青空の重さ(1) 投稿者: WILYOU
 チンッという音を立てて、私の目の前の大きな鉄の扉が開いた。
「ほら、ここで降りるわよ」
 まだ小さかった私の手をおばあちゃんがぐいっと私をエレベータから引っ張り出す。
 とたんつんっ、と鼻を突く消毒薬の匂い。広い廊下、両側にドアの並んだ向こうに何処までも続く廊下。白を基調として作られたそこは窓があまりなくてもそれほど暗くはなかった。
「ほら、いくわよ」
 おばあちゃんはぼんやりとそれらを見つめている私の手を掴むとさっさと歩き出すので、私もそれに従う。まったく始めてみる空間の中、私はそこが自分が家を出る前に思い描いていた場所であることに気が付いた。
 「病院」。ナースキャップを付けたあこがれの看護婦さんが働く場所、本でよんだナイチンゲールが生涯よりどころとしていた所。そう、そこは私にとって憧れの場所のはすだった。
 おばあちゃんはつかつかと廊下を私を引っ張るような形で歩いてゆく、私は彼女との大人との歩調の格差を埋めるためにも一生懸命小走りしていた。
 横を通り過ぎる看護婦さん、点滴を片手に廊下を彷徨く病院至急のパジャマを着たおじいさん、私は目を疑った。何故なら彼らは私が本で読んだような表情とは似てもにつかなかったから。消毒薬の匂いはやがて消えたが、わたしにはまだそこいらにまだ体に慣れない空気が漂っていることを肌で感じていた。
 白い廊下に白い建物、照明も十分に明るいはずなのに何故か私はあのお寺や神社、茶室などで感じるあの不可解な影への恐怖を感じずにはいられなかった。白い、どこまでも白い建物。でももしそこを誰かが汚したら、誰かがそこに影を落としたら、完全な白を失ったその壁を起点に、瞬く間にこの建物全体を黒い影が蝕む。そんな気がして私は肩を思わず震わせた。
 子供の背から見る大人は大変大きく威圧的だ。今のようにさっさと社交辞令的なお見舞いをすませたいとせかす三角眼鏡のおばあちゃんの顔はそれを差し引いてもきつかった。
 私は何も言えずに視線を下げてゆっくりと後ろへ流れる両側のドアを観察していく。私が思い描いていた病院とこのお寺の1歩手前のような四角い建物。本で読んだ「赤い靴を履いた女の子」の姿と自の姿がダブる。ああ運が悪い、今日は普通の靴をお母さんに選択してもらっているからあろうことかこの赤い靴を履いて来ていたりするのだ。
「ついたわ、まってなさい」
 突然前へ進もうとする私の手をあっさりと離しておばあちゃんが立ち止まった。すぐ前のドアのノブを掴み、ドアを押し開いて一礼し、中へと入ろうとする。
「待って!」
 思わずそんな声が出た。影が、ここにいたら影の奴が来る。そんな警告が頭の中で大きく響く。
 おばあちゃんが部屋の中へ向けた笑顔をすっと消してこちらに振り向く。
「別にいいけど静かにしてなさいよ」
 手を差し出してもらえなかったので、私は彼女にぴったりとくっつくような形でその部屋の中へと入っていった。


