青空の重さ(2) 投稿者: WILYOU
 そして私が目を開けたとき、私の目の前にはまっすぐ続く廊下があった。
私がそこで降りるとドアは閉まり、しばらくして中で何かが動く音がした。
「…………………」
 私は辺りを見渡す。T字路になっているそこは横にも道が続いている、灯りは蛍光灯がぽつぽつとついていて上ほどとは言わないがまだ比較的明るかった。そして奇妙だったのが、廊下にはドアが病室よりも広い間隔で、それでもちゃんとつけられているにもかかわらず、廊下には何も器具は置いてなく人も誰一人として見あたらなかった。
 誰にも会いたくなかった私にとってそこは望んでいた場所だったのかもしれない。「影」に気が付いてそれを受け入れた人の目、それを見ない振りして励ます人の目、何も考えずに社交だけでここに来る人の目。全てが私は嫌だった。
 ここは壁こそ白なものの床は古びたグリーン色をしていて私は何か普通の世界へ戻った気がしていた。
 それでもその静かさを気にしながらそっと歩き出す。向かうはエレベーターを降りてすぐ前の道、ずっと向こうに緑のライトが見えたのだ。
 キュッキュッキュッ……。
 自分の靴がちょっとゴム上の床にこすれる音があたりに響く、私はだんだん怖くなってきた。
 おばあちゃん、もうあの部屋出たかな?
 だとしたら早いところ一階かあの部屋の前へ戻らないといけない。でも…………………。
 非常灯の側まで来て私は振り返る、エレベーターの辺り、其処は蛍光灯が一際少なくちょっと薄暗かった。またあそこへ戻る気には慣れない。また先ほど消えたものが、もたもたと私の中で起きあがってくるのを感じる。
 変だ。今更ながら私はここのフロアの異常さに気が付いた。
 静かすぎるこの階はまったく人の気配がしない。大人な言い方をすれば生活感がないのだ。まったく異質なものの世界。作りこそ普段見ている人間の建物でありながらもまるで別世界のような気がする。
 でもそれがどんな別世界なのか、それがその時の私に分かるはずもなかったのだ。
 私は近くのドアのノブを引っ張る、だがそこは鍵がかかっていたらしく全然開かない。しかたなく私は先へと進んだ。
 いよいよ心の中の影はその色を一層濃く、体中に拡散してゆく。
「嫌…」
 呟いてみても誰もいない。いつも私の側にいるあの人もいない。私は長い廊下に独りぼっち。
「誰か……」
 誰かいませんか?そう言おうとして私はすぐに口をつぐんだ。
 幽霊。そう、こんなシーンでそんなことを呟いたら幽霊が出てくる。前に学校でやった肝試し大会で校長先生がした話を不意に思い出してしまう。嫌だ。こんなこと今思い出したくなかったのに。
 だが私の意志に反して想像はその幅を一層広げリアリティをさらに増大させる。
 幽霊、「死んだ」人が出てくること。それは今のこの場所に相応しく思えた。
 …………………。
 キュッキュッキュッ……。
 しばらく私の足音だけが廊下に響く。これだけ歩き続けているのに階段はまだ見えない、せめてここが何階かだけでも知りたいのにその表示すら書かれてはいない。しばらくそんな緊張が続き、私は十字路にぶつかった。
 右、暗い。まったく蛍光灯もついてなく向こうが見えない。
 前、いままでと同じようにまだ明るい廊下が奥へと続いている。
 そして左、そう私がそちらを向こうとしたときだった。
………………。
 聞こえた。確かに今、泣き声が聞こえた。
 私の体に何かが走り、硬直してそちらを向くことができなかった。
「……………うっ、…………………えぐっ………………」
 泣き声はさらに大きくなる。
 どうなるのだろう?幽霊に見つかるとどうなるのだろう。食べられる?大きく口をあんぐりと開けて、食卓の魚のように骨までバリバリと?それとも愚痴を聞かされる?生きていた時の話なんかをそれこそおばあちゃんのように……。どれも幽霊のイメージじゃない。
「うっうっ…………………」
 幽霊、ただ訳もなく怖いその存在。生きることに終着を持ちつつ死んだその魂。でも私のイメージの幽霊と、その泣き声にはちょっと違いがあった。
 幽霊の声は慟哭。身を引き裂くような悲しみに、哀の言葉にさいなまれ、人が紡ぐ苦悶の呪文。だが、その泣き声はまるで、子供だった。
「うっ………み………………うっ…………………」
 悲しむ傍ら誰かに助けてもらいたい。誰かに気付いてもらいたい。本人にその意志はなくとも、とにかくこの悲しみを誰かに解ってもらいたいような、そんな嘆きを私は感じていた。
 呪縛から解けたように私の首が左にすっと動いた。
「…………………うっ…………………」
 ポツポツと灯る蛍光灯が向こうに向かって伸び、そのさほど遠くない先に半開きの銀色の扉がある。そしてその扉と私のちょうど中間あたりに、その泣き声の主と思われる小さな背中が床に縮こまっていた。
 私は少しためらったが、決意してそろそろと、なるべく足音を立てないようにして近づく。彼、と思われる私と同じぐらいの子供は、まだ私には気が付いていないようだ。
 泣いていて振り向いたら、ばぁ。そんなお約束なシュチュエーションを想像して、あと少しの所で私は足を止めてしまう。とたんキュッ、という音が薄暗い廊下に響きわたる。
 だがびっくりしたのは私よりも彼の方だった。彼はパッと顔を上げると慌てたようにして私の方を振り向く。驚愕に見開かれたまん丸い目と私の目がピタリと合った。
「…………………」
「…………………」
 お互いなにも喋らない、いやしゃべれないのだ。少なくとも私はそうだった。
 思っていたより幼い顔立ちの少年がすっと立ち上がる。視線が一瞬それたものの、また向き直って私とピタリと目が合う。
「…………………」
「………………あの…」
 何をやっているんだろう?滑稽さに気が付いたのは私が先だった。
「何やってるの?」
「…………………」
 少年は何も答えない。それなら、と私は質問を変えてみることにした。
「……どうしてないてるの?」
「…………………か………」
 今度は答えてくれたようだ。
「か?」
「悲しいことがあったんだ」
 …………あたりまえだ。
「…………………」
「…………………」
 そしてまた二人の間に沈黙が訪れた。
 その間私は彼を観察する。背丈は同じ、顔立ちは幼く、目はどことなくぼんやりとしている。そして格好は…………………、いやよそう。だぼたぼのスーツを着た子供なんて、言ったところで信じてもらえないだろうから。
 だが少年は本当にそんな格好をしていたのだ。この埃の積もった廊下で座り込んでいたせいでスーツはよれよれで埃まみれになっている。口元にマジックで書いたそれは髭のつもりだろうか?くびれた道化師。そんな言葉がぴったりくるかもしれない。
「あの聞きたいんだけど」
 私はまた口を開いた。今度はさっきよりもまだ自然にいける。少年の姿に心が和んだのかもしれない。
 少年が顔を上げる。何?と顔がきいている気がしたので私は言葉を進めた。
「あなたって幽霊?」
 その問いに少年はしばらく戸惑った表情をも見せていたが、やがて口を開いた。
「違う、と思う」
 どこまでも変な幽霊だった。

