真夏の恋人 投稿者: WILYOU
「えいえんはあるよ?」
不意にそんな声が聞こえる。
・・・・・・・・・・・・・
そうだったのだ。俺は全てを悟った。
幼い日のたわいない約束。 今だ深く残る妹の葬式。
捨てられた日のこと、ひとりぼっちになった瞬間。
もどれない灯の中の暖かな日々。
それらが一つの線で結ばれる。
俺は絆が欲しかったのだ。
そして俺は実際に彼女との間にそれを作った。すくなくとも俺はそう確信しているし、自惚れかもしれないが、彼女にしてもそうだと思っている。
しかしそれらがあんな口約束の為に消えてしまうというのか?
もう俺は、いや今の俺は永遠を必要としていないのに。
そう、あんな口約束のために・・・・

夏だ。
夏の世界だ。
「やっと来たんだね」
彼女がそういった。
振り向く。ちびみずかだ。
華奢な、いまにもおれてしまいそうな体。さらさらの髪、子供特有の罪のない瞳。みんなそのままで俺はなにか懐かしい気持ちに捕らわれていた。まるでふるさとに帰ってきた気がする。そんな感じだ。
俺は彼女と空を見に丘の上の草むらで寝転がる。思ったよりも堅い雑草がシャツを通してちくちくするが、慣れてくるとなんでもなくなる。
雲だ。
真っ白な、空高くそびえる雲だ。
それはどこまでも大きく、そしてそれを取り込んでいる青はもっと大きかった。
吸い込まれていく感じ。
じっさいに吸い込まれていっているのかもしれない。ここは不思議な世界なのだから。
そんな風景を見ながら、俺は彼女と会ったときの頃を思い出した。

日がちょっと傾きかけた、赤みの差した公園。
長くなった自分のカゲを見つめながら、僕はベンチでいつものようにしていた。
滑り台ではしゃぐ奴ら、砂場でいまにもくずれそうなとんねるを掘る女の子達、母親が迎えに来て手をつないで帰る子。
僕はそれを見て思うのだ。
滑り台なんていいものがあるのに、それを滑るだけに使うなんてもったいない、僕ならいろいろとおもしろい遊びを知っているのに、とかトンネルを作るときは水を多く使いすぎちゃだめとか、そういった少しこうどなことを。
でも、今の僕にはまったくそんな考えは浮かばない。
ただ泣きたい。
失ってしまった日々の中に生きつつ、そしてそれがもう手の届かないところにいってしまったことを実感して俺はまた泣きたくなる。
そうしてずっと泣いていた時にこの子が現れた。
「えいえんはあるよ」
ぼくたちは盟約をかわした。
そういえばこれが始まりだったのだ。

そして回想はついこの間のことへと移る。
「長森 瑞佳」あいつにたたき起こされて一日が始まる。
雨の日、晴れの日、日直の日、寝坊した朝、いろいろと困らせた朝。
もう遠いことのようだ。
学校であった数々の人たち。友人という言葉も、今では照れることなく使える。いろんな意味で楽しい先生、いいかげんな叔母さん、
そして恋人。
彼らの顔をいつ見たのか、ここにいるとわからなくなってくる。
時間の意味する所の半分が無いのだ、ここには。
いまさらながら流れる時のすばらしさを実感して、俺は涙を堪えた。

「泣いてるの?」
「ん・・そんなことない」

太陽の光を受けて波打つ海、果てない巨大な雲の群、青々と茂る木々とそのあお、みどり、きいろに輝く葉っぱたち。
全てが夏だ。
草の上に眠っていて、まぶしさに起こされて太陽に文句を言える。
海の上に浮かんで、風と波の青い柔らかな調べに耳を楽しませる。
空の上で、大きな入道の奴をなんとか飛び越えて一気に下降する。
「いつまでも遊んでいられるんだよ」
灯りのもとへはいけないけれどここは確かにずっと遊んでいられる場所だった。でも、やっぱり楽しいと感じられる心の部分には、「みずか」がいるという理由が含まれていると思う。彼女がいるから楽しいと感じられる、その意味でもおれは彼女に感謝していた。
俺はそうしてこれまで過ごしてきたんだ。
こうして草の上に身をゆだねたりして。
彼女の隣の特等席で。

