つめて…………………。彼女は、泣いた」
『ア〜ア〜アァァァァァ』
 ナレータを務める南。そして彼のナレーション終了と同時に、一際声が大きくなるハミング。というより彼らは歌っていた。
 フゥッ、フゥッ、フゥッ…………………。
 そして徐々に消えてゆく、クラスメートの体。それらを俺はしばし、見つめていた…………。
「えいえんはあるよ?」
 聞こえた。俺にもあの声が聞こえた。
 行くのか………………… 。そう思った瞬間、音楽がやんだ。
 とたん霧散する永遠。
「…………………え〜っと」
「私です」
 見ると茜がプレーヤーを止めていた。
「た、助かった…………………」
「喜ぶのは早いです」
「え?」
 茜はスッと教室を指さす。するとそこには、何故か音楽が鳴り終わっても戻ってこないクラスメート達の席が、ぽっかりと空いていた。
「…………………」
「人数、半分になっちゃいましたね」
「ああ…」



 そしてそれから、俺はおとなしく次の授業を受けていた。
だがしかし、悲劇は終わらなかったのだ。
 ガシャンッ!
 眠りこけていた俺はプレーヤーを落としてしまう。
「おっと」
 拾おうとして、俺は気が付いた。音楽がなっている事に。
『走る!少女達』アクティブな音楽。繭追跡のテーマ。
「さあみんなっ!こんな辛気くさい授業なんか止めて、外へでもいくわよっ!」
 とたんうらがえった声で叫ぶ髭。
 ところで髭は何の担当なのだろう?
『おぅっ!』
 それはともかく、教室中からわき起こる賛同の声。しかし、一人。常識を持っていたと思われる女子生徒が、髭の異常な行動に反論を始めた。
「先生っ!いきなりなんてことをっ!」
 教卓前の赤い髪の女の子。背景CGに2度ほど登場しているキャラである。
「んあ〜、なにか不満でもあるの?」
 女言葉になっても、口癖だけは変わらない髭。
「先生は乙女をなんと心得ているのですかっ!」
 乙女?話が違う方へ歪んでいる気がする。
「乙女。元気に外へ行って遊ぶなんてことが乙女とでもいうんですかっ?!」
 クラス中に動揺が走る。だが髭は落ち着いた声色で言い返した。
「そうだな……常識で考えれば、それは乙女の定義に反するだろう」
 定義って…………。
「乙女。可憐なる女、とは限らなくても女らしい人の事を指す」
 ちょっと自分の言っていることに矛盾を感じつつも続ける髭。
「だかしかしっ!昔の偉い人がこんなことを言っていたっ!」
 バンッと教卓を叩く髭。

「『乙女は爆発だ』」

…………………。
「おお〜っ」とクラス中から納得の声があがる。
「さあっ、納得してくれたところでいくわよっ!暴走は乙女のステータスシンボルッ!」
『おうっ!』
 クラス全員(でも半数)が一斉に立ち上がり、やたら男っぽい乙女達が一斉に駆け出した。
 髭を先頭に、廊下の方へ…………………。
「七瀬…………………」
「ちがうのよっ!体が勝手に、きゃあっ!」
 タッタッタッ…………………。
 そしてクラスには、今だ机の上で力つきている住井と、立ってこちらをみつめる茜だけが残されていた。
 テクテクテク…………………。
 茜が俺の近くまで寄ってきて、今だ回り続けるCDプレーヤーを手に取る。
「…………………壊れてますね」
「止まらないのか?」
「はい」
「電池は?」
「…………核マークついてますけど」
…………………。
「住井、おのれわぁ〜〜〜っっっっ!!!」
 俺は住井の襟首を掴んで持ち上げ、カックンカックンと前後にゆさぶり始める。
「そんなことより…………………」
 茜の声に俺の手が止まる。
「いいんですか?」
 茜が外を指さした。
「は〜っはっはっはっ」
 笑いながらトラックを走る髭と、それを追いかける生徒達。それらが窓から伺える。
 窓ガラスの向こうからかすかに聞こえてくる髭の笑い声。それが妙に心に痛かった。
「…………………」
「…………………」
「音楽は…………………、聞こえてないと思うんだけどな…………………」
「浩平、住井君のポケットからご都合主義にも説明書が」
「本当にご都合主義だな…………………」
 などと呟きつつも、俺は受け取った紙を開く。

<トラブルシューティング>

25項、音楽が聞こえる範囲外にでても、人に影響が出ている場合は次のような事が考えられます。

1,その人の人格が壊れている
2,もとからそういう奴だった。
3,狂気の扉を開いた。

…………………。
「嫌です」
 俺もそんな心境だった。

<続いたらいいね☆>

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 もとはDNML用に作ったシナリオなんですが、音楽がどんなのか、分かって頂けましたか?(汗)
 音楽ネタは使いづらいかな?と思いつつも強行した次第です(^^;
 それとここまで呼んで下さった方、ありがとうございました☆

本気で少ないですが感想です

>超人バロムONE 第一話(後編)
>TOMさん
 正体がみさき先輩とは(笑)おもわず納得してしまいました。
 肩こりのほぐれる必殺技ってのもいいですね。

>浩平無用! in 絆 <13>
>ももさん
 住井が強いですね。不気味っぽさがバッチリ出てますね☆
 浩平がどうなるか楽しみです。
 
>感想+おまけ
>ペルさん
 優しい茜希望! いやいいですねぇ。「浩平お兄ちゃん、ワッフルいっぱい食べてねっ(たぶん初音ちゃんモード)」こんなんあったら浩平の所にWILYOUっていれてプレイすると思います(笑)

>ONE総里見八猫伝第二四幕
>偽善者さん
はぅ、肉…………………。
にくうぅぅぅぅぅっっっっっっっっっ!!(怖かったらしい)
はぅ、川の字…………………。
かわのじぃぃぃぃっっっっっっっ!!(うらやましかったらしい)

>私信
マナちゃあぁぁぁぁぁんっっっっ!!!(WAやったらしい)
では☆

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/rri.htm