チェンジ!4.5.6【4章】 投稿者: WILYOU
第4章 〜愛のままに、欲望のままに〜

タンッタンッタンッ
東階段を3段飛ばしで一階まで駆け下りていくと、トランシーバーを持った繭がそこにスタンバイしていた。
「様子は?」
「まだ何も変わってないわ」
そして彼女はいつもの繭らしからぬ調子で返事を返してくる。
「う〜ん、おかしいな。時間的にはそろそろ……」
そう俺が呟いたときだった。東側の廊下の向こうの方から、七瀬(中身は繭)が慌てて「みゅ〜(猫ピーが来た)」と駆けてきたのだ。
「よしっ、来たぞ。準備はいいか?」
「いつでもオッケーよ」
繭が手に捕獲網を構える。
「みゅぅっ!」
そして駆け寄ってきた七瀬が俺の胸に飛び込んできた。当然のごとく俺の胸に押し当てられる二つの柔らかな感触。
「お〜、いい子だな繭。ついでにほっぺにチュッ☆でもしてくれるとおにーさんもっと喜んじゃうな〜」
「あああっ、なに親父みたいなことやってんのよ馬鹿!」
同時に威力重視のパンチを2発ほど喰らう。
「ててっ・・・、ふっ、これだよこれ☆」
「やっぱりMじゃないんですか?」
どこからか茜の声が聞こえた気がしたが、俺は無視をしておいた。
そして繭(七瀬)が七瀬を(繭)を引き剥がしたその時、廊下の向こうから大きな猫が一匹、二足歩行で駆けてくるのが見えた。
「よし隠れろ!いいか、できるならその場で捕獲、できなかったら俺達のクラス(罠が仕掛けてあるところ)へ誘導するぞ」
俺達は近くの無人の保健室に隠れ、ドアを半開きにして状況を伺う。だんだん近づいてくるペタペタという足音、俺がドアの端から顔を出して廊下の方を伺うと、確かに猫の着ぐるみがこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
が、しかし………。
「ふぅっ」
俺は頭を押さえながら中に頭を引っ込めると、保険室内の壁にもたれかかって気分が悪そうにため息をつく。
「どうしたの?」
そう七瀬が心配そうな顔をこちらに向けたときだった。。
『だよもん、だよもん、だよもん、だよもん!』
そんなかけ声とともに、きっちりそろった足音が、ダダダダダッと聞こえる。
「えっ、なに!?」
七瀬が驚いてドアに駆け寄り、隙間をもう少し、だいたい半分ぐらいにまで開いた辺りのことだった。
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!」
そう叫びながら爆走してゆく猫の着ぐるみ野郎と、
『だよもん、だよもん、だよもん、だよもん!』
そう高らかにかけ声を掛け合いながらみんなで爆走する生徒達30人ぐらいがそのドアの開いたところからはっきりと見えた。

パシッ

ドアを思いっきり開くと七瀬は外へ出てゆき、仁王立ちになってそれらが駆けていった方を向いて叫ぶ。
「何なのよあんたらあぁっ!!!!!」
そして後を追った俺(立ち直った)が静かにその肩にポンッと手をおく。
「ははっ、言っただろ。さっき説明した『ちょっと計算外かもしれない長森コピー』だ」
そして廊下の西側の奥へ目をやると、何故か廊下の真ん中で放心していた髭がそいつらにフミフミされているところだった。
そして後にはぼろ雑巾と化した担任教師が転がる。
「あれでちょっと?『長森のごとく優しげな美声で猫ピ〜を陶酔させる』って説明していたのはなんだったのよ!」
「なんでも長森の人格というよりは、長森の欲望が全面に押し出されている感じだよな」
「ああっ、あんたの言うことを信じた私が馬鹿だったわ・・・」
七瀬は頭を抱える。
「まあそういうな、とりあえず『誘導』という目的は達せられそうだ」
そう、全ては結果オッケー。猫ピ〜こと猫の着ぐるみ野郎は、慌てたようにして廊下の向こうの西側階段の方へと駆け上がっていった。
「ほら、ちゃんと俺達のクラスの方へ向かってるし。人間危機におちいると安全だと思っている場所に逃げ込むっていう習性があるからな」
「作戦もなにもないわね……ここまでくると………」
しかし、俺が七瀬の呟いた言葉をシカトしたときだった。
「ふみやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!」
そう掠れかけた絶叫を廊下に轟かせながら、西側階段の方から猫ぴ〜が戻ってきて、そのまま廊下の奥へと4つんばいで走っていってしまった。
そしてそれに一瞬遅れた形で『長森コピーこと、だよもん星人』の別のグループが階段の方から出てきて、さっきのグループと合流して後を追ってゆく。
「……………」
そしてさらに、猫ピーの走っていった廊下の奥の方にももう一グループ現れたのだろう、猫ピーはもはや声にもなっていない叫び声を上げたかと思うと、ガチャン!と窓ガラスを割り、外へと走っていってしまった。
当然その後を、あちこちの窓から出て追ってゆく『だよもん星人』ご一行様。
・・・・・・・・・
え〜っと・・・。
「増やしすぎましたね」
半ば放心しかけていた俺の横に、茜がいつのまにやら立っていた。



