ONE それは異なる『永遠』 投稿者: 折笠 美冬
  その4

・・・あれから何日たったのかさえはっきり言う自信がない。崩壊を始めた
俺の『世界』はどんどんその速度を増し、俺はそれに恐れおののいていた。
学校に行けず、家の中ですらも安心できない毎日。

・・・そのなかで変わらないものがあった。俺の『世界』の中で崩れ去るこ
となくそのままの形で残っているもの。今、俺はそれを確かめようとしている。

夕方の公園。そこで俺は自分が呼び出した人を待っていた。そして、現れた
その人・・・長森に、俺は自分の『世界』の真実を告げた。

「嘘・・・」
「嘘じゃない。・・・真実なんだ、全部・・・」
「・・・本当に何も思い出せないの・・・?」
「・・・・・・ああ」
「ねぇ、お医者さんに診てもらおうよ。浩平、きっと病気なんだよ」
「・・・・・・・・・」
「ね?病院いこ?」
「・・・無駄だよ。病気なんかじゃない・・・わかってるんだ、俺には」
「浩平・・・」
「それに、もし病気だったとしても手遅れだ。もうクラスのやつ・・・いや、
俺のまわりの人たちの中で、俺がまだ憶えてるのは長森、お前だけなんだか
ら・・・」
「そんな・・・七瀬さんや里村さんや、繭ちゃんのことまで忘れちゃったの
?」
「今長森が言った人達の名前を聞いても顔も声も浮かばないんだから、そう
なんだろうな・・・」

・・・しばらくの間、沈黙が続いた。時間すらも止まっているような沈黙が。

「・・・・・・どうして」
「え?」
「どうして、なんでわたしのことだけは憶えているの?」
「・・・・・・なんでだろうな・・・」
「・・・なんでだろう・・・あ!ひょっとしたらそれが分かれば他の人のこ
とも思い出せるんじゃない?」

希望が生まれたとでも思ったのか、長森の表情が明るくなる。
でも、残念だがその可能性は低かった。これはそんな簡単なものではない。

・・・それに、本当はわかっていた。・・・俺が長森を・・・長森だけを忘
れない理由。

「長森・・・」
「え!?・・・ちょ、ちょっと浩平!?」

俺は長森を抱きしめた。突然のことに混乱してじたばたともがく長森。だけ
ど、俺は離さない。

「俺は今、長森だけのために生きてる」
「え・・・」

俺の腕の中で長森の動きがぴたりと止まる。

「長森がいなかったら・・・俺はみんな忘れて、自分のことさえも忘れても
うこの世界にいないはずだったんだ」
「・・・・・・」
「長森が・・・おまえが好きだから、俺はこの世界にいられるんだ」
「浩平・・・」
「・・・迷惑だったか?」
「ううん。全然・・・そんなこと、ないよ・・・」

・・・そっと、長森が俺の背中に手を回してきた。

「わたしも浩平のこと好きだもん。嬉しいよ・・・」

本当はもっと早く言うべきだったのかもしれない。だけど、俺はこうなるま
で言えなかった。いつもすぐ近くにいた長森に対する俺の気持ち、その結論
を・・・

どちらからともなく、すこしづつ近づいていたふたり。紅に染まる空を背景
に、そのシルエットがひとつに重なった。

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                               大切な人。

                            離れたくない人。

 その人のあたたかさを感じていられる限り、この自分の『世界』は消えない。
          ・・・たとえ、自分のことも忘れてしまったとしても。



             それが、人を好きになるということなのだから。


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4回も続いてしまったアナザーストーリーでしたがとうとう今回で完結です。

・・・なんというか頭でっかちなものになってしまったような気が・・・期待
していてくださった人ゴメンナサイ(;_;)これが限界でした。

ここのところ毎日SSのっけてましたが明日はお休みです。

では。