チェンジ!4.5.6【三章】 投稿者: WILYOU
第3章 〜動き始めた反乱者達〜

長森瑞佳17歳。
まずは前回のおさらいからいってみます。
住井君こと猫ピ〜の飲ませた薬によって、七瀬さんと繭の体が変わってしまい、いまだそれが戻らないので、これから住井君を捕まえに行くところです。
意気込んで席を立つ繭こと七瀬さんに浩平が制止の声をかけ「いい考えがある」と言ったところで前は終わっていました。
さて、今回はその続きから入ります。

「いい考え?」
繭の口からそんな言葉が出る。
「たぶん普通に探しても、奴のことだ、簡単には見つからないだろうから、さそいだしてみるんだよ」
「どうやって?」
わたしはきょとんとしていたと思う、鳥みたいに餌でおびき寄せるわけにもいかないのにいったいとうするんだろう。
「そりゃあやっぱり『餌』しかないでしょう☆」
そして浩平は嫌〜な笑いを浮かべたのだった。


第一段階
「嫌だよ〜浩平」
「我慢しろ、やつを捕まえるためだ」
浩平は全然聞き入れてくれなかった。
「でも………」
「七瀬がかわいそうだと思わないのか?」
「…うぐっ」
七瀬さんの事を持ち出されて私は閉口してしまう。やっぱり七瀬さんだけでなく繭もそうだけど、見ていて痛々しい。
そしてさっきの授業中の七瀬さんのなんとなく赤っぽい涙を思い出して、私はがんばんなきゃ、と思った。
「わかった、やる」
「それでこそ長森だ」
「でもこれで本当に成功するの?」
「ああ」
浩平は辺りを見渡した。いつもの教室、いつもの窓からの景色、でも違っているのはそこには机もイスも何もないということ。何もない教室の真ん中にぽつんと座る私一人、そしてその上にいつでも落とせるようにセットしてある鉄格子。当然その格子は、落としたときに私とわたしの周り3メートルぐらいを囲むように設置されている。
「浩平〜」
「なんだ、いまさら泣いても遅いぞ、七瀬はもう準備してるだろうからな」
「いや、そうじゃなくて古典的過ぎるよ〜」
でも浩平は不敵に笑うと、チッチッと指を振った。
関係ないけど全然似合ってないよ浩平。
「甘いな、この俺がそんな『古典的』な作戦を立てたとでも思っているのか?」
「30秒で思いついた作戦なんてそんなものじゃない」
「違うっ」
「ならどこが『古典的』じゃないのよ」
「まずテーマからして違う、今回の作戦のテーマは『リビドー』だ」
「『リビドー』、欲望?」
「そう、よ・く・ぼ・う☆」
何がどう欲望なのかは知らなかったけど、私は怖くて聞けなかった。
「ねえ、大丈夫だよね……」
「ああ、成功率はほぼ100パーだ」
「そうじゃなくて、私の」
一瞬の沈黙。
「神様はいつも瑞佳を見てるさ☆」
「浩平〜」
それから私は作戦についていろいろと訊ねたけど、結局なにも収穫はなかった。


第二段階。

「よし、作戦スタートだ」
時計が1時5分をまわり、私たちにとって本来5時間目である時間が流れようとしていた。
ちなみにここのクラスととなりのクラスは体育でグランドに、ここのクラスのイスと机は、隣のクラスに富士山型に詰まれているはず。
先生にばれたら困ると浩平に言ったら、一枚の紙をちらちらと見せてくれた。
『こんな学校なんてお茶目にしてやるぜ☆フフッ by謎の美声年』
そう新聞の切り抜き文字で作られた妖しげなその紙を浩平は黒板にナイフでガシガシと止めていた。
なにかドラマの見すぎのような気がしたけど、本当に楽しそうだったから言うのだけはやめておいたんだけど。
「よ〜し、七瀬。そろそろいいぞ」
浩平が手に持ったトランシーバーに向かって、そう呼びかけた。
と、その時。
『ズンッチャ、ズンチャッチャッ〜(音符)』
教室のスピーカーから『8匹のネコ』が流れる。私のテーマだ。
「よ〜しいい感じだ、おっ」
浩平はまたもトランシーバーに耳をくっつける。
「なになに、トラップの方も掴みはオッケ〜? よしよし今のところは順調だな、そのまま警戒に当たってくれ」
「どうしたの?それにトラップって………」
「あ、いやなんでもないんだ、うん。それより長森、喉乾かないか?」
「別……」
「そーか、乾いてるよな〜。うんうん、ほら、買ってきてやったぞ、さあ飲め飲め、今すぐ飲め」
こちらの言葉も聞かずに強引にジュースを押しつけてくる。でも、私はそんな浩平の心配りが嬉しかった。きっとずっと座っている私を思って買ってきてくれたんだと思う。
「ありがと☆」
「い、いやまあ……。礼をいわれても困るって言うか、その、なんだ、別に善意でやったわけじゃ……」
浩平が照れているのがおかしくって、私は笑いながらも缶のタブを押し上げる。
プシュッという音と、漂うつぶつぶオレンジの匂い。