「あんたいったい何人作ったのよ!!」
ここは校庭、中心にあるでっかいトラックの周りをいつまでも追いかけっこしている猫ピーと、もはや正確な人数の掴めない『だよもん星人』とかした生徒達。ぱっと見た目400人はいるような気がするが。
「え〜っと、全校放送で『だよもん』(他人に長森の基本的な人格を移植するキーワード)を呼びかけたから……」
「この一クラス30人、一学年で6クラス以上はありましたね」
すぐ横の茜が静かにいう。ここは校庭の隅、彼らの追いかけっこが一目で見渡せる位置である。メンバーは俺、繭(七瀬)、茜、そして七瀬(繭)って、あれ?いない。
「みゅ〜」
だよもん達の中からそんな声を聞き、俺は無視して話を進めた。
「えっと、ていうことは30*6だから180人か」
「それだけじゃないでしょ、三学年あるんだから180*3で540」
しっかし繭の口からはとうてい出るはずもない素早い計算結果である。
「……………なんか多いな」
「安直な作戦そのものにすでに無理がありましたね」
「それよりどうするのよ、これ」
そう七瀬が指さす先には、トラックの周りをいつまでも追いかけっこしている生徒らの姿があった。
ハイスピードで追いかけているにもかかわらず、顔にはにこやかに笑みをたたえ、スキップ調子で足は地に着いていなく、掛け声はおきまりの台詞である。
「あ、澪」
俺はその中に後輩の姿を見つける。口のきけない彼女は走りながらなにか紙の束をもっていて、それをビラのようにばらまいていた。
そして風に吹かれてこちらまで飛んできた一枚のビラを、俺ははっしと掴む。
『なのもん、なのもん☆』
………………………。
「怪しすぎるわあぁぁぁぁぁっ!!!」
俺はたまらずに叫んだ。
「某「心に届くAVG」、の宗教団体並にいい味だしてるわ」
「すでに非日常と化してますね」

ピシッ

その言葉に何故か表情を凍らせる七瀬。。
「どうした?」
「『こんなにも異常な世界なのに自分はまだ日常と感じていられるのは何故?』、あなたは今そう感じてますね」
なるほど。
「つまり『慣れ』ってこと。あきらめろ七瀬、お前はそこまで墜ちたんだ」
そして俺も軽く追い打ちをかけてやると、相当こたえたのか、そして七瀬はそれからしばらく沈んでいた。
「まあ。非日常どうこうはともかく、なんとかしないとまずいわな、こりゃ」
そして俺はグラウンドの方に目をやる。


「助けてくれええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!」
との住井の叫びと、だよもん達の
『DYOMON!さあ立ち上がれ〜DYOMON!もうまようことはないんだ・か・ら〜☆(西条秀樹さんのヤングメンより曲を抜粋)』。


「テーマソングまで作ってますね」
「・・ああ」


そして先頭の南が妙にうまい発音で「D?」と叫ぶと
『D!』と全員で答える。(ポーズ付き)
そしてその調子で、
「Y?」『Y!』「M?」『M!』「N?」『N!』
『D・Y・M・N〜!!!』


