繭ロボ3【1】 投稿者: WILYOU
1部
パッ
一瞬後には別の所におれたちはいた。
大きくそびえ立つビル群、夜の闇に照らされたそれは身の毛もよだつような不気味さを感じさせ、それをなめ回すように這うサーチライトがそれに輪をかける。パトカーや報道陣の車はすでにオレのすぐ横にそびえる都庁の周りを大きく囲み、赤と白の光で地面は覆い尽くされていた。
そしてどうしてオレがそんな様子が分かるかと言えば、理由は簡単、俺達はその遥か上空、都庁のてっぺんより少し高い位置ににいるのである。
まあ「いる」、というよりは「落ちている」、といった方が正解かもしれないが。
「のおあぁぁぁぁっっっっっっっっっっっ!!!!!!!茜っ!」
ゴウゴウとうなる風の中で、オレはすぐ側をスカートを必死に押さえながら降下している茜に呼びかける。
茜はスカートの事以外特に慌てた様子もなく、ただ下を見つめているだけだったが、オレの声が聞こえたのか、ちらっとこっちを見たと思うと、さらにその横の郁美さんに何かを叫ぶ。
ぐんっ!!!!!
体にかかる重い浮遊感、今まで下から吹き付けていた風が次第に弱まり、やがて横風となって行く。
「助かったぜ・・・・・」
なんとか風の影響もなくなり、それでも多少大声にはなるものの、オレは郁美さんに呼びかけた。おそらくこの力は郁美さんの不可視の力という奴だろう。その証拠に、彼女はどういたしまして、といった感じでこちらにクールな笑いを返してくる。
「さて、これからどうするかだが・・・」
とりあえず中には入りたい、普通の普段着ではこの夜の空はあまりに寒かった。しかし、ビルはマジックミラーで覆われ(そういうことにしておきます)、まさか高層ビルに窓などはついていないだろう(と思う)。
「さて、どうして中に入ったものか・・・」
「あら、簡単よ」
オレが空中で腕組みしていると、軽い返事が向こうから帰ってくる。
シュウゥゥゥゥゥゥッッッッッッッッツ!!!!!!・・・ドウッ!!
何かが収束する音と、何かを撃ち放つ音。その証拠にオレがそっちを向くと、少し下の方で郁美さんが放った光の玉が、都庁のガラス窓へと吸い込まれていくのが見えた。
そして轟音と赤い炎を思いっきりまき散らして、それは爆発する。
その音が余りにも大きくて、鼓膜が痺れたように、音がしばらく聞き取れない状況だったが、下の方では今頃てんやわんやの大騒ぎになっていることだけは簡単に予想がついた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、またも放心しているオレを、彼女たちがその大きく開いた穴へと引っ張り込んでいったのだった。
最近、アバウトだね郁美さん☆





