隣林檎 投稿者: WILYOU
 この季節になると、何処へ行っても甘い香りが漂う。
 暦の上では春になったとはいえ、まだ寒さを残す夕暮れ時の町中を、俺こと南は肩をすぼめて歩いていた。
 寒い、身も心も……。ついでに財布の中なんかも寒かったりする。
 明日はヴァレンタィン。
 3世紀頃にとあるキリスト教徒が殉教した日らしいが、どうしてこの国ではんな日にチョコを送るなどと言った習慣を持ってきたのだろうか?
 不可解だ。北朝鮮頭領の顔つき以上に不可解だ。
 いっそのこと弾道ミサイルでもお菓子メーカーにぶち込んでやろうか?
 そんな作者みたいな気分で、俺がとぼとぼと歩いているときだった。前方にとある人の姿が見えたのだ。
「七瀬、さん?」
「えっ!」
 慌て、長い髪を揺らしながら俺の方をパッと見る彼女。とある店の前のワゴンをのぞき込んでいたのだが、よく見るとその中にはいろいろな種類のチョコとおぼしき物体が並んでいる。
(そうか…………………)
 俺はすぐに悟る。恐らく浩平にでも贈るのだろう。
「あ、あはっ」
 照れた笑い。それが俺には可愛く、そして少しだけ寂しく思えた。
「浩平に?」
「う、うん…」
 ほっぺを朱色に染める彼女を横目で見ながら、俺は彼女の隣に立ってワゴンの中を見下ろした。
 バレンタインも間近になると店の方も必死である。どうにか売ろうという気持ちが、20%OFFという張り紙に現れている。
 ワゴンの中身の方はそれこそチョコのるつぼ、といった感じだった。アィディア満載なチョコ、シンプルで大人っぽいチョコ、ユーモアに富んだチョコ。
 こういったものを普段見る機会が無いだけに、俺にとってそれらはけっこう新鮮だった。
「ん〜、手作りでいこうとしてたんだけどね」
 彼女の方も横から顔を出して、ワゴンの中にそっと手を突っ込む。
「失敗しちゃって、それで急遽買おうとしたんだけど……」
「どれにしようか迷ってる、と」
 赤のリボンの着いた四角い箱を、細い指の先でつつきながら彼女は頷いた。
「友達はシンプルなのがいいっていうけど、相手は浩平だし」
 わかる気がする。
「ん〜。ならこれなんかどうかな?」
 俺はちょっとの間ワゴンの中を見つめると、一つの箱を取り出して見せた。
「そ、それ?」
「うん。浩平らしくないかな?」
 そういって俺が取り出したのは、大きなハート方のチョコだった。
 大きくでっかく、そして何よりも真ん中に大きく描かれた文字が、なによりも浩平らしく、そして七瀬さんらしくもあるだろう。
 彼女は隠していると思っているようだが、はっきりいって七瀬さんの日頃からのおおまかな性格は、俺の目にはしっかり映っているのだ。
 まさにこの不器用なカップルにピッタリといった感じた。
「う〜ん、や、やっぱり遠慮しとくわ」
「そう?いいと思うけどな」
 まあこちらも本気ですすめようとは思ってなかったが。俺はチョコをワゴンの中に戻すと、またその中をいろいろとかき回してみた。
 街を吹き抜ける風が、コートからはみ出た俺の手足を撫でる。やはり少し冷たい。太陽も最後の日を盛んに燃やし尽くし、ビルのそびえる地平に沈もうとしていた。
 と、その時、七瀬さんの髪がふわっと風邪に流されて俺の頬を掠めた。とたん鼻につく、清潔なシャンプーの匂い。
 俺がふとそっちを向くと、紅く照らされた七瀬さんの横顔が憂いを帯びているのに気が付いた。小さな、白い息が口からもれなければ分からないぐらいに小さなため息が、俺の目の前まで流れてスッと消える。
「七瀬さん……」
 口から自然に出てきた言葉に驚いたのは俺だった。
「何?」
 彼女は先ほどの憂い顔が嘘だったかのように、自然な微笑みを浮かべてこちらを向いた。
「あの、作ったチョコって、どうしたの?」
 俺が訊ねると、彼女は一瞬目を大きく開いて驚いた顔を見せた後、少しだけ気まずそうな笑みを浮かべる。
「あ、あれね……。実は……」
 彼女は一瞬迷った後、手に持った鞄を突然開けて、中から一つの包みを取り出した。
「今日、友達にみせてみたんだけど…」
 俺は差し出されたそれを手にとって包みをガサガサと開く。
「やっぱり、まずいかな?」
 消え入りそうになっていく声、そんな声を耳で受けつつも、俺は手の中の包みに注目した。
 チョコ。包みの中のチョコは彼女が心配するほどにはまずい出来とは思えなかった。
 だいたい手作りなどというものはこんなものである。だいたいこの不器用な感じがいいものだ。そこらのチョコのような精巧なものを作ったといっても、技巧を誉めこそすれ、手作りであれば不器用なものと大差はないだろう。
 だが彼女にとってはそれすら大問題なのかもしれない。気持ちは俺にもなんとなくわかった。
「あの、どうかなっ」
 じっとチョコを見つめる俺に不安になったのだろう。真剣な彼女の大きな目が俺を見上げていた。
「友達にも見せたんだけど、巧いとか凄いとか。ほら、絶対に下手なんて普通言わないから。いまいち信憑性なくって、それで………………」
 だが、俺はそんな彼女の言葉を最後まで聞くこともなく、いびつなチョコを一つ摘むと、口に放り込んだ。
「あっ」
 口の中で溶けるチョコ。カカオの香りが口を抜けて鼻まで届き、甘さが口いっぱいに広がる。普通、普通のチョコと同じ味だ。だが俺には、それがいつもよりもほんの少しだけ甘く感じられた。
「いいんじゃない?」
 ペロッとチョコを摘んでいた指先を舐めながら、俺は率直な感想を言う。
「いいよ。ホントに」
 最初は少し驚いたような表情を見せていた彼女だったが、しだいにほっとしたような表情になってくる。少し氷がちだった顔の筋肉がゆるみ、浮かべる笑顔もけっこうよかった。
「ホント?良かったぁっ」
 ほぅっと安堵のため息をこぼす七瀬さん。白い息が辺りに広がって消える。
「なんか、やけに素直に信じるんだね?」
 友達の言うことはあまり信じられない、とのコメントを聞いていたので自分の言ったことも疑われるのではと思ってはいたのだが。この反応は妙に素直すぎる気がした。
「嘘なの?」
「いや、違うけど…」
 しまった。ついよけいなことを言ってしまったようだ。だが彼女はぷっと吹き出して笑うだけだった。
「どうしたの?」
「ううん、浩平にやっぱり似てるな、って思ったの」
 『恋人に似ている』といわれるのは少しは嬉しいものだが、この場合は合計して嬉しくない方に部類されるだろう。 
「そう?」
「うん。だからすぐに信じられるのかもね」
 その時、俺は何故七瀬さんが浩平を好きになったのか?その理由が少しだけわかった気がした。
 最後に燃える赤い日に照らされ、赤くなった彼女の姿。それが愛おしく、そして寂しく、俺の目には映っていた。