「ああっ!なんなの、このやたらさわやかで怪しいノリはっ!!!」
「・・・・しかたない、俺がなんとかしよう」
このままだと本当に近所の人に通報されかねないので、俺は立ち上がり、生徒手帳のとある一ページを破くと、根性で生徒達の輪の中に潜り込んで南にそれを渡す。
「は〜っ、疲れた〜」
「何を渡したの?」
俺が七瀬達の所まで戻ってくると、七瀬がさっそく聞いてきた。
「まあみてなって、そろそろ始まるから」
そしてグランドの方に目をやると、生徒達が互いに何かを伝え会っている。そしてしばらくして後ろの奴が手を上げると、先頭の南が歌い出した。
「曲はクリスマスソング(すいませんネタ借用しました)、「真っ赤なお鼻のトナカイさんは〜☆」という奴である。


「乙女希望の ナナピ〜ちゃんは〜☆」
『陰険な女の 狙われ獲物〜☆』
「でもその年の クリスマスの日〜☆」
『キレイなお兄さんは 言いました〜☆』
『小遣い前の 週末は〜☆  お前の服が 訳にたつのさ☆』


「喜ばんわぁぁぁぁっ!!!!!」
メリッと七瀬からのやたら痛いつっこみが頬に入る。
しまった・・授業中暇つぶしに作っていた方のを渡してしまった・・・。
「ま、まて間違えただけだ!」
「作ってた事実だけで十分よ!!」
そして思いっきり怒鳴られながらも、俺は正しい方の歌詞を南に伝えにゆく。
そして先頭の南がさっきと同じ要領で伝えていき、一番後ろの奴が手を上げると、南が全員に何かを叫ぶ。
シャッ
気持ちのいい音を立てながら、全員がマラカスをどこかからか取り出し、両手に握る。
そして南はそれを左右に振りながら歌い出した。


「カルシムとりませ真っ白な乳で〜☆」
『ホンマかいなそ〜かいな☆ ハイ!』
「牛乳かけませご飯の上に〜☆」
『ホンキかいなそ〜かいな☆ヘイ!』
「・・、それではみ・な・さ・ま☆」
『さ〜よ、お、な、ら☆』
ジャン(誰かのギターの音)
そして最初に戻る。
   (引っ越しのサカイのCMより、「勉強しまっセ〜☆」って奴です)


「食欲無くすわあぁぁぁぁっ!!!!」
「気持ち悪いです」
いや、あのワッフルよりはかわいいと思うぞ茜。
「う〜ん、長森にマッチしていると思ったんだが・・」
「マッチしてませんし、もっと嫌になりましたね」
「それ以前になんで歌うのをやめさせないのよ」
「そうか、その手があったか」
いつも斬新さを追い求めていると、つい普通の手段というのが頭に入らなくなってくるようだ。
「それにこんなことやってる場合じゃないでしょ」
七瀬の指さす方向には、へとへととなって今にも倒れそうな猫ピーの姿があった。
「まずいなこのままだと熱狂的なだよもん達にコロされかねん」
「その方が日本の為になるような気もするけど、解毒法とか聞かなきゃなんないしね」
「とりあえず彼らを猫ピーから遠ざけよう」
そうして俺は繭(外観は七瀬)を呼ぶ。
とてとてとこっちに来る七瀬。
「どうするのよ?」
「ふっふっふっ、これだ!」
そうして俺は猫耳付きカチューシャを取り出す。
「みゅっ!」
それを見た繭の目が輝く。
「どうした椎名、付けて欲しいのか?」
こくこく
「そうか、そうか」
俺はそれを七瀬(中身は繭)の頭に付けてやる。
「まさかあんた繭をおとりにする気?」
「おおっ、奥さんその通り!」

