乙女奮戦記 投稿者: 折笠 美冬【BN団】
あらすじは前回をみてね♪(爆)


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「ゴメンね。びっくりさせちゃった?」
「あ・・・い、今の・・・聞いて、ました?」
「うん。おっきな声だったからね」

既に真っ赤だった顔が更に赤くなる留美。・・・この辺りは乙女らし
いと言えないこともないかもしれない。
・・・その女生徒はにっこりと笑いかけてきた。

「挨拶が遅れちゃったね。・・・私は3年の川名みさき。・・・あな
たは?」
「に、2年生の七瀬留美です」
「七瀬さんか。・・・ひとりで食べるのも寂しかったから、ここで食
べてもいいかな」
「あ、はい。いいですけど・・・」
「じゃあ座らせてもらうね。よいしょ、っと」

ぺたん、とその場に座り込むみさき。そして、きょろきょろと辺りを
見まわしだした。

「・・・えっと、七瀬さんはそっち?」
「へ?」
「あ、そっちか」

そう言ってみさきは今初めて気付いたかのようにこちらの方を向く。
・・・その時、留美の頭に閃くものがあった。

(もしかして、折原の言ってた目の不自由な先輩って・・・)

「あ、あの。みさき先輩ってもしかして・・・」
「?何?七瀬さん」

留美の呼びかけに答えても動かぬ瞳。マイペースにパンを食べ続けるみ
さきが、ばりっ、という16回目のパンの袋を空ける音を人気の無い屋
上に響かせた。

「・・・」

もう1度言う。16回目だ。

「あ、あの・・・」
「・・・?何?七瀬さん」
「それ・・・全部食べるんですか?」
「うん。・・・ちょっと少ないかな?」
「全っ然そんなことないっ!・・・あ、い、いえ、ありませんっ!」

思わずきっぱりと否定してしまい、あわてて訂正する留美。しかしみ
さきは気にしていないようだ。

「普段は学食で食べてるんだけどね。たまにはパンもいいかなって思
って。・・・天気もいいみたいだし」
「え、ええ、それはいいと思うんですけど・・・」

そう、それはいい。問題は量だ。大きな2つのビニール袋に詰まって
いたアンパン、カレーパン、メロンパン、・・・とにかく多数。もし
かすると購買のパンを全て買い占めてしまったんじゃないだろうか。
だが、みさきは既にその半分近くを食べ尽くしている。

「・・・あ、飲み物買うの忘れてきちゃったよ。失敗しちゃったなぁ」
「・・・・・・」
「これじゃ喉が乾いちゃって食べきれないよ〜」

(喉が乾くとか以前のレベルじゃないわよね、これ・・・)

・・・もう目がどうしたなどという問題はどこへやら。留美はただみ
さきの食べっぷりを呆然とした面持ちで見ていた。

「・・・あ〜あ、やっぱり食べきれなかったよ」

そう言ってみさきが根をあげた時にはもう10個ほどしかパンは残っ
ていなかった。

「もったいないなぁ・・・どうしよう」
「・・・はぁ」

凄まじい(と言える)光景を目のあたりにした留美にはもうまともに
返事をする気力も残っていない。

「そうだ、七瀬さんにあげる。食べきれなかったしね」
「はぁ・・・」
「別にお金なんて取らないよ。はい」

どさどさどさっ

「お礼とかは要らないよ。捨てるのももったいなかったからね」
「はぁ・・・」

キーンコーン

「・・・予鈴だね。私は教室に戻るよ。七瀬さんもそろそろ戻った方
がいいよ。じゃあね」
「・・・はぁ」

両手に10個ほどのパンを持ったまま、留美はしばらくの間、その場
に立ち尽くすしかなかった・・・。


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「・・・なぁ七瀬」
「何よ折原」
「あのさ、お前体重とか気になってなかったか?」

じろっ!

「い、いや、特に意味があるってわけじゃないんだが、な、なぁ長森」
「ええ!?う、うん、そうなんだけどね・・・」
「・・・もう、どうでもいいのよそんなこと・・・」

・・・何があった?と言いたげな折原と瑞佳の視線を受け流しつつ溜め
息をつきながらパンをかじる留美。その憂いを含んだ瞳は乙女と言うよ
りも酸甘噛み分けた大人の女性を思わせていた。
・・・良く晴れた、5時間目の自習の時間のことだった。


            ++++++++++++++++++++


後日談:

この日の夜、留美の体重は更に500グラム増えた。そのことで留美の
ダイエットへの意欲、もしくは執念が復活したのは言うまでもないこと
である。


                                                 第1話 おわり

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折笠です。間を空けないようにと言っておきながらこのざまです。
切腹します。

実は、3人称を使ったSSを書くのは初めてだったのに加え無数の
書きなおしが・・・それでもこの体たらくです。あうう(T-T)

あまりにも私自身が辛いため、『乙女奮戦記』はまだ続けるつもり
ですが、次回からは形式が変わってるかもしれません。

・・・では。