コクコク………。

私はゆっくりとそれを飲み干す。
「ふぅっ、ありがと」
浩平が手を出してきたので、私は空き缶を渡す。すると浩平はハンカチで缶の口の辺りを綺麗に拭うと、それを注意深そうにしながら、部屋の隅の髑髏マークのついた大きめの銀色ボックスの中にそっと入れて、慌てて蓋を閉める。
「ずいぶん慎重に捨てるんだね」
「あ、ああ、タブで誰かが指でも切ったらことだしな…」
「ふぅん」
なにかしどろもどろ話す浩平が気になったけど、私は別に気にせずにそのままの体制で座っていた。
「あ、そうだ。長森にもう一つ頼みたいことがあったんだ」
浩平がしばらくして思い出したかのようにいった。
「何?」
「このマイクに向かって『だよもん』って言ってみてくれないかな?」
「え、別にいいけど……」
不思議に思いながらも、私はそのマイクを受け取ると、息を吸い込んで一言一言はっきりと言った。
「だよもん」
その時、スピーカーから、
『だよ・・』
と声がしたような気がしたけど、浩平が突然シンバルなんて叩くモノだから、よく聞き取れなかった。
「どうしたの?急にシンバルなんて持ち出して」
「いや、人生の賛歌をシンバルで表してみたくなってな………」
「ふぅん・・・・」
そうしてその時間は普通に過ぎていった。


5時間目が終わってしばらくしても住井君の来る気配はなく、体育を終えたクラスメートが戻ってきてしまった。
当然のように隣のクラスは大騒ぎだったけれど、このクラスほどじゃあなかった。
みんな慣れた調子で、
『こんどは一斉除去か…』
『新しさを生み出したな浩平』
『机積み上げよりも受けはいいぞ』
みたいに、「浩平の新しい遊び」ということで、自然と結論づいていた。
このことまではよかった、みんな別にそのことで浩平を起こったりはしなかっただろうから、でも一番気になったのは、みんなのしゃべり方だった。
「おお、浩平。今度は一斉除去だもん☆」
「新しさを生み出したんだよ浩平☆」
「机積み上げだよ、よりもうけはいいもんも〜ん☆」
みんな結構変だった。
クラスの人みんながみんな、無理に「だよ」と「もん」を使っているように思えた。
「お〜し、成功だ〜!!!!!!!!!」
浩平はあっちで一人叫んでいるし。
「ねぇ、瑞佳、だよもん」
佐織までがそんな風に声をかけてくる。
「佐織、どうしちゃったの〜」
「や〜ね、どうしたんだよ、急にそんな心配そうな顔してもんもん?」
「…………浩平〜!」
私はどうしようもなくなって、浩平にヘルプを求めた。でも、浩平は全然人の話を聞かずに、トランシーバーと一生懸命に話している。
「こうへ……」
そして私がもう一回呼びかけようとしたときだった。
「よ〜し、みんな!大きなネコが学校中をうろついてるぞ〜、たっぷりじゃれついてこ〜い!」
浩平が高らかにそう呼びかけると、
『だよ・もん!』
クラスのみんなは一斉にそう大きくかけ声を上げると、足並みをそろえて廊下へとザッザッザッザッという具合に出ていった。
何故かみんな目が『キャンディキャンディ(つまり昔の青春漫画)』みたいにキラキラと輝いている。