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 注、このSSにでてくる患者さんはあくまでもフィクションの中の、また病院内の一部の人たちです。
伏線はりにいくらか一部分を誇張して表現してますので、実際の患者さん達とはまったく関係ありません。
また実際の病院と多少異なる描写もあります。
−−−−−−−++++++++++−−−−−−−−−−−−−
と、断っておいて。
 なんか久々の投稿です。んでなんかさらに久々にほのぼの☆系以外のです。
 あと1,2で終わる感じです。
 わけわかんない描写ですいません(汗)
 あと文省力のなさについては勘弁して下さい(^^;

>むっちゃ少ないですが感想です

>緊急募集!なぜなにONE猫スペシャル!
>ニュー偽善者Rさん
おおっ!座敷童澪っ!!!
いいですねぇ、かわいいですねぇ☆ おまけに絡めるとはまさにSS私情発っ!
じゃなくて至上初!
もしかしたらエントリーするかもしれません(^^)

>君の名は?『それは特別な』
>よもすえさん
 詩子に抱きっ…………………
俺もやりてえぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!!!!!!!
はあはあ……、いかんつい本音が(テンション高め)
面白かったです。詩子と澪と先輩の対話がいい雰囲気です。

>激突!! 第二章 (第二話)
>変身動物ポン太さん
 ヨーヨー片手に来るまでヘリを追跡する彼女。
いいですね(笑)
あと首を90度傾けながら対話する辺りも(笑笑)

>恐怖の牛乳
>えいりさん
恐怖だ。まさしく恐怖だ(笑)
弁当に牛乳ご飯。考えたくないですね…………………(^^;
ミルク鉄火丼なんてのもおもわず考えてしまいました(爆)

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