「ねぇ、何を考えてるの?」
ふわりとした空気が俺の前髪を揺らす。
「いろいろと考えてたんだよ」
「ふうん」
おれはそれをちびみずかにも見せてやる。
ここは俺の世界なのだから、俺の思うままなのだ。
空に浮かんだ、いろいろな人たちとのたわいない生活。
・・・・・・・・・・・・・
「なあ」
「なに?」
「俺がこんなことを考えられるのって、やっぱあっちの世界にいたからなんだろうな・・」
馬鹿みたいな事ばっかり頭に浮かぶような生活をしていても、それは紛れもなく充実した日々だった。
今ではそう思える。
・・・・・・・・・・
「戻りたい?」
俺がとうしてもいいだせなかった言葉を彼女が言う。
いや、わざと言わせたるようにしたのかもしれない。
おれは・・・・。
「ごめん」
「何に謝っているの?」
自分でもわからない。いや、あやまる事が多すぎるんだ。
ただ、一つだけはっきりしているのは。
「君に」
俺の体は、ここに来たときとは違って大きくなっていた。
すでにこうして草の上に座っていても、みずかの頭はあごよりもかなり下にある。
そして彼女は・・・


俺は屋上でその時の彼女の笑顔を思い出していた。
結局、俺はあの世界を捨てるこことなった。
いいかえるなら、こっちの世界に戻ってきたと言ってもいい。
どちらにしても、俺は長い間まっててくれた彼女を捨てたのだ。
ただ、彼女はあの時にほほえんでくれた。
それがなにに対しての笑みなのかはあっちをさるまで結局わからなかったが、俺は勝手にいいほうに解釈している。
俺はこれまで彼女にささえられてきたのかもしれない。
夢の国で待っている王子様ならぬ、お姫様。
その存在が、どこかで俺を支えていてくれたのかもしれない。
彼女に対する感謝はとても言い表せない。
できるなら俺は彼女の恋愛ごっこの恋人役になってやりたかった。
しかし俺の恋人役は彼女じゃないし、その感謝はどうやっても返せるものじゃない。
だからたまにこうして空の見える場所に来ては思い出すことにしている。
彼女という存在を、あの夏の眩しい日差しの中の日々を。
それは輝く季節。たとえ、それが俺が本来居るべき場所じゃなくても、彼女という存在は常にそこにあるのだ。
そして俺の中のその世界への道はなくなっても、心のどこかにそのせかいはあると信じている。
屋上のドアが開き、俺の本来の恋人が現れた。
俺はわざとけだるそうに体を起こすと、彼女の方へと歩き出す。
『ここでなにを?』
近づいた彼女が問いかけてくる。
だから俺はいつものように答えた。
「ちょっと夏を感じてたんだよ」
彼女が笑う。
そうして俺達は、まだちょっと寒い屋上を出ようと、ドアのところへと歩き出した。
俺はこの流れる時間の中を、精一杯歩いていく。
そしてもう二度とあの世界にいくことは無いだろう。
まだ、自信がないのではっきりと断言はできないが、たとえ何かあろうともそうしていくつもりではいる。
それが俺をこっちの世界へと笑って送り出してくれた彼女への、せめてもの贈り物になると信じているから。
ドアをくぐる前に振り向いて見た青い空の向こうに、彼女の笑顔が見えた気がして俺はその日ちょっと嬉しかったりした。

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前の奴(永遠を見つめて)の元ネタです。
夏、という表現は小説版と、ちびみずかのCGの着ているものから引用しました。
本編と違うところがありますがごりょうしゃくださいです。
ノーギャグですいません(^^;
ん〜、「僕」、「俺」の使い分けがまだうまくいってないです。あんまり見ないで下さいね(笑)
そういえば、SSでギャグじゃないものをかくのは初めてだった気が、ぐわぁっ俺は何をっ!(爆)

>スライムさん
ん〜、二人の同棲♪続きもおもしろそうです。
一家団欒、いいですねぇ〜。

>KOHさん
二人の詩子。いいです。一人でもやっかいなのが二人も(笑)
こっちも続きも楽しみです。

>火消しの風さん
浩平が着たかったんですか(笑)
いいですねぇ〜。勘違いされまくりで。

では〜♪

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