〜だよもん星人〜

ふと浩平がこの間つけた変な名前が頭の中をよぎる。
「………」
そして彼らが走り去った後には舞い上がる埃と、窓から吹き込む風がそれらをゆっくりと流していた。


「さ〜て、俺もちょっと行かないとな」
そう言って出ていこうとする浩平を私は呼び止める。
「浩平、みんなになにかしたでしょ!」
「ああ、『俺』はなんにもしてないぜ。ほら、ちょっと急ぐから気になったのならそれでも読んでろ」
そう言ってポケットから取り出した一枚の紙を丸めて、こっちに投げて去っていく。
紙、
妙な匂いを放つ紙を私はカサカサと広げる。
そしてそこにはこう書いてあった。
『住井君スーパー 〜オレンジつぶつぶ〜
・効力 住井君スーパーの中でも弱い部類に分けられ、飲んだ人の意識をすべて持っていくのではなく、その人の根本的な人格と癖などを他人に移植。
チェンジ3では目をあわせることで人格の交換を行っていたが、今回は声でも可。その人を表すと思える口癖などを簡単にはっきりと呼びかけることで移植できるはずである。
また、前回ともっとも違う点と言えば、相手が薬を飲んでなくても移植可能な点だろう。
効力持続時間  5時間』

私は、よく話が分からなかった。
でも、その残りの頭のもやもやを二枚目の紙が吹き飛ばしてくれたのだった。

『浩平作、〜住井補完計画〜
1,長森に住井君スーパーを飲ませる。
2,放送で彼女の象徴とも言うべき『だよもん』をながす(気付かれないように、また自分の耳にも入らないような対策が必要)
3,長森の人格を移植したコピーに、猫ぴ〜を追わせ、彼を陶酔させ、興奮状態へと追い込む
4,長森のテーマを放送でかけて雰囲気作りは完璧☆
5,あとは興奮した住井が発情期の犬のごとく、長森をかぎ分けてくるのを待つばかりさ(音符)』

「……………………」
私は文字通り『欲望の餌』につかわれたのかもしれない。
思わず興奮している住井君を想像してしまい、チキン肌を立てた私は慌てて立ち上がって逃げようとしたが、足腰に力が入らなかった。
そしてその時、私は住井君補完計画の欄外に注釈が汚い字で加えられていたのに気がつく。
『ジュースにはあらじめしびれ薬を入れておくから長森の下半身は動かないはず、いゃあ、アンドロメダのごとき献身的な女性を友達に持って僕は幸せだなぁ、はっはっは。 b〜y浩平』

……………………………。

この時、私はやっぱりこの辺りが浩平だな〜、と思ってしまいました。


                  第3章おわり☆
            (もしかしたら)4章に続く☆
_______________________________
ああっ、まだ終わらないっ(さらに苦悩)。
おまけに笑いがだんだん減っていっているような・・。
あと「オレンジつぶつぶ」と「漢方薬バージョン」は姉妹品(?)で効果も全く別のモノです。作中でまったくわけて書いて無くてすいません(^^;

感想(今日の5時頃のログを見て)
>の前に一言
感想くれた方、本当にありがとうございます☆

>YOSHIさん(はぐれ3匹)
酒瓶に抱きついている住井がいいです。「ああっ、みっずっかっちゃーん♪」には笑わせてもらいました。それと最後で折原の名前が出てきましたね。続きが楽しみです。

>もももさん(即席演劇部ONE)
リアルさを追求した舞台。笑わせてもらいました。食べ物がモノホンだったり、茨が妙に気合い入ってたり、やはり七瀬は魔女やくだとか。配役もナイスです。

>偽善者Zさん(浩平犯科帳 第三部 第四話)
ジーク!…はおいておいて(笑)
友里と妹君がいい雰囲気だしてますね、詩子のゆくえも気になるところです。
アイテムが全部時代劇モノで、MOONの雰囲気を醸し出す辺りがいいですね☆
それと偽善者Zさんの作品も、目隠し団にばっちりおいてあるんですよね。

>いけだものさん
残業お疲れさま☆
感想ありがとう〜☆

>天王寺澪さん(NEURO−ONE 3)
ふ、雰囲気が大人っスね。女の人とのやりとりなんて凄いです。中でもルミィってのがいいですね(笑)続きが楽しみです。

>加龍魔さん(Pileworld 時の狭間で 第爆章)
キャラがいっぱいで楽しいです。中でも最後の高槻の登場の仕方と、退場の仕方(?)はかなり笑いました。
(あるいはこれもONE パート2)
胃液で苦しんでいる辺りがいいですね。また外での何気ない行動が中の人に多大な被害を及ぼすというか(笑)
(Pileworld 時の狭間で 第四章)
最後の先輩の台詞がむっちゃきになりますね☆あっちの世界への行き方と言い、気になるところです。

>刑事晩↓

http://web.pe.to/~sin/bbs3/mkboard2.cgi?youlane