入ったところは無人のオフィスだった。真っ暗なその中を郁美さんの掲げる光球の灯りだけでゆっくりと進み、ふわっとカーペットの上に降り立つと、俺達は廊下へと出る。
さすがに電気はつけられない。別に警察などを気にしている訳ではなく、むしろ付けてみたいとオレの中の悪戯の虫が騒ぐが、住井の作った繭ロボ3。どのような力を秘めているかも分からないまま、無駄な行動をとって刺激することは得策ではないだろうからだ。
「そういえば、その繭ロボに関する情報はどうなったんだ?」
後で教えてもらえるはずだったが、さっきの郁美さんの激しいつっこみですでにそれを教えることのできる人物はこの世にいないかもしれないのだ。
まあ、あいつの場合絶対ないとは思うが。
「これを」
茜が横から小さな液晶画面のついたミニTVの様なモノを渡してきた。
オレが手に取るとそれが勝手にブウウンッと音を立てて起動し、画面がピッとついて住井の顔が現れた。
《折原、オレが万に九千。誰かからのつっこみを受けて立ち上がれなくなったときのために、これを残しておく》
「・・・・・・・・・」
友よ。そこまで予測できていながら、何故対抗策というか防御を考えない・・・。
《そう、お前にはこんな用事を押しつけてしまって悪いと思っている》
めちゃくちゃ嘘である。
《こんなことになってしまったことへの原因はもはや語るまい、大切なのはこれからだ。繭ロボはオレがこの間開発したマルチと同じ様な1/1スケールのロボットで、頭の中はほぼ繭と同じと考えていいが、居間は錯乱状態にある。で、これが繭ロボのスペックだが・・》
ピッという電子音と共に、画面に数字と文字がたくさん現れる。
《正式名称 LMAYU3(ラヴ繭3)
重量、繭の3倍 タッパ、繭と同じ 3サイズ、繭と同じ 
制作者コメント
・愛は無限の可能性を生む》
「・・・・・・・・・・・・・・・」
《そして気になる特殊能力についてだが・・・》
と、その時。この廊下の奥にあると思われるエレベーターがチンッと鳴り、ドアが開く音がした。
そう、誰かがこの階にやってきたのだ。
辺りの空気が一気に引き締まる。オレと茜、郁美さんはサッとそちらに向けて構えを取るが、相手はすぐに出てくる様子はないようだった。
「何・・、繭ロボなの?」
「この都庁内で「彼女」以外に動いている人間はいないはずです」
辺りの緊張が高まる中、住井の無神経な声が辺りに響く。
《素早さは七瀬さん並、加速装置が両足についていて、繭の走りをまねながらも、お前と同等に走ることができる・・》
静かな暗い廊下に響きわたる住井の声、絶対に相手もこちらに気がついているはずだ。
「来たっ!」
郁美さんの叫びと共に、闇の中で「何か」が動く、その影は素早くこちらへ向かって走ってきた!
郁美さんが不可視の力で「何か」の足下を弱めに狙うが、どうやら当たらなかったらしく、影はタッタッと走ってくる。
「どうするんだ、茜!」
「まだこちらの準備ができていません、逃げましょう」
そう言うが早いか身を翻して逃げに入る二人と、それに遅れた形で慌てて走るオレ。
そんななか、肩脇に抱えた機械から流れる住井の落ち着いた声が妙に気に障った。
《で、腹部には人間の50倍の性能を持つ胃を搭載、食べ物からエネルギーを取るわけだが、一番効果のある食べ物はお前の想像する通りだ・・・》
「んなこた、どうでもいいんだよっ!」
とりあえずオレは全力疾走しているが、なかなかその差は開かないらしく、足音のみが変わらぬ音で後ろからついてきている。真っ暗な廊下で闇の中から迫る何かから逃げる男女。ありきたりなシチュエーションだが、実際にやってみるとかなり怖いモノがある。
一方茜の方はというと、郁美さんが担ぎ上げて廊下の中を飛行していた。
・・・・・・・・・ずるいってば・・・・・・・・。
《で、腕には移動用のワイヤーを、そして最後に頭部だが・・》
そして遥か彼方まで逃げた茜と郁美さんが、エレベーターの前で立ち止まった。
「急いで!」
そしてそう叫ぶ郁美さんの後ろで、来たエレベーターがシャッとそのドアを開ける。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!!!!」
オレは残り300メーターにラストスパートをかける。
《片目から出るビームはほぼ無敵だから気を付けろよ。じゃな☆》

「みゅ〜」
ピー・・・・・・・・・・・。

何故か住井の声とタイミングを合わせたかのように、オレのすぐ横を走っている黄色い光の束。しかし幸運なことにそれはオレからはそれていて、ちょうど横の窓をすり抜け、外へと向かっていた。
ドオオオゥゥゥゥゥゥッッッッッッンンン!!!!!!!!!!
横のガラス窓から見える景色は、隣のビルがビームの直撃を受けて一部燃え上がっているのを鮮明に写しだしていた。
「・・・・・・・・・・・」
《PS なお、このミニビデオは、コメント終了時にばくは・つ・・》
さらに追い打ちをかけるように突然の宣告。
「まじかよおおぉぉぅっっっっ!!!!!!!!!」
オレは最後までそれを聞くこともなく後ろへ向かって放り投げる!
そしてその直後に起こる大きな爆発。
ドウッ!
その爆風に背中を強く押される形で、オレは足をもつらして前へと倒れ込む、が、そこはすでにエレベーターの中だった。
「茜閉めて!」
いや、正確にはそこはすでにエレベーターの突き当たりの壁だったと言ってもいいだろう、オレは両方の穴から迸る、真っ赤な鼻血の痕跡を二本の筋としてそこに残しながらも、下に崩れ落ちた。
「汚いです」
気にせんといてや・・。
「来たっ!」
だがそうくたばっていてもいられない、郁美さんの言葉に反応してオレが後ろを振り返ると、そこには煙をかき分けてこちらへと進んでくる繭ロボの姿があった。
「やばいぞっ!」
が、しかし。ロボがこちらへと飛び込んでこようとした時、エレベータの扉が一瞬早く閉まる。
ガコンッ!と響く、繭ロボがドアに激突する音。
そしてエレベーターは静かに上へと登っていった。
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はぅ、前回
「今度は長いのは書かない!」
とか言っておきながら、たぶんもうしばらく続きます(汗)


>チェンジ終章
七瀬がもとのからだに戻るエピソード(などなど)が抜けてたぁっ(爆)
わけわかんなかった人ごめんなさい(^^;

後、感想を下さった方ありがとうございました☆

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1435/