「おや可愛い子をお連れでないかい」
 病室に入ったとたん、私たちを出迎えたのはしわがれたその声だった。
「まったく。ついて来るって言うもんだから、すいませんね、うるさくならんよう早めに外に出しますから」
 おばあちゃんが大きな声でそう入り口付近のあたまの毛のないおじいさんに答えた。
 ベットは全部で6つあった。入り口から2台ずつ向こうの窓へ向かって並べられていて、ベットの住人は入り口付近に一人、向こうのカーテンのかかったベットだけわからないが3人はいた。
 中は窓からさす光で暖かみのある光で溢れて、私は体を縛っていた力が解けてゆくのを感じていた。 
 そして私はおばあちゃんに寄り添ったまま、一番奥のそのカーテンのかかったベットの側へと寄る。中に静かに寝そべっていた今回の見舞いの相手らしき一人のおじいさんの枕もとへ行くと、近くの椅子に座って早口でしゃべりだすおばあちゃんとその人との話をじっと聞いていた。
「おとなしい子やね」
 その時は気が付かなかったが、たぶんずっと黙っている私に気を使ったのだろう。不意にゆっくりとそのおじいさんが私関係の話題をふってきた。
「そんななことないわよ、この間も子供同士でつるんで………」
 おばあちゃんは勢い良く私のこれのでにしてきた悪事を誇張して喋るが、私はそんなことよりも私に向けられた彼の目が気になった。
 影。そう、その優しげな瞳の奥に私は影を感じた。
 駄目。そんな目をしていちゃ駄目。今は日が射していても、陽の光がシーツを白く輝かせても、夜が来ればこんな壁に塗られた安っぽい白なんて無意味。闇の洪水にこんな建物なんてあっというまにのまれ、この建物に濃い影が落ちる。影は体を蝕み、こんな目をした人の命をいったいいくつ奪っていくのだろうか?
 最近よく聞く「死」という言葉。漠然としたイメージだけが影の形を取って頭の中を埋め尽くす。
「おいで」
 おじいさんがこちらに手を差しのべてきた。私が立って寝そべったままの彼の枕元に寄ると、彼はゆっくりと私の長い髪を撫でてきた。子供の私ぐらいに細い腕がパジャマの端から姿を覗かせる。弱々しい手つきだが、その仕草はその人の目のようにとても優しかった。
 おばあちゃんもその機関銃のような口をピタリと止めてそれらの一連の動きを眺めている。私は黙って彼の行動に従った。なにか口出しできない、そんな空気があたりに流れていることは私でも分かった。
「そういえば……」
 突然なにかを思い出したかのようなリアクションを付けておじいさんがおばはちゃんに向き直ると、おばあちゃんはさきほどのような調子で口をせわしく動かし始め、その奇妙な空間は崩れた。
 なんだったんだろう……優しい目、優しい仕草。
 その真意がはかれず、また決して分からないわけでもなく、私は不意に切なくなる。
 おじいさんはまだ私の髪を撫でてくれていたが、私は申し訳なさそうにその腕をそっと外すと、おばあちゃんに「じゃ、一階に先いってる」とだけ伝えて返事も待たずに外へと歩き出した。
 走らず慌てず、いつもおばあちゃんがしているようにベッドに寝ているおじいさんたちに軽く礼を返しながらドアへと向かう。その時に見る患者さん達の子供のような笑顔。それはおばあちゃんがいつも浮かべる笑顔というよりは子供の笑顔に近く、そしてもっともそれより遠かった。
 嫌だった。とにかくそこから出たかった。
 影、ここはどこも影で溢れている。その中にいて子供のように笑うおじいさん達が私は切なかった。
 ドアを開けて静かにしめると私は来た道をまっすぐ戻る。最初は早足だったが、次に気が付いたときにはには駆けていた。
 白い壁の向こうに影が来ている。この建物の白は影をたっぷりと含んでいるのだ。そしてそれはもうすぐ建物を押しつぶす。いちゃいけない。ここにはいちゃいけない。私はそんなのには捕らわれたくない。
 実際はそれほどの距離はなくても子供の足では結構かかる。私はやっとのことで鉄の扉の前に来ると、背伸びして三角矢印のボタンを押した。
 …………………まだ。まだ開かない。
 上に点灯する数字はここの階に近づいたかのように見えてすんなり通り過ぎていった。
 その時、とうとう影がやってきた。私の後ろ、いま走ってきた廊下の果てから黒い影が壁、天井、床を闇で染めながら急速に近づいてくる!
 恐れていたものがとうとうやってきたのだ。怖くて後ろは見れない。私はまたも背伸びして三角矢印を上向きのも押した後、二つのボタンを一生懸命押した。
「開いて、お願い開いて!」
 私はドアを両手で開けようとするがびくともしない。
 闇が来る。音のない音を大きく轟かせながら、津波のように向こうから押し寄せてくる。
 怖い。その言葉が頭の中でこだまし、跳ね返る度に強いゆさぶりを心にかける。震えはすぐに全身に広がり、恐れによる寒さが体の至る所の骨を冷やす。
 とうとう闇は私のすぐ後ろまで来た。とたん大きく膨れ上がる闇、そして目の前のドアがスッと開いたのはほぼ同時だった。
 私は転げるように駆け乗ると、目をギュッと瞑ってボタンのありそうな場所を探り、やがてパネルに指が触れると近くにあったボタンを強くバンッと平手打ちする。そうして私を乗せた小さな部屋は、下へ下へと下がっていった。
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いきなりONEと関係なくてすいません(汗)
一応一人称の彼女もONEのキャラなんですが、ここまででは誰かわかんなかったりします(T T)
さらあぁぁぁにっ、訳わかんない内容ですいません。
おばあちゃんとかはあくまで伏線ですので気にしないで下さいね(汗)
でも「病院」なONESSっていったら大抵予測がつく内容かもしれません(笑)
後,2,3で終わる予定です。

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>私的連絡
 えっとここのSSを読まれている方で、「これまでに読んだ中でよかったSS」というのを是非うちのHPで推薦、というか投票してもらえないでしょうか?
 特にポイントを競い合うものではなく、推薦のあったものをMM(メールマガジン)で作者の許可を得た上で発行する、という企画を只今やってるんです。
 匿名などなども可ですので、よろしければお願いします。
ジャンルは「シリアス」といってますが、一般にじ〜ん、と来る奴です。
URLは下のと、
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/mm1.htm
です。

>感想なくてすいません(汗)

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/mm1.htm