 次は、次のバレンタインまでには、浩平のように愛しいと思える相手に出会いたい。
 次の日の朝。机の中にカード付きの包みをみつけた俺はなんとなくそんな事を思っていた。
 黒い包装紙に一本入った緑のストライプ。嬉しくて胸が少し痛くなった。


                       <おわり>


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 甘えよちっくしょぉ〜〜〜っっっっっ!!!
 …………………っといかん。マジで叫んでしまった。
………………………………………………………。
 なんでこんなイベントがあるんでしょうね (T T)
 といってもお菓子メーカーを責めるわけにはいかない、そう、彼らも必死のはずだからだ。となるとどこにこれをぶつければいいのか?そうだ。これも全て資本主義のせい。自由競争に焦点を置き、寒い風に身を縮める男達に対して冷たいこの仕打ちをくらわす資本主義がいけないのだ。そういえば資本主義国アメリカは鉄鋼の事でまた日本にいちゃもんをつけていた。なんかアメリカ日本を目の敵にしすぎてないか? どことなくアジア民族を見下す感じがないとは言えないきもするかもしれないぞ。
え〜い、とにかく今年も寒いぞちっくしょ〜っ!!
赤上「彼女つくんないあんたが悪いんでしょ」
 いうなぁ〜っっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!

 っとまあちょっとテンション高めです。
 今回はギャグのはずがいつのまにやらこんなのになってました(^^;
 とにかくここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
 上の長文については遅いかもしれないですけど読み飛ばして結構です。どうせ内用皆無ですので(^^;
 それでは。感想は今回はちょっとパスします。すいません(−−;

追伸 今回は後述がながくてすみません(汗)

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/rri.htm