メリッ

口の中、血の味がするんですけど。
「阿呆っ!この外道がっ!」
「まっ、まて、人の話を聞け。だいたい体は七瀬なんだからそう簡単にはこわれない」
「………何か複雑な所があるけど、確かにその通りね」
「だろ?それに中身は繭でも体は七瀬だから絶対に追いつかれることはないっ!この体に秘められた筋力は決して男どもにひけはとらないと俺は信じている」
「…お願い、断言しないで……」
突然嘆き出しながらも、決して否定はしようとしない七瀬。
そして俺は七瀬を無視して続ける。
「よ〜し、そいじゃ繭。今度はあいつらと競争だ。いいな、絶対に負けるんじゃ無いぞ」
「うん☆」
そして俺が七瀬(中身繭)の背中をポンッと叩いてやると、繭は元気良くグラウンドの中心の方へ走り出していく。猫娘と化した七瀬(中身繭)、これで猫好きなあの連中達をそちらに引きつけることができるはずだ。
「これで多少はなんとかなるだろ」
「しっかしあんたよくあんなのもってたわね」
「ああ、あれか?あれは長森が前に買ったはいいが、恥ずかしくて室内専用にしていたモノを持ってきたんだ」
と、その時だった。
「また売るつもりだったんで・・」
「あぁっ、ここでそれをいうな茜!」
しかし遅かった。
「へぇ『また』ねぇ」
少しの沈黙の後、後ろの方で何かが燃え上がるような音が聞こえる。
「何故か最近わたしの持ち物が、『汗、匂いしみ込み保証』付きでクラス内に出回っていたのが不思議だったんだけどぉ・・」
肩にポンッと手を置かれて、俺はついビクッと身をすくませる。
「いいわけなら聞いて上げるわよ。犯人さん」
「・・実力行使でつっこむなんてありきたりだぞナナピー☆」
「・・・・・・・・・」

けりっ

七瀬は俺を軽く蹴り倒してきた。
なんだ、奴にしてはめずらしく優しいつっこみだな?ひょっとして「ありきたり」が効いたか?
てっきり殴ってくると思っていただけに、拍子抜けしたような感じである。
と、その時。俺が七瀬の方を向こうと顔を上げると、繭が俺の上をひょいと飛び越え、そしてとてとてとあっちへ向かってかけてゆくのが見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺がいや〜なモノを感じて後ろをそろそろと振り向くと、何故か大きな靴の底が見える。

メリッ!!!
 メリメリッ! フミフミフミフミフミフミフミフミフミフミフミ・・・・

後続隊のだよもん達に、俺は言葉通り蹂躙(意味、踏みにじられる)された。
足が足が足が俺の手を足を腹をピーを容赦なく踏み抜いてゆく・・・・。
そしてその足音が遠く消えてしばらく、俺は真っ白になった頭で一つのことを見つめていた。
「『ぼろぼろに死にそうになるまで踏まれたのに、佐織ちゃんのヒールの高い靴で踏まれたときに少しも嫌じゃなかったのはのは何故?』、あなたは今そう感じてますね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事もできず俺は心の中で頷く。
「Mですね」
昼の呑気な日差しが、俺の目には妙に悔しく映っていた。


<そのころの長森>
「こんにちは〜、誰かいますか?」
突然ドアが開いたかと思うと、みさき先輩が入ってきた。
「あ、こんにちは。浩平の知り合いの長森瑞佳です」
「瑞佳ちゃんだね、もちろん覚えてるよ」
そうして先輩はあちこちを手探りしてこっちに近づいてくる。
「ねぇ、どうしてこのクラスって机がないの?」
「え〜っと、浩平が隣に移しちゃったんです」
「ふ〜ん、あ、あともう一つ効きたいことがあるんだけど?」
「なんですか?」
「どうしてこの学校って突然人がいなくなったりするの?」
「え〜と、それもたぶん浩平達のせいだと思います・・・」
私にはそれしか言えなかった。
「ふ〜ん・・・・・・」
沈黙。
「ねぇ、隣座っていい?」
「あ、はい。どうぞ」
私は手を貸して自分の横に案内する。
そしてまたしばしの沈黙。
「静かだね・・」
「そうですね・・・」
そんな中、遠くでどこかの猫の鳴きごえが聞こえた気がした。
                    4章おわり
                     もしかしたら5章へ続く。
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う゛っ、すいません。刑事板でクリスマスソングネタの話題がでていたんですが、もしまだ使ってなかったら本当にごめんなさい。一応一部だけ抜粋といった形にはしたんですが。
あと、長いです(汗)感想は次に投稿する方にまとめて書かせていただきます。
それと読んで下さった方ありがとうございます。
そして感想下さった方々本当にありがとうございます☆

http://web.pe.to/~sin/bbs3/mkboard2.cgi?youlane